20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”

“自分中心”を貫くラップユニットchelmico「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」(前編)

「誰かのためではなく、自分たちのために曲をつくる」

自分たちをありのままに表現するラップユニット、chelmico。2017年のメジャーデビューを皮切りに、「ビオレ」「爽健美茶」など数多くのCMに楽曲が起用されている。一度は彼女たちの音楽を耳にしている人も多いだろう。
そして、20年1月に配信限定でリリースされた『Easy Breezy』は、テレビアニメ『映像研には手を出すな!』のオープニングテーマに起用された。アップテンポな曲調と、二人のゆるい歌い方がクセになる。『Easy Breezy』の制作を通して、「自分たちのこだわりやめんどくささに気づいた」という。

メジャーデビューがもたらしたchelmicoの変化とは――。

chelmico結成の原点は『TOKYO TRIBE』

―― chelmicoはすごく仲が良い印象があります。プライベートでも2人で出かけることはあるんですか?

Rachel:出かけますね。仕事終わりにちょっと飲んで帰ろうか、みたいなことをよくしてます。

Mamiko:私たち、本当に仲良い友だちが少なくて(笑)。

Rachel:2人で出かけるような友だちはほとんどいない。本当に心を許せる友だち、何があっても、その苦労を半分背負ってあげようと思える人はMamiちゃんくらいかな。

“自分中心”を貫くラップユニットchelmico「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」(前編)

―― そこまで相手のことを思えるのはすごい。そもそも出会ったキッカケは?

Mamiko:7年くらい前に知り合いの紹介ではじめて会って。「この人は話せるな」って感じだったかも。お互いに人見知りだし、普段は他人を信用するまでにめっちゃ時間かかるのに。それで、2人で遊びに行くようになったね。

Rachel:会ったときから波長が合ったよね。お互いRIP SLYMEがすごい好きだったのもあった。

―― そのときは、2人で音楽やろうといった話し合いはなかった?

Rachel:最初はただの友だち。一緒に音楽やろうとなったのは、私が知り合いのライブ企画に出演したのがきっかけ。「高校生RAP選手権」(BSスカパー!『BAZOOKA!!!』内で放送されている、高校生によるMCバトルイベント)や、映画『TOKYO TRIBE』などの影響でラップがはやってて、「やってみたい」と話してたんですよ。そしたら「やりなよ!」と。でも、一人だとキツいから友だちを誘って出ようと。それで『TOKYO TRIBE』を一緒に観に行ったMamiちゃんを誘った(笑)。

Mamiko:私は当時、受験生で。大学に進学しようかなと思ってたけど、すごく行きたいわけじゃなかった。そのタイミングで『TOKYO TRIBE』を見に行ったら、ラップに興味が湧いて。映画を見てなかったら、ラップはやってなかったかも(笑)。

―― 『TOKYO TRIBE』が原点だったとは(笑)。はじめてのライブではどんなラップをしたんですか?

Rachel:自己紹介ラップみたいな(笑)。ネームドロップ(有名人の名を挙げ自分の知り合いのように言いふらす行為)したり、自分の好きなものを紹介したり。
友だちのラッパーのGOMESSからトラックとリリックをもらって、そこに言葉を乗せて披露しました。

Mamiko:特に伝えたいこともなかったしね。私は女子高生だったから「JKとかプリクラとか入れときゃいいんじゃね?」って(笑)。そんな感じで入れたいワードを洗い出して、うまいことつないでもらったな。Rachelは何入れてたっけ?

Rachel:当時好きだった「煮卵おにぎり」(笑)。

メジャーデビュー前は毎日が文化祭

―― そのライブに出演してから、本格的に音楽やっていこう!となったんですか?

Rachel:ライブの出演をキッカケに、とんとん拍子で次のライブが決まって。「じゃあ、出ようか」と。こういう流れはちゃんとつないでいった方がいいと思ったんですよ。

Mamiko:Rachelに引っ張ってもらう形で、ついていってた。おもしろくなりそうな感じがしてたし。それで、ライブに出るなら自分たちで曲をつくろうとなって。Rachelの家に集まって、ノートを広げて、どうやって曲をつくるんだろう?ってところから始まった。
事前にトラックメイカーからトラックはもらってたので、それに合わせて、とりあえず韻を踏めばいいんだよね?と(笑)。とにかくたくさんノートに言葉を書き出して、パズルゲームみたいに組み立てていった。そしたらすぐに曲がつくれたんですよ。そこからラップ人生がはじまった感じ。

―― いろいろなことがうまく運んでいったと。

Rachel:すぐに発表できる場があったのは大きかったと思う。ライブのたびに一曲つくると決めて、出演本数が増えていくごとに曲も増えていった。録音したらすぐにサウンドクラウドにつくった曲を上げられたし。なんでもすぐにできてしまう環境だったから、怖いもの知らずだったのかも。

Mamiko:すごく意欲的だった。いまもそうだけど、当時はめんどうなことでも率先してやるくらい意欲的(笑)。

―― どんなめんどうなことを?

Mamiko:自分たちでオリジナルグッズつくってたんですよ。ししゅう屋さんに行って、「こういうデザインのこういうグッズつくりたい」と依頼して。モデルさん用意して、グッズを着用した写真を撮って、自分たちでネット販売した。梱包も発送も自分たちで全部しました。ちゃんと注文もあって、楽しかったな。

Rachel:ライブのときは自分たちでグッズ運んだね。あと、ライブの度に衣装買いに行って。次のライブは「この衣装着よう!」って2人で選んでたこともあった。楽しかった。

Mamiko:2人で何かをつくり上げることが楽しかったね。毎日が文化祭みたいで。私、それまで部活やったこともなく、熱中するものもなく……ここまで気の合う友だちもいなかったから。

“自分中心”を貫くラップユニットchelmico「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」(前編)

―― その中で苦労した、大変だったことはなかったんですか?

Rachel:なんだろ……楽しい思い出ばっかり。ハプニングがあっても楽しかったから。

Mamiko:あ、でも、ライブは苦手だったな。とにかく恥ずかしくて人前に出たくなかった(笑)。だから、最初はGReeeeNのように顔出しせず配信だけしたいと思ってたけど……。Rachelが「ちゃんと顔出して、横のつながりつくりながらやっていった方がいいよ!」と。「そっか……」って言いながらライブ出て、思ったようにできなくて落ち込むこともありました。いまでも緊張してるけど、やっと慣れてきた感じ(笑)。

関係者が増えて気づいた、自分たちのこだわり

―― 自分たちですべて自由にやってきたところから、メジャーデビューしていろんな人に囲まれて、状況がかなり変わったのでは?

Mamiko:全然違うから最初はちょっと戸惑ってた。「大人いっぱいいる……めっちゃあいさつする……」って。

Rachel:これまでは小回りきく小型車を使いこなしていたのに、それが大型車に変わった感じ。どこに何があるのか分からない……!ってなってた。でも、みんなすごく力になってくれる。やりたいことを言えば、理解してくれて、いい方向に運んでくれるので。ダメなところはちゃんと指摘してくれるし。

―― 強い味方ができたと。

Rachel:そう。2人のときは自分たちが楽しければいい!と思ってたけど、いまはそこにやりがいもある。人のために頑張ったり向き合ったりするとやりがいが生まれるんだなと。

Mamiko:私は、音楽だけに集中できるようになったことが一番良かったかも。グッズをつくるとなっても、スタッフさんがデザインやサンプルのアイデアを持ってきてくれて、自分たちは選んだり意見を言ったりするだけでいい。ありがたい。だから、「曲に関しては任せてください!」と責任感を持って仕事ができるようになった。

―― 環境が変化して、つくる曲も変化しました?

Mamiko:うーん……そこはあまりブレずに。自分たちが持ってる「人生楽しい!」ってエネルギーを伝えるのが、chelmicoの持ち味というか。2人で楽しくやってきたことが、運よく大きくなってきたから。

―― 自分たちの感じる楽しさをストレートに伝えたいと。

Mamiko:ブレない軸を持つことがカッコいいと思っていて。私にはRachelと一緒に楽しく音楽をつくりたいという軸がある。聴いている人を楽しませるのも大事だけど、まずは自分が楽しくなれるような自分中心の曲でありたい。

Rachel:私もそう思う一方で、せっかく人に聴いてもらうなら、聴き手を置き去りにしないようにはしたい。そこのバランスは大事だと思ってますね。まあでも、一番はやっぱり自分中心でいたいかな(笑)。
ただ、つくる曲はいままでと同じだけど、曲のつくり方は変わったよね。

“自分中心”を貫くラップユニットchelmico「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」(前編)

―― どう変わったんですか?

Mamiko:メジャーデビューする前はRachelと二人、阿吽(あうん)の呼吸で曲づくりを進められていたけど、周りに人が増えたことでそれが難しくなった。みんなで一緒につくり上げていくには、ちゃんと話し合わなきゃいけない。話し合って進めていくと、自分のこだわりが明確になってきて。いままではトラックメイカーからトラックをもらったら「全部最高!」と進めてきたのに、この音は入れないでほしいとか、歌詞はこうした方がいいとか。

Rachel:こだわりを人に伝えるのは大変だと思ったよね。周りからめんどくさいと思われるかもしれないし。でも、こだわりを持つのはすごくいいことだから、もっとめんどくさくなると思う(笑)。そんな私たちのいまの心境をそのまま描いた曲が『Easy Breezy』なんですけど。「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」という歌詞に2人の気持ちが詰まってる(笑)。

(文・阿部裕華 編集/写真・林紗記)

後編に続く

プロフィール

“自分中心”を貫くラップユニットchelmico「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」(前編)

2014年結成のRachelとMamikoからなるラップユニット。18年ワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビュー、メジャー1st Album「POWER」をリリース。自由奔放な等身大のリリックのおもしろさ、ハイレベルなラップスキル、キャッチーなトラックに乗せる滑らかなフロウが様々な業界から注目を受けている。音楽のフィールドを超え様々な方面で活動中。

リリース情報

“自分中心”を貫くラップユニットchelmico「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」(前編)

『Easy Breezy』

Release Date:2020.01.17 (Fri.)
Label:WARNER MUSIC JAPAN
Tracklist:
1. Easy Breezy

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PROFILE

  • 宮崎敬太

    1977年神奈川県生まれ。音楽ライター。ウェブサイト「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」で編集と執筆を担当。2013年に巻紗葉名義でインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』を発表した。2015年12月よりフリーランスに。柴犬を愛している。

  • 阿部裕華

    1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケッターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエイターにお熱。

音楽に生きる石若駿 ドラムはコミュニケーションツール

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“自分中心”を貫くラップユニットchelmico「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」(後編)

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