小川フミオのモーターカー

コロナウイルスと戦う自動車メーカー マスクや人工呼吸器を製造

最近、自動車メーカーが新型コロナウイルスと戦っているニュースが興味深い。世界中のメーカーは、感染拡大により生産や売り上げに打撃を受けている。が、自分たちなりのやり方でウイルスに“反撃”しようという会社が続々と出てきている。

【TOP写真:人工呼吸器を製造する、スペインの自動車メーカー・セアトの工場(写真=SEAT提供)】

2019年に中国経済の失速で国際市場が縮小したのが、最初の“つまずき”だった。そこに19年暮れからの感染の広がり。今では、ほとんどのメーカーが工場閉鎖を余儀なくされているのだ。

3Dプリンターの技術で医療機器のパーツを製造するメルセデス・ベンツ(写真=Daimler提供)

3Dプリンターの技術で医療機器のパーツを製造するメルセデス・ベンツ(写真=Daimler提供)

自動車は作れなくても、出来ることはある。そう考えた自動車メーカーがやり始めたのは、マスクや人工呼吸器など医療機器の製造への貢献だ。自動車生産にはほとんどの工業的な技術が含まれているため、やれることは多いという。

工場の一部でマスクを作る米ゼネラルモーターズ(写真=General Motors提供)

工場の一部でマスクを作る米ゼネラルモーターズ(写真=General Motors提供)

人工呼吸器やマスクの生産のために工場の施設を使うことを、米国のゼネラルモーターズやフォードが発表して話題になったのは記憶に新しい。

 
マスクを作る米ゼネラルモーターズの従業員(写真=General Motors提供)

マスクを作る米ゼネラルモーターズの従業員(写真=General Motors提供)

欧州でも同様の動きが広がる。例えば、フォルクスワーゲン系列のスペインブランド、セアト。バルセロナ郊外に持つメイン工場では、看板車種であるレオンの製造ラインを改造して、人工呼吸器の製造を始めているのだ。

「ウィンドスクリーンのワイパーを動かすモーターとギアボックスのシャフト、それに(3Dプリンターによる)新設計の部品など、人工呼吸器は80のパーツで組み立てられます」(セアト広報)。現在、認証待ちとのことだ。

セアトは50年代に、当時のフランコ独裁政権下で誕生した自動車メーカーだ。82年にフォルクスワーゲンに買収されるまでは、フィアットがイタリアでの生産を終了した車種のラインそのものを持ちこんでのクルマづくり。スペイン人には「欧州のなかの二等国の気分になる」とたいそう評判が悪かった。

しかし80年代から90年代にかけて、フォルクスワーゲンによる巨額な資本投下で、みるみるうちに大きく成長。しかも優秀な人材がしっかりした舵(かじ)取りをして、ブランド力を身につけるまでになった。

内装の縫製部門でマスクを縫うランボルギーニ(写真=Lamborghini提供)

内装の縫製部門でマスクを縫うランボルギーニ(写真=Lamborghini提供)

例をあげれば、ひとりはデザイナーだ。90年代から10年代にかけてフォルクスワーゲングループのデザイン部門で重責を果たしてきたワルター・マリア・デ・シルバ氏は、99年から02年にかけてのセアトのデザインディレクター時代に、個性ある魅力的なモデルの数々を送り出した。

20年1月にルノーのCEOに指名されたルカ・デメオ氏は、直近までセアトのチーフエグゼクティブを務めていた人だ。セアトを、親会社であるフォルクスワーゲンとはひと味ちがう、環境コンシャスであり、都市型のユニークなコンセプトを手がけるブランドと位置付けるのに成功していた。

 

一方同じフォルクスワーゲン・グループに属するランボルギーニも、自動車の生産工場を使って、ボローニャの病院のためにマスクと、顔につける透明プレクシグラス製のフェイスシールドを生産し始めた。

ランボルギーニが作る顔面保護用シールド(写真=Lamborghini提供)

ランボルギーニが作る顔面保護用シールド(写真=Lamborghini提供)

マスクは、同社でスーパースポーツカーの内装を手がけるラインで“製造”するそうだ。高級車では、シートやステアリングホイールなど革で覆って手で縫うという手作業の部分をあえて残してきたため、じつは、マスクの縫製などはお手のものであろう。

「この緊急事態下では明確な貢献をすることこそが重要です」。ランボルギーニのステファノ・ドメニカリCEOは談話を発表している。以前、フランスの高級ファッションブランドがマスクを製造するというニュースが話題を呼んだように、手作業の大事さを思い知らせてくれるニュースではないか。

フォルクスワーゲン自体、3Dプリントセンターを使ってフェイスマスクの製造を開始。加えて、アウディ、ベントレー、ブガッティ、MANトラック&バス、ポルシェ、フォルクスワーゲン商用車、フォルクスワーゲングループコンポーネント、フォルクスワーゲンモータースポーツといった傘下の工場でも50台を超える3Dプリンターを稼働。さらにその数を増やしていくそうだ。

フォードでは電源のいらない人工呼吸器を製造(写真=Ford提供)

フォードでは電源のいらない人工呼吸器を製造(写真=Ford提供)

メルセデス・ベンツは、社内の3Dプリンターの技術を提供し、新型コロナウイルス感染者のための医療器具のパーツを製造すると発表している。

通常、3Dプリンターはプロトタイプやごく少量のスペシャルティーカーの部品を作るのに使われている技術だ。F1をはじめ、数々の実験車を手がけるメルセデス・ベンツでは専任の技術者が多い。

「経験を積んできた技術によって、医療分野で役立てるでしょう」と、同社ではプレスリリースに記している。

米ゼネラルモーターズはインディアナ州の工場で人工呼吸器を生産するための従業員の訓練を開始している(写真=General Motors提供)

米ゼネラルモーターズはインディアナ州の工場で人工呼吸器を生産するための従業員の訓練を開始している(写真=General Motors提供)

テスラのイーロン・マスクCEOは自身のアカウントで人工呼吸器を多くの医療機関に無償提供するとツイートしている。各病院関係者のツイッターでは、「40台の人工呼吸器をありがとう!」(コニーアイランドにある「ニューヨークシティー・ヘルス+ホスピタルズ」)など、複数の投稿が見つけられる。

なかには構造的に適合していない人工呼吸器があるとか、納期が遅すぎて、コロナウイルス感染患者数の増大に間に合わないとか、危惧する声もあるようだが、医療機関の適合審査を通れば、もちろん、問題ないし、遅くても、やらないより、はるかにいいだろうと思う。

【動画】テスラによる人工呼吸器の説明

自動車のショーの会場も感染患者の受け入れ施設に使われたりしている。もとの平常に戻るにはまだまだ時間がかかりそうだ。自動車関係者の健闘に感謝しつつ、私たちは、自分が健康でいて、かつ感染予防に努め、そしてひとに感染させないよう努力するのが、なにより大事だとキモに銘じていよう。

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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