小川フミオのモーターカー

カレラSをしのぐ加速性能の全輪駆動車「テスラ・モデル3」に試乗 オートパイロット機能も体験

宇宙と電気自動車。テスラの共同創業者であるイーロン・マスク氏というと、このふたつ。マスク氏が力を入れている「スペースX(エックス)」なる宇宙を舞台にした商業軌道輸送サービスは、地上波のテレビでも取り上げられることが多い。

【TOP写真:後輪駆動あるいはモーターを前後に搭載したAWD(全輪駆動)が選べる「テスラ・モデル3」(写真=Tesla提供)】

テスラのほうはどうなのか。2018年4月1日に破産宣告をツイッターに書き込み、本人はエープリルフールのつもりだったそうだが、これがかなり問題視された。その後は順調で、20年2月上旬には株価が急騰。しかしその後、急落とニュース性に富んでいる。

【動画】走るテスラ・モデル3(Tesla提供、音声はありません)

中国のNIOや小鵬汽車など、いわゆるBEV(バッテリー駆動の電動車)のスタートアップ企業のアイドルともいえるテスラは、中国市場向けに20年1月からモデル3の現地生産を開始。

中国では政府のEVへの補助金が19年に大幅減額されたものの、ナンバー登録はしやすいし廉価(内燃機関のクルマだとナンバー取得までに長い時間がかかるうえに高額)というメリットが、EVの販売を支えていた。

しかし、新型コロナウイルスによる消費の大幅な落ち込みがあり、モデル3を中心としたテスラ車の販売も大きく影響を受けそうだ。なんとも浮き沈みの多いメーカーである。

インバーターは冷却が必要だが、モデル3の小さめな開口部でも十分に冷やせるそうだ

インバーターは冷却が必要だが、モデル3の小さめな開口部でも十分に冷やせるそうだ

じつは、これまで私はテスラの車両に乗っても、まったく食指が動かなかった。ひとことで感想をいうと、変わったクルマ、である。でも、19年秋から日本でのデリバリーが開始されたセダン「モデル3」は、いい方向に予想を裏切った。端的にいえば、いいクルマ、なのだ。

モデル3は全長4694ミリと、日本の市街地でも手頃なサイズだ。車幅が1849ミリあるのは手頃とはいえないが、室内にはそのぶん余裕があるから、どちらを重視するかはユーザー次第である。私にとってこのサイズは、許容範囲だ。

元マツダUSAのデザイナーがディレクションする外観。テスラ車の例にもれずクリーンなデザイン

元マツダUSAのデザイナーがディレクションする外観。テスラ車の例にもれずクリーンなデザイン

クロスオーバーの「モデルX」は15年に発売され、日本でも富裕層に好かれたモデルだが、重心が高い印象がある。走っているとレーンチェンジやコーナリング時に体が安定せず、頭がくらくらした。モデル3は一切そういうことがない。

ドイツ製のスポーティーセダンのように、剛性が高く、ロードホールディングもよい。ドライバーを含めて乗員は不快な揺れを経験することもなく、快適に高速走行を楽しめるのだ。

モデル3はシートもステアリングホイールもあえて合成皮革のビーガン(菜食主義者)パッケージ採用

モデル3はシートもステアリングホイールもあえて合成皮革のビーガン(菜食主義者)パッケージ採用

「テスラでは遅いクルマは作りません」。16年4月1日にロサンゼルスで、モデル3をお披露目したとき、マスク氏はそう語り、加速性能の高さを喧伝(けんでん)した。

BEVにおける加速性能とは、電池とインバーター(バッテリーからの直流電流を交流電流に変換し交流モーターを駆動する装置)に依拠している。

後席もスペース的に十分な広さがある

後席もスペース的に十分な広さがある

モデル3の日本仕様は、出力と駆動方式により三つのモデルで構成される。トップモデルは今回乗った「パフォーマンス」で、テスラがデュアルモーターと呼ぶ前後にモーターを搭載した全輪駆動だ。

「パフォーマンス」の下に位置するのが「ロングレンジAWD」。前者が静止から時速100キロまで加速するのに3.4秒(ポルシェ911カレラSより速い)であるのに対して、「ロングレンジAWD」は4.6秒。

フロントには深い荷物入れ

フロントには深い荷物入れ

航続距離は、パワーでまさる「パフォーマンス」が530キロであるのに対して「ロングレンジAWD」は560キロというのがメーカー発表値だ。2車はバッテリーの出力の違いが性能差になっている。

ベーシックなモデルは「スタンダードレンジプラス」である。後輪駆動システムに、静止から100キロまで5.6秒というパワートレインの組み合わせで、航続距離は409キロ。

独立したトランクを空けるときのために、室内と外部を遮るもうひとつのガラス壁が設けられている

独立したトランクを空けるときのために、室内と外部を遮るもうひとつのガラス壁が設けられている

マスク氏が「遅いクルマは作らない」といったのは、この「スタンダードレンジプラス」でも十分な性能を有していることを意味している。たとえば、加速性能では、ポルシェ718ケイマン(5.1秒)にせまる。

ドライブモードで「スポーツ」を選ぶと、パワーの出方が変わり、アクセルペダル(テスラでは「パフォーマンスペダル」と呼ぶ)を少し踏んだだけで、強い加速をみせる。なるほどカレラSをしのぐ加速性能を持つだけあると納得。

充電はモデルSとモデルXはメーカー負担だが、モデル3は分単位の課金となるそうだ(写真=Tesla提供)

充電はモデルSとモデルXはメーカー負担だが、モデル3は分単位の課金となるそうだ(写真=Tesla提供)

ただしあまりに速いので、私が高速巡航するなら、運転モードを「コンフォート」に、操縦モードも「コンフォート」に、そしてアクセルペダルを緩めたときに制動がかかる回生モードは「スタンダード」という組み合わせにする。

速く走ろうとすれば代償となるのは航続距離で、ガソリン車やディーゼル車のように乗っていると、バッテリーの減り具合は、メーカー発表値よりけっこう速い。

従来のクルマのようなスイッチが皆無

従来のクルマのようなスイッチが皆無

実用を考えて、モーターが一つだけでパフォーマンスを抑えた「スタンダードレンジプラス」モデルを選択する人がいるというのもわかる。まあ、性能や航続距離の違うモデルを好みで選べるという、現在のモデル設定は正しいのだけれど。

モデル3の操縦性を要約すると、いってみれば、とてもフツウなのだ。加速のよさやステアリングのシャープさはフツウ以上ともいえるが、気持ちよく走れるという点で、フツウのクルマと同じ土俵に上がっているところに好感が持てる。

キャビンのピラーに備わった認識システム用カメラ

キャビンのピラーに備わった認識システム用カメラ

一方で、かなりフツウでないところもまた、モデル3の特徴だ。ひとつはスマートフォンの利用方法。スタートキーがわりに登録したスマートフォンを持って近づけばドアロックが解除されて、ドアオープナーが飛び出してくる。

室内に入ればシステムが起動する。スマホがシステムのスターターだからだ。近づけばドアが開いて、座ればモーターが目覚める。まるで、“あなたのために私(クルマ)は存在する”とでもいっているようなパーソナル感。オーナー心をくすぐる仕掛けだ。

ダッシュボードのモニタースクリーンには娯楽も用意されている

ダッシュボードのモニタースクリーンには娯楽も用意されている

モデル3が発表されたとき話題になったのは、ダッシュボードにメーターが一切ないことだ。15インチサイズのタブレットのようなモニタースクリーンが、計器盤とインフォテイメント(ナビゲーションとかオーディオ)のコントローラーを兼ねていて、すべて指先で操作する。音声認識システムも使える。そういえば、ネットフリックスも見られるし、ゲームもできる。

運転支援システムの「オートパイロット」もスクリーンで操作

運転支援システムの「オートパイロット」もスクリーンで操作

モデル3では加減速と操舵(そうだ)をクルマにまかせる「オートパイロット」機能が備わる。スクリーンで起動ボタンを押すと、ステアリングホイールの操舵感がいきなり変わる。見えない手が横から握ったようだ。

ここで抵抗してステアリングホイールを動かすと、操舵支援システムはオフになる。私はとうぜんこれを試すのを楽しみにしていたものの、モデルXほどではないにしても、予想以上に速く操舵するクセにはどうも慣れなかった。

車線認識と外部モニター用のカメラが車体側面に

車線認識と外部モニター用のカメラが車体側面に

ただこれについては、ユーザーになってみないと、十分に評価できない。なにはともあれ、新しい技術を、自分たちが信じる未来につながるからと、使い続ける姿勢は評価してもいいと思う。

価格は「スタンダードレンジプラス」が約511万円、「ロングレンジAWD」が約655万2千円、そして「パフォーマンス」が約717万3千円だ。“約”というのはドル建てだからだ。注文は専用サイトで行う。

上海で生産を始める際の記者発表会におけるイーロン・マスク氏(演説台、写真=Tesla提供)

上海で生産を始める際の記者発表会におけるイーロン・マスク氏(演説台、写真=Tesla提供)

【スペックス】
テスラ・モデル3「パフォーマンス」
全長×全幅×全高 4694×1849×1443mm
電気モーター 全輪駆動
最高出力 非公開
最大トルク 非公開
バッテリー容量 非公開
価格 約717万3千円

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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