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『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインに込めた愛とこだわり―— イリヤ・クブシノブ

人生へ大きな影響を与えた作品に携わる―—。そこには、どれほどの喜びがあるのだろうか。
2020年4月23日からNetflixで全世界独占配信されるアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045(以下、SAC_2045)』のキャラクターデザインを務める、イリヤ・クブシノブさん。ロシア出身で、現在は日本で活動しているイラストレーターだ。透明感、みずみずしさを感じるイラストは、日本のみならず世界で高い人気を誇っている。

攻殻機動隊SAC.2045ビジュアル

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

そんな彼がいまの道に進んだキッカケが、1995年に公開された映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊(以下、GITS)』だった。

攻殻機動隊は「共に歩んできた作品」

当時6歳だったイリヤさん。ある日、テレビで流れていた『GITS(英語吹き替え版)』を偶然見た。
それが、『攻殻機動隊』との出会い。「日本のアニメだと分からなかった」と振り返るが、複雑なストーリーでありながら、ビジュアルや世界観に魅力を感じ、幼い心に強い印象を残したという。

「アクションシーンや長いカットでキャラクターを動かす映像に、今まで見たことのないアニメだと思いました。内容が理解できなくても、そこにとても感銘を受け、アニメに興味が湧きました。いま考えると、家に1人でいて、お母さんがいないときで良かった。頭が爆発したり、女の子が裸になったりするから、『怖い映画見ないで!』と止められていたかもしれないので(笑)」

イリヤさんにとって、『GITS』から始まる『攻殻機動隊』のさまざまなシリーズは、何回見直しても楽しめる作品だ。その関係性を「一緒に生きてきた作品」と表現し、主人公の草薙素子を「仲間」「人生を共に歩んできた、離れたくない友だち」と呼ぶ。

原作もアニメも世界中に熱いファンがいる『攻殻機動隊』。2017年にハリウッドで実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』が公開され、『SAC_2045』はNetflixオリジナルアニメとして全世界に配信される。ここまで世界から注目される作品となった魅力についてイリヤさんに聞くと、「ただのエンターテインメントにとどまらない深いアイデア」「世界に通用する設定」と語ってくれた。

「『攻殻機動隊』の作り込まれたアイデアは、何度見ても、発見があります。自分が年齢を重ねてから見直すと、また違った発見がある。そしてSFは全世界の人に伝わる設定です。例えば、日本の日常を描いたアニメの場合は、もしかしたら外国人から見たら、文化や生活の違いから理解できない部分があるかもしれない。しかし、SFは誰にとっても共通の未来になる可能性があります。だからこそ、世界でも受け入れられている」

アニメに最適なキャラクターデザインをつくる

『攻殻機動隊』の新シリーズ『SAC_2045』でキャラクターデザインを手掛けることになり、イリヤさんは「最初はとても緊張していた」と振り返る。多くのファンがいる作品だからこそ、それぞれの中に素子や公安9課のキャラクターのイメージがある。大役に責任を感じながらも、『攻殻機動隊』のファン代表と思いながら正直なイメージで描くことを決意。「任せてもらったからには一生懸命頑張ろうと思った」と話す。

キャラクターデザインをする際には、『SAC_2045』で監督を務める神山健治さんと荒牧伸志さんから要望やイメージを汲み取り、一緒につくり上げていった。本作はフル3DCGアニメーションになるため3DCGに最適なデザインに、そして物語の世界観に合うデザインを目指したそうだ。

「一人で描くのではなく監督たちと共につくったので、緊張したけどプレッシャーはありませんでした」

ただ、最初はうまくデザインできず、監督たちから「この素子や9課のイメージは少し違う」と言われたことも。例えば、当初の素子のデザインでは、束感があって、動きがあまり感じられないスタイルの前髪を描いていた。しかし、「アニメのキャラクターだからもっと髪の動きがあるように」と要望を受けて、いまのヘアスタイルに修正したのだそうだ。

イラストとして魅力的なキャラクターデザインが、必ずしも“アニメに合うキャラクターデザイン”ではない。アニメに合うキャラクターデザインについて話し合いを重ねていき、完成したのが2018年に初めて公開された素子のイラストだった。

ネット上で初めて公開された草薙素子のイラスト

ネット上で初めて公開された草薙素子のイラスト (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

「このイラストを見せたとき、監督たちは安心したと思います。『素子っぽいね、イリヤに任せても大丈夫だね』と。それまでは、『私でいいんですか……』と緊張していたので、私も安心しました」

過去作へのリスペクトを込めた、新たな草薙素子

イリヤさんの描くキャラクターは、顔の印象が強く残る。目と唇が細かく描き込まれているからだろう。本人もこだわりを持って描いているパーツだ。彼の中では、イラストを描く上で「顔が一番大事」という考え方を持っている。そのため、服をデザインするときでも、“顔が映えること”を重視してきたという。以前、キャラクター/ビジュアルを務めた映画『バースデー・ワンダーランド』でも同様だ。

『SAC_2045』では服のディテールを意識。動きのあるシーンでは、身体のシルエットや服のしわ、影がハッキリ見えるデザインとなっている。
『SAC_2045』の素子には、過去の『攻殻機動隊』シリーズから引き継がれた部分もある。まず素子のうなじが見える後ろ髪の短さは、首にネットに接続するための端子のコネクタがあるため。横から前にかけては長い、前下がりになっており、女性らしさが引き立つと同時に、アクションシーンでは動きの出る髪型だ。また、神山監督の『STAND ALONE COMPLEX』で描かれた素子のファッション、つまり白いレオタードに浅めのパンツ、短いジャケットというスタイル、これら素子のトレードマークともいえる要素は『SAC_2045』でも取り入れたそうだ。

『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインに込めた愛とこだわり―— イリヤ・クブシノブ

『攻殻機動隊 SAC_2045』草薙素子 (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

「過去のシリーズへの尊敬と、新しさを混ぜてデザインしました。髪型は過去の作品から受け継ぎ、服は腰の部分の肌が見えるデザインにして、ジャケットの丈の短さを意識しました。新しいけど、素子は素子だとすぐ分かるようにしています」

できあがったイラストでは、過去のスタイリッシュでカッコいい素子のイメージとイリヤさんの描くかわいらしさが絶妙に共存している。
一方、イリヤさんが得意とする「かわいい」に振り切った新キャラクターも『SAC_2045』には登場する。バトーに対して特別な感情を持っている少女、江崎プリンだ。彼女を描く際には、監督たちから「イリヤっぽく描いてほしい」と全面的に任されたそう。
プリンの短パンのスーツ姿には、イリヤさんの好きな要素を詰め込んでいる。「プリンは、素子と同じくらい描いていて楽しかった」と振り返った。

「監督からはピンク色の髪とメガネ、あと“バトーに嫌われる感じで”という指定がありました。それ以外は好きに描いて良かったので、私が普段描くような前髪にしました。服も自分のファッションブランドがあればこういう服をつくるという感じで、“好き”を詰めました」

『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインに込めた愛とこだわり―— イリヤ・クブシノブ

江崎プリン (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

イラスト以上に魅力的なキャラクター表現

自分の描いたキャラクターたちが、3DCGモデルとなった姿を初めて見たときの感想を聞くと、「とても感動した」と一言。特に、唇の表現は、自分のイラストより綺麗に表現されていたと絶賛した。

「私の描く唇には立体感があるので、2Dのアニメっぽくない表現だと感じていて。初めて素子のモデルを見たときは、3DCGに合うんだなと思いました」

さらに、田中敦子さんの大ファンだというイリヤさん。素子の声があてられた映像を見て、「私が描いた素子に、田中さんの素敵な声がついて光栄です」と喜びをかみしめた。
3DCGアニメーションは完成するまでに多くの段階を踏むが、それを見るたびに、イリヤさんは感動を募らせていった。

「最初の3DCGモデルを見たとき、動きを見たとき、声があたったとき、そして完成された映像を見たとき、どんどん感動が高まります。アニメ制作は大変な仕事だけど、チームでつくり上げるからこそ、一人ではつくることのできない作品を生み出せる。完成した映像をみんなで見ると、次も頑張ろうと思えるんです。この仕事で一番喜びを感じる瞬間です」

『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインに込めた愛とこだわり―— イリヤ・クブシノブ

キャラクターデザイナー発表時に公開された草薙素子のビジュアル (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

最後に、『攻殻機動隊』シリーズの大ファンであるイリヤさんは『SAC_2045』について、「本作もとても良いです」と話してくれた。

「見るとドキドキします。世界観のおもしろさ、アクションシーンのカッコよさ、個性豊かな新しいキャラクター……リアリティーのある物語にもなっていて、世界中の人にしっかり伝わる作品になっています。おもしろいですよ」

3DCGアニメーションのリアリティーのある映像表現にイリヤさんのキャラクターデザインが入ることで、3DCGが苦手な人でも見やすくなっている。世界観はもちろんのこと、イリヤさんが絶賛するキャラクターの細かいパーツにも注目して見てみよう。

(文・阿部裕華)

プロフィール

『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインに込めた愛とこだわり―— イリヤ・クブシノブ

イリヤ・クブシノブ

イラストレーター。ロシア出身、日本在住。2017年から日本のアニメ業界に参加し、アニメ
映画『バースデー・ワンダーランド』、Netflixオリジナルアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラ
クターデザインなどを担当。最新画集『ETERNAL』(パイ インターナショナル)が発売中。
HP:www.patreon.com/Kuvshinov_Ilya

■最新画集『ETERNAL』(パイ インターナショナル)

『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインに込めた愛とこだわり―— イリヤ・クブシノブ

『攻殻機動隊 SAC_2045』作品情報

攻殻機動隊SAC2045ビジュアル

<キャスト>
草薙素子:田中敦子/荒巻大輔:阪 脩/バトー:大塚明夫/トグサ:山寺宏一
イシカワ:仲野 裕/サイトー:大川 透/パズ:小野塚貴志/ボーマ:山口太郎/タチコマ:玉川砂
記子/江崎プリン:潘めぐみ/スタンダード:津田健次郎

<スタッフ>
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊)
監督:神山健治 × 荒牧伸志
シリーズ構成:神山健治
キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:戸田信子 × 陣内一真
オープニングテーマ:「Fly with me」millennium parade × ghost in the shell: SAC_2045
エンディングテーマ:「sustain++;」Mili
音楽制作:フライングドッグ
制作:Production I.G × SOLA DIGITAL ARTS
製作:攻殻機動隊2045製作委員会
©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

公式サイト www.ghostintheshell-sac2045.jp
公式Twitter twitter.com/gitssac2045(@gitssac2045)
公式Facebook www.facebook.com/gitssac2045
公式Instagram www.instagram.com/gitssac2045_official

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PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエーターにお熱。

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