哲学の教室

「努力して練習する姿を見せたくない」と語る市川美織さんに、岡本裕一朗教授が送ったアドバイスとは

アイドルグループを卒業後、タレント・俳優・YouTuberなど、幅広いフィールドで活躍を続ける市川美織さん。ただ、自由奔放に見える本人は、「どんなキャラでこれから仕事をしていけばいいか」悩んでいると言います。その市川さんの悩みに哲学者・岡本裕一朗教授はどう答えるのでしょうか。

3限目は、「他人に自分の努力を見せたくない」という市川さんのモヤモヤから、SNSでの発信で「他人に見せるべき自分がない」という話にまで及びます。自身の個性や生活を発信することは、“〇〇映え”という言葉の浸透とともに、芸能人に限らず、一般化してきました。そんな中で、フォロワーの減少に悩む市川さんのモヤモヤは、解決するのでしょうか。

【関連記事】
>>1限目 「キャラクター」って何?
>>2限目 「本当の自分」って何?

頑張っている姿を他人に見せたくない自分がいる

「努力して練習する姿を見せたくない」と語る市川美織さんに、岡本裕一朗教授が送ったアドバイスとは

市川美織(以下、市川) SNSでの「私こんなに頑張っています」という投稿を見るのが苦手なんです。練習するのも頑張るのも当たり前じゃないですか。それをなぜ人に見せなければいけないのかというところが、とにかく受け付けなくて。

私は親にも隠れて練習をしていたので、今回、「人に相談することがあまりありません、練習や苦悩を人に見せるのが嫌いです」という悩みをお話ししようと思ったんです。自分が見られたくない姿を見られてキャラ付けされるのは、やっぱり嫌じゃないですか。

岡本裕一朗(以下、岡本) いつ頃からそう思い始めたんですか?

市川 うーん、芸能界に入ってからですね。たとえば、レッスンで私だけうまくいかなくて、たくさんの人の前で練習させられることも多かったんです。それで、どんどん恥ずかしくなってしまって。そうならないために、裏ですごく努力するようになったけど、そういう姿自体、誰にも見られたくないから隠すようになりました。

岡本 それはすごくまともな考え方だと思いますよ。世の中、市川さんのように努力を見せない強者を演じる人がいるとしたら、「私はこれだけ努力しました」と弱者を演じる人もいます。結構、狡猾(こうかつ)な人ですね(笑)。

どちらであっても、違いはその人の美意識であって、どちらが良いという問題ではありません。それで損をしたり、自分が苦しくなってしまったら、少し考え直してみることも良いかもしれませんけど。

「努力して練習する姿を見せたくない」と語る市川美織さんに、岡本裕一朗教授が送ったアドバイスとは

市川 そもそも努力が何なのか、分からないんです。

岡本 私の大嫌いな言葉に、「根性」「努力」があります(笑)。努力して文章を書きましたってかっこわるいでしょ? 自分の美意識ですが、アウトプットをスッキリと見せるために、その裏で何をしてきたかなんて見せませんよ(笑)。すべては結果で評価されると思います。

市川さんは「見せたくない自分」が原因で悩むことはありますか?

市川 プライベートがとにかく地味なので、SNSで発信することが少なくなってきてしまって……。休みの日も外に出ませんし、基本的にYouTubeを見ているだけなので、それを発信してもあまり意味がないですし、わざわざ写真を撮るためだけに外に出て映えるパンケーキを食べるのも私ではない、と思ってしまって。それで実は、昨年末から私のTwitterのフォロワーが千人単位で減ったんです。

岡本 それはずいぶんと減りましたね。もしかすると、フォロワーさんたちにその義務感が伝わってしまったのかもしれません。義務感でやっていると市川さん自身も面白くないでしょうし、楽しんでいることが見えるような発信でないと、見る人も楽しめないでしょうから。

市川 そうかもしれません……。どんどんフォロワーさんは減っていくんですけど、そのときは理由が全然分からなかったんです。私がTwitterをあまり更新できていないから、年末の大掃除の一環で外されちゃったのかな、と悩んでいました。

SNS専用のキャラクターを作ってみる

「努力して練習する姿を見せたくない」と語る市川美織さんに、岡本裕一朗教授が送ったアドバイスとは

岡本 1限目でもお話ししましたが、人は他者の演技を嫌がるのではなく、下手な演技を嫌がります。Twitter上での市川さんの投稿から「仕方ないからやっている」という気分が透けて見えてきてしまうことで、見ている人たちは面白がれなくなってしまったのかもしれませんね。

もちろん、市川さんだからどんな投稿でも見たいというファンはいるでしょうし、別に今のままでも十分に知名度があるのですから、焦って頑張らないといけない、ということはないでしょう? 

ちょっと意地悪な言い方をすれば、市川さんが今そうやって悩んでいるのは、無名でとにかく誰かに知ってもらわないといけないような切羽詰まった人ではないから、ということでもあります。

市川 でも、やっぱりフォロワーが減っていくのはすごく悲しかったし、もっと頑張りたいなって気持ちもあるんですよね。

岡本 市川さんは普段、Twitterでどういうことをつぶやいているんですか?

市川 基本的には自撮りですね。Twitterは自撮り、Instagramは他撮りで使い分けています。

岡本 どちらも市川さんの写真なんですね。

市川 そうですね・・・・・・だからいけないのかな。

岡本 SNSごとに多様性をもたせることは、他者の関心を引く上で大切なことだと思いますよ。タレントの市川美織さんはひとりしかいないけど、場所によって少しずつ見せる顔が違うほうが、より興味を持ってもらえるかもしれない。

市川 もう割り切ってSNS専用のキャラクターを作った方がいいんですかね?

「努力して練習する姿を見せたくない」と語る市川美織さんに、岡本裕一朗教授が送ったアドバイスとは

岡本 それは良いと思います。自ら意図的にキャラクターを作り発信し、その都度フォロワーの反応を見る。ただただ投稿するのではなく、実験的にやることで、ご自身もモチベーションにつながって本当に楽しいと思えるかもしれない。

もしかしたら、その過程で炎上をしてしまうこともあるかもしれないけど、SNS上で個性を発揮する以上はそのリスクは避けられません。キャラが立つことで他者との軋轢(あつれき)が生まれやすくなる、というのはインターネットの世界でも変わりませんからね。

市川 リスクはキャラが立てば立つほど出てきますよね。でも2020年のSNSは、いろいろなことを試す意味でも、どんどん新しいことに挑戦してみようと思います!

(文・園田もなか 写真・持田薫)

プロフィール

岡本裕一朗(おかもと・ゆういちろう)
1954年福岡県生まれ。玉川大学文学部名誉教授。九州大学大学院文学研究科哲学・倫理学専攻修了。博士(文学)。九州大学助手、玉川大学文学部教授を経て、2019年より現職。西洋の近現代哲学を専門とするが興味関心は幅広く、哲学とテクノロジーの領域横断的な研究をしている。『哲学の世界にようこそ。』(ポプラ社)、『世界を知るための哲学的思考実験』(朝日新聞出版)など、著書多数。

市川美織(いちかわ・みおり)
2010年にAKB48のメンバーとして活動開始。2014年にNMB48へ移籍。 2018年5月1日NMB48を卒業し48グループとしての活動を終了。 女優、バラエティ番組への出演、モデルをはじめアパレルとのコラボやYouTuberなど クリエーター方面でも活動中。 代表作に舞台「放課後戦記」(主演)、「こと〜築地寿司物語〜」、映画『放課後戦記』(2018年4月公開、初主演)など。 2014年3月「広島レモン大使」、2017年11月「久喜市くき親善大使」就任。PHOTOBOOK『なりたいの、わたし。』(ぶんか社)、ファースト写真集『PRIVATE』(玄光社)が発売中。 主演舞台「路地裏の優しい猫」(4月1日~5日東京芸術劇場シアターウエスト/5月9日~10日近鉄アート館)に出演。

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