渡辺早織のひみつの乾杯

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

お酒好きな俳優の渡辺早織が東京の隠れ家的居酒屋を巡る連載。おいしいお酒とおいしいご飯に心と体が満たされ、大切な人たちとまた一緒に訪れたくなる――。そんなほっこり温かなお店を紹介していきます。

◇◆◇

音楽を聞いて思わず体を揺らしてしまう心躍る瞬間があるように、

胸の高鳴りが止まらないお酒に出会えたら、

その夜は特別なものになるに違いない――。

自分だけの隠れ家を探しに

渡辺家ではいつも音楽戦争があった。

クラシックしか音楽と認めない祖母のいる場所で、流行(はや)りのJ-POPを少しでも流そうものなら、破門されそうだと思っていたし、憧れの邦ロックがつまった姉のMDをこっそり聴いたことがバレたときは、軽く1週間は口を聞いてもらえなかった……。

そんな中で私はじっくりと自分だけの音楽を大事に大事に育てて、カタコンベに隠しこむような気持ちで、宝物にしていた。

おかげで晴れて高校生のころには、ゴリゴリのアンダーグラウンドロックにはまり、ほろ苦い青春時代を歩むことになるのだが……。この話はここでは割愛したい。

音楽については遠慮する必要がない大人になったのだが、私はいまでも自分だけの隠れ家を東京の街に求め、探している。今日降り立ったのは、三軒茶屋。役者の友人も多く住むエリアで私もなじみが深いが、ここに、ひっそりと過ごせるお店はあるのだろうか?

酒好きが集まる三軒茶屋の三角地帯とは対岸に位置し、商店街もさらに越えて、すっと空気のうねりが変わる静かな場所に「WAKAZE Whim SAKE & TAPAS」はあった。

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

どぶろくは店内醸造仕込み

店内に入ると一番に目に入るのが酒を造るタンク。

ガラスの向こうではまさに酒造りを行っている最中であった。

決して広くないスペースながら、本格的に酒を仕込む様子はさながら酒蔵である。

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

ここ「WAKAZE 三軒茶屋醸造所」をあわせもつ直営バル「Whim SAKE & TAPAS」では今まさにできたばかりのどぶろくなどを楽しむことができるのだ。

これは……テンションがあがりすぎる……!

焼きたてパンや、朝採れ野菜のようなパワーワードに弱い私は、醸造所を見たその瞬間、この店が好きになってしまった。

一体どんなお酒が飲めるんだろう……?

心配なくらい期待値があがってしまう。店内醸造のどぶろくに視線を送りつつ、まずは日本酒を出してもらうことに。

発酵によって生み出された初恋の味

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

「FONIA TERRA」を一口

わぁ~!  ブランデーのようなキレイな琥珀(こはく)色。

そっと口元に近づけてみると……想像していなかったスパイシーでセクシーな香りが、広めの飲み口のワイングラスにより強調された。

トキメキに似た気持ちで、口に含むと、今度はさわやかな柑橘(かんきつ)の香りが奥の方からふわりと広がり、すぐには脳で変換できないスパイシーさをまとって口の中に広がる。背後から両手で目隠しをされて「だ~れだ?」と言われているような気分。(なお、まだ酔っぱらってはいない)

しっかりした酸味にまったりとした飲み口で、これが初恋であるならば、確実に危険な道を歩むことになるだろう魅惑の味だ。驚くのはこのインパクトに決して負けない米のどっしりとしたうまみ。

むしろお米の味がしっかりしているからこそ、それ以外のものが自由に魅力を出しているのだろう。単純な足し算ではなくかけ合わされることで複雑味が増していき、それぞれがかき消されることはまるでなく、見事に調和していた。

私自身がワイングラスの中でゆるゆると回されているようなぽわーんとした心地よさに包まれた。

渡辺「初めての味で、どうしてこんな味が生まれるのか不思議です。すごくおいしいです……!」

調理担当・米山さん「それが発酵のおもしろいところで、日本酒だけではないスパイスやハーブが一緒に発酵されることで新しい味や深みになるんです。このTERRAは発酵する際にゆず、サンショウ、しょうがを一緒に入れています」

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

渡辺「この複雑味、構想段階と比べてできあがったときに、味にギャップがあることもあるのではないでしょうか?」

米山さん「ギャップがすごくあるときもあれば、想定内のときもあるんです。菌がやっていることなので、僕らも初めての組み合わせをやってみることで、新たな側面を発見できて、思いがけない出会いがうまれるんですよ」

その偶然の出会いを楽しんでいることが、キラキラした目を見て一瞬で理解できた。

口に出して、やばいやつだとは思われたくないので、心の中でこっそりこの店員さんに「ロマンチック大賞」を贈りました。

見た目と舌触りの心躍るギャップ

ディルなどのハーブが練りこまれたクリームチーズといわしのうまみが見事にお酒と調和する一品。

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

いわしと胡瓜(キュウリ)

一杯目ですでにこのお酒に恋をしてしまった。い、いや、こんなお店で恋をしてみたい……。脳内がお花畑になってしまったところで、さらに魅力的な一杯がテーブルに運ばれた。

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

三軒茶屋のどぶろく、クリームチーズの酒粕味噌漬

おしゃれなボトルのこのお酒は、ここ三軒茶屋で造られている定番の「三軒茶屋のどぶろく」。

さて、どぶろくと聞くとどのようなイメージを持つでしょうか?

荒々しく、いかにも米っぽいお酒というようなイメージを思い浮かべる人も多いと思います。むしろ私がそうでした。(そういうのももちろん好き)

しかしこれを一口飲むと魔法にかけられたようにそのイメージががらっと変わる――。

グラスに注いでもらってみても、すべてを包み隠すほどきれいに白濁して、表面はお米の粒でぶくぶくと波打っている。口に含むとざらざらとしたお米をふんだんに感じるテクスチャー。

今まで飲んだどぶろくは、このままガツンとお米の味、香りがしていたのですが……。のどを通して思わず目を見開いてしまった。驚くほどにすっきりしていたのだ。見た目と舌触りとのギャップがさらに驚きを助長させた。

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

なんておいしいんだろう……。

すっきりしつつも米のふくよかなうまみがどこまでも続くので、このどぶろくだけでつまみがなくても容易に飲み干せてしまいそうだが、もったりとしたクリームチーズの粕漬けも、トロンと甘いきんかんの密漬けも、どちらもこのどぶろくによくあった。

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

クリームチーズの酒粕味噌漬

また、どぶろくのさわやかな酸味とこのざらっとした舌触りは、揚げ物などのどっしりとした料理も受け止めてくれる可能性を内包し、色々な料理とペアリングしたくなる魅力であふれていた。

あまりに感激したので余計なことを言ってしまった。

「私、どぶろくが好きすぎて実はLINEのアイコン、どぶろくなんです……!」

店員さんは少しだけ困った顔をして、そして「それはそれでどうかと……」という言葉を残して、どぶろくと同じくらいさっぱりと別のテーブルへ行ってしまった。

恥ずかしくなったので、さっきのロマンチック大賞ごとどこかに隠してしまいたい。

一晩だけの一期一会に思いをはせて

最後に、どぶろくの価値観を新しくしたいというWAKAZEさんの、今の時期にしか飲めないラムレーズンのどぶろくを試飲させていただくことに。

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

ここ三軒茶屋醸造所ではタンクごとにレシピが変わり、1タンク320本ほどしか瓶詰めできないのでその日出会えたお酒は一晩だけの特別な出会いになるかもしれない。

一口飲んで、目がハートになってしまった。おそらくどぶろくとラムレーズンとの出会いは初めてだろうし、このお酒と私が出会ったのも初めてで、この奇跡の体験に軽く混乱を覚える。

フランスから取り寄せたというまったりとしたラムの香り、そして山形県産のレーズンの芳醇(ほうじゅん)さが、このゆっくりとのどをつたっていくどぶろくならではの飲み心地と完璧なほどにマッチしていました。

心を溶かすような大人の甘みが胸の奥めがけて放たれて、そのやさしくも鋭い感性によってぽろっと本音をこぼしてしまいそうな……。時に心が弾んで踊り出したくなるような、そんな不思議な魅力を感じずにはいられなくなりました。

どぶろくってLOVE & MUSIC だったんだ……。

これが今だけしか出会えないお酒であると思うと少しほろ苦い気持ちになるけれど、一晩だけのロマンスがあっても良いじゃないか。

そんな大胆な気持ちが頭に浮かぶほど、このどぶろくの虜(とりこ)になってしまいました。

既存の価値観に縛られない新しくフレッシュな風が吹き、魔法にかけられたような特別な夜をWAKAZEは運んでくれたのでした。

結局“ワンナイトラブ”では満たされなかった未練がましい私はラムレーズンどぶろくを含めて3本のお酒を自分用のお土産に。

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

それも、また良し……でしょうか。

いつかロマンス映画の代名詞「ビフォア」3部作(『恋人までの距離』『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』)を見ながら、このどぶろくを一緒に飲んでくれる王子様を妄想して帰路につくのでした。(おそらく待ちきれず一人で飲み終わる)

三軒茶屋・WAKAZE どぶろくと一晩だけの出会い

次はどんな出会いがあるかなぁ。

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本日のメニュー

・いわしと胡瓜(half size):480円
・クリームチーズの酒粕味噌漬:500円
・庄内豚シャルキュトリー盛り合わせ(half size):600円
・TERRA(Glass half):500円
・GAIA(Glass half):500円
・三軒茶屋のどぶろく:600円

合計:3180円(税抜き)

お店情報

WAKAZE Whim SAKE & TAPAS

東京都世田谷区太子堂1丁目15-12
TEL 03-6336-1361

(文・渡辺早織 写真・林紗記 スタイリング・村井素良)

衣装クレジット

Dress ¥67,000 (masaco teranishi / après-demain)
Shoes ¥16,000 (Daniella & GEMMA)
Earrings ¥22,000
Charm ¥13,000 (共にagete)
その他スタイリスト私物、税抜き価格

après-demain
TEL:03-6274-8533

daniella & gemma
TEL:03-6721-0250

agete
TEL:0800-300-3314

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PROFILE

渡辺早織

モデルとして2007年デビュー。
その後、ドラマ/映画/CM/テレビ番組にてレギュラー出演をするなど俳優・タレントとして活躍中。
酒好きが高じて、きき酒師の資格を持っている。

五反田で40種の日本酒に酔いしれて「桑原商店」

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