インタビュー

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

「恋愛がわからないからこそ、書きたかった」という又吉直樹の思いから生まれた小説「劇場」を行定勲監督(『世界の中心で、愛をさけぶ』『ナラタージュ』)が映画化した。演劇を通してしか世の中とつながれない不器用な青年・永田を山崎賢人(「崎」は「たつさき」)、永田に振り回されながらも彼の才能を信じて支えようとする恋人の沙希を松岡茉優、さらに永田がその才能に嫉妬しながらも、同い年の同業者として圧倒的に認めざるを得ない気鋭の演出家・小峰を、King Gnuの井口理が演じている。

原作も映画も、恋愛が何なのかもわからずに、誰かを傷つけたり傷つけられたりしながら、自分を認めない世間と格闘し、夢と現実の間でもがいていた20代を描いている。すでにその時期は過ぎ、それぞれが仕事や家庭を持つ40~50代にとっても、かつての自分を思い起こさせる作品になっているようだ。

主人公を演じた現在25歳の山崎と、原作者である39歳の又吉。二人もまた自身と「永田」や「小峰」には重なる部分があると口をそろえる。だれもが成功者と認める彼らにも、いまに至るまでには、敗北感を味わい、不安や焦りを持った経験があった。

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

ダメなやつだけど可愛らしい、男の弱さが愛(いと)おしい

山崎が演じた永田は、創作のためなら実生活を犠牲にすることもいとわない、いわばある種の“変人”だ。劇作家として活動してはいるが、演劇では食べていけず、生活は完全に恋人に依存している。無精ひげに荒れた身なり、それはこれまでの山崎が演じた役から受けるキラキラしたイメージを裏切る大胆な変身と言える。そんな永田の「弱さ」に山崎は強く引かれたという。

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

©2020「劇場」製作委員会

山崎 永田は“表現者”という生き物なんですよね。僕も俳優の仕事をやらせてもらっているので、同じ表現者として、共感できるものがあったんです。仕事のことで余裕がなくなっていると他人に優しくできなかったり、同世代の役者に嫉妬心を抱いたり……。

でも永田はそんないら立ちを沙希にぶつけて傷つけておきながら、彼女が作り置きしてくれた手料理のしょうが焼きはしっかり食べちゃったりする(笑)。男のそういう情けなさやおかしみもわかるし、身に染みるものがありました。

ただ、沙希の母親が送ってくれた食料の小包をめぐってけんかするシーンで、『お母さんのこと嫌いだわ』というセリフを口にするのは結構きつかったですね。沙希ちゃんだけでなくお母さんのことも傷つけて、けっこうひどいなって。そう考えると、沙希ちゃんはほんとにあたたかかったなと思いますね」

そんな永田の生みの親である又吉にとって、彼は二十代でまだくすぶっていた頃の自分を投影した存在でもあるが、小説は永田の一人称で書いたため、映画化されるまで永田自身を客観的に見つめたことはなかったという。若き日の自分の弱さを、今の又吉はどのように受けとめているのか。

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

又吉 あらためて見ると、永田はひどいところがいっぱいありましたね……性格的に。正直なところ、小説を書いたときは、そんな男として書いたつもりはなかったんですよ。たしかに未成熟で自分勝手な人物ではあるけれど、それをごまかすために強がってしまうところも含めて、すべては彼の弱さからきているんです。

沙希とのけんかでも、めちゃくちゃふざけてシリアスな空気にならないようにするか、めちゃくちゃ不機嫌なふりをして、何も言わせないようにすることしかできない。それ自体は本当に滑稽で愚かなのですが、そこに僕は人間味を覚えますし、自分の周りにいるそういうタイプの人に可愛げを感じることが多いんです。

でもこの小説が世に出て、読者の反応や作品評が目に入るようになると、“とんでもない自己中のクズ人間!”みたいにとらえられていて(笑)。そんなにマイナスの印象が強く伝わっていたのかと意外でした。

それと同時に、山崎さんが演じてくれたことによって、もともとご本人が持っていらっしゃる繊細さであったり、品だったり、“愛され力”みたいなものが自然に機能していて。僕の思っていた永田像=ひどいんだけどどこか可愛らしくて憎めない、という人物像がきちんと成立していた。山崎さんのおかげで永田の名誉も回復できたと思います」

嫉妬や焦りの感覚を遮断するために、テレビを見ないようにしていた(又吉)

インタビュー中の2人が、永田の人生を語る上で避けて通れないと言及したのは、永田と沙希の関係にも大きな影響を及ぼす「小峰」についてだった。誰にでも一人はいるであろう、自分の先を行く、どうしても気になってしまう存在。実際、又吉は20代から10年間ほど、「小峰」のような人を目の当たりにしてきたという。長い間、嫉妬の感情とはどう向き合ってきたのだろうか。

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

又吉 僕は30歳ぐらいから少しずつテレビに出られるようになったので、20代はわりと永田と似たような環境で過ごしていましたね。その頃は年齢の近い芸人の先輩たちがテレビで活躍していると、不安や焦燥みたいなものを感じることがすごくありました。でもそのまま4、5年も経ってくると、だんだんそれが日常化していって、痛みを感じなくなってくるんです。

 嫉妬や焦りの感覚を遮断するために、テレビを見ないようにしていたんですよね。バラエティー番組に同世代の人気芸人が出ているのを見ると口惜しいから見なくなり、そうすると自分が芸人としてテレビから学ぶこともできなくなって、さらに停滞するという悪循環でした。芸人でありながら、そのとき活躍している芸人を目にする機会を自ら絶って、自分の日常の視界から消していたんです。

だからむしろ他ジャンルの方に嫉妬を感じることが多かったですね。僕は音楽が好きなので、くるりやNUMBER GIRL、エレファントカシマシ、サニーデイ・サービス、eastern youth、bloodthirsty butchersなど、すげー! と思うバンドはたくさんいた。彼らはたいてい自分よりも年上だったので、同じ歳になるまでまだ6年あるから大丈夫という言い訳ができたけど、逆に年齢が近ければ近い人ほど怖くなるようなところがあって。

ライブに行ってお客さんを沸かせている同年代のアーティストを目の当たりにすると、自分も同じ表現者の一人なのに何もできていないなという無力感をよく感じていました。だけど同時に圧倒されて完全に感動してしまっている現実もあって、今思うとそのジレンマが、永田の小峰に対する感情に近いのかなと思います」

同年代が出ている日本映画はあまり見たくなかった(山崎)

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

一方、山崎が「小峰」のような存在を意識したのは、小学校2年生のときだった。

山崎 当時サッカーをやっていて、めっちゃ仲のいいやつが同じチームにいたんです。彼のほうがもっと器用でうまくて。6年生まで一緒にプレーしていて、親や周りの人に比較されたりして嫌だなあと思ったけど、僕なりに自分のプレースタイルを見つけることでその嫉妬は乗り越えることができたんです」

サッカーをやめ、スカウトをきっかけに芸能活動を始めてからは、特定の誰かをライバル視することもなかったという山崎。その中で意識せずにはいられない同年代を、「あえて言うとしたら」と名を挙げたのは、仲のよい友人としても知られる菅田将暉だった。

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

山崎 「お互いにまったく違うジャンルの作品に出ていたときに、嫉妬し合って、軽くケンカになったこともありました。自分は自分の仕事に全力で取り組んでいたんですけど、他人から比較されることで自分でも比較するようになってしまって、自分が弱く見えたことも。

その頃は日本映画、特に自分と同年代の役者が出ている作品はあまり見たくなかった(笑)。見れば彼らの感情もわかるし、撮影現場の雰囲気も伝わってきて、余計なことを考えちゃう。そういう思いが邪魔をして純粋に作品を楽しめない時期がありました。だから、なるべく周りを見ないという方策は、いま又吉さんの話を聞いて共感をおぼえましたね。

 今はその気持ちを、みんなでいい作品を作って盛り上げていこうという方向性に変えて、他人は他人、自分は自分だと吹っ切れるようになったんです」

ただ、この言葉を聞いていた又吉は、自らの嫉妬の対象について次のように語る。

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

又吉 らは逆に、『小峰』側の立場も背負わなければならないこともあると思うんです。僕らが嫉妬の対象として見られている場合もある。永田は小峰だけを見ておけばいいけれど、小峰はいろんな人からそういう感情を当てられているから、それはそれですごくしんどいと思う。この映画は永田の視点で描かれているけれど、小峰は小峰で『いや、楽勝でやってると思うなよ!』という気持ちはあると思いますね」

聞いていた山崎は、隣で大きくうなずいた。

「鈍感力」が人生を切り開く

山崎と又吉が共に小峰への共感を示す一方で、世の中には「小峰になれなかった人」もたくさんいるはずだ。そんな中、2人がそれぞれの分野で成功し、自分の夢をかなえることができた理由として、又吉は「鈍感」というワードを口にした。

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

又吉 とえば芸人が漫才やコントの大会で負けたりしたとき、普通は自信を失うと思うんです。でも僕は基本的に自分の作るネタが好きなので、うまくいかなかったときでも、ダメなものしかできなかったという意識はなくて。あんまりウケへんかったなあ、なんでアカンかったんかなあ? と疑問に思うぐらい。そういう自分の鈍感さに支えられていたんじゃないかと思います。

あと、好きなことをやっているというのも大きかったですね。僕がまだ世に出ていなかった頃、後輩芸人の向井慧(パンサー)に、同期が先に売れていく中で芸人を続ける気持ちを問われたことがあるんですよ。僕のほうが5歳年上で、芸歴的には彼よりも追い込まれている状況だったはずなのに、不思議とそこまで切羽詰まった気持ちはなくて。

当時も自分の好きなネタは作れていたし、とはいえ力不足は自覚していたから、あと数年で足りない実力をつけて世に出られたらいいなと思っていた。それは決して強がりではなく、心のどこかで自分を信じていたんでしょうね」

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

10代でブレークした山崎もまた、今年で俳優デビューから十周年をむかえる。役者の仕事は、評価が第三者に委ねられる部分も多く、自分では手ごたえがつかみづらいなか、それでも芸能界の荒波を泳ぎ続けてきた。その秘訣(ひけつ)はやはり――。

山崎 僕も又吉さんと同じで、鈍感だったからこそ、役者を続けてこられたんだと思います。芸能界のことを何もわからない状態でこの世界に飛び込んで、将来のビジョンもなかったけれど、目の前にあることをひたすら頑張ってきた。というより、僕はそれしかできなかったんです。

無我夢中で走る中で、自分は本当にこの仕事が好きなんだろうかと疑った時期はありましたけど、そこで辞める方向には向かわなかった。男として負けたくない、強くなりたい、みたいな気持ちもあったし、それを後押しする運にも恵まれていたと思う。その道を極めようと思うならば、辞める理由をあれこれ考えるよりも、あえて鈍感になって、続けていくことが大事なんじゃないかなと思います」

どんな質問にも落ち着いて、ブレることなく自分のペースと穏やかな口調を守り、独特な人柄のにじみ出る言葉をつむぐ又吉。そのコメントに隣で耳を傾け、誰よりも深く聞き入り感受するあまり、自分への質問内容を忘れてしまうほど集中していた山崎。取材中に垣間見えた一面はそれぞれの語った生き方にもつながってくる。

(文・那須千里 撮影・山本春花 スタイリング・伊藤省吾 〈sitor〉)

映画『劇場』

映画『劇場』主演・山崎賢人と原作・又吉直樹が語る、嫉妬心から抜け出すために必要な“鈍感力”

©2020「劇場」製作委員会

※公開情報については公式HPをご確認ください。

公式サイト:gekijyo-movie.com

出演:山崎賢人、松岡茉優、寛一郎、伊藤沙莉、井口理(King Gnu)
監督:行定勲  脚本:蓬莱竜太
音楽:曽我部恵一
原作:又吉直樹『劇場』(新潮文庫)
配給:松竹 アニプレックス
©2020「劇場」製作委員会

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