いしわたり淳治のWORD HUNT

岡山弁で書く新鮮な歌詞 令和の日本の音楽界に風穴を開ける藤井風

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の4本。

1 “何なん”(藤井風『何なんw』歌詞)
2 “ゲラってスランプがないんですよ”(アンガールズ田中卓志)
3 “紙だのみ”(株式会社ノウト「紙だのみメッセージお守り『JOJU」』」)
4 “時を戻そう”(ぺこぱ松陰寺太勇)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる四つのフレーズ

 

岡山弁で書く新鮮な歌詞 令和の日本の音楽界に風穴を開ける藤井風

藤井風というアーティストが気になっている。以前から鍵盤と歌のカバー曲動画をYouTubeにあげていて、そのアレンジ力や歌唱力が話題になっていたのだけれど、今年になってリリースされた彼のオリジナルソングがまた素晴らしいのである。

表現力豊かな歌唱、大人っぽい楽曲、すこし脱力な歌詞のバランスがすてきだ。彼は岡山県出身なのだそうで、驚くことに歌詞が岡山弁で書かれている。

一人称は「僕」や「私」や「おれ」などではなく「ワシ」で、普通なら「どうしてなにも聞いてくれなかったのさ」などと書かれるだろうフレーズは「なんでなんも聞いてくれんかったん」となり、同様に「あの時の涙は何だったんだよ」は「あの時の涙は何じゃったん」となる。

歌詞が方言で書かれることは非常に稀(まれ)である。やしきたかじんさんの『やっぱ好きやねん』のように関西弁で書かれることはあるにせよ、それ以外の方言となるとほとんどなく、仮にあったとしてもコミックソングのカテゴリーに入れられがちだ。

私は青森出身だが、青森の方言で書かれた曲といって思いつくのは吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』くらいで、やはりイロモノ感が否めない。

とはいえ、岡山県で生活する若者が岡山県で感じた感情を歌にするのならば、岡山弁で書かれて当然である。標準語に直すだけで別モノになってしまう微妙なニュアンスの感情などもあるだろう。

よく「歌詞は自分の言葉で書かなくちゃいけない」なんてことを言う人がいるけれど、地方出身者にとって本当の意味で自分の言葉とは、方言なんだよなあ、というものすごく基本的なことに気づかされた。

彼の音楽を聴いて、岡山弁だから田舎くさいなんて思う人は誰もいないだろうと思う。むしろ、耳新しくて面白いし、人間性が垣間見えて好感が持てる、と感じる人の方が多いのではないだろうか。藤井風というアーティストは令和の日本の音楽界に風穴を開ける存在になる予感がする。

彼は『何なんw』の他に、『もうええわ』というすてきな曲もリリースしている。それぞれ、サビで印象的なメロディーにのせて「何なん」「もうええわ」と歌われているのだけれど、普段の暮らしの中で「何なん!」「もうええわ!」と感じる瞬間は多い。その度に彼の歌を口ずさんでしまう。

こんな汎用(はんよう)性の高いフレーズを見つけて、歌に出来るのもまた、彼の強みと言える。今後が楽しみである。

 

岡山弁で書く新鮮な歌詞 令和の日本の音楽界に風穴を開ける藤井風

1月11日放送のテレビ東京『ゴッドタン』でのこと。本人すら自覚していない悩みを勝手に察して答える「アンガールズ田中の『勝手にお悩み先生』」で、田中さんはタレントの神部美咲さんに、「神部さんはいずれこんな悩みを持ちます」と言って、黒板に「立ち位置がわからない」と書いた。

そして、「どうですか皆さん、神部さんって何の人ですか」と尋ねた。出演者たちが首をかしげて苦笑いしていると、本人も「自分でもよくわからないんです」と笑った。

バラエティー番組でタレント業をやり、情報番組ではレポーターをし、グラビアもやり、俳優業もする、そんな彼女に田中さんは「でも、あなたの最大の才能は“下ネタでも笑えること”なんです」とアドバイスをした。

「それが許される人はなかなかいない」と続け、そして「キレのいいことを言っていくのはスランプがあったりするけど、ゲラ(笑い上戸を意味する俗語)ってスランプがないんですよ」と言った。

ゲラにスランプはない、というのは名言である。たしかに、よく笑う人がいるだけでその場が明るくなり、活気づいて、現場がうまく回っていくということは多い。

チームを組む時、エッジの効いたアイデアを出したり、目からうろこの鋭い意見を言ったりする人こそがいちばん大事なような気がするけれど、実際はそれと同じくらいゲラの人は必要な人材なのではないかと思う。

私は今までたくさんのバンドのプロデュースをして来たけれど、長続きするバンドには必ず「笑顔要員」がいた。年齢も近く、同程度のキャリアを持ったメンバー同士が、狭いスタジオの中で、お互いの演奏やアイデアに対してシビアに意見し続けていると、次第にスタジオの空気も悪くなっていくものである。

でも、そんな時、「ところでさ、お前のそのダサいTシャツ何よ?」と突っ込まれて「あ、これ? これはさ……」と、笑顔でよく分からない言い訳を始めるメンバーがいるだけで、場の空気はなごみ、再び曲作りがうまく回り始めたりする。

それを「ムードメーカー」というのかも知れないけれど、この役割は、本人にムードをメークしているつもりがなければないほどムードはよくなるから不思議である。ゲラにはスランプがない。笑顔要員という仕事の価値は思っている以上に高い気がする。

 

岡山弁で書く新鮮な歌詞 令和の日本の音楽界に風穴を開ける藤井風

子供の頃、お守りの中を開けて親に怒られたことがある人は多いと思う。私もその一人で、以来お守りを開けるという発想自体が頭の中から消えていた。

受験シーズンに合わせて株式会社ノウトから発売された『紙だのみメッセージお守り「JOJU」』は、見た目は普通のお守りだけれど、中には神様のお札ではなく、折れることのない分厚い紙で作られたメッセージカードが入っている。

親や友人や恋人がメッセージを書いて、中に入れて、渡す。そのお守りはポケットに入れておくだけでなく、いざという時に開けて読むことも出来る。非常に機能的なお守りである。

言霊とはよく言ったもので、大切な人からの言葉には言葉を超えた何かが宿るような気がする。「紙だのみ」というネーミングもキャッチーでいい。

受験に限らず、部活動の大会、面接、オーディション、コンクール、上京、海外留学など、すこし考えただけでも用途はたくさん思いつくから、もしかしたらこれからのお守りのスタンダードになるかもしれないなと思った。

「やる気スイッチ」は人それぞれである。 “本人と近い間柄だからこそ言える粋な一言”を忍ばせたお守りを渡して、「ピンチの時は中を開けて読めよ」なんて言って渡し、中を開けたら「弱気になって開けてんじゃねーよ。バーカ!」なんて書いてあって、ふふっと笑ってリラックスする、みたいな光景もまたすてきだなと思う。

 

岡山弁で書く新鮮な歌詞 令和の日本の音楽界に風穴を開ける藤井風

昨年のM-1グランプリで大活躍したぺこぱ。彼らの漫才に「時を戻そう」というセリフが出てくる。

例えば、タクシー運転手と乗客の設定であれば、ボケである運転手の奇妙な言動に乗客がツッコミを入れた後、再び基本の設定に戻るために使われたりする。

M-1を見ていて、このセリフがいちばん、視聴者が明日からすぐに使える有用なセリフだなと思った。何げないけれど、こういう一言が流行語になれば、その言葉には世の中をデザインし直す力があると思う。

例えば、仲間と何かの話し合いをしていて、自分が言った意見で場の空気が悪くなってしまった時、「オーケー、時を戻そう」とぺこぱをまねてキザな感じで言うことで、その場がなごむ、みたいなことはあると思う。

逆に言えば、こういう魔法のような一言があることで、リスクのある意見を思い切って言うことも、似てないモノマネやギャグをすることも、しょうもないダジャレを口走ることも、すこしだけやりやすくなる気がするのである。

以前、日本エレキテル連合の「ダメよ〜、ダメ、ダメ」が流行した時も似たようなことを感じた。それほど親しくない間柄の人の言動を否定したり拒否したりするのは、とても体力と精神力のいる面倒くさい作業である。

でも、「ダメよ〜、ダメ、ダメ」という言葉が流行していたあの頃、その言葉のおかげでジョークっぽい雰囲気の中でやんわりと、でも確実に相手に否定の意思を伝えられた気がする。

「時を戻そう」はどれくらい流行するだろう。こういう機能的な言葉が流行してくれると、世の中の「暮らしやすさ」がすこしアップデートされるような気がするのだけれど。

<mini column>複雑な思いが交錯する

先日、近所のドラッグストアに行ったら、バレンタイン商戦に合わせてチョコレート売り場が拡大されていて、そこに『LIKE』と大きく書かれたチョコレートがあって驚いた。

見るとそれは、不二家の『LOOK チョコレート』のパッケージ違いのもので、おそらく受験シーズンに『カール』が『うカール』になったり、『Toppo』が『Toppa(突破)』になったりするのと同じ発想なのだろう。

それにしても、これほどまでにあからさまに「これは義理チョコです!」というメッセージのチョコがあるとは思わなかった。いや、もしかしたらもっと複雑なニーズもあるのかも知れない。

「あなたのことは今まで何とも思ってなかったけど最近LIKEに昇格しましたよ」みたいな……なんてことを考えていると、足元で「これにするー!」と声がして、見ると3歳になったばかりの息子がバイキンマンの形のペロペロチョコを持って小躍りしている。

おう、そうか、そうか。これから君はそいつを思いっきりペロペロするんだな……。

なあ、バイキンマン。君は「バイキンがついているから手を洗いなさい」と普段から口すっぱく言っている親たちの気持ちを考えたことがあるかい。バイキンマン形の食べ物なんて作っちゃいけないと思わないかい。

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PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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