日本はウマい

<01>熱気が口内に広がり、遅れて餡がやってくる…… やみつきになる“空気を食べるギョーザ”

全国の飲食店巡りをライフワークとするグルメジャーナリスト・マッキー牧元さんが、2019年に訪れた300軒近くの中から、心に響いた地方の飲食店を紹介します。今回は美味なる福島ギョーザが食べられる店「満腹」です。

     ◇◆◇

地方に足を延ばすと、必ずチェックする食べ物がある。“ギョーザ”である。いや正確に言えば“焼きギョーザ“である。

中国では水ギョーザが主流だが、日本では焼きギョーザが浸透した。おそらく、その方がご飯に合う、ビールに合うといった理由だったのだろう。渋谷の闇市や博多、神戸など発端となった場所は諸説あるが、全国に広がった焼きギョーザは、様々な形に変化し、各地に定着していった。

大阪や博多、長崎の小さなギョーザ、博多の鉄板焼きギョーザ。神戸のみそダレをつけて食べるギョーザ、蒲田の羽根つきギョーザ、もやしがシャキシャキと心地よい浜松ギョーザ。

その他、宇都宮、静岡、久留米、人吉、京都、高知、名古屋など独自の焼きギョーザ文化が根付いている都市は多い。それゆえ私も、地方に行くと地元の有名店で焼きギョーザを食べるようになった。それらはいずれこのコラムで披露していこうと思う。

福島県のソウルフード 「満腹」のギョーザ

先日もギョーザの地福島で、ギョーザ店をのぞいた。初の福島焼きギョーザである。

実は別の目的で郡山に行ったのだが、わざわざギョーザが食べたくて福島に行き、福島出身の友人に案内してもらった。彼いわく、まず行くべきは、有名店の「照井」より、「満腹」だという。

満腹のギョーザは福島県人が昔から慣れ親しんできたものであり、いわゆる福島ギョーザを堪能するのにふさわしい、というのが理由である。「食べログ」の情報もいいが、こういう生きた情報は、地元の人からでないと得られない。

「満腹」は、街の少しはずれにあって、暗がりの中で看板が光っている。早速「円盤餃子(ギョーザ)」一皿30個を頼んだ。ほどなくして、大皿に円を描いて整列した焼きギョーザが運ばれてきた。

ふっくらと膨らんだそれにかじりつくと、熱々の空気が口の中に流れて、やや遅れて餡(あん)がやってくる。餡と皮の間に空間があって、それが独自の食べ心地を生んでいる。空気を食べるギョーザである。

「きっちり包んだら餡がかわいそうでしょ。でも、餡は少なくても、少しでも大きくしたい。ほら、食べたとき、いきなり餡が現れるより優しいでしょ」――。最初にこのギョーザを作った人は、そう思ったのかもしれない。福島円盤ギョーザの元祖と言われる「満腹」は、そんな優しさが含まれていた。

<01>熱気が口内に広がり、遅れて餡がやってくる…… やみつきになる“空気を食べるギョーザ”

ちなみにもう一軒とハシゴをした「餃子会館」も、餡や大きさこそ違えど、空気感は一緒である。こうして空気を包むのだから、皮は優しくしなくてはいけない。

どこも自家製で、作りたてであるが、皮は薄く、柔らかい。自家製作りたてが“もっちり”とは限らないのである。逆にもっちりの方が簡単で、このように薄くやわい皮を作る方が難しいのかもしれない。

話を「満腹」に戻そう。「カリッ」。色好く焼きあがったギョーザをかめば、白菜からの甘い香りがにじみ出た熱々の空気が口に飛び込んで、鼻に抜けていく。その後の皮は存在感が薄く、餡も野菜がほとんどで、主張は控えめである。だからいくらでも食べられる。

「満腹」では、後から隣で二十代後半の女性が来て、ギョーザ30個とハイボールを頼んだ。見ていると、一つ口に運んでは目を閉じて、よくよく味わっている。そして1個を飲み込む前に次の1個に箸を伸ばして口に入れる。再び目を閉じて味わう。

こうして2個を食べると、ハイボールを流し込む。そこには長年この地で受け継がれてきたのであろう、「ギョーザと私」という誰にも邪魔されない幸せがある。

ちなみに「満腹」には、ライスはない。もつ煮込みもお新香も、冷ややっこや湯豆腐も用意されているのに、ご飯くらい用意したらいいじゃないかと思う人もいよう。

しかしギョーザは中国では”副主食”(主食と副食を兼ね備えた食事)だからご飯のおかずじゃない、というのが「満腹」のスタンスだ。おそらく、昭和23年に創業した店主の見識なのだろう。この焼きギョーザは、淡々と向き合い、じっくりと味わい楽しむものなのである。

(トップ写真:満腹の「円盤餃子」 一皿30個・税込み1650円)

■店舗情報
満腹
福島県福島市仲間町1-24
024-521-3787
営業時間:月、木、金 16:30~/土、日 11:40~ *なくなり次第終了
定休日:火・水
https://enban.hp.gogo.jp/pc/

■お知らせ
同店では新型コロナウイルスの感染拡大の防止に向けて、入り口やテーブル、トイレなどにアルコール消毒液を設置しているほか、テーブル上の調味料は利用者が入れ替わるごとに消毒しています。また、テーブルの間隔を通常より広げ、店内も常時換気するなど様々な対策を講じています。

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PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

マッキー牧元さんの新連載「日本はウマい」が始まります

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