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「速さへの挑戦」の次は「ケガ予防」 ナイキ新シューズ「リアクト インフィニティ ラン」が面白い!

正月気分もほとんど抜けたが、今年の箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)はすごかった。何がすごいかって、「ピンクの靴」騒動である。正確に言うとピンクだけでなくライトグリーンやオレンジとブルーの組み合わせも混じっていた。要するに“ナイキの厚底”シューズ「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」の宣伝のような大会になっていたということだ。

“ナイキの厚底”については2018年2月以来、この連載でも何度か取り上げているが、ついに一般紙やテレビまで言及し始めた。それどころか、15日にはイギリスの新聞が「世界陸連が規則で“厚底”を禁止しようとしている」というニュースを一斉に流した。これはもはや“騒動”と言ってもいいだろう。

以下の記事は私が今年の箱根駅伝の直後の情報に基づいて書いたものだ。さらに情報を加え、改めて振り返ってみたい。

2020箱根駅伝 “厚底”に履き替えた青山学院大が優勝奪還/ナイキ着用率はナント84.3%に急増!

2020年の箱根駅伝でナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%がたたき出した“記録”を整理すると、以下の通りだ。

・参加した210選手のうち177人が履いていた(往路87人、復路90人)。着用率84.3%。
・総合上位3校(青学大、東海大、國學院大)の選手は全員が“ナイキの厚底”だった。
・そのうち、総合1位(青学大)と2位(東海大)のタイムは大会新記録である。
・さらに、9つの区間賞を“ナイキの厚底”着用選手が独占し、うち6つが区間新記録だった。
・なかでも、東国大ヴィンセント選手が出した3区(21.4km)区間新記録(59:25)は初の1時間切りで、ハーフマラソンの世界記録(58:01)に迫るものだ。
・ついでに、2区で区間新記録を出した東洋大の相沢晃選手は、昨年も“ナイキの厚底”で4区新記録を出している。

新年早々、2日間にわたって“ナイキの厚底”が次々と記録を塗り替えるシーンを見せつけられては、一般のアマチュアランナー(とくに上級者)も心を動かされたことだろう。実際、私の知り合いのサブ3(フルマラソン3時間切り)ランナーのおじさん(50代)は、我慢し切れなくなって東京・原宿のナイキのショップに飛んで行ったほどである(笑)。

だが、ここでハタと立ち止まってほしい。確かに日本や世界のトップランナーたちがこのシューズを履いて次々と新記録を打ち立てているが、履いているランナーはみんな超エリートだ。私のような素人おやじランナーがあの鮮やかなピンクのシューズを履いてキロ6(1km=6分)ペースというわけにはいかないだろう。ちょっと恥ずかしい。しかも値段が3万250円(税込み)で、使用推奨距離が250マイル(約400km)というのも考えポイントである。本番レース10回分で3万円だ。自分自身の走力にそれだけの投資をする価値があるかどうか……。

しかし、ご安心あれ。ナイキはランニングシューズを「STRONG(鍛える)」「FAST(速く)」「LONG(長く)」「EASY(快適)」という4つのカテゴリーで分類し、速さだけを追求しているというわけではない。実はこの1月30日に「LONG」カテゴリーに入るシューズの新作が日本で発売される。「ナイキ リアクト インフィニティ ラン」だ。これがなかなか面白い。

ホワイトベースの「リアクト インフィニティ ラン」/ nike official / nike official

ホワイトベースの「リアクト インフィニティ ラン」/ nike official

ヴェイパーフライシリーズがランニングの効率を高め、記録更新や限界に挑戦することに焦点を当てているのに対して、新作シューズはランナーのケガを減らす可能性に着目して開発された。ひとことで言うと「ケガをしないで走り続けるシューズ」への挑戦だ。ナイキは、その実現の第一歩として、今回、リアクト インフィニティ ランを世に出すというのだ。

確かに、少しでも速く走りたいというのはランナーの根源的な願望だが、無理な練習はケガと隣り合わせだ。初心者を含めたあらゆるレベルのランナーに共通するリスクと言ってもいい。私自身、足底筋膜炎になったことがあるし、腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたいえん/ランナー膝)、過労性脛(けい)部痛(シンスプリント)といったランナー特有の故障を抱える人は私の周りにも少なくない。足が痛くて走れなくなったら、速いも遅いもないのである。

ランニングのケガは避けられないのか? 新作シューズはそんな疑問から開発が始まったという。最大の特徴は、「リアクト」という独自開発のフォーム(ソールの素材)を使った幅広のソールだ。幅があることでどっしりとした安定感を提供すると同時に、ヴェイパーフライからヒントを得たというロッキングチェアのような構造が、かかと着地からつま先で蹴り出すまでのスムーズな足運びをサポートしている。

さらに、かかと部分をぐるりと囲むように薄いヒールカップを入れたり、アッパーを3層構造のフライニットにしたりすることでサポート性を高めるなどの工夫をしている。こうしたテクノロジーの組み合わせで、ケガの元になる足の横ぶれを防いでいるのだという。

「リアクト」という独自開発のフォームを使った幅広のソール/ nike official

「リアクト」という独自開発のフォームを使った幅広のソール/ nike official

実際に足を入れると、確かにいままで体験したことのないような安定感がある。土踏まずのアーチがやや高めで、足とシューズの一体感が心地よく、個人的にはかなり気に入った。走り出すと、ロッキングチェアのような構造が生み出す“ライド感”もさることながら、クッション性と反発性を兼ね備えたリアクト素材の性能を改めて思い知らされる。

ナイキに限らずシューズメーカー各社はソール素材の開発にしのぎを削っている。リアクトは2017年に登場したナイキ独自開発の新素材だ。従来の素材ではクッション性を増そうとすると反発性(エネルギーリターン)を犠牲にしなければならず、軽さを優先すると耐久性が落ちるという課題があった。リアクトはナイキ社内のエンジニアが総出で400以上の化学組成や処理方法を試した結果、生まれた。柔らかくて弾力性があり、軽くて耐久性も高いという素材だ。

カテゴリーは「LONG」だが、ナイキとしてはロングランだけでなくベースランやインターバル、リカバリーランなどランニングのタイプにとらわれないシューズとして、エリートからビギナーまで幅広い層をターゲットにしているという。練習はもちろん、レースにもよし。価格は1万7600円(税込み)で耐久性が高いというのが何よりうれしい。

(トップ画像:ナイキの新シューズ「リアクト インフィニティ ラン」/ nike official)

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PROFILE

山口一臣

1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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