LONG LIFE DESIGN

民藝もサステイナブルもロングライフデザインも、ひとことで言えば「ふつう」である

この連載のテーマは「ロングライフデザイン」(ながくつづく素晴らしいこと)ですが、今、ながくつづくと言われたら、新型コロナウイルスですね。

「サピエンス全史」で世界的に知られる歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリさんは、今こそ、そしてこれからますます「人間どうしの信頼」が必要だと書かれていました

閉鎖して各国単位で問題を解決することも重要ですが、一方では世界レベルの連携が、今後起こりうる新しいウイルスなどへの対策に必須だと……。なんだか、苦しい戦いですが、そこから学ぶこともあります。世界が仲良く連携すればするほど、ウイルスを撃退できる、ということですね。

ちょっと気持ちの重い日々ですが、今回は僕のお店「D&DEPARTMENT」からもうすぐ出る、世界的デザイナーの深澤直人さんの本について書いてみたいと思います。

深澤さんの活動のテーマは「ふつう」。いつの時代もある言葉ですが、「ふつう」という観点は時代ごとに微妙に変化しています。昔の「ふつう」は、今のそれとは少し違いますが、では「ふつう」じゃなくなるって、なんなのか。また、「ふつう」であることの良さなどもあり、ちょっと面白いテーマです。そして、実は「ロングライフデザイン」や「民藝(みんげい)運動」、「サステイナブル」とも関連づけると、一段と面白い。そんな話です。

その話に入る前に、今回紹介する深澤さんの本について少し簡単にご説明しますね。深澤さんと出会ったのは1998年頃です。当時私たち「d」はお店の開業準備をしていて、自分たちの活動テーマである「ロングライフデザイン」を伝えるための小冊子を定期的に発行し始めました。その中で深澤さんに連載していただいて、それを一冊にまとめたのが今回の本です。

深澤さんも我々と同じく、プロダクトデザインを発想する時に「ふつう」というテーマを持っていました。彼は僕らの冊子でも「ふつうのこと」について、「なぜ、どこがふつうなのか」と、様々なテーマで書いています。例えば「ふつうの犬」「ふつうの車」「ふつうの接客」「ふつうのお皿」など。今回の本では、そういった話を40話近くまとめています。

右上が「小冊子d」として私たちdのテーマである「ロングライフデザイン」を伝えるために発刊していたもの。その下はその中で深澤さんに連載して頂いていた「ふつう」のページ。左上は、その後、テーマはそのままで”トラベル本”に視点を変えてバージョンアップしたもの。その下がその連載のページ。

右上が「小冊子d」として私たち「d」のテーマである「ロングライフデザイン」を伝えるために発行したもの。その下はその中で深澤さんに連載して頂いていた「ふつう」のページ。左上は、その後、テーマは「小冊子d」と同じままで”トラベル本”に視点を変えてバージョンアップしたもの。その下がその連載のページ

毎号、シンプルに一話ごとにテーマであるもの、ことの「ふつう」さを書いていく。その結果、何がふつうで、何がふつうではないのか、私たちはその「ふつう」に何を感じ、生活をしているかという、ものを作るような人々の参考になる連載です。それを書籍化した様子を、今回は書いています。

毎号1話ごとにシンプルなテーマがあり、その物事の「ふつう」さを書いていく。その結果として、何がふつうで、何がふつうではないのか、私たちはその「ふつう」に何を感じ、どう生活をしているか。そんなことを考えさせられる、ものを作る人々の参考になる連載です。それを書籍化した様子を、今回は書いています

民藝もサステイナブルも、そして、ロングライフデザインも、ひとことで言えば“ふつう”です

デザインが大好きな人なら記憶に残っていると思います。深澤直人というデザイナーの出現(笑)を。僕もそんな一人でした。

デザイン関係者を中心に世界的に注目されてきたデザイン事務所の一つ「IDEO」(アイディオ)。アメリカはカリフォルニアに拠点を置き、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークなどに展開するデザインコンサルティング会社です。その日本法人が立ち上がるということ、そして、その代表者であるデザイナーの深澤直人さんに日本中が注目した頃がありました。2000年頃のことです。

深澤さんはその後、日本デザインコミッティーや無印良品、武蔵野美術大学など、活動の範囲を様々な方面に広げていきます。その初期の頃に、僕らD&DEPARTMENT(以降「d」)は「vision’d voice」(ヴィジョンドヴォイス)というクリエーターのインタビューCD(現在もiTunesストアでダウンロードすれば聴けます)を企画し、注目まっただ中の深澤さんにもご登場いただき、僕がインタビュアーとしていろんな質問をしたことがあります。

また、デザイン誌「アイデア」特別号(2008年9月号)としてD&DEPARTMENT PROJECT号を作る話が上がった際、版元の誠文堂新光社から「深澤直人さんと巻末対談したらどうか」という提案もあり、お会いして対談させていただいたこともありました。そうした中で、深澤さん自身が自分の作風について「ふつう」というキーワードを発したことが大きなきっかけでした。

その後、深澤さんは世界中で活躍されるわけですが、この「ふつう」という言葉は、深澤直人さんを代表して言い表すものとして、また、ご自身も積極的に使う言葉として広がっていったのです。

一方、僕ら「d」は、ロングライフデザインを紹介する小冊子「d long life design」を季刊誌として発刊。深澤さんに連載をお願いしたところ、快く引き受けてくださり、それは「d design travel」へと引き継がれ、このたび書籍化となりました。

僕との対談後、深澤さんは猛烈に忙しくなっていきましたが、おそらく、この「ふつう」という言葉や、この連載に一話ずつ書くという行為を通じて、よりご自身のことを整理し、自らの考え方を際立たせていかれたのではないかと感じます。

「ふつう」という考え方は、プロダクトデザイナーのジャスパー・モリソンさんとの「スーパーノーマル」展(2006年)や、1999年から始まったデザイン展「WITHOUT THOUGHT」などを通じても発展していきました。

ちなみに、スーパーノーマル展では、その展示品の多くは「d」の取扱商品から多くが選ばれました。また、「without thought 6」では、会場に「d」奥沢本店を使って頂いたりと、「ふつう」という言葉のご縁は続き、深められていきました。

僕らの冊子で深澤さんの連載が進むにつれ、多くの出版社から「あの、連載を書籍にしたい」という申し出を頂くようになりますが、深澤さんに相談すると「これは、ぜひ、『d』から出したい」と。その頃、まだ現在のような「D&BOOKS」という出版事業部はありませんでしたので、僕らにとっても「いつか、深澤さんの連載を書籍化し、自分たちの会社の中に出版部を作り、そこから出せる日が来たらどんなにすてきなことだろう」と、大きな目標となり、僕らにとっても「ふつう」は、未来の指針になっていきました。

とにかく忙しい深澤さんに定期刊行物に連載を毎回ちゃんと書いて頂くのは、毎回かなり緊張することでした。しかし、先ほど書きました通り、深澤さんご自身にとっても、この「連載」は大切なものであったと思うのです。と、言いますのは、一度も原稿が滞ることなく、毎回、読み応えのある深澤さんならではの切り口、思考が読み取れるものとして編集部に届くのです。一つ一つが丁寧に記され、それは一歩一歩、書籍化の階段をみんなで登っていく気持ちにさせてくれるものでした。

いよいよ、書籍化は進み巻末対談をするためにNAOTO FUKASAWA事務所へ。なんだか、ゴール間近のアスリートのように、爽やかだった深澤さん。そして、心なしか、僕ら以上にうれしそうでした

書籍の巻末に締めくくりの対談を載せることが決まった日から、いつか深澤さんの事務所で迎える日のことをずっと思ってきました。事務所は何度かお邪魔したこともあり、これまではあまり緊張することもなかったのですが、この日だけは、特別な思いもあり、そして、深澤さんにもそんな表情がうかがえて、本当に和やかに、楽しく対談を終えることが出来ました。

民藝もサステイナブルもロングライフデザインも、ひとことで言えば「ふつう」である

深澤さんの事務所入り口

書籍タイトルが「ふつう」と決定した時から構想していた布張りの装丁の束(つか)見本を見て頂くと、深澤さんは多くを語らず「いいね」と。とにかく信頼を頂き、僕らがしたいようにしていい、という雰囲気が随時あり、この装丁のアイデアは確認のメールの段階から、OKを頂いていました。

問題は、表紙を布で張り、その小口を折り返さないで断ち落としたように仕上げるという僕のこだわりが、実はとても難しいものであるということ。書籍製本のほとんどはそれができず、美しく仕上がらないため、小口を折り返し、その上から紙なりを張って仕上げています(下の写真参照)。

普通はこうやって折り返して、小口を美しく始末しますが、今回のは切り落とした感じにしました

普通はこうやって折り返して、小口を美しく始末しますが、今回の書籍は切り落とした感じにしました

どうにか僕のこだわりが実現できたのは、京都の表具屋さんとの偶然の出会い。書籍の装丁のことばかり考えていたので、まさか掛け軸の技術がそこに応用できるなどとは想像もしていなかったのです。(表具屋は)このアイデアをとても気に入ってくださいました。

話を少し戻しますが、タイトルが「ふつう」と決まった瞬間から、今回採用した布張りの装丁が頭に浮かび、これ以外は考えませんでした。もちろん、「ふつうの本」「ふつうの装丁」など、書籍としての「ふつう」さも考えていくのですが、それ以上に完成した本が多くの人の手に届き、表紙をめくる時の様子、手の上で指が感じる質感を考えていくと、どうしても布でありたいと思いました。

構成をチェックする深澤さん。NAOTO FUKASAWA事務所にて

構成をチェックする深澤さん。NAOTO FUKASAWA事務所にて

紙ももちろん耐久性など、ロングライフな素材ですが、それ以上に年月を過ごしてほしいというイメージから、服やカーテン、ラグやエプロンのような、日常をずっと長く一緒に暮らすふつうの素材として布を選びました。やがて日に焼けたりして、裏表紙が変色したりしていくその様子をまとった「ふつう」という言葉とその本。この先のいかなる時代にあっても、変わることのないテーマを記したものとして、ずっと存在してほしいという願いを込めています。

深澤さんはやがて日本民藝館館長へ。私たち「d」も、小冊子を復刊し、民藝への興味は増すばかり。そして、何が「ふつう」かが問われる

ふつうって、ロングライフデザインのことでもある。そして、民藝のことを言っているようでもあります。

僕ら「d」は「ロングライフデザイン」をテーマに活動し、2020年で20年目。最近では地球温暖化などの諸問題から「サステイナブル」という言葉をよく耳にするようになりました。そして、個人的にも関心が深まる「民藝運動」。数年前に深澤さんが民藝館の館長になるとは、全く想像していませんでしたが、そうなることを聞くと、こんなに当てはまる人間像も他に見当たらないと思うのです。つまり「ふつう」と「民藝」は出合いました。

そして、私たち「d」もここ最近「サステイナブル」という言葉が気になり始めています。持続可能な……という意味ですが、自然由来のエネルギーを使うというところから「無理なく続いていく」という考えは、当初、プロダクトデザイン用語に近かったグッドデザイン賞の部門名でもある「ロングライフデザイン」が、時代と共に変化して、まさにサステイナブルと出合った感じがあります。

昨年参加した日本民藝夏期学校。民藝協会のある場所で持ち回りで開催され、昨年は富山県・砺波(となみ)が会場に。もっと早く知って、もっと早く学んでいたらよかったなと思うことばかりでした。「民藝」とはつまり「心の美しさから作り、発見できる美」のことでした。だからお寺などの「祈り」の場所から生まれたのですね。これは現代で言うとデザイン運動ですから、「東京にデザインミュージアムを!!」とか言っている人たちは、まずはここから学び始めないと、ですね

昨年参加した日本民藝夏期学校。民藝協会のある場所で持ち回りで開催され、昨年は富山県・砺波(となみ)が会場に。もっと早く知って、もっと早く学んでいたらよかったなと思うことばかりでした。「民藝」とはつまり「心の美しさから作り、発見できる美」のことでした。だからお寺などの「祈り」の場所から生まれたのですね。これは現代で言うとデザイン運動ですから、「東京にデザインミュージアムを!!」とか言っている人たちは、まずはここから学び始めないと、ですね

生活の中から生まれた雑器に美しさを見いだした柳宗悦は、その後、そんな美しさの様子に名前を探し「民衆的な工藝の美」、略して「民藝」とします。ふつうに暮らす中で、モノを何度も使っていくうちに改良が重ねられ、そこに生活になじむ色や仕上げが加わる。その健やかさから、美が芽生え始める。そこに誰かの作為的な心はなく、長くふつうに暮らす中から出てきたデザイン。サステイナブルにも「健やかさ」や「ふつうに継続的に暮らす」という感覚がある。

ロングライフデザインは健やかに長く続いてきた造形であり、それは民藝にも通じ、サステイナブルであり、あえて一言で言うと「ふつう」なんじゃないかと思うのです。ここにきて、この四つのキーワードは重なり合う。今はそれが重ならざるを得ないとても大切な時代なのではないかと感じます。簡単に言えば「何がふつうなのかを考える」時代なのだと思うのです。

2000年代の最初の頃、深澤さんはこう言っていました「”ふつう”が”ふつう”ではなかったから、”ふつう”という言葉は注目された」と。それから20年を経た今、まさに地球環境やテクノロジーの激変の世の中にあって誰しもが確かな価値軸を求め始めている。「ふつう」とはどういうことを言うのか、何をもって「ふつう」じゃなくなったのか、などと「ふつう」についてまた考え、そこから生活の価値を整理し、新しいものを作り出すための指針を探らないといけない時代が来るのではと思うのです。

約20年をかけて、この「ふつう」という名の本は現代に産み落とされようとしています。あらゆる人が「デザイン」に関わる時代に、ぜひ深澤さんの視点でもある「ふつう」を思考の中に取り入れて、健やかな未来を創造できたらいいなと思います。

なんだか自社の出版物の宣伝みたいな今回ですが、「ふつう」ってなくてはならない軸だと思います。この本が、みんなの中の「ふつう」を気づかせ、みんなが無理なく健やかに暮らす世の中になったらいいなと思います。ぜひ、読んでください。発売は5月くらいかなぁ……。

民藝もサステイナブルもロングライフデザインも、ひとことで言えば「ふつう」である

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PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2カ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

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