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『Levius -レビウス-』CGスーパーバイザー 岩田健志が追求する「CG技術を生かした演出表現」

CGアニメで、これほどまでにキャラクターの表情が豊かな作品はあっただろうか――。

日本を代表するCGアニメーション制作会社ポリゴン・ピクチュアズ。2014年、『シドニアの騎士』を皮切りに、『BLAME!』『亜人』『GODZILLA』3部作など近年多くのCGアニメーションを手掛ける。新しい作品になればなるほど、そのCGアニメーションによる表現の豊かさには磨きがかかっている。

19年、同社がNetflixオリジナルアニメとして打ち出した『Levius -レビウス-(以下、Levius)』もまた、キャラクターの演技、機械の精密なCG表現に驚かされた作品だ。

『Levius』のCG表現において、大きな役割を担っているのがCGスーパーバイザーの岩田健志さんだ。『山賊の娘ローニャ』『亜人』なども担当した。

「CGに向かない表現がかなり多い」。岩田さんは『Levius』の原作を読んだとき、そう感じたという。

CGアニメーションの全作業工程を統括する「スーパーバイザー」

ポリゴン・ピクチュアズは、“分業体制”でアニメの制作をおこなっている。CGアニメーション制作には、モデリング(形状をつくる)、リギング(動かす仕組みをつくる)、アニメーション(動きをつくる)、ライティング(光をつくる)、コンポジット(つくった要素を合成する)など、さまざまな作業が発生する。“分業体制”とは、それらの作業ごとにチームをつくって進めるスタイルだ。各チームには作業を統括するスーパーバイザーが存在する。さらに、すべての作業工程を統括するのがCGスーパーバイザーの役割だ。

岩田さんは、『Levius』で脚本やシリーズ構成などの内容から、「どんな技術が必要なのか」を検討した。

「アニメ化のプロジェクトが決まって、原作を読んだとき、『面白い! でも大変そうだな』というのが率直な感想でした。人体と機械を融合させて戦う『機関拳闘』を軸にストーリーが展開され、蒸気の力で義手を動かす描写がたくさんあるのですが、無機的な要素を有機的にする、それをCGで表現するのは時間や手間がかかります」

『Levius -レビウス-』CGスーパーバイザー 岩田健志が追求する「CG技術を生かした演出表現」

CGスーパーバイザー 岩田健志さん

“分業体制”を導入し、徹底的な工程管理をしているのもポリゴン・ピクチュアズの特徴だ。実際に制作へ入る前に、作品のコンセプトを練って、約1分の試作映像をつくる。同社は、TVシリーズなどの長編作品の場合、一つの作品を完成させるのに約3年かけるそうだが、『Levius』では試作映像をつくるまでに約1年をかけている。

「出版社の方や原作者の中田春彌先生から『このクオリティーなら大丈夫』と判断していただいたうえで、本制作に取り組みます。CGアニメだからこそ、“アニメたりうる表現になるか”の確証を得ることが重要です。作品のことを一番よくわかっているのは当然中田先生なので、もし違うと言われた場合には、僕らは作り直す必要がある」

「制作期間中で特に緊張するタイミングですね(笑)。試作映像を見て、気に入っていただけたので、安心しました」

限られた時間の中で、最大限のこだわりを見せる

CG技術は日々進歩している。制作期間中に技術が進化することも往々にしてあるそうだ。ポリゴン・ピクチュアズでは、CG制作に使用するアプリケーションの開発を自社でおこなっている。中でも、CGアニメ制作において重要な『シェーダー(最終的な見た目にする技術)』については、約6年開発し続けているという。

「私がポリゴン・ピクチュアズに所属して初めてつくったアニメシリーズが『山賊の娘ローニャ』という作品です。当時はいまほどシェーダーが成熟しておらず、例えば、手描きのような影や実線を描画できなかった。いまではそれが可能になり、線の“入り抜き(一本の線を引くときの描き始めと描き終わりのこと)”の調整も、自然に影をつけることもできる。さらに、カメラの距離に応じて線の太さを調整するといったニッチな機能まで備わっています。制作現場で活躍する人たちが持つ知識をシェーダーに落とし込んでいるんです」

技術が進化すれば、制作が少しずつ楽になり、制作にかかる時間も減るのではないかと思いきや、意外にも変化はないそう。どの作業工程も約1カ月の時間を要するため、1話つくるのに数カ月かかるのだ。『Levius』の場合、12話分の制作が必要だった。約3年間でつくり上げたのは、むしろ早いように感じる。

「映画でもアニメでも、作品づくりにおいては期限と予算があります。制作時間が長くなれば管理コストが高まり、純粋に制作にかけられる時間や予算が減る。だからこそ、僕たちは生産性を上げ、制作を進めることを意識して技術開発を進めています。時間があれば、よりクオリティーを上げることもできますから」

『Levius -レビウス-』CGスーパーバイザー 岩田健志が追求する「CG技術を生かした演出表現」

リアルから紡ぐ、フィクションの表現

『Levius』では、“演技の質”と“リアルなボクシングシーン”に注力したという。

「登場人物たちに過剰な演技をさせず、自然な演技をさせるよう意識しました。表情や身ぶり手ぶりをオーバーにしなくても、目だけで感情を伝えられることはとても多い。そのため、深層心理から出た表情や動きを心掛けました。特に顔に関しては、できない表情はないくらいギミックを仕込んでいます」

本作の主人公レビウスは、感情を表にあまり出さないキャラクターだが、レビウスのトレーナーであるザックスや、ライバルのナタリアなど喜怒哀楽の感情が豊かなキャラクターもいる。キャラクターの性格によって表情の変化が感じられるのも、顔にちりばめられたギミックの賜物(たまもの)だろう。

「“哀”の感情一つとっても、自分と縁もゆかりもない人の悲劇と、自分や自分に近しい人の悲劇では、“哀しい”の表現が違います。いま感じている感情がどこからわき上がっているのかを考えて描くことが重要です。一方で、リアルにし過ぎるとアニメの記号的誇張表現と一致しなくなるので、どのような感情で描くべきなのかの判断がとても難しかったです」

「レビウス」場面

(C) 中田春彌/集英社 ポリゴン・ピクチュアズ

演技を追求するため、岩田さんたちスタッフは、深層心理について学習するとともに、実際にプロボクサーへのヒアリングもおこなった。

「想像だけでは表現に限界があります。残念なことに制作スタッフの中にボクシング経験者がいませんでした。そんな私たちが『ボクシングってこうでしょ!』と感覚的に表現しても、リアルなシーンにはなりません。プロボクサーの方がどんな感情で、どう動いているのか話を聞いて核心に迫りました」

「例えば、ボクサーの人はパンチが見えるという話をよく耳にしますけど、実際は全く見えてないらしいです。『人間の反射神経じゃ無理ですね』と言われました(笑)。ただ、どこにパンチが来るかの予想はできる。予想の精度が高いだけなんだそうです。演出としてパンチが見えるような画面をつくるのか、パンチが見えると信じ込んで画面をつくるのかで、だいぶ違う。リアルとフィクションをうまく選別することがアニメには重要だと思います」

人の想像を上回る技術を使いこなす

「CGを理解しているからこそ、CGを使いこなした演出をしていきたい」

CGスーパーバイザーでありながら、演出的な部分にも相当なこだわりを見せる岩田さん。実は、『Levius』の偶数話では演出も担当した。CG技術の進歩を身近に感じていたからこそ、よりCGで実現可能な表現を追求している。

「シンプルなものからフォトリアルな人間まで、CGで表現できます。さまざまな作品に携わって、CGの使い方がわかってきたいま、考えなければならないのは、“CGをどういう形で世の中へ届けるか”だと思います。だからこそ、いろいろな作品に携わっていきたい。与えられた条件の中で、どうCGを使いこなしていくか考えて続けていきたいです」

いまは多くの人へ感動を届ける一つのツールにCGがあるが、今後は「人の想像の範疇(はんちゅう)を超えた表現が可能になるかもしれない」と岩田さんは話す。

「プロシージャル(※)、数式などのデータを用いて、新しい造形を創造することも、CGでは可能なんです。人が発想する場合、個人の経験則でしか表現は生み出せません。でも、プロシージャルをうまく生かせば、人が考えつかなかったおもしろい表現が発見できるかもしれない。そういった新しい表現をうまく使いこなして、CGでの作品づくりをしていきたいですね」

(編注:プロシージャル ソフトウェアが持つ自動生成的な機能のこと。同じ形を複製させることも、ランダムな形を作らせることもできる)

『Levius -レビウス-』CGスーパーバイザー 岩田健志が追求する「CG技術を生かした演出表現」

今後は「監督にも挑戦してみたい」と語る岩田さん。『Levius』でも、演出を深く考え、表現されたキャラクターの演技が見どころになっている。これからどんな新しいCG表現を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。

(文・阿部裕華、写真・林紗記)

プロフィール

『Levius -レビウス-』CGスーパーバイザー 岩田健志が追求する「CG技術を生かした演出表現」

岩田健志(いわた・たけし)

株式会社ポリゴン・ピクチュアズ CGスーパーバイザー

大学在籍中より株式会社スクウェア・エニックスに所属。CG技術を磨き、イグニス・イメージワークス株式会社にゼネラリストとして移籍。2011年、ポリゴン・ピクチュアズへ入社。CGスーパーバイザーとして『山賊の娘ローニャ』『亜人』を手掛ける。19年には、Netflixオリジナルアニメ『Levius』でCGスーパーバイザーだけでなく、偶数話の演出にも携わる。

『Levius -レビウス-』作品情報

『Levius -レビウス-』CGスーパーバイザー 岩田健志が追求する「CG技術を生かした演出表現」

Netflixオリジナルアニメシリーズ 全世界配信

<キャスト>

レビウス・クロムウェル:島﨑信長
ザックス・クロムウェル:諏訪部順一
ビル・ウェインバーグ:櫻井孝宏
ナタリア・ガーネット:佐倉綾音
マルコム・イーデン:大塚芳忠
ヒューゴ・ストラタス:小野大輔
謎の美少女:早見沙織
Dr.クラウン:宮野真守

<スタッフ>

原作:中田春彌(集英社 ヤングジャンプ コミックス・ウルトラ)
総監督:瀬下寛之
監督:井手恵介
シリーズ構成:瀬古浩司
脚本:猪原健太、瀬古浩司
プロダクションデザイン:田中直哉、Ferdinando Patulli
キャラクターデザイン:森山佑樹
ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
CGスーパーバイザー:岩田健志
美術監督:畠山佑貴
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
製作:ポリゴン・ピクチュアズ
(C) 中田春彌/集英社 ポリゴン・ピクチュアズ

アニメ「Levius」公式サイト

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PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエーターにお熱。

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