インタビュー

夏帆×妻夫木聡『Red』 世の中の規範の在り方を考えさせられるラストシーン

エリート夫とかわいい娘とともに理想の家庭像と思われる暮らしをしてきた村主塔子が、かつて愛した建築家・鞍田秋彦と10年ぶりに再会したことから始まる恋愛映画『Red』。

原作は島本理生が自身初の官能小説としてしたためた400ページを超える長編小説で、2013年に連載がスタートしたときから、主婦が自分の欲望の世界に落ちていく様や生々しい性描写に賛否両論が巻き起こった。映画では、結末などに原作とは別の解釈を加えている。監督は『しあわせのパン』や『幼な子われらに生まれ』などで知られる三島有紀子だ。

夏帆×妻夫木聡『Red』 世の中の規範の在り方を考えさせられるラストシーン

©2020『Red』製作委員会

主人公・塔子を演じた夏帆は、「この作品は、男女の恋愛を描いていたものだけれど、実際は塔子という女性の生き方を描いている。撮影中より映画が完成してからのほうが、なおさらそう感じます」と振り返る。

夫とのコミュニケーションや、義母が考える息子の“理想の嫁像”に対して疑問を持ちながらも、そこからはみ出さないように生きていた塔子。そんな彼女が、10年ぶりに会った元恋人・鞍田と再び男女関係をスタートさせる。そのシーンは、原作より映画のほうが、塔子の意思が強く働いているように思える。

夏帆は撮影中、保守的な枠に収まろうとしながらも、時に大胆な行動を取る塔子を「とらえどころのない人間」と感じて役作りに悩みながらも、受け身の自分を捨て主体的に人生を選択していく一人の女性を演じきった。

夏帆×妻夫木聡『Red』 世の中の規範の在り方を考えさせられるラストシーン

一方、妻夫木が演じる鞍田は、かつて既婚の身でありながらも塔子と不倫をしていた建築家。そんな彼が10年後、ひとり身になり、結婚して主婦として暮らす塔子の前に再び現れる。再会した塔子となぜ恋愛関係に戻ろうとするのか、その内面が見えないように振る舞う鞍田の役もまた難しいものだったのではないだろうか。

「鞍田に関しては終始、塔子を愛して、突き進んでいくだけでした。僕自身が鞍田に対してどうあるべきか、といった考えはもはやどうでもいいというか、(演じる上で)とにかく塔子が好きということしか頭にはなかった。他の登場人物のことなどを考えだしたら、何もできなくなる役どころだと思ったので」(妻夫木)

鞍田は感情を表に出さず口数も少ないが、塔子の前では豊かな人間性を出す。彼が塔子に向けた言葉の中に、妻夫木がハッとした一言があったという。

夏帆×妻夫木聡『Red』 世の中の規範の在り方を考えさせられるラストシーン

「『この家の窓から何が見えるんだろうね』というセリフです。鞍田は建築家なので、家の模型を作っている。その模型を見せながら、『(窓から)何が見えるんだろうね』って塔子に投げかけるわけですけど、それは『外からどう見えているか』ということばかりを意識して生きてきた塔子に、『家の中から外に目を向けてみれば』という思いを込めて言ったんじゃないかな」(妻夫木)

塔子は鞍田に再会するまでは、裕福な家庭を持ち、夫に尽くす妻であることなど“外側から見た幸せ”に従順に生きていた。鞍田との出会いが、そんな塔子の価値観を覆した部分があったのかもしれない。

30代は華をどう潰せるかを考えてやってきた(妻夫木)

塔子は作中、鞍田を含め、主に3人の男性と接することになる。エリートで家族思いだが、旧態依然とした価値観で塔子をしばりつけるところのある夫の真(間宮祥太朗)や、塔子が勤めることになった設計事務所の営業職の小鷹淳(柄本佑)だ。その3人の男性の誰と一緒にいるかによって、塔子の見せる顔も違ってくる。

夏帆×妻夫木聡『Red』 世の中の規範の在り方を考えさせられるラストシーン

「小鷹さんは、スッと人の心に入り込むのがうまい人。塔子が自分を繕わずに等身大でいられるのは小鷹さんなのではないかと思います。夫である真くんは、決して悪い夫ではないんです。家族思いで、娘のことも、塔子のことも大切に思ってくれている。ただ、価値観や理想の家族像みたいなものを、塔子とは共有することができなくて、少しずつ夫婦としての関係に塔子が違和感を覚えるようになってしまう。

鞍田さんは、塔子が初めて本気で好きになって、ずっと忘れることのできない人。きっとこの人と一緒にいたら、安定した幸せを手に入れることができないと分かっていても、磁石のように引き付けられてしまうんだと思います」(夏帆)

そんな危険な魅力を持った人物を演じる妻夫木は、昨今は善良ではない役、罪を背負う役を演じるなど、「ゆらぎ」の表現できる俳優として存在感を強めている。

「20代ではできる役が限られるし、(30歳を過ぎてからは)僕自身も主役だけじゃなくて、脇役を演じられる人になりたいと思っていたところでした。以前、ある監督に言われたんです。『華があるのはいいことだけど、脇役を演じるときに、それが邪魔になることがある』って。30代になってからは、華をどう潰せるかを考えてやってきました。今、いろんな役が演じられて幸せです」(妻夫木)

夏帆×妻夫木聡『Red』 世の中の規範の在り方を考えさせられるラストシーン

そして夏帆もまた、今作では、以前のみずみずしいイメージから脱却し、人間の揺れ動く複雑な感情を表現している。とくにそれを感じさせるのが、映画の後半に描かれた夫・真と電話で会話するシーンである。

このとき、塔子にとってすでに鞍田の存在が夫・真よりも大きくなっている。夫婦の関係性はとうに壊れているというのに、それを知ってか知らずか、真は塔子に対しての愛情を屈託なく口にするのだ。

「電話のシーンは、普段であれば録音した音声を使って芝居をすることが多いのですが、今回は、間宮君が東京から実際に電話をかけてくれて、一緒にお芝居をしました。この電話の後に、塔子は人生をかけた決断をします。彼女の中に、夫の真っすぐな言葉に対して複雑な感情があるのだろうと解釈して、そのことを意識しながら演じました」(夏帆)

塔子が受話器を置き、映画はクライマックスへと流れていく。結末は原作とは異なるが、それもこの映画の見どころであり、見た者がそれぞれの思いを表出させる部分でもある。

夏帆×妻夫木聡『Red』 世の中の規範の在り方を考えさせられるラストシーン

©2020『Red』製作委員会

「最後のシーンは、三島監督以外の人、例えば男性監督が撮ったら違うものになったんじゃないですかね。僕はどうしても塔子を“母親”として見てしまうところがある。だから彼女の決断に胸をぎゅっと締め付けられる感覚がありました」(妻夫木)

「最後に塔子の言うセリフには、二つの意味が込められています。私には塔子のような選択はできない。映画だからこそ描けるものであり、そこを描くことが三島さんらしいなって思いました」(夏帆)

鞍田と再会して、塔子は誰のものでもない“自分”を生きようとする。ラストシーンを含め、彼女の人生選択の中には、今の社会通念上、罪深いととられることは確かにある。しかし、もし男性が塔子のような選択をしても、同じように「センセーショナルな決断」とみなされるだろうか。この映画を最後まで見て考えさせられたのは、世の中の“規範”の在り方についてであった。

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(文・西森路代 撮影・花田龍之介)

映画『Red』
2020年2月21日(金)、新宿バルト9ほか全国公開

夏帆×妻夫木聡『Red』 世の中の規範の在り方を考えさせられるラストシーン

©2020『Red』製作委員会

出演:夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗
監督:三島有紀子 脚本:池田千尋、三島有紀子
原作:島本理生『Red』(中公文庫)
配給:日活 ©2020『Red』製作委員会
123分/シネマコープサイズ/日本/R15
公式HP:redmovie.jp

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