哲学の教室

「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談

アイドルグループを卒業後、タレント・俳優・YouTubeなど、幅広いフィールドで活躍を続ける市川美織さん。ただ、自由奔放に見える本人は、「どんなキャラでこれから仕事をしていけばいいか」悩んでいると言います。その市川さんの悩みを解決するべく、昨年11月に『哲学の世界へようこそ。』(ポプラ社)を刊行した哲学者・岡本裕一朗教授が講師となって、「個性」についての講義をおこなう特集が始まります。

最初のテーマは「キャラクター」について。市川さんに限らず、私たちは職場や学校で役割を求められ、それに沿ったキャラクター付けをされることになります。天然キャラ、盛り上げキャラetc. ……。つまり、キャラクターは有名人の手から離れ、私たちの身近なトピックになったのです。では、キャラとはそもそも何か。岡本教授による「個性」についての講義、1限目の始まりです。

 

 

個人の「性質」から「演技」へと意味を変えたキャラという言葉

「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談

岡本裕一朗(岡本) 今日の講義は市川さんから事前にもらっている「個性」の悩みについて、答えていくことになります。市川さんは芸能人で、この記事を読んでいる読者のみなさんは「自分とは違う」と考える人もいるかもしれません。しかし、根底でつながっているのです。それではまず、最初のお悩みから。

「『レモンになりたい』というキャラクターのインパクトが強すぎて、よく不思議ちゃんと言われます。でも、正直自分は平凡でつまらない人間。不思議ちゃんでもないですし、どうしたら面白い人になれるのかを常に考えています。それがキャラを作るってことなのでしょうか?」

つまり、キャラクターについての悩みですね。

「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談

市川美織(以下、市川) 仕事柄、ほかの人よりも目立たないといけないから、「個性的である」ということはとても大切だと思っています。でも、そうやってタレントの市川美織として活動していると、どうしてもキャラとしての自分と、本当の自分とのギャップが気になってしまいます。

岡本 かつて「キャラクター」という言葉は、その人の変えられない性質を指していました。市川さんの言うような「本当の自分」のようなイメージですね。でも次第に、タレントや芸人さんに対して「キャラが立つ」というような使い方がされ始め、今ではその人の性格というよりも、「意図的な演技」を指すようになりました。

市川 なるほど、意図的にキャラを演じるんですね

岡本 これは別にテレビの中だけの話ではなくて、どんどん一般化していきます。学校や職場など、さまざまな人間関係が絡んだ場所でも起こっている。平凡な人間だと魅力的と思われないので、何らかのキャラを作らなければなりませんからね。

「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談

幸か不幸か、ネット時代と親和性がとても高く、そのため、「キャラを作らなければ」という切迫した状況にもなってきた。芸人さんが「何キャラだ」という発想でトークをしていたことが一般的になった、というのが今の時代です。

キャラクターは「つかみ」になりますからね。ただ、当然良いことばかりではなく、悪く作用することもあります。そのキャラクターのせいで悪口を言われたり、たたかれたりしやすくなったりね。

市川さんのような芸能界の方だと、分かりやすいキャラがあれば(メディアに)取り上げられやすい、ということもあると思います。タレントさんに限らず、大きな集団の一員の場合には、目立たないと埋もれてしまう。だからキャラを作る。ここは共感される方も多いのではないでしょうか。

市川 私の場合は、以前アイドルグループに所属していて、みんなと同じことをしていてはいけない、という危機感から生まれたのが「レモン」のキャラです。でも実際の私は、すごく平凡でつまらない人間なんです。

「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談

いろいろなところで「レモンになりたい」と言っているんですけど、そうすると不思議ちゃん扱いされることも多くなるし、「面白いキャラだね」って言われるんです。でも、私ってそんなに面白い人間じゃないしなあ、って葛藤の日々で。

岡本 そのキャラがうまくいかされているのであれば、あくまで演技のひとつですから、深く思い悩む必要もないのでは? キャラクターというのは演技であり、遊びのようなものですから

市川 遊び……キャラクターは遊び、というのは、本当にそうかもしれません。私はもちろん、もともとレモン自体好きでしたけど、レモンになりたいって普通に考えたらありえない話じゃないですか。

でも、それを本気で信じてみたらどうなるんだろう、みたいなワクワクした気持ちがありました。遊びの要素は確かにあったと思います。

キャラクターは悪口から逃れられない?

「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談

岡本 キャラクターの負の側面で真っ先にあがるのが、SNSなどで攻撃されやすいという点だと思います。キャラがあるということは、普通の人と比べて落差をつける、ということでもありますから。

そうやって、一般的な価値観や言動からずれればずれるほど、当然、他者との軋轢(あつれき)や対立は生まれてしまう。ここは、そういうものだと思って引き受けるしかない。

市川 うーん……でも、私みたいなタレントだったら悪口も話題作りになるかもしれないですけど、たとえば学生や会社員だったらそんなリスク背負って、キャラクターを立てる必要ってあるのかな、って思っちゃいます。

岡本 そこは難しい問題ですね。キャラクターが、いじめるときの有効手段のひとつとして働くのは事実です。愛されキャラのようにうまく利用することができることもあれば、ターゲットにするため、意図的にキャラづけをされることもある。

市川 たとえば先にいじめられないようなキャラを作っちゃうのはどうですか?

岡本 先んじて、意図的にキャラを作る方法はありますね。ただ、ここで重要なのは、基本的にキャラというのは他人から引き出されるものであるということです。

市川 自分で作るものじゃないんですか?

岡本 もちろん自分から作り上げる場合もありますが、その一方で、他人も同じようにあなたをキャラクターとして作り上げます。よく「私をこういうキャラで見て欲しくない」という人がいますが、他人の存在がある限り、それは無理なんですね。

人というのは、他人に何かの役割を負わせるかたちで、その人を理解しようとするものです。だから本人としては、そのことを引き受けながら、いかにうまく利用するか、という以外にはやりようがないんです。他者から引き出される自分もまた自分であり、そもそも他人の思惑をコントロールすることは不可能ですからね。

自分のイメージを変えるための処方箋(せん)

「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談

市川 それでは、一度染み付いたキャラを変えたいと思っても難しいんですか?

岡本 難しいですが、解決策はあります。一番良いのは、今とは違う、いろいろな環境で新しくキャラクターを作り、そこでの活動をだんだん大きくしていくという方法でしょうね。前のキャラがすっかり忘れられてしまうくらいに。

今いる場所で「私は実は、こんなキャラクターじゃないんですよ」と言ったところで、周囲の見方が変わるというのは期待できません。

市川 キャラを変えたいなら、まず場所を変えるところからなんですね。

岡本 キャラクターというのは、常に私たちにつきまとうものです。一回限りの浅い人間関係であればあまり意識せずに生きることができるかもしれないですが、深く人間関係を築いていく上で、私たちは無意識に演じてしまうし、勝手にキャラ付けもされてしまう。自分ではコントロールできないものだ、と諦めた方がいいと思います。

市川 なるほど・・・・・・。ちなみに、先生はキャラを作ったことはありますか?

岡本 作っていますよ。むしろ常に、意図的に作られたキャラクターを発信しているかもしれない。私の本の読者と会うと、よく「こんなに物腰が柔らかい人だとは思わなかった」と言われます(笑)。

もっと気性が荒くて、意地悪なことを言う人だと思われているみたいです。それも私が自らのキャラを意識して執筆しているからですね。

市川 じゃあ先生も、本の中のキャラとリアルのキャラは全然違うんですね。

岡本 そうですね。そして、「じゃあどっちが本当のあなたなんですか?」と言われても、僕自身にも分からなくなることがあるんですよ(笑)。

「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談

(文・園田もなか 写真・持田薫)

プロフィール

岡本裕一朗(おかもと・ゆういちろう)
1954年福岡県生まれ。玉川大学文学部名誉教授。九州大学大学院文学研究科哲学・倫理学専攻修了。博士(文学)。九州大学助手、玉川大学文学部教授を経て、2019年より現職。西洋の近現代哲学を専門とするが興味関心は幅広く、哲学とテクノロジーの領域横断的な研究をしている。『哲学の世界にようこそ。』(ポプラ社)、『世界を知るための哲学的思考実験』(朝日新聞出版)など、著書多数。

市川美織(いちかわ・みおり)
2010年にAKB48のメンバーとして活動開始。2014年にNMB48へ移籍。 2018年5月1日NMB48を卒業し48グループとしての活動を終了。 女優、バラエティ番組への出演、モデルをはじめアパレルとのコラボやYouTuberなど クリエーター方面でも活動中。 代表作に舞台「放課後戦記」(主演)、「こと〜築地寿司物語〜」、映画『放課後戦記』(2018年4月公開、初主演)など。 2014年3月「広島レモン大使」、2017年11月「久喜市くき親善大使」就任。PHOTOBOOK『なりたいの、わたし。』(ぶんか社)、ファースト写真集『PRIVATE』(玄光社)が発売中。 主演舞台「路地裏の優しい猫」(4月1日~5日東京芸術劇場シアターウエスト/5月9日~10日近鉄アート館)に出演。 

オフィシャルファンクラブ https://ichikawa-miori.jp/
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