インタビュー

クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力

当人にとっては宝物でも他人にはただのガラクタ。逆に二束三文のガラクタと思っていた骨董(こっとう)に目が飛び出るような高値がつく――。人気TV番組「開運!なんでも鑑定団」では、いつも主観的価値と客観的価値、つまり価格はなかなか一致しない。

あなたはふだん「価値」というものをどう判断しているだろうか? それがホンモノなのかニセモノなのか、どうやって見極めているだろうか? 2月28日から公開される映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』は、そんな「本当の価値」や「真偽」をめぐる物語だ。

家族を犠牲にして仕事に生きる小さな画廊の年老いたオーナーが、引退間際に署名のない一枚の肖像画に出会う。彼はその絵を紛れもない「名画」と見抜くが、周囲はその審美眼を信じない。

この映画のテーマに深く共感したのが、クリスティーズジャパン社長の山口桂さんだ。クリスティーズは言わずと知れた、サザビーズと並ぶ世界2大オークション会社の一つ。その日本法人のトップに2018年に就任した。日本・東洋美術のスペシャリストとして、日本に戻るまでの17年間、ニューヨークを拠点に世界中のコレクターと人脈を築いてきた。

山口さん流の「ホンモノの見抜き方」を聞いた。

クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力

(TOP画像:『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか順次公開 © Mamocita 2018)

オークションの世界で「本物」を見る

「本物」を見極める世界に触れる大きな機会が、オークションだ。オンラインと違い、実際のオークション会場は、値が決まっていく過程がショーのようで、大きな金額が飛び交うエキサイティングな場所だ。美術の世界では、昨今はコンテンポラリーアートが盛況という。

クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力

2019年5月にクリスティーズニューヨークで行われた際にジェフ・クーンズの作品が存命作家で最高額の約100億円で落札された時のオークション風景 © Christie’s Images Limited 2020

「予想落札価格が1万から1万5千ドルと書いてあったのに、結果を見たらなんと5万ドルになっていたり、まったく売れなかったり。実際に値段が決まっていく過程が見られる体験は、他にはない面白い経験になると思います」

クリスティーズは日本ではオークションを開いていないが、香港、ニューヨーク、ロンドンを中心に、年に350回ほど開催していて、オンラインでも参加できる。

山口さんは「実際に買わなくていいので、ちょっと欲しいなと思った作品に注目してください」と勧める。作品の詳細情報と予想落札価格がWebサイトに公開されているので、それを事前に確認しておき、さらには全品が展示される下見会に足を運んで、自分の目で作品を見たうえで、オークションを見学する。そうした事前準備を経ることで、さらに目を肥やす経験を磨けるという。

価値を見極める審美眼の磨き方

アートのスペシャリストとして四半世紀を過ごしてきた山口さんは、「ものの値段はその時々のトレンドやマーケットによって変化しているので、価値と価格は常に一致するものではない。でも、最終的には良い物には高い値がつく。つまり、価格は価値についてくるものです」と語る。

例えば、オークションの世界ではどうしても手に入れたい参加者が2人いれば、当然ながら価格はどこまでもつり上がる。例えば山口さんが100万円と鑑定したものが、1500万円で落札されることもある。だが、落札した人がそれを売ろうとした場合、大抵は100万円程度の値に落ち着くという。

山口さんのアタマの中には、絵画でも工芸品でも、その分野の最高の品と値段の表がインプットされている。どうやってその審美眼を磨いたのか。

クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力

「本当に良いものだけを常日ごろから見るようにする。それに尽きると思います。良いものと悪いものを見極める目をつくるためには、自分の人生のすべての場面で、質の高い物に触れることが大切です」

「例えばおいしい物を食べ続けると、味覚も肥えてきますよね。僕はB級グルメが大好きなのですが、A級グルメを一回でも食べてみないと、B級の価値も分からないのです。A級も食べると『ああ、やっぱりA級ってすごいな!』と思うのと同時に、B級グルメにはまた違った良さがあることにも気づける。

A級食わず嫌いもB級食わず嫌いもよくなくて、両方経験することが必要です。そうすると、たとえばB級グルメの中にもさらなる良しあしがあることが分かり、見極める『目』が養われていきます」

山口流「本当に価値あるもの」とは

一流を追い求めていくことで、目が肥え、舌が肥え、さらには「人が肥える」と山口さんは言う。そして、人が肥えることで、その人にしか味わえない「本当に価値あるもの」に気づくことができる、と。では、「本当に価値あるもの」とは何だろうか。

クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力

© Mamocita 2018

「これまで話してきたことをすべてひっくり返すようですが、それは、『揺り動かされるほど好き』という気持ちです」

山口さんは、今回の映画の中で、主人公の老美術商がオークションハウスの下見会場で、肖像画をひと目見てほれ込むシーンに深く感動し、自分の「原点」を思い出したという。「原点」というのは、『揺り動かされるほど好き』という気持ちだ。

「長く経験を積んで良いものを見て、知識を身につければ、一流の品かどうかは見極められます。でも、一番大切なことは、本当に絵画が好きで、揺り動かされる心を持っていることです」

(文・&w編集部 幸積彩)

山口桂(やまぐち・かつら)

1963年東京生まれ。立教大学出身。1992年にクリスティーズに入社し、日本・東洋美術のスペシャリストとして活動。2017年の藤田美術館のコレクションセールをはじめ、日本美術作品としていまなお史上最高額である2008年の伝運慶の仏像など、東洋美術部門の分野で多くの実績を残している。2018年より日本法人であるクリスティーズジャパンの代表取締役社長に就任。江戸時代の絵師、伊藤若冲らの作品を含む約190点の貴重な日本美術を、米国のエツコ&ジョー・プライス夫妻のコレクションから、出光美術館(東京・丸の内)が購入したが、その仲介を担った。

映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』

クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力

『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』© Mamocita 2018

2020年2月28日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか順次公開

監督:クラウス・ハロ 脚本:アナ・ヘイナマー
出演:ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス、ステファン・サウク
英題:ONE LAST DEAL
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
2018年/フィンランド/シネマスコープ/95分/DCP5.1ch/フィンランド語・スウェーデン語・英語
© Mamocita 2018
公式HP:lastdeal-movie.com/

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