インタビュー

「昭和グルーヴ」で追い求めるオリジナリティー 韓国人プロデューサー/DJ Night Tempoの挑戦

2月14日、東京ドームシティローラースケート場には20~30代を中心に幅広い年齢層の人々が集まり、思い思いに踊っていた。

「昭和グルーヴ」で追い求めるオリジナリティー 韓国人プロデューサー/DJ Night Tempoの挑戦

東京ドームローラースケートアリーナ公演『BaBe – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』リリース・パーティーの様子

スピーカーからは中森明菜や近藤真彦、美空ひばり、和田アキ子、果ては泰葉やBaBeの曲まで流れており、どの曲も現代のダンスミュージックの要素を加えてアレンジされている。

これらの曲を流しているのは、この日に34歳の誕生日を迎えたNight Tempo。

日本の80年代歌謡曲を現代にも通じるように(既存の曲を“フロア仕様”にアップデートすること)し、「昭和グルーヴ」と銘打って日本、韓国のみならずアメリカでも人気を博している新進気鋭の韓国人プロデューサー/DJだ。

距離や文化、そして時代のボーダーを飛び越えながら活動する彼の言葉には、今後、さまざまな情報の流入が加速していくであろう世界でフラットに生きていくためのヒントがあった。

【動画】韓国人プロデューサー/DJ Night Tempoの挑戦

最先端よりもオリジナリティを

「韓国にも同世代でシティポップ好きな人はいますが、共感できる人はあまりいません」

そう語るNight Tempo。日本の昭和文化を本質的に理解せず、パーティーで盛り上がるための音楽として消費したり、ファッション的なトレンドを追ったりする人たちには壁を感じてしまうという。

昭和歌謡に興味を持ったのは少年時代。貿易の仕事をしている父親から土産でもらったCDで日本の80年代の曲を知ったのがきっかけだ。

日本のオリジナルな文化に惹(ひ)かれた彼だが、ただ、僕は日本の文化を広めるために活動しているわけではなく、たまたま昭和の日本の音楽と出会い、好きになっただけだという。

「日本の音楽を広めようとしているのではなくて、たまたま昭和の日本の音楽が好きだからやっているだけです。例えば昭和歌謡のようなこういう音楽がイスタンブールにあるならイスタンブールのカルチャーを研究します。『韓国だから』『日本だから』ということに意味はありません」

「昭和グルーヴ」で追い求めるオリジナリティー 韓国人プロデューサー/DJ Night Tempoの挑戦

韓国は第二次大戦後の南北分断に端を発する複雑な政治的状況もあり、90年代までは文化的に低迷していたという背景がある。

「まず国を立て直すために新しいルールや社会の基盤を作ることが最重要で、余裕がなかったんだと思います。それに比べると当時の日本は余裕があって、音楽には日本独自のオリジナリティーもありました。色々な国から様々なジャンルの音楽を仕入れて、そこに日本の視点からアレンジを加えることでオリジナリティーを確立していったんだと思います」

韓国のヒップホップグループ、防弾少年団(ぼうだんしょうねんだん・BTS)がアメリカのビルボードアルバムチャートで1位を獲得した。社会問題や若者の心の葛藤を歌う様子が世界中の多くの人の共感を呼ぶなど、韓国の音楽カルチャーは現在世界の最先端にいる。しかしNight Tempoは海外での評価や成功よりも、自身が追求するオリジナリティーを獲得することを何よりも重要視している。

最初に日本の昭和歌謡に惹(ひ)かれたのも韓国の文化とは異なるオリジナリティーを感じたからだった。

「現在の韓国は海外の文化をいかに早く取り入れるかが重要になっています。よく『빨리 빨리(パリ パリ)』って言うんですけど『早く早く』っていう意味なんです。早く文化を仕入れて、取り入れる。世界的なシーンが変わるならいち早く反応してジャンルを変えていく。そういうスピード感は素晴らしいなと思う反面、物足りないとも感じます。流行のサイクルが早すぎて、オリジナリティーが生まれる前に次のジャンルに移行してしまっていると思うんです」

豊かな文化を追い求めるところに国家間の対立はない

周囲の目を気にもとめず、道無き道を一人で歩み続ける。揺るがぬ価値基準を持ち、他人の評価に惑わされずに生きていくことは、想像以上に難しいだろう。また、活動内容から日韓関係の緊張が向かい風になることも考えられる。

事実、日本のシティーポップはYouTubeをきっかけに海外のコアな音楽ファンの間で爆発的に流行し、韓国にもその波が訪れたが、日韓で経済問題が起きたことをきっかけにブームも下火に。シティーポップのイベントは自粛が相次ぎ、音楽に限らず日本製品の不買運動も起こった。

だが、Night Tempoはあくまでも飄々(ひょうひょう)としている。

「不買運動が起こったときも、自分の周りの日本の文化が好きな人たちは変わらず、日本製品を買ったり、音楽を聴いたりしていました。日本に旅行に行く人たちもたくさんいました。自分の生活をちゃんと送っている人には国同士の問題は重要ではありません」

「昭和グルーヴ」で追い求めるオリジナリティー 韓国人プロデューサー/DJ Night Tempoの挑戦

英文学者の吉田健一は「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくしてそれに執着することである」と書いたが、その通りなのかもしれない。文化的に豊かな暮らしを求めていれば、海を越えた友と仲良くすることはあっても、国家間の対立に引きずられて好きなことをみすみす手放すようなことはしないだろう。

昭和の音を使って自分の音楽を作りたい

アメリカ、日本、韓国をメインに活動するNight Tempo。映画館やレコードショップなどが多いアメリカは文化的な活動を最もやりやすいと感じるという。日本の場合は文化を楽しむスポットは多いが、アニメや漫画などジャンルが限られているように感じるという。その一方で、日本のアニメやカセットテープを愛する彼は将来的には活動拠点を日本に移すことも考えているという。

「最近は自分の仕事が日本で一番理解されるようになったと感じています。ただもう少し準備して、自分のヴィジョンを明確にしてからだなと思っています」

「昭和グルーヴ」で追い求めるオリジナリティー 韓国人プロデューサー/DJ Night Tempoの挑戦

Night Tempoは昭和歌謡に現代のエッセンスを注入し、ダンスフロアによみがえらせるのみならず、その向こうにあるオリジナリティーを模索し続けている。

「例えば細川たかしさんの『北酒場』は、日本の若者も知ってはいると思うんですけど、バラエティー番組などで流れる古い曲、面白い曲という認識だと思うんです。

これをリエディットしてクラブで流すと『かっこいいディスコハウスだ!』とリアクションしてもらえます。昔からある曲の良さを改めて引き出して、みんなに知らせることが自分の役割だと思っています。

でも、まだこれが完成形とは言えません。いつまでも昭和の音楽をエディットするのではなく、昭和の音を使って自分の音楽を作ることを目指していて、その過程でつかんだのが『昭和グルーヴ』。まだまだ勉強中ですけどね」

(文・張江浩司 編集/写真・林紗記 動画・吉野舞)

プロフィール

Night Tempo

80年代の昭和歌謡やディスコ・チューンを再構築し、現代のダンスフロアを沸かせる韓国人プロデューサー/DJ。2018年にミックス・テープ「Nighty Tape86’」をリリース。主に米国と日本を中心に活動。竹内まりやの「Plastic Love」をリエディットし、欧米でシティ・ポップ・ブームをネット中心に巻き起こした。19年にはFUJI ROCK FESTIVALにも出演。昭和のアーティストのカセットテープ・コレクターとしても知られている。

リリース情報

「昭和グルーヴ」で追い求めるオリジナリティー 韓国人プロデューサー/DJ Night Tempoの挑戦

BaBe – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ

収録内容

・ Give Me Up (Night Tempo Showa Groove Mix)

・ I Don’t Know (Night Tempo Showa Groove Mix)

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