いしわたり淳治のWORD HUNT

特徴的な髪形を想像させる絶妙な比喩 日向坂46『ソンナコトナイヨ』

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の3本。

 1 “切りすぎた前髪 奈良美智の絵だ”(日向坂46『ソンナコトナイヨ』歌詞)
 2 “きらきら光る、つぶつぶ”(坪倉優介)
 3 “神様からいただいたものは自信にならない”(高嶋ちさ子)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる三つのフレーズ

 

特徴的な髪形を想像させる絶妙な比喩 日向坂46『ソンナコトナイヨ』

一般的に比喩表現というのは、わかりにくい事柄を身近なものにたとえてわかりやすくしたり、人物の心理や状況を詩的かつ映像的に表現したりするために用いるものである。

日向坂46の新曲『ソンナコトナイヨ』は、Aメロが「春の風が吹いて 窓のカーテンを膨らませた まるで君が拗(す)ねた時の ほっぺたみたいに」で始まる。カーテンが風で膨れる様子は誰もが一度は見たことがあるだろうから、聞いた瞬間に間違いなくその映像は想像できる。

一方の「君」のことはまったく知らないけれど、前述のカーテンが「君」が拗ねてほっぺたをふくらます感じを想像させる誘い水の役目をしているから、聞き手の頭の中には「君」という女の子の姿が自然と浮かび上がる。

こんな風に、「君」は少しぶりっこなキャラクターなのかな、などと想像した時点で聞き手はその曲の中に自主的に参加している形になる。

ラブソングというのは、極端な言い方をすれば“他人の恋バナ”にすぎない。興味もないのに一方的に聞かされる赤の他人の恋バナは退屈に感じるものである。そのため、歌詞でもなるべく聞き手に興味を持ってもらえるように、仕掛けを作る必要がある。

つまり「カーテンが風で膨れる」や「拗ねてほっぺを膨らます」のような、聞き手が「こんな感じかな」と想像しやすいたとえを導入部に用いるのはとても意味のあることである。

しかしながら、いつまでも誰もがわかるような言葉ばかり書いていると当然、凡庸な歌詞になってしまうので、続くBメロでは、少し哲学的なことを書いてみようかとか、ドキッとすることを書いてみようかとか、作者はあれこれ手を考えるものである。

しかし、この曲は少し特殊でBメロでもたとえが続く。「切りすぎた前髪 奈良美智の絵だ」と「君」の髪形を表現するのである。そして、このたとえが絶妙だ。奈良美智と言われて、すぐにわからない人もたくさんいるだろう。でも調べたら誰もが「この絵のことか」となる、絶妙なワードなのである。

いわゆるデジタルネイティブ世代の若い子たちは何でもすぐ調べる。こうして歌詞の中に「調べる」という自主的な行動を持ち込むことで、さらに聞き手の参加意識は高まる。しかも画像を見たことで10人が10人、さっきまでまったく知らなかったはずの「君」の髪形を誤解することなく、その歌を聞くことになる。こうして、聞き手の頭の中の映像は作者の思惑の通りに、完璧にチューニングされてサビへと向かっていく。うまいなあと、思った。

 

特徴的な髪形を想像させる絶妙な比喩 日向坂46『ソンナコトナイヨ』

18歳で交通事故に遭って記憶喪失になり、人間の生活習慣すべてを忘れた状態から奇跡のカムバックを果たした坪倉優介さんの著書『記憶喪失になったぼくが見た世界』(朝日新聞出版)を読んだ。

ここはどこ? 私は誰?みたいないわゆるドラマなどで見かけるような記憶喪失ではなく、彼はしゃべること、食べること、眠ること、トイレに行くこと、風呂に入ることなどあらゆる基本的な生活習慣を忘れて、まっさらな赤ちゃんの状態に戻ってしまった。

赤ちゃんはいつも泣いている。でも、何がどう嫌なのかを言葉で伝えることなど出来るわけもなく、ようやく話せるようになった頃にはその時のことなど忘れてしまっているから、なぜ泣いていたのかの答えは、すべての親にとって永遠の謎である。

でも坪倉さんは、赤ちゃんの状態に戻りながらも脳は大人の脳なので、ゼロから経験し直して以降の記憶が残っている。それらのエピソードがまるで赤ちゃんの気持ちを代弁してくれているかのようで非常に興味深い。

例えば、初めてごはん(白米)を見たときのこと。彼は、「この煙がもやもや出てくる光るつぶつぶは何なんだ」と驚き、お母さんのまねをしてそれを口に入れたら、最初は「痛い」と感じ、それでも噛んでいると、「じわりと口の中にひろがるもの」を感じた。お母さんから「おいしい?」と聞かれても、その言葉の意味がわからないので無視して噛み続けていると、「もっと食べてみたいと思ったらおいしいと言って。もう口に入れたくないと思ったらまずいと言ってほしい」と言われ、「おいしい」と答えたら、お母さんが「そう、ごはんはおいしいんだ」とうれしそうに笑った。……という具合に語るのである。

そんな風に、ものすごくまっすぐなのに、これまで考えもしなかった角度で語られる新鮮な言葉たち。子育て世代には刺激的に響くのではないかと思う。

 

特徴的な髪形を想像させる絶妙な比喩 日向坂46『ソンナコトナイヨ』

2月17日放送のTBS『有田哲平と高嶋ちさ子の人生イロイロ超会議』でのこと。「その美貌(びぼう)があればそこまで努力しなくても玉のこしにのれたはずなのに、なぜ頑張ってバイオリニストになったのですか」と尋ねられた高嶋さんが、「神様からいただいたものは自分の自信にはならないとずっと思ってた」と平然と答えた。自分で頑張って身につけたものしか自信にはならないって親から教えられて来たのだという。

「天才」という言葉を「努力の要らない人」という意味だと思っている人は結構多い気がする。でも、実際は努力をしていない天才などこの世に一人もいない。もちろん神様からもらった才能は初めから人より少し多くあったかも知れない。でも、それを高いレベルで磨き上げたからこそ「天才」とまで呼ばれるレベルに達したのだ。

もしも神様からもらった才能だけにあぐらをかいていたら、誰であれ「自信」なんて持つことは永遠に出来ないに違いない。大切なのは誰よりも努力して手に入れたものが自分にはあると思えるかどうかで、それこそが「自信」と呼ぶものの正体である。

新生活が始まるこの季節。慣れない新しい環境の中で、自信を失ってしまう人もいるかもしれない。高嶋さんのこの言葉は、本当の「自信」とはいったい何なのか、どうすれば手に入るものなのかについて考える時、とてもいいヒントになる気がした。

<mini column>お金のつかい道

ある時から、お金というのはつまるところ愛する人にしかつかい道がないものなのではないか、と思うようになった。自分を愛している人は自分のためにつかうし、自分自身よりも愛する人ができたらその人のためにつかうし、世界を愛する気持ちが芽生えた人は寄付をしたりする。

次男の3歳の誕生日が近づいたある日、5歳の長男が「お年玉でプレゼントを買いたい」と言い出した。聞くと5000円もするおもちゃを買ってあげたいのだという。

普段からお金の価値は厳しく教えているので、自分の欲しい物も我慢することが多い長男が急にそんなことを言ったのでこちらも驚いて、「いいの?」「本当に?」「ニンテンドースイッチを買うためにためてたんでしょ?」と何度もしつこく聞いてしまった。

そのうち彼は「僕のお金は僕の大好きな人に使うって決めたの! 僕のお金なんだから、いいでしょ!」と怒り出した。でも、本人にも葛藤はあるようで目から涙があふれている。「早く! 僕の気持ちが変わらないうちに、早く買ってよ!」と必死に泣き叫ぶので、その勢いに気おされて「よし、わかった」とネットの購入画面をクリックした。

後日、そんなドラマがあったことなど知る由もなく、次男は届いたプレゼントを満面の笑みで抱きしめ、キャッキャと跳びはねて喜んだ。でも、私にはプレゼントを渡した長男の方が次男よりも何十倍もうれしそうに見えた。仏様のような穏やかな笑みを浮かべて、弟が箱を開けるのをやさしく手伝ってあげている。

お金というのは愛する人にしかつかい道がない。いつかどこかで誰かに私が話していたのを聞いて、彼が必要以上に真に受けてこんな行動をしたのだとしたら、ちょっと悪いことをしたなと思っていたのだけれど、杞憂(きゆう)だったようである。彼は今日、股が裂けそうなほど精いっぱい脚を広げて、一歩で三段くらい大人の階段を上ったんだろうなと思った。

あわせて読みたい

いしわたり淳治×高橋久美子 「もっと下手に歌ったほうがカッコいいのに……」作詞家2人の苦悩と美学

子供に贈るなら、どんな本を選ぶ? 親子の絆を深める5冊の絵本

岡山弁で書く新鮮な歌詞 令和の日本の音楽界に風穴を開ける藤井風

いしわたり淳治のWORD HUNT:連載一覧はこちら

[ &M公式SNSアカウント ]

TwitterInstagramFacebook

「&M(アンド・エム)」はオトナの好奇心を満たすwebマガジン。編集部がカッコいいと思う人のインタビューやモノにまつわるストーリーをお届けしています。

PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

岡山弁で書く新鮮な歌詞 令和の日本の音楽界に風穴を開ける藤井風

一覧へ戻る

もう一度聞きたかった…… 志村けんさん「だいじょうぶだぁ」に宿る不思議な魔法

RECOMMENDおすすめの記事