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「作品に触れるすべての人をポジティブに」吉平“Tady”直弘が初監督アニメ『空挺ドラゴンズ』に込めた祈り

「明日も頑張って生きよう」、そんな風に思える作品に出会ったことはあるだろうか。2020年1月から放映されているテレビアニメ『空挺ドラゴンズ』は、まさに明日の活力になるような作品だ。

一見、ドラゴンが登場する“ファンタジーアニメ”に見えるかもしれない。しかし、ふたを開けてみれば“日常アニメ”、“グルメアニメ”、“青春アニメ”など、さまざまな顔を持つ作品だった。


【動画】TVアニメ「空挺ドラゴンズ」プロモーションビデオ

本作が初の監督となる吉平”Tady”直弘さん。3DCGアニメーションに定評のあるポリゴン・ピクチュアズに所属し、『シドニアの騎士 第九惑星戦役』『BLAME!』で副監督を務めた経験がある。

「原作1話を読んだ当初から、初めての監督作品は『空挺ドラゴンズ』にしたいと思っていました」と語るほど、アニメ制作前から作品に魅了されていたという。

『空挺ドラゴンズ』は、いまの社会に生きる人へのエール

「作品に触れるすべての人をポジティブに」吉平“Tady"直弘が初監督アニメ『空挺ドラゴンズ』に込めた祈り

『空挺ドラゴンズ』の魅力は「なんといっても世界観にある」と、Tadyさんは話す。

「非常にユニークで、何にもカテゴライズできない世界観を持っている作品だと感じました。絵と物語は親しみやすさがある。だけど、“命の尊さ”を問いかけるような深いテーマ性も持っている」

「多くの場合、深いテーマをただシリアスに描いてしまうと、どうしても見てくれる人は限られてしまう。それは、一日の終わりに、疲れた心を癒やしたくてアニメを見るのに、そこでシリアスで重たい作品に触れたいとはなかなか思えないからだと思うんです。でも、『空挺ドラゴンズ』は深いテーマを持ちながらも、とても明るくてワクワクさせられる作品でした」

また、もうひとつの魅力として「登場人物たちの関係性」を挙げた。

「本作に登場するクィン・ザザ号の18人の船員がとても魅力的で。友達ではないけど、一緒に何か成し遂げる仲間であり、寝食を共にする家族のようでもある。多様な価値観を持った登場人物たちが、文句を言い合いながらも、なんだかんだ一緒にいてご飯を食べる。そんな彼らの絆が、とても魅力的でした」

空挺ドラゴンズ場面写真

『空挺ドラゴンズ』に登場する18人は、性格はもちろん、おそらく年齢もバラバラだ。夢や希望に向かって進む少年少女、そんな少年少女を応援する気持ちはあるけど自分の夢や希望を諦めている青年、そして、現実に抗うことを諦めた大人たち。多様な価値観を持つ人々が交わることで、ポジティブな変化がおこっていく。

「あきらめの悪い船員たちが失敗しながらも懲りずに前につき進んでいく姿を描いて、いまの社会に生きる人へエールを送りたい。元気になってほしいと思ったんです」

「人が死なない作品をつくりたい」

「作品に触れるすべての人をポジティブに」吉平“Tady"直弘が初監督アニメ『空挺ドラゴンズ』に込めた祈り

さらに、「制作に関わるスタッフみんながポジティブな気持ちで作品づくりに挑んでほしい」という思いも、Tadyさんが『空挺ドラゴンズ』のアニメ化を企画した理由の一つだった。

「自分が監督をするときには、人が死なない作品をやると決めていた」

ポリゴン・ピクチュアズでは、1本のアニメを制作するのに約3年費やすという。長い期間、ひとつの作品に向き合わなければならないからこそ、Tadyさん自身を含めた制作スタッフみんなもハッピーになれる方法はないかと考えたそうだ。

「みんなに“この作品を手掛けてよかった!”と思ってもらうことが、自分が監督をする上での目標でもありました。殺伐とした作品を制作している時は、気持ちまでどんどん殺伐としていって……制作期間は、とてもつらかった。周りから病んでると思われるほど(笑)」

「監督に決まったとき、そうやって精神を摩耗しながら作品と向き合うことを果たして自分が一生続けたいのか?、と考えた結果、多分そうじゃないと。作品をつくっていると楽しくてたまらない!というムードで進めていきたかった。僕たち制作陣がより積極的に楽しんでいれば、その楽しさが映像にも反映されるのではないかと考えました」

原画を3Dに落とし込む。新しいアニメーション表現

『空挺ドラゴンズ』単行本1巻が発売されたタイミング(2016年11月時点)で、すでにTadyさんの心の中で、アニメ化を目指そうという気持ちは固まっていた。原作の内容を踏まえつつ、作品の持つテーマ、登場人物の人間性などを、Tadyさん自身で資料にまとめて、プロデューサーに提案したという。

原作者の桑原太矩さんのOKも出てアニメ化が決まったときは、「めちゃめちゃうれしかった」と語るTadyさんは、同時に「やっとポリゴン・ピクチュアズの新しいフェーズに入れると思った」とも感じたそうだ。

「これまで、ポリゴン・ピクチュアズといえば、“SF作品”で勝負することが多かった。もちろん作品を好きになってくれるファンの方はたくさんいてくださるのですが、あくまで限られた範囲にしか届けられていなかったのでは、と思います。いろんな表現を見せられる技術を持ちながらも、いままでは広い層に作品を届けきれていないという悔しさも感じていた。だから『空挺ドラゴンズ』を手掛けられると決まったときは、『やっと薄暗い世界から飛び出して、広くて青い空が描ける!』とワクワクしました(笑)」

空挺ドラゴンズ場面

(C) 桑原太矩・講談社/空挺ドラゴンズ製作委員会

本作の新しい試みの一つにあるのが、作画(2D)の力を借りた3Dアニメーションだ。これまでポリゴン・ピクチュアズでは、基本的に社内のデザイナーが3DCGをつくるのに適したキャラクターデザインをしてきた。2Dアニメーションを好む人たちにとって、3Dアニメーションのキャラクターはどこか受け入れづらい部分があったかもしれない。「CGっぽい、人形劇っぽいと感じられてしまうアニメーションから、少しでも早く脱却したかった」とTadyさんは言う。

「作品を多くの人に見てもらいたいと考えたとき、アニメ好きの誰もが気に入ってくれる絵にしようと。そこで、作画監督やアニメーターとして活躍されている小谷杏子さんに依頼をしました。2Dアニメーションとして魅力的なキャラクターデザインをしていただき、それを3DCGとして表現するアプローチに切り替えたんです。キャラクターデザインに限らず、ドラゴンや料理でも一度イラストにおこした上でCG化しています。どうしたら長く好きでいてもらえるんだろうと、ディレクターですけどプロデューサー的な目線を含めて戦略的に考えていました」

「否定はしない」スタッフもクィン・ザザ号の船員のように

イラストを3DCGに変換していく作業は、いままでのやり方と異なるため、かなり大変だったそう。ところが、いままでの制作より前を向いて進めることができたという。ゴールが明確だったからだ。

「最初に“行くべき方向性と到着地点を示す”と決めていました。これまでの制作スタイルだと、キャラクターデザインが決定するのに一年かかることも。その間は試作のような形でスタッフのみんなが制作を進めるんですけど、最終的に初期デザインと違う映像が上がってくる場合もあって。なので、最終映像がどういう形になるか決まるまでスタッフは不安なんです」

「今回は、絵がベースにあったから、CGをつくる上で迷ったり、横道にそれてしまったりと、時間をロスすることがなかった。おかげで、『こうしたらもっと良くなるんじゃない?』と前向きな議論が活発におこなわれてました」

「作品に触れるすべての人をポジティブに」吉平“Tady"直弘が初監督アニメ『空挺ドラゴンズ』に込めた祈り

空挺ドラゴンズ制作に使われている資料たち。登場キャラクターの過去、現在、未来の設定や、作中の料理や龍について、Tadyさんの考えが書き込まれている

資料からは、スタッフの意見をたくさん取り入れて制作が進められたことがうかがえる。例えば、制作が始まった当初に美術監督である尾身千寛さんへ渡した指示書には、Tadyさんからこんなメモが記されていた。

「僕の好きなものだけを集めて、それをお客さんに好きと言ってもらうより、より多くの人の好きを集めることでもっとたくさんのお客さんに好きだと言ってもらうことができるはず。みんなの思いがぎゅっと詰まった、全員が大好きと思える作品をつくりたいです! 僕の作品はみんなの作品です!」

そして、アニメ『空挺ドラゴンズ』は、スタッフみんなの「集合知」で完成された作品となった。

「クィン・ザザ号の船員たちのように、僕たち制作陣も個性豊かにしていこうと思ったんです。みんな好き勝手してくれてもいい、僕がまとめるから! ただし、好き勝手するなら、その分しっかり個性を出してね!、という気持ちで作品に取り組んでいきました(笑)」

CGが人生を変えるキッカケになってほしい

「CGで人の感情が感じられる表現をしていきたい」

Tadyさんがポリゴン・ピクチュアズ入社当初の面接で言った言葉だ。人生を変えるキッカケになるような、強いエールを送れるような、ときにはつらさを感じるような表現をCGで描きたかったという。そして、今回の『空挺ドラゴンズ』を振り返り、「そこに指をひっかけることくらいはできたかも」と一言。

「Twitterでエゴサーチしていると『感動して泣きました!』『子どもと楽しく見てます』『夫婦でハマりました』……本当にいろんなうれしい感想をいただけています。うちのスタッフにはおばあちゃんと一緒に一話を見たと話す人もいて。『自分が会社行ってる間に、おばあちゃんが9話まで見ちゃった……』と凹んでたのがおもしろかったです(笑)」

「生活の中にあって、この作品がコミュニケーションのひとつのツールにもなっている、生活を豊かにできているなと感じています。みなさんに喜んでいただけるなら、今後も明るくて楽しくて、一日の終わりにちょっとアニメ見ちゃおうかな!と、親しみやすくて、愛される作品を手掛けていきたいですね」

『空挺ドラゴンズ』、アニメは原作より群像劇に

最後に、アニメ『空挺ドラゴンズ』の見どころを聞いた。

「原作の良さを踏まえつつ、アニメではより群像劇の要素を強調しています。いろんな角度からの視点を持てる、そして見ている皆さんも自身をクィン・ザザ号の一人として投影できる、そんな楽しい作品になってます。

前半の話数では、ファンタジー、コメディ、児童文学、シリアスなど、メインとなるキャラクターに合わせて雰囲気の異なる話が続きます。たくさんのキャラクターの名前や個性を覚えてもらえたかな……となったところで、1話の22分間では表現できなかった大きな物語が展開されていきます。

ドラゴンを主軸に物語は進みますが、ラブストーリーや少年少女の成長の物語など、楽しい雰囲気をそのままに、大きなドラマを取り扱っていきます。楽しさだけでなく、感動や心に残る何かを感じられると思うので、ぜひ最後まで見届けてほしいです」

空挺ドラゴンズ場面写真

(C) 桑原太矩・講談社/空挺ドラゴンズ製作委員会

「また、テレビアニメを見逃した方は、Netflixに全話配信されているのでぜひ見てください(笑)。逆に、Netflixで一気見してくれた方は、SNSなどでネタバレしない範囲で感想を言ってもらえると非常に喜びます! どちらにしても、視聴者のみなさんが一緒になって作品を楽しんで、盛り上がってくれたらうれしいと思っています」

食欲をかき立てられるほど美味しそうな龍でつくったグルメにも、ぜひ注目してほしい。一度見ただけでは把握しきれない要素が満載だ。繰り返し視聴しても楽しめることは間違いない。

(文・阿部裕華、写真・&M編集部)

プロフィール

「作品に触れるすべての人をポジティブに」吉平“Tady"直弘が初監督アニメ『空挺ドラゴンズ』に込めた祈り

吉平”Tady”直弘(よしひら ただひろ)

1999年、ポリゴン・ピクチュアズに入社。CGアニメーションの編集、合成、フィニッシングを専門分野として数多くの作品に関わり高い評価を得る。2015年以降は​​編集の枠を超えて映像演出に専念、テレビシリーズ『シドニアの騎士 第九惑星戦役』では、​副監督/演出として​従事。​​​その後は、劇場作品『BLAME!』(2017年)にて副監督/CGスーパーバイザー、劇場アニメ『GODZILLA』3部作(2017年~2018年)では、副監督を務めた。2020年には『空挺ドラゴンズ』にて監督デビューを果たす。

『空挺ドラゴンズ』作品情報

空挺ドラゴンズビジュアル

(C) 桑原太矩・講談社/空挺ドラゴンズ製作委員会

<放送スケジュール>

・フジテレビ「+Ultra」にて毎週水曜日24:55から放送中
・Netflix にて日本先行全話一挙配信中
関西テレビ/東海テレビ/テレビ西日本/北海道文化放送/BSフジでも放送

<キャスト>

ミカ:前野智昭
タキタ:雨宮天
ジロー:斉藤壮馬
ヴァナベル:花澤香菜
ギブス:諏訪部順一
クロッコ:関智一
ニコ:櫻井孝宏
バーコ:鳥海浩輔
カペラ:釘宮理恵
ガガ:熊谷健太郎
フェイ:古川慎
バダキン:松山鷹志
オーケン:武内駿輔
ソラヤ:上村祐翔
メイン:赤﨑千夏
ヒーロ:榎木淳弥
ヨシ:井上和彦
リー:佐々木啓夫
カーチャ:佐倉綾音
ナナミ:千本木彩花
アスケラ:坂本真綾
ウラ爺:鈴木清信

<スタッフ>

原作:桑原太矩(講談社「good!アフタヌーン」連載)
監督:吉平”Tady”直弘
シリーズ構成・脚本:上江洲誠
プロダクションデザイン:田中直哉/森山佑樹
アニメーションキャラクターデザイン:小谷杏子
CGスーパーバイザー:坂間健太
美術監督:尾身千寛
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽:横山 克
オープニング・テーマ:神山羊「群青」(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)
エンディング・テーマ:赤い公園「絶対零度」(Epic Records Japan)
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
制作:空挺ドラゴンズ製作委員会
(C) 桑原太矩・講談社/空挺ドラゴンズ製作委員会

TVアニメ『空挺ドラゴンズ』公式サイト

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PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケッターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエイターにお熱。

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