プロレス偏愛

プロレス「復権」までの10年を振り返る / 【プロレス偏愛】#01

高度成長期の日本人の心を熱くし、長らく国民的な娯楽として人気を得てきたプロレス。力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木ら数々のリング上のヒーローを生み出してきた。

2000年代に入ってからは、総合格闘技ブームなどの影響で一時客足が遠のいたが、この10年はプロレス人気が再燃している。団体も細分化され、興業のスタイルも様々。ファン層も、男性のオールドファンから若い女性まで幅広い。

今も昔も熱狂を支えるのはファンや関係者の「偏愛」だ。彼ら彼女らは、なぜプロレスにハマるのだろうか。2月18日より始まる特集プロレス偏愛では、それぞれ異なる立場からリングに熱い視線を送るプロレスフリークたちに話を聞き、プロレス人気の一端を読み解く。

第1回は特集のイントロダクションとして、この10年のプロレス人気を振り返る。

【Contents】

#01
プロレス「復権」までの10年を振り返る

#02 
選手、ファン、業者……「プロレスマスク」をめぐる複雑な人間関係 

#03 
『週プロ』唯一の女性記者が“プロレス沼”に行き着くまで 

#04 
リングドクターが見たプロレスラーの驚異の肉体

 

 

プロレスは“別物”に生まれ変わることができたのか? 「復権」までの10年を振り返る

2020年の新春、新日本プロレスが恒例の東京ドーム大会を実施した。今年は「1.4」だけでなく、翌「1.5」も開催する史上初の東京ドーム2連戦。オカダ・カズチカ、内藤哲也、棚橋弘至ら当代の人気レスラーを並べ、マスクマンの獣神サンダー・ライガーの引退試合など、話題の試合を盛り込み、2日間で7万人を超える観客を集めた。

戦後から大衆娯楽として親しまれ、何度もブームを巻き起こしてきたプロレスだが、90年代の終わりからは「冬の時代」と呼ばれる人気低迷期を迎える。K-1やPRIDEなどの総合格闘技イベントに人気を奪われたほか、テレビ中継の撤退や専門誌の廃刊、人気レスラーの引退なども重なり、観客動員が落ち込んだ。

そんなプロレスが「復権」したとメディアで報じられるようになって久しい。それを象徴するのが、業界トップ団体「新日本プロレス」の復活だ。

新日本プロレスの低迷期を支えた棚橋弘至を、総立ちで迎える観客=2019年4月6日夜、米ニューヨーク、藤原学思撮影

新日本プロレスの低迷期を支えた棚橋弘至を、総立ちで迎える観客=2019年4月6日夜、米ニューヨーク、藤原学思撮影

 

「奇跡の復活」を果たした新日の大胆改革

2012年、カードゲームやコンテンツの製作を手がけるブシロードが新日本プロレスを買収。同社の木谷高明会長は「マニアがジャンルを潰す」と主張し、オールドファンが新規客を排除してしまう構図がプロレスビジネスの発展を妨げているとして、新たなファンの獲得をめざした。

同社はプロレスが「流行っている感」を演出するべく、従来の10倍の広告費を投入、ラッピング広告で山手線の全車両を“ジャック”するなど大胆な広告戦略を展開したほか、テレビへの出演など所属選手のメディア露出を増やした。

その流れに乗って棚橋弘至、中邑真輔、内藤哲也ら旧来のプロレスラーのイメージを覆す選手が、新たなファン層からの支持を集めることに成功。そのスター性を開花させていった。

新日本プロレスの施策はこれにとどまらない。同社は、動画配信などの積極的なネット活用や、選手のキャラクターのアピールが人気獲得に不可欠として、全ての所属選手にツイッターアカウントを取得させるなど、SNS発信も強化した。

オカダ・カズチカ選手のツイッター投稿。リングの外での一面が垣間見られる

こうした施策に伴い、観客動員数は回復。なかでも大きく増えたのは「プ女子」と呼ばれる女性ファンたち。レスラーのたくましさに熱狂するファンもいれば、自身のプロレス愛を文章やマンガ、コスプレなどで自在に表現するファンもいるなど、楽しみ方は千差万別。こうしたファンの存在は、かつてのプロレスからの脱却を強く印象付けた。

 

 インスタグラムで「#プ女子」で検索すると2020年2月現在、1万件以上の投稿が確認できる(画像はインスタグラムより)


インスタグラムで「#プ女子」で検索すると2020年2月現在、1万件以上の投稿が確認できるなど盛り上がりを見せている(画像はインスタグラムの検索結果より)

新規ファンが盛り上がりを見せる一方、“冬の時代”も根強くプロレスを見続けていた古株ファンの多くも、戸惑いが交じりながらも新日本プロレスの状況の変化を歓迎した。

それに呼応するように、雑誌やテレビ番組でもプロレスの歴史を解説するような企画が増え始め、「マニアがジャンルを潰す」ことのないよう、新規のファンを迎え入れようという共通認識が広がり、プロレス会場にはまさに老若男女、新旧のファンがひしめきあうようになっていく。

新日本プロレスに話を戻すと、大胆な経営改革の結果、90年代後半の1/4程度に落ち込んでいた新日本プロレスの売上高は2012年頃から右肩上がりで伸び、2017年7月期には過去最高の49億円、2018年7月期には54億円と過去最高を更新した。

一連の復活劇は「奇跡のV字回復」と言われ、昨今のプロレス人気を支えている。冒頭で触れた、今回の東京ドーム2デイズの成功も、こうしたさまざまな積み重ねが引き寄せたものといえよう。

多角的なコンテンツ配信会社へ生まれ変わるプロレス団体

新日本プロレスの成功の要因として、選手の管理や試合を構築する「団体」と、ビジネスの戦略を立てる「経営会社」とに役割が明確に分かれたことも大きい。

旧来のプロレス団体の多くは、選手が経営面も担うことが多く、現場との意思疎通がしやすい反面、経営が後手に回ってしまう傾向にあった。だが、新日本プロレスの成功以降、分業型の組織体制が他の団体にも広がっていく。

「文化系プロレス」を標榜し、エンターテインメント路線で名を馳せる「DDTプロレスリング」は、2017年にサイバーエージェントに全株式を譲渡し、グループ入りを果たした。格闘技関連のコンテンツが充実している同社のネット配信サービス「Abema TV」で試合を生中継し、新たなファンを獲得している。

AbemaTVで生中継された「DDT LIVE!ビッグマッチ」両国国技館大会(2019年11月3日開催)でのワンシーン。(C)AbemaTV

AbemaTVで生中継された「DDT LIVE!ビッグマッチ」両国国技館大会(2019年11月3日開催)でのワンシーン。(C)AbemaTV

同じく、全日本プロレスのエースだった三沢光晴さん(享年46)が、自ら旗揚げした「プロレスリングNOAH」も、広告代理店「リデットエンターテインメント」が運営する時期などを経て20年1月にサイバーエージェントが買収することが発表され、DDTと同じグループに属することになった。

これらの動きに代表されるように、プロレス団体が、従来の「興行」を主とする組織から、コンテンツを多角的に提供する企業へとシフトしていったことが、この10年間の大きな変化といえる。

増え続ける団体とプロレスラー

メジャーな団体が生まれ変わる一方で、独立独歩のインディーズ団体も変わらず数多く存在する。その中にはプロレスの聖地と言われる後楽園ホールで興行できる規模の団体が10以上存在し、彼らは地方巡業も行っている。

また、自前のリングや道場を持たず、所属選手とフリーランスの選手をブッキングして興行を行う団体も数多くあり、倉庫を改造したキャパ200席ほどの会場「新木場ファーストリング」では、そうした団体によるプロレスイベントが毎日のように開催されている。

さらに地方には「ご当地プロレス」と呼ばれるような小規模な団体も生まれており、その実数は把握できないほど増え続けている。

幅2メートルの通路を目いっぱい使って、選手は車内で試合を繰り広げた=2018年9月29日午前11時9分、山形鉄道フラワー長井線、田中紳顕撮影

列車内や駅のホームでレスラーが闘う「ローカル線プロレス」。選手らは幅2メートルの通路を目いっぱい使って試合を繰り広げた=2018年9月29日午前11時9分、山形鉄道フラワー長井線、田中紳顕撮影

こうした団体数の増加とともに、「プロレスラー」も増え続けており、専門誌「週刊プロレス」が発行している選手名鑑に載っているレスラーだけでも1000人以上。

プロレス界には、各団体を統括する協会や、ライセンスなどが無いため、誰でも「プロ」を名乗れてしまうという点を考慮しても、かなりの数である。

 

レジェンドレスラー市場も活況 オールドファンも戻ってきた

細分化し、市場が広がり続けているプロレスを支えているのは、会場で声援を送る熱心なファンに他ならない。

最近の会場を見渡せば、昭和の時代からプロレスを見続けているマニアもいれば、先にも触れた通り最近のブームで入ってきたライトなファンも多く見かける。

さらに見逃せないのが、このライト層が引っ張る形で戻ってきた、かつてのプロレスファンたちだ。

ドーム興行が連発されていた90年代にプロレスに熱狂していた、現在40~50代くらいの男性ファンたちが、「若い世代の間でプロレスがまた盛り上がっているらしい」と聞きつけ、再び会場に戻ってきているという。

新日本プロレスで「闘魂三銃士」のひとりとして一世を風靡した武藤敬司が主催する「マスターズ」は、かつてのベテラン選手たちが顔を揃(そろ)える興行。会場には中年男性が毎回札止めとなるほど詰めかけており、おなじみのテーマ曲や技に大声援を送っている。

会場に来ていた男性ファンの一人に話を聞いてみると、「しばらくプロレスから離れていたが、武藤さんや蝶野さんが出場する大会があると聞きつけてチケットを取った」と興奮気味に語った。ネットなどを通じて最近の選手にも興味を持ち始めており「今度は別の団体も行ってみたい」と話してくれた。

蝶野正洋さん=2018年12月7日午後4時36分、相模原市南区の相模大野駅、田添聖史撮影

「闘魂三銃士」のひとり、蝶野正洋さん=2018年12月7日午後4時36分、相模原市南区の相模大野駅、田添聖史撮影

また名レスラーたちの自伝や回顧録などのプロレス関連書籍も、この出版不況のさなかにあって堅調な売り上げを記録している。そのほか引退選手のトークショーなども頻繁(ひんぱん)に行われるなど、“レジェンドレスラー市場”は活況を呈している。これらの動きを支えているのは「帰ってきた昭和のプロレスファン」。彼らもまた昨今のプロレスブームを牽引(けんいん)している。

海外ファンも増加する“ジャパニーズスタイル”

近年のプロレスを取り巻く変化として、海外からのファンの増加も挙げられる。発端は動画サイトだ。アメリカには世界最大のプロレス団体「WWE」があり、ワールドワイドな人気を博している。だが、そのキャラクター性が強いスタイルに飽き足らなくなった海外ファンが、動画サイトなどを通じてバラエティーに富んだ日本のプロレスに触れ、その面白さを知り、わざわざ海を渡って日本まで観戦に訪れているのだ。

メジャー団体だけでなく、女子プロレスやデスマッチなどの会場にも海外ファンは増えており、ジャパニーズスタイルのプロレスが「anime」や「moe」と同様、世界に誇れるコンテンツとして認められる日も遠くないように思える。

こうした動きに対し、プロレス団体側も対応を始めている。新日本プロレスは、英語字幕を付けたYouTube動画の配信や海外公演を着実に重ねるなど、グローバルにファンを増やす努力に余念がない。国内だけでは需要が先細ることを踏まえ、プロレス団体による海外需要の開拓は今後一層増えていくだろう。

新日本プロレスリングのYouTubeチャンネル。36万人がチャンネル登録(2020年2月現在)するなど人気が高い(画像は新日本プロレスリングのYouTubeチャンネルより)

新日本プロレスリングのYouTubeチャンネル。36万人がチャンネル登録(2020年2月現在)するなど人気が高い(画像は新日本プロレスリングのYouTubeチャンネルより)

旧来のマニア、新規ファン、戻ってきたファン、プ女子、海外ファン……世代や性別、国も文化も異なるファンがそれぞれのスタイルで楽しみ、現在のプロレス界は盛り上がっている。

そして、長年リングを見続けてきた筆者が強く思うのは、何よりもプロレスを愛し、プロレスの復権と人気回復を追い求めているのは、レスラー自身に他ならないということだ。

どの団体のトップ選手も、試合後には自らのアピールをするだけでなく、「プロレス界をもっと盛り上げたい」と叫ぶ。もちろん、さらなる集客を狙ったビジネス上の思惑もあるのだが、彼らは本心からプロレスが大好きで、もっと多くの人にプロレスを見てもらいたいと願っている。

主役と、それを支えてくれる人たちの熱意があるからこそ、プロレスのビジネス面での新しい取り組みも成功しやすくなる。たとえ一時人気が下火になっても、プロレスが何度も復活を遂げてきた理由は、選手とファン双方の尽きることのない愛であることは間違いないだろう。

(文・金崎将敬)

 

【その他の特集記事】

#02 
選手、ファン、業者……「プロレスマスク」をめぐる複雑な人間関

#03 
『週プロ』唯一の女性記者が“プロレス沼”に行き着くまで

#04 
リングドクターが見たプロレスラーの驚異の肉体

 

関連記事

「なんだこれ!」の連続 女性編集部員が初のプロレス観戦

[ &M公式SNSアカウント ]

TwitterInstagramFacebook

「&M(アンド・エム)」はオトナの好奇心を満たすwebマガジン。編集部がカッコいいと思う人のインタビューやモノにまつわるストーリーをお届けしています。

一覧へ戻る

ファンと選手、販売業者の複雑な愛と人間関係……「プロレスマスク」をめぐるコアな世界/【プロレス偏愛】#02

RECOMMENDおすすめの記事