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デジモンが愛され続ける理由は、制作者のこだわりにある――。デジモンキャラクターデザイナー渡辺けんじ

愛され続けるキャラクターには、どんな共通点があるのだろうか。

1999年にスタートしたアニメ『デジモンアドベンチャー』。『たまごっち』の男の子版として発売された携帯育成ゲーム『デジタルモンスター』のアニメは、20年以上愛され続けている。20周年という節目を迎え、2020年2月には映画『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆(以下、ラスエボ)』が公開された。これほど長く愛される作品となったのは、物語や登場人物たちはもちろん、モンスターたちの魅力によるところが大きいのではないだろうか。

デザイナーの渡辺けんじさんは、20年以上デジモンキャラクターのデザインを手掛けてきた。映画『ラスエボ』では、新しいデジモンが次々と登場する。その中には予想もしなかったデジモンも登場する。その演出でも、渡辺さんは重要な役割を担っていた。

長年『デジモン』シリーズに携わる中で、映画の脚本の打ち合わせ段階から参加したのは今回が初めてという渡辺さん。制作過程を振り返り「20年やってきて初めて認められた気がする」と笑いながら話した。

初代・世代スタッフが集結した“原点回帰”の作品

『ラスエボ』は、これまで『デジモン』シリーズを“支えてきた”スタッフと、子どものころ『デジモン』シリーズを“見てきた”スタッフが集結し生み出された。

「テレビシリーズの初代プロデューサーだった関(弘美)さん、脚本の大和屋(暁)さん、キャラクターデザインの中鶴(勝祥)さんは本当にお久しぶりで。僕はそれなりに『デジモン』にはずっと関わってきていましたが、みなさんとようやくまた一緒に仕事しますね、という感じでした(笑)。そして、『デジモン』を見ていた世代の田口(智久)さんが監督を務めると。支えてきたスタッフ、見てきたスタッフが揃った“原点回帰”となる作品です」

“八神太一(主人公)たちの最後の物語”と謳(うた)われた本作。『デジモン』のアニメシリーズの中でも、かなり特別な作品となっている。本作では脚本の打ち合わせにも参加した渡辺さんは、プロットには描かれてなかった“とあるシーン”を提案したという。

「物語終盤に登場するアグモンとガブモンの新進化体は僕たち玩具開発サイドから提案しました。最初のプロットではオメガモンで終盤の戦いを締める案もあったのですが、オメガモンで終わらせたくないとプロデューサーにお願いして採用されたんです」

デジモンが愛され続ける理由は、制作者のこだわりにある――。デジモンキャラクターデザイナー渡辺けんじ

アグモンの新進化 ©本郷あきよし・東映アニメーション

ガブモンの新進化

ガブモンの新進化 ©本郷あきよし・東映アニメーション

「本作は“デジモンたちとの絆”がテーマです。これまでは太一とヤマトの絆でオメガモンが生まれていた。今回はそれぞれのパートナー同士(太一&アグモン、ヤマト&ガブモン)の絆の中で生まれる姿を描きたかった。そして、もう一つのテーマとして“太一、ヤマトが大人になる”があった。アグモンやガブモンが、太一やヤマトが大人になるということに呼応して成長する姿はどうなるのだろうと考えてデザインしていきました」

渡辺さんはストーリーに込められたメッセージを汲み取ってデジモンのキャラクターをデザインしている。自身の意見が採用されたことのうれしさを語るとともに、本作では初めてOPのクレジットに名前が載ったことを喜んだ。

「実は20年以上デジモンのデザインをしていますが、OPに僕の名前が入ったのは今回が初めてなんです。名前が入ろうが入らなかろうがデザインはしますけど(笑)、やっぱりうれしいものですね。20年デジモンを続けてきて、初めて認めてもらえた気がしました」

物語の必然性に応じてキャラクターを描く

『ラスエボ』では、ほかにも新しいデジモンが登場する。中でも「モルフォモン」は、“蝶”をモチーフにしている。監督からの提案だったというモルフォモン。渡辺さんは「かなりチャレンジングなキャラクターを提案してくるな、こいつ!」と思ったそうだ。

「デジモンの代表的なテーマソングに『Butter-Fly』があります。そのため、“蝶”は作品にとって重要な要素でもあって。本当に良いのかなと思いながらも、テーマに沿った形で自由に描いたら、かわいい! と監督も気に入ってくれて良かったです(笑)」

渡辺さんのデジモンキャラクターデザインは、「テーマに沿いつつも自由に描く」が特徴だ。例えば、本作で初登場する「エオスモン」はAIで構築された人工デジモンという設定。そのため、あえて幾何学的なイメージでデザインしたという。エオスモンの最終形態も登場するのだが、これも渡辺さんの案だ。物語の必然性に応じた提案が採用されている。

デジモンが愛され続ける理由は、制作者のこだわりにある――。デジモンキャラクターデザイナー渡辺けんじ

エオスモン ©本郷あきよし・東映アニメーション

「エオスモンの最終形態は、“救い”を感じられるようなキャラクターにしたかった。太一たちと戦うデジモンではあるものの、“戦わなければいけない敵ではない”から。どう表現すれば良いかと考えた結果、神々しい、蝶の女神として表現したいと、割としつこく監督に話しました(笑)」

「キャラクターデザインはただの一枚絵でしかない。キャラクターの設定づくりは僕の仕事ではないけど、物凄く細かい設定を提示されるわけではないので、その中でキャラクターのバックボーンを自分の中で補完して、物語には表現されない部分も考えて描いていきます」

身近に感じてもらえるようなキャラクターデザインを

これまで渡辺さんが手掛けた多くのデジモンたちは、さまざまなものから着想して創り出されている。その中でもデジモンデザインの軸となっているのが“アメコミ”だった。

「デジモンのデザインを頼まれた当時、かわいい系のキャラクターが流行していました。僕自身、それまでかわいいキャラクターの仕事をしていたこともあって、最初はかわいいキャラクターを描いたんです。そしたら、『それはほかのキャラクターと似すぎているからダメだ』と。とはいえ時間がなかったので、僕の好きなようにやらせてくださいと提案して進めていきました」

「デジモンは、かわいい系ではないけど子ども向けのキャラクター。どうしようかと考えたとき、当時はほとんどなかった子ども向けにアメコミのタッチを意識して描いてみたらどうかなと考えました。そして、男の子の好きそうな恐竜や動物など、実在する生き物をモチーフにしつつ、色はかなりパキッと見えるよう意識して、架空のモンスターに落とし込んでいきました」

(c) 本郷あきよし・東映アニメーション

©本郷あきよし・東映アニメーション

デジモンのデザインでは、「キャラクターを描く」意識ではなく「身近に感じるものを描く」意識をしているという。

「デジタルなモンスターではあるものの、そこに実在して、生きていることを感じてもらいたかった。だから、進化していくごとにメカっぽくなるけど、ロボットになり過ぎないように、生き物がメカをかぶっているように見せた。目の表現では、実際の動物の目のように、どこを向いてるのか分からない感じの表現にしました」

「キャラクターだからといって、自分たちとかけ離れた場所で存在していると思ってほしくないです。だから、みんなが好きなもの、身近に感じるものを参考にすることは多いです。また、デジモンのデザインにポケットやベルト、チャックが多いのは、僕はファッションが好きだからだけど(笑)、そうした身近なところにヒントがあるんですよね」

長く愛されるキャラクターの共通点は「シンプルさ」

渡辺さんはキャラクターをデザインをする上で、SNS上に上がっているイラストを参考にしているとも話した。いまの流行(はや)りのタッチや好まれるキャラクターを見ているという。時代の流れで変化する人気キャラクターを追うことで、自らデザインするキャラクターが古いものにならないよう意識しているのだ。

「昔のキャラクターは、それはそれでいいなと思うことはもちろんあります。だけど、古いと思うことも多い。このままずっと同じような描き方を続けていたらキャラクター自体が風化してしまうかもと、いま流行っている絵を参考にしながら少しずつ僕自身も描き方を変化させています」

「ただ、時代が進むにつれて作られるキャラクターの種類もかなり増えてきた。昔はできなかった表現ができるようになっていることもあります。例えば、アグモンやガブモンと比較するとモルフォモンは絵のタッチが違うと思われるかもしれない。昔は黒目がちな丸い目に、「ω」のような口の形にすると、ほかのキャラクターデザインとかぶるリスクがあった。いまは世の中にいろいろなキャラクターが増えたことで、そんなこともあまり言われなくなって、表現の自由度は上がりましたね」

モルフォモン

モルフォモン ©本郷あきよし・東映アニメーション

一方で、時代が変化しても愛され続けるキャラクターもいる。渡辺さんは「シンプルさ」がその共通点だと話してくれた。

「特徴が捉えやすい、誰が描いても何となく似るようなシルエットのキャラクターは愛され続けると思っています。描きやすさで、キャラクターを身近に感じられます。デジモンは描くのが少し難しいけど、何となく描いてもアグモンだって分かるんじゃないかな。だからデジモンは、黒く塗りつぶしてもどのキャラクターか分かるようなシルエットにしているつもりです」

“最後の物語”。だけど、終わりじゃない

デジモンの20年にわたる人気を支え続けたキャラクターデザインへのこだわり。そして、これまで以上に渡辺さんの思いが強く反映された新しいデジモンたちもまた、愛されていくに違いない。

「今回はより作品の中に入って、田口監督が望むものを一緒に表現した感覚があります。僕の提案もかなり取り入れていただきました。でもきっと、新しいデジモンを見て『なんだこれ』と言う人もいるんだろうな(笑)。最近は、すぐに良い評判も悪い評判も見えてくるから、毎回、新しいデジモンを世に出すたびに悩む。それでも、表現していくんですけどね」

新しく見たキャラクターの好き嫌いを、だれでも発信できる時代である。20年にわたってたくさんのファンがいる作品だけに、もしかしたら、中には批判的な意見もあるかもしれない。それでも、渡辺さんは『ラスエボ』で再びデザインを手掛けて「ほんとうによかった」と話す。

「まだまだ『デジモン』を続けたいと思いました。一区切りがつく物語とはいえ、本作は『デジモンアドベンチャー02』のラストにつながる話なので、ここで『デジモン』が終わりなわけではありません。太一&アグモン、ヤマト&ガブモンたちのその後を僕自身も見たい(笑)」

デジモンが愛され続ける理由は、制作者のこだわりにある――。デジモンキャラクターデザイナー渡辺けんじ

©本郷あきよし・東映アニメーション

「本作は、大人になる途中の太一たちが、その一瞬をどう生きていくか、デジモンたちとの絆をどうしていくか悩み葛藤する物語。メッセージがたくさん込められています。これまでは、少年少女たちがデジモンたちを先導していく姿が描かれていたけど、今回はデジモンたちが彼らの背中を押していて、意思を強く表に出している。デジモンたちから発せられるメッセージに注目して、彼らの絆を見届けてほしいなと思います」

新世代のデジモンたちにワクワクさせられると同時に、デジモン世代にとっては涙なしに見ることができない物語に仕上がっていた。終盤に発せられる、アグモン、ガブモンの言葉や表情に、ぜひ注目して見てほしい。

(文・阿部裕華、写真・&M編集部)

プロフィール

デジモンが愛され続ける理由は、制作者のこだわりにある――。デジモンキャラクターデザイナー渡辺けんじ

渡辺けんじ(わたなべ・けんじ)

「WOW FACTORY」代表。玩具企画会社「ウィズ」のチーフデザイナーとして、「デジモンシリーズ」のデジモンを生み出した。代表作品は、「たまごっち」「よいこっち」「マジカルウィッチーズ」、ドールと声優のバラエティ番組「ドーリィ☆バラエティ」の企画プロデュースなど。「レジェンズ 〜甦る竜王伝説 〜」では原作も務める。

『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』作品情報

デジモンが愛され続ける理由は、制作者のこだわりにある――。デジモンキャラクターデザイナー渡辺けんじ

<公開日>
2020年2月21日(金)

<スタッフ>
原案:本郷あきよし
監督:田口智久
脚本:大和屋 暁
スーパーバイザー:関 弘美
キャラクターデザイン:中鶴勝祥
デジモンキャラクターデザイン:渡辺けんじ
アニメーションキャラクターデザイン:立川聖治・熊谷哲矢・西野理恵・関崎高明
音楽:富貴晴美
総作画監督:立川聖治
プロップデザイン:吉田大洋
美術監督:岩瀬栄治
美術設定:大平 司
色彩設計:合田沙織
撮影監督:川田哲矢
編集:坪根健太郎
音響監督:飯田里樹
音響効果:古谷友二
録音:松田 悟
アニメーションプロデューサー:漆山 淳
オープニング曲:和田光司
挿入歌:宮﨑 歩
エンディング曲:AiM
アニメーション制作:ゆめ太カンパニー
配給・宣伝:東映
製作:東映アニメーション

<キャスト>
八神太一:花江夏樹
石田ヤマト:細谷佳正
武之内空:三森すずこ
泉光子郎:田村睦心
太刀川ミミ:吉田仁美
城戸丈:池田純矢
高石タケル:榎木淳弥
八神ヒカリ:M・A・O
アグモン:坂本千夏
ガブモン:山口眞弓
ピヨモン:重松花鳥
テントモン:櫻井孝宏
パルモン:山田きのこ
ゴマモン:竹内順子
パタモン:松本美和
テイルモン:徳光由禾
本宮大輔:片山福十郎
一乗寺賢:ランズベリー・アーサー
井ノ上京:朝井彩加
火田伊織:山谷祥生
ブイモン:野田順子
ワームモン:高橋直純
ホークモン:遠近孝一
アルマジモン:浦和めぐみ
井村京太郎:小野大輔
メノア・ベルッチ:松岡茉優

<ストーリー>
太一とアグモンたちが出会い、デジタルワールドを冒険した夏から10年以上が経過した2010年。世界中の“選ばれし子どもたち”は次第にその存在を認知され、現実世界にデジモンがいる風景も珍しくなくなっていた。太一は大学生となり、ヤマトたちもそれぞれ歩むべき道を見定め、自身の進路を進み始めていた。
そんな中、世界中の“選ばれし子どもたち”の周囲で、ある事件が起こり始める。デジモンを専門に研究する学者・メノアと井村によって、“エオスモン”と呼ばれるデジモンが原因だと分かり、早速解決に乗り出す太一たち。しかし、エオスモンとの戦いの中でアグモンたちの“進化”に異変が起こる。その様子を見たメノアは、太一たちに衝撃の事実を語る。

選ばれし子どもが大人になった時、パートナーデジモンはその姿を消してしまう――。

戦わなければ仲間を救えない、しかし、これ以上の進化はパートナーとの別れを早めていく事に。
“選ばれし子ども”が“大人”になる時、迫られる大きな選択。
変えられぬ宿命を前に、太一とアグモンの”絆”が導き出す、自分たちだけの答えとは? 

『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』公式サイト
『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』公式ツイッター

©本郷あきよし・東映アニメーション

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PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエーターにお熱。

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