インタビュー

「自虐もしないし、茶化されたくもない」 松坂桃李、賀来賢人が演じる「あの頃。」「死にたい夜にかぎって」 原作者対談

先日のアカデミー賞で4冠を得たポン・ジュノ監督は「最も個人的なことが最もクリエーティブなことだ」というマーティン・スコセッシの言葉を引用した。

オスカーを引き合いに出すといささか大仰だが、日本でも非常に「個人的な」二つの作品が話題になっている。

ミュージシャン、漫画家の肩書を持ち、またエッセイストの犬山紙子の夫としても知られる劔樹人が、ハロー!プロジェクトのアイドルたちに捧げた青春を描いた漫画『あの頃。 男子かしまし物語』。

作家の爪切男が、出会ってきた最愛の女性たちとのエピソードをつづった小説『死にたい夜にかぎって』。

発表時期も連載媒体も異なる二つの作品だが、偶然にも同じ時期に映像化が発表され、劔役を松坂桃李が、爪役を賀来賢人が演じることが話題になっている。

苦しさや切なさをともなって思い返される自分の人生の断片を作品化し、評価され、映像化され、自分の役を華々しい俳優が演じる。自分の過去が自分自身から離れ、一人歩きしていく感覚は一体どのようなものなのだろうか。

顔が変わったくらいで本質が届かないんならダメですよね

 最近、松坂さんが僕に見えてきました。松坂さんは僕をよく研究してくれています。撮影現場の人は「松坂さんに劔さんが降りてきてます!顔と身長以外は一緒です!」って(笑)。今はこの状況がなじんできたので、松坂さんが自分のように見えてきたのですが、1年前にプロデューサーから「(主演は)松坂くんに決まった」と言われた時は「松坂くん? 松坂大輔? 松坂季実子さんかな?」って。正直、どの松坂なのか戸惑いました(笑)。

劔樹人さん

劔樹人さん

 今日、撮影現場の見学に行ってきたんですけど、そりゃあ見た目は別物にならざるを得ないです(笑)。でも原作にビジュアルだけ寄せた映像化なんてつまらないし、賀来さんだからこそ、ドラマだからこそ、最高の別物としての『死にたい夜にかぎって』になると思います。それに別物といっても、原作とドラマの根底にある大切なものは変わりません。賀来さんと制作陣はそこを理解してくれてますから安心です。でも実は、まだ何にも配役が決まっていない時にはハリウッドザコシショウさんを主役なんてどうかなって思ってました。体のフォルムを寄せて(笑)。今思えば安易でしたね。賀来さんが受けてくれて本当に良かった(笑)。

ドラマ版『死にたい夜にかぎって』の配役が発表された時、一部の原作ファンから戸惑いの声が上がったという。例えば、主人公の初体験相手である車椅子の女性ミキは安達祐実がキャスティングされたが、作中だとプロレスラーの冬木弘道にそっくりだと書かれている。作品の雰囲気が壊れてしまうのではという意見が寄せられた。

 キャスティングが発表された時に「安達祐実さんに特殊メイクをさせたら?」って言ってた人がいるんですけど。仮に冬木の見た目じゃないと、観(み)た人の心が震えないのなら、それは僕の文章表現力が足りてないってことなんです。顔が変わったくらいで、あの話に込めた僕の思いが届かなくなるんじゃダメですよね。でも特殊メイクって言った人も、そう言いたくなるぐらい私の作品に思い入れを持ってくださっていることですから感謝しています。

爪切男さん

爪切男さん

劔 僕もこのエピソードが大好きです。初体験のシーンでミキさんにエメラルド・フロウジョンをくらわせる箇所は爆笑したし(笑)。でも、冬木似の車椅子の女性の容姿を笑いものにする話では全くないですよね。彼女のチャーミングさがちゃんと文章の中で伝わるっていうのが大事なことなので。爪さんの文章はそういうところがきれいで、とても良いなと思います。

書くことで自分の人生を肯定できた

自分の人生を描いた作品ではあるが、二人ともそれを「自伝」と呼ばれることに違和感を覚えるという。自伝と言うと、さも何か成し遂げた偉人にでもなったようで気恥ずかしい。それよりももっと素朴な、自分が生きてきた「記録」。他人に読まれることも、ましてや映画やドラマになるなど考えもせずに書いた。

爪 この本は自分のために書いた本なので、「誰かに感動してほしい」なんて考えていませんでした。ただ、自分が経験した女性との悲喜こもごもの話をすべて素敵な思い出として記録したかったんです。この本を無事に書き終えたことで、自分の今までの人生を全肯定することができました。たまに「私も何か文章を書きたいんです!」っていう人からの相談を受けるんですけど、まず自分のことを書いた方がいいですね。書いているうちに自分で自分のことがよく分かってきますし。

 僕は面白かったのに忘れていることを思い出すためでしょうか。書くにあたってmixiとかも調べました。色々思い出したことであの時の記録になって良かったです。作品の中で自分は狂言回しというか、群像劇に近いので、周りの面白い友人を紹介したっていう感覚です。爪さんの話も出てくる人が魅力的ですよね。

「自虐もしないし、茶化されたくもない」 松坂桃李、賀来賢人が演じる「あの頃。」「死にたい夜にかぎって」 原作者対談

確かに両作品とも、主人公の周りに魅力的な人物が次々に登場し、くだらないことから深刻なことまで様々な出来事が巻き起こる。それをいとおしむ主人公の目線を通して、読者は個人的な内容である作品に入り込むことができる。自我が強すぎる作品ではこうはいかないだろう。

もう一つの魅力として、「何かを好きでいること」の切実さがある。ハロー!プロジェクトのアイドルを真っすぐに応援すること。愛する女性に振り回されても支えること。もんもんとした生活の中でその誠実さが滑稽なほどに美しい。

劔 映画化されることで、僕はとにかくハロプロ(ハロー!プロジェクトの略)の良さが広まってほしい。面白い友達の話をしながら、言いたいことは「ハロプロっていいぜ」っていうことだけです(笑)。

爪 劔さんのこの「好き」っていう気持ちは大事ですよね。ハロプロに限らず、何かを好きでいることの大切さというか。批判したり嫌いになるのは簡単だけど、何かを好きでい続けることの素晴らしさも忘れないでほしい。最近って、きつい言葉だらけの批判を書く人をよく目にするけど、もっと愛ある批判の言葉が溢れてほしいなって思います。そのためにはまず何かを好きにならないと愛は生まれないですよね。

広告が取れるならいいじゃないか!

ドラマ『死にたい夜にかぎって』は2月23日からMBS、25日からTBSにて放送開始、映画『あの頃。』は2021年公開に向けて目下撮影中。自分の人生を描いた作品が他人の手によって再構成され、より幅広い人の目に触れていく。劔樹人の「個人的な」漫画、爪切男の「個人的な」小説だったものが徐々に普遍的な物語になっていく。その過程では、もはや「誰が演じているか」は問題ではない。

「自虐もしないし、茶化されたくもない」 松坂桃李、賀来賢人が演じる「あの頃。」「死にたい夜にかぎって」 原作者対談

爪 賀来さんが作り上げてくれた新しい主人公像を観るのが今から楽しみです。ドラマでしかできない表現も沢山ありそうなので。あと今日聞いた話では、主人公の学生時代を演じる青木柚さんのほっぺたが、学校のマドンナ役の玉城ティナさんのある行為で腫れ上がっちゃったそうです(笑)。自分の書いた話が原因で誰かが大変な目に遭うなんてことが初めてで、本当に申し訳ないなと思いつつも、なんだか面白くもありって感じです。

 僕は今撮ってても公開は来年なんで、完成する頃には全部忘れてるかもしれない(笑)。でも監督も脚本も僕の言いたいことにフォーカスしてくれてるんで、信頼してます。松坂さんと僕は顔と身長が違うってだけです(笑)。

僕も今まで自虐で生きてきたんですけど、決していいものではないなと意識が変わってきています。今もやってしまったんですけど、あえてここで松坂さんに関して自虐的になるのはやめようと思ってます。我々のような人間をイケメンが演じるっていうのが続いてますけど、卑屈になりたくないし、茶化されたくないです。「広告が取れるならいいじゃないか!」と。

――イケメンにやらせてやってる、という感じですか?

 そこまでは言ってないです!

(文・張江浩司 編集/写真・林紗記 )

プロフィール

劔樹人(つるぎ・みきと)

バンド「神聖かまってちゃん」のマネジャーを経て、ベーシスト、漫画家、コラムニスト、主夫など多彩に活躍。著書に『あの頃。 男子かしまし物語』(イースト・プレス)、『今日も妻のくつ下は、片方ない。』(双葉社)、『高校生のブルース』(太田出版)。「小説推理」「MEETIA」などで連載中。

爪切男(つめ・きりお)

作家。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!誌面にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』、集英社webサイトよみタイにて『クラスメイトの女子、全員好きでした』を連載中。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も書籍化予定。

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