インタビュー

『映像研には手を出すな!』テレビアニメ声優初挑戦の伊藤沙莉の心を動かした“声の表現”

人の印象を決める要素のうち、声は比較的大きな割合を占めると言われる。連続テレビ小説『ひよっこ』や映画『生理ちゃん』などに出演した俳優の伊藤沙莉さんは特徴的な声の持ち主だ。可愛らしい雰囲気をまとう彼女から発せられるハスキーな声。そのギャップに魅了される。

『映像研には手を出すな!』テレビアニメ声優初挑戦の伊藤沙莉の心を動かした“声の表現”

伊藤さんは2020年1月スタートの『映像研には手を出すな!(以下、映像研)』で、テレビアニメの声優に初挑戦している。演じるのはなんと、本作の主人公である「浅草みどり」。

「自分でも不思議な声だと思っているので、本当に私でいいの……? とすごく不安でした」

主人公役に抜擢(ばってき)されたときの心境をそう語る伊藤さんに、収録の舞台裏と作品の魅力を聞いた。

喜びより不安が勝った、声優への挑戦

「ずっと声の仕事をしたいとは思っていたのですが、人気漫画のテレビアニメ、しかも主人公の浅草役でオファーをいただいて……。とてもうれしかったけど、それ以上に不安が大きかったです。私の声は特徴があるからこそ、実際にキャラクターに声をのせてみないと、どうなるか分からない。原作ファンの人たちにガッカリされたら、批判されたら、と考えてしまって」

『映像研には手を出すな!』テレビアニメ声優初挑戦の伊藤沙莉の心を動かした“声の表現”

「一番最初にアフレコ現場に行ったとき、周りはプロフェッショナルの声優さんしかいないので、『お邪魔します……。私なんかが浅草でごめんなさい……』という気持ちでした」

伊藤さんは映画『ペット2(19年公開)』で吹き替えをした経験があるものの、テレビアニメの声優は初めて。さらに、主人公という重要な役回り。不安を覚えるのも無理はない。しかし、現場の空気が、その不安を払拭(ふっしょく)させたという。

「みなさん、『絶対いい作品にしよう!』という共通の熱い気持ちを持っていました。それが分かったとき、自信がないと言ってる自分が恥ずかしくなったんです。無理やりにでも自信を持って、作品に一生懸命に向き合わないと逆に失礼だなって。自信のなさや緊張は、確実に声に出てしまうから。私がやるべきことは、とにかく浅草に命を吹き込むことなんだ! と自分を奮い立たせました」

また、『映像研』で浅草とならぶメインキャラクターの声を担当する、田村睦心さん(金森さやか役)、松岡美里さん(水崎ツバメ役)、2人の存在が大きかったそうだ。

「本当に優しいお二人で! とても温かく迎えてくれました。私が親睦を深めたいと話したら、とても喜んでくれて、3人で親睦会をしたんです。そのとき、自分に自信がないことを話したら、松岡さんも今回初めてメインキャラの声を務めるので同じ不安を抱えていて。そしたら、一番先輩である田村さんでさえも不安は感じていると。でも、最終的には『頑張って作品を面白くしていくしかない!』って感じになって、映像研の3人そのものだと思うほど熱く語り合いました(笑)。このメンバーで本当に良かったと思っています」

アフレコ現場はアドリブのオンパレード

『映像研』は台本に驚くほどの量のセリフが書かれているという。そのため、アフレコ現場でも田村さん、松岡さんと台本の内容や言葉の意味を話し合うこともあるそう。『ペット2』では1人で収録を行ったため、伊藤さんにとってアフレコ現場も初めての経験だ。『映像研』のアフレコを振り返り、「声優さんって本当にカッコいいんです!」と目を輝かせた。

「みなさん収録には必ずアドリブを持ってくるんです。台本に書かれていないセリフをダメもとでもいいからという感じで提案していて。モブキャラ(名前のない通行人や群衆など)が話しているシーンも収録現場にいらっしゃる声優さんのアドリブのオンパレード。一話の収録で緊張している中、みなさんのアドリブのすごさに思わず笑ってしまうほど。一瞬のシーンなのにとめどなくセリフが飛び交って、本当にアドリブなの!? と思うくらい感動しました」

『映像研には手を出すな!』テレビアニメ声優初挑戦の伊藤沙莉の心を動かした“声の表現”

「私は普段お芝居をするときから、監督に言われるか、言わなきゃいけないような空気にならない限りアドリブは入れません。だから、アドリブを全力で入れる度胸、とにかく一度当たってみる心意気はとても勉強になります

アドリブが作中ですべて使われるわけではない。だからこそ、完成された映像で採用されたアドリブを発見したとき、得も言われぬ感動を味わえるそうだ。

プロフェッショナルをすごく感じる現場。私も頑張らなきゃって毎週奮い立たせられる。みなさんの熱量が感じられて、自分の知らない表現を知れる収録は本当に楽しいです」

キャラクターへの愛が、確固たる表現へ

伊藤さん自身も熱量の高い現場にあてられて、セリフに勢いをつけすぎてしまうこともあるという。演じた「浅草」は好きなことに対して真っすぐなキャラクターだ。自分の好きなことを話すシーンでは、早口で専門用語を連発する。

「私自身もともと早口で、普段の芝居の現場でもゆっくり話してと言われるのですが、浅草を演じるときは特に言われています。ただの早口ではなく、言葉一つひとつの意味がちゃんと伝わるように意識するとか。分かりやすい例だと『活弁っぽく』『たたき売りっぽく』とか。自分の声にもう一つ要素をつけ足していくのが、とても面白いです」

【動画】(C) 2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

9歳のころから芝居を続けている伊藤さんだが、声だけで芝居をすることは本当に難しいとこぼした。同時に、「自分なりにキャラクターへ魂を吹き込むことが楽しい」とも話してくれた。

「原作を読んだときから、浅草は二面性のある女の子だと思っていました。モノづくりへの情熱は人一倍持っているのに、人との関わり方はすごく不器用。愛(いと)おしさを感じていました。だからこそ、声をあてるとき、この二面性を大切にしないと浅草じゃなくなる、絶対表現していきたいと。音響監督の木村さんからも最初に『浅草は人前で演じてる子だから、オーバーに表現して大丈夫』と言われたんです。声の出し方から滑舌まで細かい部分を調整してもらえたので、迷いなく演じることができました」

また、伊藤さん自身も浅草同様にかなりの人見知り。話し方で自分を繕(つくろう)ことが多いそうだ。浅草の口癖「~ですな」は、伊藤さんの口癖でもある。「共感できるからこそ、大切に演じていきたい」と語った。

アニメは表現のヒントが多い

伊藤さんは、声優に挑戦したことで、演技への向き合い方に変化があったようだ。

「声ひとつで感情の伝わり方が変わるという気づきがありました。今まで、声を意識して芝居をしたことがなかった。どちらかというと表情に感情をのせてしまうことが多くて。『映像研』の現場では、表情に頼っても感情は伝わらないことに打ち砕かれています(笑)。声の力強さだけで説得力が全く違うことを知れたので、これは俳優としても持ち帰ろうと思っています」

実写では声以外にも表情や動きで感情を表現することができるが、アニメは声だけでしか表現できない。

『映像研には手を出すな!』テレビアニメ声優初挑戦の伊藤沙莉の心を動かした“声の表現”

「伊藤さんの性格的に、声優は向いてるのかも」

この言葉を投げかけてみたところ「10作くらい経験してから判断していきたいですね」と、どこまでも謙虚な姿勢を見せてくれた。

「アフレコはすごく楽しいです! ただ、向いてるとかはプロの声優さんに対して、あまりにも恐れ多い……。でも、今後も声のお仕事がいただけるなら、絶対に挑戦したいと思っています」

「浅草の声だけでなく、効果音にも注目してほしい」

インタビュー時も収録期間中だった伊藤さん。浅草の妄想の世界の効果音を声で表現することが、とても楽しいのだという。それが作品の見どころでもあると話す。

「浅草が頭の中でモノづくりをしているときの音を、私の声であてることが多いのですが、それがとても斬新でおもしろくて。人の声で効果音を表現することで、妄想の世界なんだ、浅草が頭の中でつくり上げた世界なんだって思える。よく分からない効果音を探り探り表現するのが楽しいし、この楽しさが映像を通して伝わればいいなと思ってます」

最後に『映像研』にかける熱い思いを語ってくれた。

「今は、とにかく一回見てほしい、頼む! と思っています。いまだに自分の声が浅草に合っているか不安ではあるけど、作品自体は200%おもしろい。アニメでアニメづくりの過程を表現する、そんな新しいことをしているので、アニメの知識や原作を読んでいない方も十分に楽しめます。また、漫画の世界観を湯浅政明監督が再現度高く表現してくれているので、原作ファンの方も絶対に楽しめる。みんなの情熱が詰まっているのと同時に、楽しい気持ちが伝染していく作品だと思うので、いちど声は気にせず見てほしいです!」

原作の世界観とストーリーのおもしろさに加え、伊藤さんを含めキャラクターにマッチした声に魅了されること間違いない。

(文・阿部裕華 編集/写真・林紗記)

プロフィール

『映像研には手を出すな!』テレビアニメ声優初挑戦の伊藤沙莉の心を動かした“声の表現”

伊藤 沙莉(いとう・さいり)

子役時代から安定感のある演技力には定評があり、数々の作品に出演。生まれ持った芝居のセンスでシリアスもコメディーもこなす、将来有望な個性派女優。
主な出演作に、映画『獣道』『寝ても覚めても』『ペット2』(声の出演)『生理ちゃん』、ドラマ『TRANSIT GIRLS』『この世界の片隅に』『獣になれない私たち』『全裸監督』連続テレビ小説『ひよっこ』『反骨の考古学者 ROKUJI』など。テレビアニメ『映像研には手を出すな!』で主人公・浅草みどりを演じる。

『映像研には手を出すな!』作品情報

『映像研には手を出すな!』テレビアニメ声優初挑戦の伊藤沙莉の心を動かした“声の表現”

(C) 2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

<放送スケジュール>
毎週日曜日深夜24:10~24:35
NHK総合テレビにて

<キャスト>
浅草みどり:伊藤沙莉
金森さやか:田村睦心
水崎ツバメ:松岡美里
百目鬼:花守ゆみり
さかき・ソワンデ:小松未可子
藤本先生:井上和彦
ロボ研 小野:小野友樹
ロボ研 小林:小林裕介
ロボ研 後藤:綿貫竜之介
ロボ研 関:井澤詩織

<スタッフ>
原作:大童澄瞳(小学館「月刊!スピリッツ」連載中)
監督:湯浅政明
キャラクターデザイン:浅野直之
音楽:オオルタイチ
アニメーション制作:サイエンスSARU
TVアニメ『映像研には手を出すな!』公式サイト

(C) 2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

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