冬の幸せが満ちる店 かん酒が止まらなくなる「四季のおでん」
文: マッキー牧元

北風が頰を打つ頃になると、おでんが恋しくなる。試しに小さく「おでん」とつぶやいてみると、途端に頭から湯気が立ち、胃袋が鳴って、心がほっこりと温まる。
「がんも、ちくわぶ、焼き豆腐。大根、コンニャク、ごぼう巻。卵にはんぺん、里芋にじゃがいも、袋にすじ、キャベツ巻」。次々と、頭におでんダネが去来して、もう居てもたってもいられなくなる。
しかしだからといって、安直にコンビニに走ったりはしない。おでんは、やはりおでん屋で食べたい。だからそれまで、おでんの匂いを嗅がないために、コンビニにも行かない。
おでん屋に行くと決めたら、開店と同時に入る。鍋前の特等席に座り、目前で、気持ちよさそうに身を寄せ合うおでんダネを眺め、ゆっくりと過ごすのがいい。
おでんは、“食べる銭湯”である。気の置けないタネとの触れ合いが、体と心を、のほほんと温めてくれる。
少し前までは、おやじ臭い、古臭いというイメージがあって、おでん屋は若者や女性から敬遠されつつあった。だが近年になって様変わりし、「モダンおでん」が目立つようになり、デートや合コンにも使われるようになったではないか。
そうした店に共通するのが、「一品一皿様式」である。要するに、いっしょくたに鍋の中で温めるのではなく、注文ごとに別々に調理し、薬味も変えて、一種ずつ皿に盛って出すスタイルだ。
東京でその先駆けといってもいい店が、銀座「四季のおでん」である。元々大阪・心斎橋の人気店で、2001年9月に東京に進出した。細長い店内に伸びるカウンターの中央におでん鍋が設置されており、中には豆腐や卵など4、5種類のタネしか入っていない。
注文のたびに、別々に炊いていたタネを取り出して小鍋で温め、小皿に盛り、小ネギや黒七味を散らしたり、加減しょうゆを足したりと、細工で味を引き立てる。

(左上から時計回りに)大根、たこ、ゆきな、四季うどん
白菜にすりおろした山芋とたっぷりの香ばしい煎りごまをかけた「ゆきな」、黒七味をふり、花かつおを盛った、心温まる「大根」、おぼろ昆布を盛った「豆腐」、ふわりとまとまり、上品なうまみが流れる、焼きネギを添えた「つくね」、ゼラチン質のうまみに富む、濃い味わいの「牛すじ」。
精妙な火の通しにうなる「鴨(かも)ねぎ」、加減しょうゆと実山椒(さんしょう)がいきる、明石の香り高き「たこ」、三杯酢をかけた「カキ」、溶きからしを掲せた「こんにゃく」、上質なだしで煮含めて2種類のみそを添えた「こいも」、バターを添えた「じゃがいも」。

(左上から時計回りに)きくな、こんにゃく、しめじ、しゅうまい
あるいは、ソーセージとたっぷりのネギを詰めた「きんちゃく」、汁を含んだままふっくらと仕上げた「はまぐり」、だしで炊かれてふわふわになった「しゅうまい」など、飽くことがない。それらを次々と頼み、かん酒をやっていると止まらなくなる。
最後は、おでんのつゆで食べる細うどんを、はっふはふとすする。ああ。冬の幸せが満ちる瞬間がここにある。

(左上から時計回りに)きんちゃく、つくね、生ゆば、れんこん
四季のおでん
2001年9月に大阪より進出。上記のタネのほか「さえずり」「しめじ」「豚バラ」「ひろうす」「生ゆば」などもおすすめ。昆布だしが利いて、しみじみとしたうまさが積もる上質なだしに、吟味されたタネが出会う、おでん本来の幸せあり。全25種類前後で200円から。飲んで食べてで7千円ほど。
締めはおでんだしにうどんを入れて温めてもらうか、あるいはおでんだしをかけた「四季茶漬け」、季節の炊き込みご飯の「四季ご飯」が待っている。酒は「四季桜」「上喜元」「繁桝」「里の秋」など。出かけられるなら、開店後と深夜は混むので20時以降が狙い目。
<店舗情報>
東京都中央区銀座8-6-8 銀座福助ビル 1F
03-3289-0221
平日18:00~翌3:00/土 18:00~翌0:00
日・祝定休
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