例年より静かな「Media Ambition Tokyo」会場で落合陽一さんに聞いた、「アートを質量に保存する」ということ

都市の未来を創造するテクノロジーの可能性を発信する「Media Ambition Tokyo(MAT)」(http://mediaambitiontokyo.jp/)が、渋谷や六本木など東京都内各所で3月8日(一部は14日)まで開催された。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、イベントが中止や延期になったり、トークセッションがLIVE配信になったりと、過去7回とは異なる様相での展示が続けられている。(TOP画像:Photo by Koki Nagahama)

いまの状況では、関心があっても実際に会場を訪れることができない人のために、展示の中から、メディアアーティストの落合陽一さんの作品『計算機自然のしつらえ~質量に保存する,制約を与える,有限の存在にする~.』を、ご本人の解説を交えて紹介する。

落合さんの作品は、渋谷スクランブルスクエア15階の渋谷キューズで展示されている。縁が黒色の畳が敷かれ、その上に作品が並ぶ。

正面手前には、シャボン膜の表面に朧(おぼろ)げに青色の“モルフォ蝶”が映し出される「Colloidal Display」がある。超音波振動によって薄い膜に映像を投影することを可能にした、落合さんの初期の代表的な作品だ。

中央の奥には、フレネルレンズをはめた格子で区切られた丸い窓。その手前に、枯れ木とLEDの発光管で作られた、生きていない「生け花」のインスタレーションが置かれている。空間の中央で天井に向けて展示されているのは、ヤマトタマムシの背中を高解像度で撮影し、墨和紙と銀箔(ぱく)の上に印刷した新作の写真作品だ。

空間全体の印象は、日本家屋の「床の間」だ。そこに、鐘の音や何かの鳴き声(イルカの声だそうだ)が時折聞こえてくる。伝統的な和の要素と、テクノロジーを使った作品を融合させている点は、落合さんが総合監修した日本科学未来館の常設展示に通じるものがある。あちらは、銀色の金属柱で、寺院や茶室の周囲にある竹林を想起させていた。

落合さんは、今回のMATでの展示の狙いについて、次のように語ってくれた。

例年より静かな「Media Ambition Tokyo」会場で落合陽一さんに聞いた、「アートを質量に保存する」ということ

落合陽一さん Photo by Koki Nagahama

「メディアアートをやり続けて10年ぐらい経ちました。メディアアートは壊れるものです。ですから、ビデオアートではなく、なぜわざわざ壊れやすいメディアアートをやるのかという葛藤をずっと抱えてきました。そして、メディアアートがやっていることは何かを考えてみたのですが、それは『質量に保存すること』ではないでしょうか。ですから今回は『記録することと、保存することと、質量性との対話』がテーマです。畳の部屋に、生ける、眺める、座る、聴くなどの所作に伴う装置を使った過去の作品と新作を配置して、『自然と呼応する生活空間』を構築しました。ポイントは、“床の間や茶室にありそうなもの”を分解して持ってきたところです」

そして、それぞれの作品の横には、個々の作品を落合さんが自ら撮影して、プラチナプリントで現像した写真が並べられている。プラチナプリントの写真は、保存状態が良ければ500年持つとされる。つまり、横にある被写体のメディアアート作品そのものよりも、はるかな未来まで残ることになる。そして、このプラチナプリント写真は、解像度が驚くほど高い。磁気テープをメディアに用いた昔のレコーダーの内部を撮影した1枚は、部品にうっすら積もったほこりの粒まで鮮明に記録していた。

「500年ぐらい保存できるものと、明らかにあと数日で壊れそうなものが同居している空間は、非常に批評性があって面白いと思いました」(落合さん)

もし何世紀も先の未来に、美術品のアーカイブの中からこの1枚を見つけた人がいたら、これが遠い昔に記録も失われてしまったオーディオ機器の写真だとは理解できず、コンピューターで描かれた絵だと考えるかもしれない。真新しい施設に構築された「床の間」で、仏具が奏でる音を聞きながら鑑賞したからだろうか、そんな想像がふくらんだ。

例年より静かな「Media Ambition Tokyo」会場で落合陽一さんに聞いた、「アートを質量に保存する」ということ

展示されている落合さんの写真作品「質量に保存する,制約を与える,有限の存在にする.」

MATには、そのほかにも見るべき展示がたくさんあった。しかし、残念ながら、新型コロナウイルス感染防止に取り組んでいる状況下では、実際に会場で見ることができた人は限られていた。

しかし、それぞれの作品が、どこかまた別の場所で鑑賞できる機会があれば良いと思う。落合さんの今回の作品は、日本科学未来館での常設展示とリンクしているので、いまの状況が落ち着いたら、そちらも訪れてほしい。

■メディアアーティスト 落合陽一さんプロフィール

1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。

2015年World Technology Award、2016年PrixArs Electronica、EUよりSTARTS Prizeを受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞、2019年SXSW Creative Experience ARROW Awards など多数受賞。近著として「デジタルネイチャー(PLANETS)」、「2030年の世界地図帳(SBクリエイティブ)」、写真集「質量への憧憬(amana)」。「物化する計算機自然と対峙し,質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。

(文・&M編集部 久土地亮)

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