インタビュー

フィクションでもあり、現実でもある――映画『風の電話』が映し出す、日本の“当たり前の光景”

東日本大震災で家族を失い故郷を離れた少女・ハル(モトーラ世理奈)が、さまざまな事情を抱えた人々と道中で出会いながら、故郷を目指す――映画『風の電話』は、そんなロードムービーだ。手掛けたのは、脚本のない即興での演出手法を用いる諏訪敦彦監督。俳優・西島秀俊さんは、ハルと共に旅をする元原発作業員・森尾を演じた。

本作は、日本社会が抱える問題に直面して傷ついた人々の姿を淡々と映していく。その中には撮影中に偶然出くわした人たちもいて、そこに筋書きはない。諏訪監督は、フィクションと現実の境目をどうとらえているのか。西島さんは、その独特な撮影の中で何を感じたのか。20年来の仲である2人に聞いた。(文中敬称略)

演技という“噓”の表現の貧しさ

映画『風の電話』は、第52回カンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞した『M/OTHER』(1999)などを手掛けてきた諏訪敦彦監督の新作だ。諏訪監督は、脚本のない即興での演出手法で知られる。西島は22年前、監督にとって初の長編映画『2/デュオ』(1997)で、この手法をすでに経験していた。

「『2/デュオ』のときは、もうどうなるか先が見えないし、毎日『物語が破綻(はたん)してしまうのではないか』というギリギリのところで撮影していました。それに比べると今回は、ある程度構成が見えていた感じでしたね」(西島)

フィクションでもあり、現実でもある――映画『風の電話』が映し出す、日本の“当たり前の光景”

今回の撮影の中で西島は、“役者”である自身を顧みる場面があったという。『風の電話』の劇中では、埼玉県にある実際のクルド人のコミュニティーの中に、西島とモトーラ世理奈が入っていくなど、ドキュメンタリーのような映像がふんだんに使われ、それゆえに現実社会との交わりが大きく感じられる。

「ほかのシーンは、セリフは自由であるにしても、役者たちは同じ方向に向かって進んでいく感覚はあるんです。でも、クルド人の方たちとのシーンでは、演技しているわけではない、自然な状態で存在している人たちと、役者という一生懸命に何か別のものになろうとしている人間が対峙(たいじ)する。そうすると、演技をしているという“噓(うそ)”の表現がいかに貧しいのかを、まざまざと現されてしまう気がしました。ただ、それこそがもしかしたら諏訪監督の本領かもしれないですね」(西島)

そんな中にあっても、モトーラ世理奈は「こんな居方ができるのか」というくらい“噓”がないと感じた、と西島は語る。一方、諏訪監督は、「ある意味での“恐れ”を持てるかどうかも大切」と西島の演技の重要性を語る。

フィクションでもあり、現実でもある――映画『風の電話』が映し出す、日本の“当たり前の光景”

(C) 2020映画「風の電話」製作委員会

「クルド人の方の苦しみの話を前にして、俳優や監督である僕らがそこにどう入っていくのか。それを考えたときに何か恐れを感じない人には、やっぱり作品の中にいてほしくないと思います。カメラを持って彼らの中に入り、何かが撮れて、それで映画になればいいやと利用してしまう恐れだってある。被災地で映画を撮るということはどういうことなのか、という話にもつながるのですが、そこで何も感じず、恐れのない人とはやろうとは思わない。だから西島さんが感じたことは大事だし、この映画にとっても大事なことだと思います」(諏訪)

諏訪監督は、かつてはドキュメンタリーも制作していた。フィクションとドキュメンタリーに、どのような違い、またはつながりを感じているのだろうか。

「その区別はないんですよ。人が映っていることには変わりがないので。ドキュメンタリーでも、隠し撮りじゃない限り何かを意識しているし、普段とは違う“演技”をしていると思います」(諏訪)

即興芝居だからこそ生まれた結末

主人公ハルは、震災後に身を寄せていた広島を出発し、福島の元原発作業員で同じく震災で家族を失った森尾と道中で出会う。その後、彼の目的地だったクルド人コミュニティーのある蕨(わらび)を経て、森尾の地元・福島を訪れ、やがて彼女は故郷である岩手に向かう。その過程で、どこに住む人にも傷ついた心があることがわかる。森尾ももちろんそのひとりだ。

「誰しも生きていく中での苦しみがありますが、僕が演じる森尾の中には、もうひとつ『生き残ってしまった』という罪悪感もあります。この作品は、もう生きていけないんじゃないかと思っている人同士である森尾とハルが知り合って、どう変わっていくのかが描かれていると思います。僕自身も例えば、西田敏行さん演じる今田とのシーンで実際に演技をしてみて、森尾がどういう気持ちで一歩前に歩みだすのかというイメージができあがりました。森尾の結末は、最初に予定されていたよりも、もう一歩踏み出した感じになった。そこは演じてみて初めて出てきた部分だし、監督のやられてきた即興芝居だからこそ生まれた部分だと思います」(西島)

西田と西島のシーンは、家の中で交わされる何げない会話だ。だが西島の言う通り、見ている者にとっても何が飛び出すかわからない、確かな迫力がある。

フィクションでもあり、現実でもある――映画『風の電話』が映し出す、日本の“当たり前の光景”

(C) 2020映画「風の電話」製作委員会

「西田さんは福島出身で、常にそのことを考えている方です。この映画の撮影の前にも『任俠(にんきょう)学園』というまったく違う作風の映画でご一緒していて、そのときも福島の話をされていました。西田さんにこそ、語りたいこと、伝えたいことがあって、その気持ちがあふれ出ていたのだと思います。台本があったら、ああはならない」(西島)

「そこでも西島さんには、福島出身ではない人が出身者を演じるという難しさがあったと思います」(諏訪)

この作品は、ロードムービーであり、フィクションでもある。だが同時に、傷ついた人たちを淡々と映し出すことで、現実の日本が抱える問題点をあぶりだしているようにも感じる。

「でも、そういう意図的な感覚はなくて、単に普通の光景なのに、ただ人の目についてない、テレビにはあまり乗っかっていない、ということだと思います。今、クルド人難民は日本におよそ2千人いて我々の隣人だし、福島に行くと、東電の関連企業で働いている人がたくさんいる。撮影で家をお借りした人も東電の関連企業で働いておられる方だし、作品を通じて何か特別な主張をしているわけでもありません。当たり前の光景なのに、それがただ表に出てこないだけ。東京にいるとなかなか見えないんですよね」(諏訪)

普段は海外での作品作りも多い諏訪監督にとって、今の日本はどう見えているのだろうか。

「オリンピックに向けて元気があるように見えているけれど、どこもかしこも傷だらけだなって。今回の映画で日本を旅していて感じました。久しぶりに日本で撮影をして、日本は特殊な国で、子供がこんなに不幸な国ってないと思ったんです。不登校の子供が全国に16万人以上いて、子供の自殺は年間300人を超えるといいます。子供が自分を肯定する力が弱く、孤立しているというのは、日本特有の問題。生きる力に関して、大上段に構えて言うものではないと思うし、余計なおせっかいはしたくないけれど、この映画も、被災した人にだけでなく、傷ついた人に寄り添いたいなと思って作りました。主人公ハルが出会う大人たちは、面倒くさいことは聞かないで『とにかく食え』って言うだけなんです。生きていればいいんだよということを感じてほしいと思います」(諏訪)

(インタビュー・構成/西森路代 写真/持田薫)

フィクションでもあり、現実でもある――映画『風の電話』が映し出す、日本の“当たり前の光景”

 

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作品情報

フィクションでもあり、現実でもある――映画『風の電話』が映し出す、日本の“当たり前の光景”

(C) 2020映画「風の電話」製作委員会

   『風の電話』
監督/諏訪敦彦 脚本/狗飼恭子、諏訪敦彦 出演/モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行(特別出演)、三浦友和ほか 配給/ブロードメディア・スタジオ 公開/全国公開中

<ストーリー>
東日本大震災で被災し、家族を失ったハル(モトーラ世理奈)は、広島のおばと暮らしていた。ある日、おばが病気で倒れ、ハルは一人になってしまう不安にかられ、震災以来一度も帰っていなかった故郷・大槌町へ向かう。道中でさまざまな人に出会い、旅を続けたハルは、「もう一度話したい」という思いを胸に、故郷にある「風の電話」にたどり着く。

プロフィール

西島秀俊(にしじま・ひでとし)
1971年3月29日生まれ、東京都出身。1994年『居酒屋ゆうれい』で映画初出演。1997年、諏訪監督『2/デュオ』に出演。そのほか近年の主な出演映画に『CUT』(11年)、『劇場版MOZU』(15年)、『散り椿』(18年)、『名探偵ピカチュウ』(日本語吹き替え)『空母いぶき』『任俠学園』(いずれも19年)など多数。

諏訪敦彦(すわ・のぶひろ)
1960年生まれ、広島県出身。東京造形大学デザイン学科在籍中から映画制作を行う。97年、『2/デュオ』で長編映画監督デビュー。シナリオなしの即興演出という独自の手法を確立する。99年、『MOTHER』で第52回カンヌ映画祭国際批評家連盟賞を受賞。東京藝術大学大学院映像研究科教授。

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映画ノベライズ『風の電話』 (朝日文庫)
著者:狗飼恭子/朝日新聞出版

<ストーリー>
東日本大震災で家族を失ったハルは、心の傷が癒えないまま広島の伯母のもとで暮らしていた。ある日、伯母が倒れたことをきっかけに、ハルは一人、故郷を目指す旅に出る。「どうして自分だけが生きているのか?」──その答えを探しながら。

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