小川フミオのモーターカー

欧州的なテイストが魅力的 いすゞ・ベレット

日本車には“こうなりたい”という明確なビジョンを感じさせた時代があった。とりわけ60年代だ。米国車のようなきらびやかさ、とか、イタリア車のようなスポーティーさ、とか。

いすゞが1963年に発表したセダン「いすゞ・ベレット」は代表的な1台といっていいのではないだろうか。このクルマには、クオリティーが高く、運転して楽しく、スタイリッシュという欧州的な“香り”がした。

発表された63年の1500DX

発表された63年の1500DX

英国のトライアンフやイタリアのアルファロメオなどを連想させたのは(私が勝手にそう思っていたのかもしれないけれど)、四輪独立懸架式のサスペンション、正確さで評価の高いラック&ピニオン式のステアリング、4段フロアシフト、前席セパレートシートと、まさに欧州車のようにスポーティーな要素が盛り込まれていたからだ。

当時、クルマメーカーの重要なターゲットだった20代、30代。彼らがクルマ以外に(熱狂的に)好んでいたのがグループサウンズだ。代表的なバンドであるザ・ワイルドワンズのメンバーや、61年に公開が始まった東宝の「若大将」シリーズ主演の加山雄三氏らが茅ヶ崎在住。

茅ヶ崎に代表される湘南エリアを日本でベニスビーチ(ロサンゼルス)に匹敵する場所と信じようとする人たちも少なくなかった。いすゞは湘南エリアの藤沢に工場を持ち、ベレットを生産していた。そのイメージの重なりもセールスを後押ししたのだ。

1300DXの運転席まわり

1300DXの運転席まわり

話はそれるけれど、そういうのって、時々お目にかかる。「日本アルプス」にはじまり、「日本のナパバレー(ワイン)」までいろいろある。川崎を「日本のリバプール」としたのは、自分たちをザ・ビートルズになぞらえたキャロル時代の矢沢永吉氏だったか。

なにはともあれ、それでよかったのだ。いすゞのイメージはイカしていたのだ。躍動的な若者文化が生まれるロサンゼルスのビーチのように、湘南から生まれたベレット。これで好感度が高くなるのだから、ユカイなものである。

1500DX

1500DX

振り返ってみると、いすゞは大型商用車専門メーカーとして太平洋戦争後に再スタートし、最初の乗用車はアメリカンテイストの英国車ヒルマン・ミンクスのライセンス組み立てである。次が売れなかったベレル。そしてこのベレットでようやく軌道にのった。

ベレットの特徴として、メカニズムとイメージに触れた。もうひとつ、スタイリングも魅力にあげてよいだろう。クーペのベレット1600GTというエネルギーのかたまりのようなモデルがあるものの、オリジナルのセダンも捨てがたい。

ボディーは2ドアと4ドア。太めのリアクオーターピラーと、リアフェンダーから後ろに流れるようなプレスラインが躍動感を与える。いい感じのデザインだ。

ベレットスポーツ

ベレットスポーツ

デビュー時は角形ヘッドランプで、途中マイナーチェンジがあって丸形4灯となった。これはアグレッシブな印象が強くなって正解だったと思う。ただしグリルに個性がとぼしく、いすゞのセダンというアイデンティティーの構築が成功しなかったのが残念なところ。

当初は1.5リッターOHVエンジンと1.8リッターディーゼルエンジンだったが、すぐにパワーアップされ、さらに、ツインカーブレターを備えた1.6リッターおよび1.8リッターのSOHCエンジンまで用意され、いってみればシャシーにエンジンが追いついたことになる。

1300スペシャル

1300スペシャル

73年まで10年間生産された息の長いモデルで、そのあとはジェミニが引き継ぐ。ジェミニはそもそもドイツのオペルが開発したカデットというモデルが下敷きになっている。そこでスタイリングも一気にアカぬけたグローバルなものになった。

でも、当時のいすゞのラインナップをみると、67年のフローリアンや、68年の117クーペなど、味のある独自開発モデルがそろっている。ベレットしかり。

米ゼネラルモーターズと資本提携して、その世界戦略にしたがって開発計画を立てなければならなくなったのが、71年以降のいすゞだ。乗用車の販売網が厚くないうえに、本業はトラックのエルフに代表される商業車という意識も抜けなかったのだろう。最終的には乗用車生産から手を引いてしまった。

ベレットでみせてくれた欧州的なテイストはいまでも魅力的だ。それが続かなかったのは惜しいなあと思う。同意してくれる人は少なくないのでは。

(写真=いすゞ提供)

【スペックス】
車名 いすゞ・ベレット1600スペシャル
全長×全幅×全高 3990×1495×1390mm
1584cc直列4気筒OHV 後輪駆動
最高出力 84ps@5200rpm
最大トルク 12.5kgm@2600rpm

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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