原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」

『パラサイト』の快挙から見えるアカデミー賞の変化を語ろう

ネプチューンの原田泰造さんと、映画パーソナリティーのコトブキツカサさん。映画好きなオトナのお二人が、新作や印象に残る名作について自由に語る対談企画。今回は日本時間10日に発表された、第92回アカデミー賞の結果について、たっぷり語っていただきました。

原田泰造とコトブキツカサ

コトブキ 「第92回アカデミー賞」の授賞式の現地取材に行ってまいりました!

原田 コトブキは毎年ハリウッドまで行って取材をしてるんだよね。今年はどんな雰囲気だった?

コトブキ 当日はちょっと雨模様でしたが、イベントとしては例年よりも盛り上がっていた印象でしたね。式の内容も良かったですし、演者もプレゼンテーターも豪華でした。

原田 僕も生中継を観(み)たんだけど、目が離せなかった。今回は各賞の予想が難しかったから、発表されるたびに声が出るくらい盛り上がったよ。

コトブキ 正直なことを言いますよ。僕は現地に行くまでは『1917 命をかけた伝令』が大本命で、作品賞を取ると予想してました。前哨戦と呼ばれるアワードの結果からみても、これは『1917』だろうと。

原田 『1917』は僕も観たけど、もう観終わった瞬間「これは作品賞だ!」って思うくらい面白かったよね。全編がワンカット撮影のように仕立ててあるから、最初は「これはどうやって撮ってるんだろう?」って考えながら観てるんだけど、もう途中からそんなこと気にならなくなるくらい面白かった。とにかく没入感がすごいから、ちょっと驚かせるシーンとかがあると、観てる人がみんなビクって飛び上がってたからね。

コトブキ ストーリーはシンプルなんですけど、映像がとにかくすごくて、テクニックが詰まってましたよね。全編ワンカットに見えますけど、サム・メンデス監督は「実際にワンカットで撮ったのは長くて約9分で、多くは4~5分」って言ってましたね。それを様々な技法を使ってつなげている。

原田 まさにノンストップだったね。ぜひ大きなスクリーンで観てほしい作品だよ。

コトブキ 『1917』は、ロジャー・ディーキンスが撮影賞を取るのは確実で、それにサム・メンデスが監督賞も取るんじゃないかというのが僕の予想だったんです。

(編注:『1917 命をかけた伝令』は撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門を受賞)

でも、現地に行ってみたら『パラサイト』への期待感というか、熱がすごかった。授賞式を生放送するテレビ局のABCが、前日にアカデミー賞の特集番組を流してたんですけど、その出演者や評論家たちの予想でも作品賞は『パラサイト』を挙げる人が多かった。街の人々に話を聞いても『パラサイト』支持が多くてとりあえず『パラサイト、あるかも』というツイートだけはしました(笑)。

コトブキツカサ

原田 『パラサイト』はずっと話題だったし、日本でもその噂をきいて観に行く人が増えていったから、“口コミ力”がすごかったんだと思う。

コトブキ 授賞式前日の夜に、アカデミー会員が集まるパーティーの会場周辺で取材したんですけど、そこでもポン・ジュノ監督に対する歓迎ぶりがすごかった。授賞式では、まず脚本賞を『パラサイト』が取ったんですよ。その時、僕はスポーツバーみたいな場所で、たくさんのお客さんと一緒に生中継を観ていたのですが、もう店内の盛り上がりが半端なくて、これは作品賞までいくかもって感じましたね。

原田 日本でも、今年のアカデミー賞はいつもより盛り上がってる気がしたね。ノミネートされた作品が、日本でも公開済みのものが多くて、それで関心が高かったのかもしれない。最近のアカデミー賞って、受賞作が決まってから日本公開されるものばかりだったじゃない?

コトブキ 泰造さんのおっしゃる通りで、例えば『ハート・ロッカー』(第82回で作品賞と監督賞含め6部門で受賞)なんて、賞をとるまで全く話題になっていなかった。賞を取ったから観てみようかなという作品が多かったのが、これまでのアカデミーでしたよね。でも今回はすでに公開されている作品が多かったのもあるし、そもそもノミネート作が豪華で多彩というのはありましたね。

原田 いわゆる商業的な娯楽作からもノミネートが多くなってきたのもあるよね。作品賞でいえば、『ジョーカー』もアメコミ映画だし、『フォードVSフェラーリ』も、スターの出演する大作じゃない? それに『アイリッシュマン』と『マリッジ・ストーリー』はNetflix作品だからね。

原田泰造

コトブキ 数年前からアカデミー賞を変革しようという動きがあったじゃないですか。投票権を持つ会員の人種に偏りが無いようにしよう、とか、女性の地位を向上させよう、とか。それもあって、賞を選ぶ立場のアカデミー会員の数を増やしたんですよね。その影響が出てきているのかもしれない。

原田 より多くの人の意見が採用されるようになったということは、ノミネート作も多彩になるし、そのなかでもみんなが好きな作品が選ばれやすくなるということだよね。

コトブキ アカデミー賞というのは、もともとはハリウッドセレブたちの社交の場です。だから、いわゆる村社会というか、内輪だけで決めるような賞だったんですよ。だからこそ、アカデミーらしいというか、ある傾向の作品が受賞しやすい流れだったんですよね。

原田 いかにもアカデミー賞っぽい作品というのは、なんとなくわかるね(笑)。

コトブキ もうひとついえるのは、俳優の力が強くなってきたってことです。もともとアメリカの映画界はプロデューサーの権限が一番大きくて、最終的な編集権を持っているのもプロデューサー。でも、それを嫌った有力な監督や俳優たちが、自分で制作プロダクションを作って、作品を撮るようになった。先行していたのはロバート・デ・ニーロが作ったトライベッカとかなんですけど、そのスタイルでいま成功してるのはブラッド・ピットですよ。

原田 ブラッド・ピットは(俳優としては)アカデミー賞とは縁遠かったけど、今回、ついに『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で助演男優賞を受賞した。観ていてうれしかったよね。

コトブキ 助演賞って、本当に実力のある俳優が取る賞なんですよ。やっぱり俳優組合から評価されたというのがあるでしょうね。

原田 中継でブラピが映った瞬間にすごい歓声だったもんね。みんなブラピに取ってほしかったんだと思う。

コトブキ 僕、授賞式の前日にブラピの顔写真が入ったTシャツを着て取材してたんですよ。そしたら、すれ違う人が、Tシャツのブラピを指さして「明日、彼に賞がいくよ!」とか言ってくれるんですよ。映画ファンにも愛されてるんだなって思いましたね。ブラピ自身も、離婚とかアルコール中毒とか、いろんなスキャンダルがあったけど、それを乗り越えて評価されたというのもいいですよね。

原田 助演女優賞のローラ・ダーンは『マリッジ・ストーリー』の弁護士役でしょ? あのキャラクターは強烈だったし、演技もすごかったから納得の受賞だったね。

コトブキ そして主演女優賞はレネー・ゼルウィガー。『ジュディ 虹の彼方に』にジュディ・ガーランド役で出演して、歌も自分で唄ってます。これも大本命で納得の受賞でした。

原田 この作品はまだ観てないんだけど、評判が高いよね。

『パラサイト』の快挙から見えるアカデミー賞の変化を語ろう

主演男優賞のホアキン・フェニックス(左)、主演女優賞のレネー・ゼルヴィガー(中央)、助演男優賞のブラッド・ピット=AP

コトブキ レネー・ゼルウィガーも、いろいろあって、ちょっと仕事を休んでいた。それで、この大復活。この生き様が、ジュディ・ガーランドの人生と被るんです。それに復活劇といえば、『ジョーカー』のホアキン・フェニックスもそうですよね。業界からちょっとヤバい奴と思われてた時期を乗り越えての、主演男優賞受賞ですから。

原田 そういう復活ドラマ、大好きなんだよ。授賞式でのホアキンのスピーチも良かったね。亡くなったお兄さんのリバー・フェニックスの言葉を紹介していて。

コトブキ ホアキンがゴールデングローブ賞を取った時のコメントが、ちょっとふざけててあまり評判が良くなかった。それで今回は、SAGアワードでも披露していたリバー・フェニックスの話をしたみたいですね。

原田 そして監督賞、作品賞が『パラサイト』。ポン・ジュノ監督が、プロデューサーがスピーチしている間、じっと手元のオスカーを見つめていたのが印象的だった。いろいろな作品が「格差」をテーマにしている中で、最もわかりやすく、今はこういう時代ですよ、と示したのが『パラサイト』だったってことなんだろうね。

コトブキ アジア映画が作品賞を取ったのが初めてだし、さらに英語ではない外国語の映画が取ったのも初と、記録づくしの受賞でしたね。カンヌ国際映画祭のパルムドールを取った作品が、アカデミー作品賞を取るのも64年ぶりだそうです。

印象的だったポン・ジュノ監督のスコセッシ氏への賛辞

原田 ポン・ジュノ監督のスピーチは本当に良かった。監督賞を取ったとき、ポン・ジュノがスコセッシ監督の言葉を引用しながら謝辞を述べたじゃない? それで、会場にいた観客たちが、スコセッシに向けてスタンディングオベーションしていたシーンにはグッときたよね。

コトブキ 「最も個人的なことが、最もクリエーティブなことだ」という言葉ですよね。

ポン・ジュノ

監督賞受賞のスピーチで、ポン・ジュノ監督は、マーティン・スコセッシ氏をたたえた=AP

原田 スコセッシ監督は、今回『アイリッシュマン』でノミネートされてたけど、ああいう形で賞賛を受けるほうが、受賞してステージに上がるよりも嬉しかったんじゃないかとも思うよね。

コトブキ スコセッシ監督は、ある意味で主催する映画芸術科学アカデミーと対立していた人ですからね。だからこれも俳優・監督の地位があがってきているというか、アカデミーが変化していることの表れだと思う。

原田 そのスコセッシの言葉を引用したポン・ジュノ監督もさすがだよね。『パラサイト』は、ハリウッドにも進出していたポン・ジュノ監督が韓国に戻ってきて、韓国の人にしかわからないかもしれないことを描いた。そんな作品が世界に受け入れられたというのがすごい。まさに、「最も個人的なことが、最もクリエーティブなことだ」というスコセッシの言葉の通りにやってみて、結果を残したってことだよね。

コトブキ 泰造さんが、前回の『パラサイト』の対談のときに言っていた「半地下の臭い」の話ですよね。今回、ハリウッドに取材にきていた韓国のテレビ局の人と話したんですけど、韓国人ならあの「半地下の臭い」は、全員わかるっていってました。

原田 多様になったアカデミー会員の人たちも、文化や言葉の壁を超えてあの「臭い」が想像できたってことだよね。

変化を実感させた今回のアカデミー賞

コトブキ アカデミー会員で増えたのは、俳優が多いみたいなんですよ。しかも、世界各国の。だから、演じる側の発言権が強くなっていくし、多様な価値観が反映されやすくなってるんだと思います。ということは、例えば是枝監督がアカデミー賞をとる可能性だってぜんぜんあるってことですよね。

原田 韓国は政府が映画産業を支援していて、それに比べて日本は遅れているっていわれてるよね。そういう差はあるにせよ、今回の受賞で日本映画界も刺激を受けたし、奮い立たないといけないと思ったよね。

コトブキ 韓国は、日本のように国内市場で興行収入を賄えないという事情があって、制作の時点から世界を視野に入れないといけないというのもありますよね。なので邦画も、ほんの少しでも世界に目を向けるだけで、いろいろ変わってくるのかもしれない。

原田 今回のアカデミー賞を見ていて、まさに今が変革期というか、時代が動いてるんだなって感じた。Netflixも、今回は取らなかったけど、作品賞を取るのは時間の問題だと思う。いろいろな意見の違いはあるけど、それをぜんぶ飲み込んで進化していくのがアカデミー賞のすごい所だし、面白いところだよね。

原田泰造とコトブキツカサ

(文・大谷弦、写真・野呂美帆)

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PROFILE

  • 原田泰造

    1970年、東京都出身。主な出演作に、WOWOW「パンドラⅣ AI戦争」(18)、映画「スマホを落としただけなのに」(18)、NHK「そろばん侍 風の市兵衛」(18)、映画「ミッドナイト・バス」(18)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13-14)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)など。

  • コトブキツカサ

    1973年、静岡県出身。映画パーソナリティとしてTV、ラジオ、雑誌などで活躍中。年間映画鑑賞数は約500本。その豊富な知識を活かし日本工学院専門学校 放送・映画科非常勤講師を務める。

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