小川フミオのモーターカー

VWビートルのシャシーに合成樹脂のボディーを載せたバギー「メイヤーズ・マンクス」

フォルクスワーゲン・ビートル(1953年日本国内発売)の特徴は、堅牢、比較的安価、それに数多くの派生車を生んだことだ。ビートルをベースに開発された派生車のなかには、セダンやマイクロバスが含まれる。なかでもとびきり大胆なのが、「メイヤーズ・マンクス」だ。

(TOP画像:ビートルのシャシーを短くし、専用設計のサスペンションをとりつけた)

ビートルのシャシーを使って、合成樹脂のボディーを載せたファンカー(楽しむために開発されたクルマ)。米国人のブルース・メイヤーズが64年に発表したマンクスをひとことで表現すると、こうなる。

FRPのボディーは簡素だが上手にデザインされている

FRPのボディーは簡素だが上手にデザインされている

カリフォルニア在住のメイヤーズ氏は、当地で盛んだった砂漠でのレースのために、ビートルを改造して、このクルマを製造した。当初はレースに出るために作られ、そのあと、ボディーキットのかたちで、のちに完成車として一般にも販売された。

ホイールベースはビートルより30センチ以上も短くして小回りが利くようにし、専用の低圧タイヤを組み合わせるなどした。エンジンチューニングはしていたようだが、駆動方式はビートルと同様、後輪駆動。

タイヤは目的に応じてオーナーが選んでいた

タイヤは目的に応じてオーナーが選んでいた

マンクスという車名は、英マン島起源の猫からとられている。マンクスは猫好きには有名な品種で、尻尾がないことと、特殊な後肢により、ぴょんぴょんとウサギのように跳びはねることで知られている。開発者は、ビートルをさらに短くしたクルマに、おなじイメージを重ねていたのだ。

別名、デューン(砂漠)バギーともいわれ、私が子どものころ、マテル社の「ホットウィール」シリーズをはじめ、このクルマをモチーフにした玩具がオモチャ屋さんに並んでいた記憶がある。実写以外のいろいろなかたちで出合えた。

人気が出た理由は、軽快でわかりやすいスタイリングと、実際に、砂漠のレースで記録した好成績にある。とりわけ、1967年10月末に開催された「NORRAメキシカン1000」というレースでの優勝で、いちやく名を馳(は)せた(NORRAは「ナショナル・オフロードレーシングアソシエーション」の頭文字)。

クルマ好きはビビッとくる魅力を感じさせるリアビュー

クルマ好きはビビッとくる魅力を感じさせるリアビュー

メキシコ・ティファナからラパスまでの849マイルを走り抜くレースである。フォルクスワーゲンの記録によると、出走車68台のうち31台しかフィニッシュできないという苛酷(かこく)な内容だったようだ。

マンクスのスタイリングも、当時の米西海岸の若者には、ピンときたようだ。スタイリッシュさを狙うのでなく、合成樹脂を使って、できるかぎりシンプルにとデザインされている。軽い感じのスタイリングは、重厚長大な自動車産業に対する、アンチテーゼとみえた。

当時、マンクスのようなビートルの改造車はひとくくりに「バハバグ」と呼ばれた。サンディエゴよりすぐ南のメキシコに入ったバハ・カリフォルニアがレースの舞台になったりしたからだ。

マンクスの成功を受けて雨後のたけのこのように登場したデューンバギーに対して、メイヤーズ氏は、「マネすんな」と訴訟も起こしたようだが、裁判では勝てなかった。誰が作ってもこんなふうになる、と裁判所が判断したのだろうか。

ビートルの水平対向エンジンをベースに気化器や電装系を変えてチューンナップ

ビートルの水平対向エンジンをベースに気化器や電装系を変えてチューンナップ

ノーマン・ジュイソン監督の映画『華麗なる賭け』(1968年)では、主演のスティーブ・マックイーンが浜辺で、メイヤーズ・マンクスに乗る場面が出てくる。

この映画に出てくる仕様は、スタイリングはより洗練されているし、シャシーはビートルのものであるが、エンジンは230馬力のシボレー・コーベア用を搭載している。車体は450キロ程度なので、ものすごい加速力だっただろう。

マックイーンが、主人公は海岸線沿いに住んでいて、マンクスを持っているのが自然、と助言したそうだ。スタイリングを始め、開発を手助けしたと本人が語っている史料が残っている。

奥に2台のビートルが見える

奥に2台のビートルが見える

フォルクスワーゲン本社もこのクルマが好きなようだ。2019年にジュネーブで開催された自動車ショーにおいて、バッテリー駆動のピュアEVでのデューンバギーの現代版をお披露目してくれた。

当時はビートルがいろいろなモデルのベースになったように、これからはEVのプラットフォームを販売して、サードパーティーに好きなボディーを載せてもらえばいい、と本社のCEOが語っていた。こういうのも“伝統”だと考えると、なんだか楽しい。

(写真=Volkswagen USA提供)

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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