一眼気分

季節の変化と静寂を求めて 2020年の桜を撮る

「お仕事はなんですか?」と聞かれた時に、自分の思いをその都度説明するのも面倒なので「写真家です」と答えてしまう。

さらにスポーツ写真家とかF1フォトグラファーなどという肩書を付けられることもあるが、本音を言えば自分はスポーツ写真家だとか風景写真家だとか分けられるのは好きではない。そもそも写真家という肩書も、今の“写真”というカテゴリー自体の変化(進化)によって、今やそこにあるものを切り取るだけではなくなった。撮影後の後処理や、作品としての個性を与えることまでも含まれるようになり、かつての“写真”とは異なる。だから正直に言えば写真家、フォトグラファーと呼ばれることさえ疑問に思うことがある。

季節の変化と静寂を求めて 2020年の桜を撮る

僕は「写真を撮る」という行為においては、被写体がなんであれ、基本的に同じアプローチをとっている。だから何を撮ってもそれは僕の表現であり、僕の意思だ。
適切かどうかはわからないが、あえていうなら「EXPRESSER(表現者)」だろうか?
もちろん人は誰もが自分を表現して生きている。だから誰もがそうなのだが、このテーマを語ると長くなるので、またいつか時間とスペースのある時に(笑)。

季節の変化と静寂を求めて 2020年の桜を撮る

ではなぜ桜を撮るか? 僕自身、通常はサーキットでの撮影が多く、環境的には大きな音と排気の中に包まれている。だから時には違う世界、季節の変化を感じ、静寂を求めて桜を撮りにいくのだが、結果として花そのものが好きなのではなく、そこに集まる「人」が好きで、気がつけばフレームのどこかに誰かが映り込んでいる写真が多くなる。

季節の変化と静寂を求めて 2020年の桜を撮る

例年なら卒業式や入学式が多く行われる時期だが、今年は様子が異なる。
外出の自粛、イベントの延期、中止など人々が、世界が疲弊している。
確かに日々生きているのだが、まるで時計を止められたかのように、何もかもが滞る。
それが先行きの見えない不安な気持ちをさらに加速させる。
ただそれは人間社会の話であって、桜を見るたびに自然は何も変わることなく平然と、そして淡々と季節を重ねている。改めて自然の摂理のすごさを思い知らされる。

季節の変化と静寂を求めて 2020年の桜を撮る

そんなわけで例年楽しみにしている桜だが、今年の状況ではやたらとどこかへ出向いて撮影をするというわけにはいかない。だからといって、何もかも自粛して家に閉じこもればいいのか? 時には外へ出て新鮮な空気を吸い、季節ごとに変わる草花を見て、季節の変化を感じることも忘れてはならないと思う。僕には自分が自然に生かされているという思いがある。だからなおさら自然と触れ合うことで気分もよくなるし、エネルギーをもらえる気がする。

季節の変化と静寂を求めて 2020年の桜を撮る

そんな状況の中、例年よりも相当早い開花宣言を聞いてから、撮影のチャンスを待っていた。週末は天気が悪いという予報を見て、晴天で暖かかった平日に自宅から近い東京都調布市の神代植物公園へ向かった。

事前の予想ではおそらく人出も少なく、閑散としているのではと思っていたのだが、まず駐車場の車の多さに驚かされた。園内もマスク姿こそ多いが、そこそこの人でにぎわっていた。植物園の中は多くの木々に囲まれ、多種ある桜の淡いピンク色と青空の対比がなんとも素晴らしい。この景色を眺めるだけで、どこかささくれ立っている最近の気持ちが穏やかになっていくのがわかった。

季節の変化と静寂を求めて 2020年の桜を撮る

そして晴天の桜を撮影して数日後、季節外れの雪が降り積もった。雪と桜、東京ではなかなかお目にかかれない光景だ。暖かい日が続いていたので、仕舞い込んだ冬仕様のジャケットを取り出して近くの桜の様子を見にいく。空はグレーで吹く風も刺すように冷たい。真冬の風景そのものだ。こんな様子では誰もいないだろうと思っていたのだが、そこには元気に散歩やジョギングをする人の姿や、楽しそうに雪で遊んでいる親子もいた。こんな光景を見ると僕は安堵(あんど)感に包まれる。大げさだが人間はまだ大丈夫だと思えるのだ。

季節の変化と静寂を求めて 2020年の桜を撮る

こんな時だけど、いやこんな時だから、もしも僕の写真で健康であることの素晴らしさ、生きていることの楽しさを感じてもらえれば幸いだ。

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PROFILE

宮田正和

東京浅草生まれ。1984年のロサンゼルス・オリンピックをはじめ、NBAバスケットボール、各種世界選手権、テニスのグランドスラム大会、ゴルフの全英オープンなどスポーツを中心に世界を舞台に撮影を続ける。1987年、ブラジルF1グランプリを撮影。マシンの持つ美しさ、人間模様にひかれ、1988年よりフランスのパリ、ニースに4年間ベースを移し、以来F1グランプリ、オートバイの世界選手権、ルマン24時間耐久レースなどモータースポーツをメインテーマとして活動を続ける。AIPS(国際スポーツ記者協会会員)A.J.P.S(日本スポーツプレス協会会員)F.O.P.A(Formula One Photographers Association会員)

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