20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”

BiSH アイナ・ジ・エンドの抱える悩み・葛藤・弱さは、人間らしさに満ちあふれていた

人気者の悩みは人気者にしか分からない――。

本当にそうだろうか? 

どんな立場であっても誰しもが同じ悩みを抱えているように感じる。

「夢見が悪い日は一日何も手につかないし、お酒で失敗した日はどん底まで落ち込みます」

いま、飛ぶ鳥を落とす勢いの“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのアイナ・ジ・エンド(以下、アイナ)もまた、ごくごく一般的な悩みを抱えていた。

テレビやネットなどメディアというフィルターを通すことで、その中にいる相手が同じ人間ではないように感じてしまう。しかし、それはメディアや視聴者、私たちが作り上げたイメージでしかないのかもしれない。

アイナ・ジ・エンドと一対一で向き合ってみると、そこにいたのは若者が等しく感じるであろう悩みを持った一人の人間だった。

BiSHのメンバーに向けられる「甘え」や「逃げ」

アイナは笑いながら自分自身を「めっちゃ弱い人間なんです」と話してくれた。

BiSH アイナ・ジ・エンドの抱える悩み・葛藤・弱さは、人間らしさに満ちあふれていた

彼女はBiSHの振り付け担当。客観的に動きの指導をするため、メンバーに対して時に厳しい言葉を投げなければならない。しかし、彼女はしばしばそこから「逃げ」てしまう。

「振り付けを教える先生のような立場だから、メンバーとは一定の距離を置かなきゃいけないのに、どうしても友だちのように接してしまう。みんな良い人でおもしろくて、優しいから、友だちとして接している方が楽なんです。そうやって嫌われることを恐れる自分を弱いと思ってしまう」

友だちのような距離感、信頼の裏返しからか、メンバーへ甘えてしまっていると感じることはほかにもある。ほとんど完成した振り付けに違和感を覚えたとき、メンバーもそれを受け入れてくれるだろうと一からフリを作り直してしまうことは少なくない。

アイナは幼少期から現在まで、人生の大半をダンスと共に生きている。彼女自身「しゃべっているときより踊ってるときの方が自分らしくいられる」と話すほど、ダンスへの思い入れがある。だからこそ、振り付けに対するこだわりを持ちすぎてしまうときもあった。

自身の弱さをカバーしてくれる存在

アイナにとって一番楽しい時間は振り付けをしているときだ。

「自分が考えた振り付けをみんなが踊ってくれると、想像以上におもしろくなります。いつもメンバーの雰囲気やしぐさ、笑い方とかにインスピレーションを受けて振り付けを考えていて。例えば、アユニ(アユニ・D)は写真を撮るとき、いつも写真用の笑顔をつくるんですよ。きっと心の中は真顔なんだろうなと思って、『DiSTANCE』の“笑顔貼り付けた~”というフレーズは真顔になる振り付けにしました」

「振り付けを変更するのも8割くらいはメンバーに合ってないな……と感じたとき。あっちゃん(ハシヤスメ・アツコ)の手のニュアンスが、練習してもみんなとそろわないなって思ったら変える。みんなそれぞれクセがあるので、そういうのに気づくと、どんなにほかの人が覚えていても変更しちゃうんですよね」

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そんな自分のキャラクターをBiSHのメンバーも理解している、とアイナは感じている。以前は自分の発言や行動に落ち込むことも多かったが、いまはメンバーと良い雰囲気の中で練習に臨めるようになり、落ち込むことがなくなったという。

彼女が振り付けを変更したり厳しいことを言ったりしても、場の空気が悪くなってしまったときに、空気を読まない天才的な一言でいい空気をつくるモモコグミカンパニー。以前よりにこやかに振り付けに没頭するようになったセントチヒロ・チッチ。わからないところがあればすぐに聞きに来るリンリン。根が真面目なので、言葉少なく自分の振りを完璧に覚え、終わったら帰るというスタンスのアユニ・D。

「いまはみんなでつくってる感覚があって、だから甘えちゃうんでしょうね」

「恥ずかしいけど、信じてるし感謝してる」

BiSHが結成されたのは2015年。アイナは初期からのメンバーで、活動を5年続けている。その途中にはメンバーの脱退や加入もあった。常に順風満帆とは言い難い活動期間を過ごしてきたのだろう。辞めたいと感じることもあったのではないか、と問うと「辞めたいと思ったことは一度もない」と断言した。

しかし、同時に「人生で初めて寝られないほど、全く楽しくない時期はありましたけどね」とこぼした。

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4年前のチッチのダイエット企画、そして、ダイエットに失敗したという過去がある。当時のチッチはBiSHのキャプテンだったが、失敗を受け降格。ネットでは炎上騒動や、愛情の裏返しか、周囲も彼女に冷たくなっていった。

「私も私でチッチにキツイ言葉で無理やり頑張らせようとして……そしたら、チッチが閉じこもってしまった。そのタイミングで、初期メンバーだったハグ・ミィが辞めた。そこで、チッチも抜けるって言い出して、やばい! って」

「私はチッチがいないとBiSHが成り立たないと思ったから、チッチとハグ・ミィとリンリンでパンケーキに誘って、どうしても残ってほしいって言ったんですよ。半年後にはうまくいってると思うし、笑い合えてると思うから、BiSHにいてほしい、と。でも、チッチは辞める決意が固かったから明るい顔は見せてくれなくて、もうチッチが辞めるんだったら私も辞める! みたいな感じになったことはありましたね。結局辞めないでくれて、本当にうれしかったし、チッチは強い人だなって思った」

当時の苦い思い出を振り返りつつ、「いまはこの6人以外だったらBiSHじゃないって思う」と、メンバーへの信頼を見せる。

「辞めるとか辞めないとか、いまは考えてない。キモイ言い方だけど(メンバーを)信じてる。情もあるし。私みたいなできてない人間にメンバーは優しく接してくれます。そういう姿が彼女たちを信じようと思わせてくれる。お互いに、この人はこういう言葉をかけると拗(す)ねるとか、こういう接し方をすると怒らせてしまうとか分かるようになってるから、みんな個性的なのにけんかもなくて。恵まれてる、ありがとうって言うのもなんかキモイけど(笑)。言えることも強さだと思うので。本当に感謝しています」

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「守る存在」がない。ソロへ感じる緊張と不安

アイナは振り付けだけでなく、魅力的なハスキーボイスと高い歌唱力を生かして、これまでさまざまなアーティストの楽曲に参加してきた。また、ソロアーティストとしても活動の幅を広げている。BiSHのアイナ・ジ・エンドとしてではない、一人の人間としての時間は、毎回震えるくらいの緊張を感じているという。

BiSHにいるときは、メンバーという守るものがある。誰かが失敗しても、自分がカバーするという気持ちがある。振り付けを担当している自分だから、ダンスもできて当たり前。みんなといると一人よりもほんの少し強くいられる。だが、自分一人だと途端にどうしたらいいのか分からなくなるという。

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「特にほかのミュージシャンの人とステージに立つときは、お客さんもどういう目で見てくるか分からないから。以前、MONDO GROSSOとライブしたとき、イヤモニ(イヤーモニター)するの忘れてしまって、ステージに入ったときに気づいたんですよ(笑)。歌いながらイヤモニを耳に入れるし、焦って歌詞間違えるし。それくらい緊張します」

20年2月にはラブコールを受け、ドラマ用に書き下ろした楽曲『死にたい夜にかぎって』がリリースされた。爪切男さんの著作『死にたい夜にかぎって』のドラマ化に伴い、原作ファンのアイナへタイアップのオファーが来た。自分で手掛けた楽曲を歌うことに対しては「あまり緊張しない」と安心した表情を見せた。

「自分でつくった曲なら失敗しても誰かに迷惑をかけることもないから(笑)」

弱い自分を受け入れる強さ

彼女は20年から所属先のプロダクション「WACK」の中で一番古株となる。

WACKの中で先輩はGANG PARADEのカミヤサキしかいなかった。いつも電話をしたり家に行ったりして支え合ってきた彼女も今年5月に卒業。WACKではアイナ、チッチ、モモコが最も先輩の立場となる。今までカミヤに甘えてばかりいたが、自分が先輩の立場になると自覚したとき、「甘えてばかりではダメだ」と思った。

そんな中でも、アイナは「ウソなく自分らしくいたい」と話す。

BiSH アイナ・ジ・エンドの抱える悩み・葛藤・弱さは、人間らしさに満ちあふれていた

「曲づくりに関しては経験も知識も全くない。才能もないと思ってるんですよ。でも、自分に才能がないことさえも歌に込めようと。いま、3日に一曲つくれって事務所から言われてるけど、全然できなくて……枕に顔をうずめて、できなーい! 無理ー! イヤー!って朝6時くらいに叫んで、仕事に行って、帰ってきてまた、もーーー! って言いながらやってます(笑)。だからって流行(はや)りの曲をまねしたいとは思わない。自分が血迷っているときは、それをそのまま表現したい」

一方で、振り付けについては、「絶対ダサい姿を見せたくない」と強気な面を見せる。

「BiSHのメンバーには常にアイナに振り付けを任せてもいいと思ってほしい。アイナ以外には任せてほしくない。だから、ダンスに関してはダサいところは見せられない……いや、ダサい姿を見せることもあるんですけど。『GiANT KiLLERS』の時期は全く振りがつくれなくて、リンリンに泣いて電話したこともあった。でも、結局ちゃんとつくるのを大前提で弱い姿を見せている」

「まあでも、よく思うのは、楽しいことだけを追い求めても、そこからは何も生まれないなって。良いことだけあっても不安になるから、そういうちょっとした悩みや不安は常に育てておくようにしてます」

人間らしい弱さを隠さずに受け入れ、常に前進し続けるアイナ・ジ・エンド。弱さと強さは表裏一体なのかもしれない。

(文・阿部裕華 編集/写真・林紗記 動画・佐瀬醇)

プロフィール

BiSH アイナ・ジ・エンドの抱える悩み・葛藤・弱さは、人間らしさに満ちあふれていた

アイナ・ジ・エンド

“楽器を持たないパンクバンド” BiSHのメンバー。 BiSH のダンスの振り付けもほぼ全てを考案しているパフォーマンスの要。 天性のハスキーボイスとエモーショナルなパフォーマンス、表現力が話題となり、既にMONDO GROSSO、 SUGIZO(LUNA SEA)、ジェニーハイなど数々の外部アーティスト、企業広告とコラボするなど、業界内外で高い評価を受ける。

リリース情報

デジタルシングル

死にたい夜にかぎって

BiSH アイナ・ジ・エンドの抱える悩み・葛藤・弱さは、人間らしさに満ちあふれていた

◼︎DL&STREAMING
https://lnk.to/aina_shiniyoru

■特設サイト
https://www.bish.tokyo/shinitai_yoruni/

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PROFILE

  • 「20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”」ライター陣

    宮崎敬太、阿部裕華

  • 阿部裕華

    1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケッターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエイターにお熱。

“自分中心”を貫くラップユニットchelmico「どうせやるならめんどくさくなろうぜ」(後編)

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