インタビュー

大東駿介「自分では気づかない偏見や差別意識。それが最も怖い」 映画『37セカンズ』で身体に障害を抱える女性を支える介護福祉士役

多様性が重視される現代。しかし、目に見えない差別や偏見が根強く残っているもの事実だ。障害、病気、性、人種。あなたは、自信を持って「差別も偏見もない」と言えるだろうか。映画『37セカンズ』では、身体に障害を抱える女性が主人公の物語だ。本作で、主人公を介助する介護福祉士役を演じるのが大東駿介さん。「やるしかない。大きな使命感をもった映画です」と語るまなざしは、まっすぐで力強い。これまで違和感を覚えてきた社会のあり方から、モデルそして俳優とキャリアを重ねてきたいま思うことについて、じっくりと語ってくれた。

【動画】大東駿介さん、試写会で驚き「あれ? あのシーンは……?」(2019年10月29日、東京・六本木で行われた東京国際映画祭で)

一人の女性の成長が、まわりの人の心の病を浮き彫りにする物語

映画『37セカンズ』は、障害者のユマが主人公だ。シングルマザーの母と二人暮らしで、友人の漫画家のゴーストライターとして漫画を描いている。ユマ演じる佳山明さん自身も実は脳性まひ。監督の意向で実際の障害者を起用しようと、約100人のオーディション候補から選ばれた。

「この映画は、冒頭から車椅子の少女に対する偏見をなくす脚本になっていて、一人の女性の成長物語としての仕組みが出来上がっていました。その結果、まわりにいた人の心の病が浮き彫りになり、それぞれが前に進むきっかけになっています。それは自分にも当てはまるし、社会に対して思っていたこととも重なる。監督が描きたいこと、障害者を主人公にして何をやりたいのか。そんなメッセージにすごく共感しました。だから、やるしかないと思えたんです」

映画では描かれていないが、脚本には俊哉の背景がしっかり描かれていたという。「台本もあり、そのシーンも撮影しました。脇で生きる役ですが『37セカンズ』の世界観を背負えた、豊かな時間でした」

映画では描かれていないが、脚本には俊哉の背景がしっかり描かれていたという。「台本もあり、そのシーンも撮影しました。脇で生きる役ですが『37セカンズ』の世界観を背負えた、豊かな時間でした」【もっと写真を見る】

大東さんが、子供の頃に住んでいた家の裏が障害者施設だった。公園には、車椅子の人や身体障害者、知的障害者がいて、同じ空間で自然に遊んでいたが、その頃から“ある恐怖”を感じていたという。

「子供ながらに、大人たちの何げないしぐさから見える偏見や差別意識の怖さを感じていました。そんな“社会の不具(障害)”に、本人もまわりの人も気づいていない。目に見えない心の不具が最も怖いなと。大人になり、色々な物事を知っていくうちに、僕自身も思い込みで人を傷つけてきたかもしれないと思いました」

(C)37 Seconds filmpartners

障害を持つユマ(手前・佳山明)とユマを支える俊哉(大東駿介)(C)37 Seconds filmpartners【もっと写真を見る】

ユマを静かに見守る介護福祉士・俊哉を演じるのが大東さん。過保護な親やユマを利用する友人、障害者を縛る差別や偏見から、ユマを解き放つきっかけになるのが俊哉だ。

「俊哉には、モデルがいるんです。本物の俊哉さんにお会いして、話を聞きました。その前に、僕からのリクエストで重度の障害のある方たちと話をさせてもらいました。俊哉に共感するところは多かったですね。過去に心の傷を負っていて、罪の意識から『人助けがしたい』と動くけれど、答えが見つからず苦しんでいる。

僕も自分の選択は正しいのか、誰かを傷つけているんじゃないかと、自分の生き方に迷うこともあります。人を意識して生きるのは本当にしんどい。人に救われることもあるし、人に恐怖を感じて孤独を感じる瞬間もあります。当たり前に生きることに、押しつぶされそうになる時もありますから。そういう部分は、俊哉にも今の社会にも、共通していることなのかなと思いました」

監督との出会いは、俳優のでんでんさんと園子温監督との飲み会だったそう。「でんでんさんに呼んでもらって行ったら、そこにHIKARIさんがいました。親戚のお姉ちゃんみたいで、全く仕事の話はしませんでしたね(笑)」

監督との出会いは、俳優のでんでんさんと園子温監督との飲み会だったそう。「でんでんさんに呼んでもらって行ったら、そこにHIKARIさんがいました。親戚のお姉ちゃんみたいで、全く仕事の話はしませんでしたね(笑)」【もっと写真を見る】

障害者・演技初挑戦の佳山さんとの共演。「自分にうそがあると横に並べない」

ユマ役の佳山さんは演技初挑戦。しかし現場では「(彼女に)助けてもらうことが多かった」という。監督が求めたのはうまく演じることではなく、人としてのあり方や人間性だった。

「あれだけ無垢(むく)にカメラの前にいられるのはすごい。自分にうそがあると、横に並べませんからね。佳山さんとのシーンは、撮影前の何げない会話から、いかにそのシーンに持っていけるかを意識しました。シリアスな場面なら、セッティング中に2人でシリアスな空気を作り、楽しい場面なら待ち時間に彼女を笑わせたりして楽しい空気感を作る。そういう意味でも自分には新しい経験で、財産をもらったなあと思います。とても刺激的でした。何より彼女は、この映画に人生をかけている。人生が大きく動く瞬間に立ち会えて、すごく興奮しましたね」

(C)37 Seconds filmpartners

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監督からの言葉で、大東さんがショックを受けたことがあったという。

「監督は、心の置き方にとてもシビアでした。『それ、あなたのクセやから』とか『駿介のクセはやめて欲しい』とか指摘された時には、すごくショックでしたし、なかなか前に進めませんでした。でも今後の俳優人生のためにも、指摘して気づかせてくれたのは、すごくうれしいことでしたね。監督は、作品に対して愛があるのはもちろん、役者に対してもその瞬間じゃなく5年後の話をしてくれる。愛情深い人なんです」

諦めている人の背中は、誰も押さない。がむしゃらに向き合うだけ

ユマの小さな一歩は、世界を広げ、人生を変える。俊哉の手助けがあったからこそ、自立し成長することができた。大東さんにとって「この人がいたから、一歩を踏み出せたという恩人は?」と聞くと、こう答えてくれた。

「言い出したら、その人の名前だけで記事が埋まると思います(笑)。自分で言うのもなんですけど、恥を捨てて無様に、がむしゃらに物事に向き合っていれば、誰かが背中を押してくれる気がします。ステップアップしたとしても、『自分はまだまだ』っていう悔しさを持って生きていると、それを見て助けてくれる人がいる。諦めているやつの背中は、誰も押さないんです」

ユマとラーメンを食べる印象的なシーンについて。「当たり前のように助けて協力し合う、2人の距離感や関係性ができていた。普段の僕と(ユマ演じる)明ちゃん、そのままです」

ユマとラーメンを食べる印象的なシーンについて。「当たり前のように助けて協力し合う、2人の距離感や関係性ができていた。普段の僕と(ユマ演じる)明ちゃん、そのままです」【もっと写真を見る】

オーディションでグランプリを獲得し、モデルデビュー。その後、俳優としてテレビドラマや映画、舞台と活躍してきた大東さん。順風満帆な人生を歩んできた人とは思えないほど、謙虚で控えめで思慮深い。そんな風に考えるようになったのは、いつからなのか。

「デビューして1週間で、鼻をへし折られました。舞台のワークショップで、外国人の演出家の方をつけてもらったんですけど、優しいので有名な演出家が、僕に台本を投げつけてきたんです(笑)。それが演劇人生の始まりでした。その時に『ごめんなさい』と、自分は無知で無力であることを実感しました。そこから『いいカッコしよう』『知ってるふりしよう』『できるふりをしよう』という気持ちが一切なくなりましたね」

父親への思い。「亡くなった今の方が、父親像がはっきりしている」

ファッション誌の専属モデル時代は、実は「カメラが苦手だった」と明かす。

「写真を撮られるのが苦手だったんです。カメラが怖くて、汗が止まらなくて。撮られながら『撮らないで~』と思っていました、致命的ですよね(笑)。でも早い段階で、自分が苦手なことと向き合わざるを得ないというのは逆に良かったのかもしれない。その時つらいと思っていたことが、今の財産になっている。子供の頃から振り返って、不幸だと思っていたことが、いつの間にか『これがなかったら、俺はどうなっていたんだろう』と思うようになりましたね」

大東駿介「自分では気づかない偏見や差別意識。それが最も怖い」 映画『37セカンズ』で身体に障害を抱える女性を支える介護福祉士役

主人公のユマ同様、父親とずっと会っていなかったという大東さん。亡き父親への思いを、今こんな風に感じている。

「恨んでいたわけじゃないんです。子供ながらに意地を張って、『会わない』って言っていたら、そのまま亡くなってしまって。すごく不思議だと思うのは、亡くなった後、今の方が父親像がはっきりしているんです。小学3年生くらいまでの父親の記憶は、といってもそんなに一緒にいなかったので、あまり記憶はないんですけど。亡くなってから『どんなおやじやったんやろう』って、人生を掘り返して知っていく作業の中で、どんどん父親像がはっきりしてくる。人の感覚って、不思議だと思います。そばにいるかどうかでなく、自分はどう感じるか。それが生きていく上で大事だと思いました。よく、自分が親と仲たがいしていたから『お前はちゃんと親と仲直りした方がいいよ』って言う人がいるけど、僕はそれを言ったことがないんです。誰かに言われても響かない。悲しいけど、自分で気づくしかないんですよね」

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こだわりは「歯」。「歯磨きは20分。デンタルフロスにはまってます」

『&M』のテーマ “こだわり”について聞いた。「こだわりは多いんでしょうね」と、はにかみながら答えてくれた。

「歯磨きです。歯って、大事でしょう? 大河ドラマ『いだてん』でトレーニングをしていた時も、踏ん張りに歯が重要でした。食事でも、いかに効率よくエネルギーを上げ、消化のいい食事をするかは歯に頼るしかない。どんな才能も歯にはかなわない。『芸能人は歯が命』じゃないけど(笑)」

おすすめのケアグッズはデンタルフロス。歯磨きの後にするのがお気に入りだそう。

「いろいろな種類のデンタルフロスと歯間ブラシを集めています。今のお気に入りは、ゴムテープタイプ。ちょっとミントの味がして、気持ちがいいんですよ。僕は、夜寝る前の歯磨きがとにかく長いんです。20分から30分磨きます。SNSで“歯磨き”“方法”とか“医者がすすめる”とか、調べるのが好きですね。調べ出すと、『どれが真実なんや!』ってなるけど、いろいろ試してます。でも最終的には、自分の好きなやり方でやるようになるんですけどね」

(文・武田由紀子 写真・花田龍之介 動画・高橋敦)

(C)37 Seconds filmpartners

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『37セカンズ』作品情報

監督・脚本:HIKARI
出演:佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏 
2019年/日本/115分/原題:37 Seconds/PG-12
配給:エレファントハウス、ラビットハウス
挿入歌:「N.E.O.」CHAI 〈Sony Music Entertainment (Japan) Inc.〉
 (C)37 Seconds filmpartners
2020年2月7日、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
公式HP:http://37seconds.jp/
Twitter:@seconds_37

【動画】『37セカンズ』予告編

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