いしわたり淳治のWORD HUNT

もう一度聞きたかった…… 志村けんさん「だいじょうぶだぁ」に宿る不思議な魔法

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし論評していく。今月は次の5本。

 1 “だいじょうぶだぁ”(志村けん)
 2 “うちで踊ろう”(星野源)
 3 “私、これ、メガネはダテですから”(キダ・タロー)
 4 “山形県民は生け垣を食べる”(あき竹城)
 5 “ETCカードが挿入されていません

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる五つのフレーズ

 

もう一度聞きたかった…… 志村けんさん「だいじょうぶだぁ」に宿る不思議な魔法

子供の頃、『8時だョ!全員集合』も、『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』も、『ドリフ大爆笑』も、『志村けんのバカ殿様』も、『志村けんのだいじょうぶだぁ』もよく見ていた。あの頃、それが「コント」というものだとも知らずに、なんか笑える番組という感覚で見ていた。

番組の中で志村けんさんは馬鹿なことばかりしていつも怒られているおじさんだったので、あの頃の僕らには志村さんにどこか仲間意識みたいなものがあった。だから、呼び捨てで「しむら」だった。公開収録だった『8時だョ!全員集合』での、客席からの「しむら、うしろ〜!」の声は、日本中の子供たちのリアルな叫びだった。

志村さんが生み出したギャグの中で私が一番好きなのは「だいじょうぶだぁ」だ。それも、コント中に奇妙な三叉(さんさ)の太鼓をたたきながら唱える「だ〜いじょ〜ぶだぁ〜」の方ではなく、人間ルーレットのコーナーの時にBGMで繰り返し流れる「だいじょうぶだぁ」の方が好きだった。ルーレットの回転が遅くなるにつれて「だいじょうぶだぁ」の声も遅くなって、間延びする感じも好きだった。

あの「だいじょうぶだぁ」の言い方の力の抜ける感じには魔法が宿っている気がする。例えば風邪で熱が出た時などに、人から「大丈夫?」と聞かれたとする。そこで「うん、大丈夫……」と答えるより、あの言い方で「だいじょうぶだぁ〜」と答える方が、何十倍も大丈夫な感じがする。相手に必要以上に心配をかけさせない不思議な魔法がこの言葉には宿っている気がする。

志村さんの「だいじょうぶだぁ」がもう一回聞きたかった。心からご冥福をお祈り致します。

 

もう一度聞きたかった…… 志村けんさん「だいじょうぶだぁ」に宿る不思議な魔法

星野源さんが4月3日にInstagramにアップした『うちで踊ろう』。「扉閉じれば明日が生まれるなら」「うちで踊ろう」「生きて踊ろう」「全ての歌で手をつなごう」「生きてまた会おう」「僕らそれぞれの場所で重なり合えそうだ」といった歌詞が並んでいる。このメッセージを、この温度感で、この瞬発力で、これだけたくさんの人に発信することができる人は今の日本には彼しかいない。とてもすてきだ。

「うちで踊ろう」という明快な言葉を見つけて、ともすれば重くなりすぎそうなメッセージを軽やかに落とし込んだのも素晴らしいし、それをメロディーにのせて、弾き語り映像をInstagramにすぐにアップして、それを見た人たちがその曲を使ってアレンジしたり歌ったりしながら、歌が広がって、人々がつながっていくという一連の流れがまた素晴らしい。

これが一昔前なら、ミュージシャンが何か発信したいと思っても、どうしてもスタジオという密室に大人が何人か集まってレコーディングをして、それなりの会議を経て、レコード会社を介して、世の中に発表するしかなかった。でも、そんなことはこの新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)した状況下ではなかなかできることではない。『うちで踊ろう』は、今の時代でなければ生まれなかった曲と言える。

家にいることは体を病ませないためには必要なことだけれど、それが孤立や孤独といった心を病む要因になってはいけない。「はなれて、つながる」というとても大事な役割をこの歌は成し遂げている気がする。

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家でじっとしていたらこんな曲ができました。  ”うちで踊ろう”  たまに重なり合うよな 僕ら 扉閉じれば 明日が生まれるなら 遊ぼう 一緒に  うちで踊ろう ひとり踊ろう 変わらぬ鼓動 弾ませろよ 生きて踊ろう 僕らそれぞれの場所で 重なり合うよ  うちで歌おう 悲しみの向こう 全ての歌で 手を繋ごう 生きてまた会おう 僕らそれぞれの場所で 重なり合えそうだ  #うちで踊ろう #星野源 #DancingOnTheInside  誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?

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もう一度聞きたかった…… 志村けんさん「だいじょうぶだぁ」に宿る不思議な魔法

4月3日放送の『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送テレビ)でのこと。「憧れのキダ・タロー最高顧問にお礼を言いたい」という依頼の中で、キダ・タローさんに感化されて努力し続けた結果、中身も外見もキダさんになれたと自負する依頼者と対面したキダ・タローさんが、「私、これ、メガネはダテですから」と言った。意外である。キダ・タローさんは伊達メガネ。なんだか面白いなあと思った。

たまに伊達メガネの人に会うけれど、これからは「へえー、伊達メガネなんですね。じゃあ、キダ・タローさんと同じですね」と言ってみようかなと思う。初対面でこれを言って、相手が笑ってくれたら何だか気が合う人のような感じがするし、リアクションが薄かったらあまり話の合わない人かもしれない、という心構えができる。

新しい出会いも多くなる季節。自分がどういうことを面白いと感じる人間であるかを、短く自己紹介できる何げない言葉をひとつ持っておくのは、初対面のコミュニケーションでは大事なことではないかしらと思う。

 

もう一度聞きたかった…… 志村けんさん「だいじょうぶだぁ」に宿る不思議な魔法

3月26日放送の日本テレビ『秘密のケンミンSHOW みのさん大慰労会SP !!』。13年間メイン司会を務めてきたみのもんたさんの足跡を振り返る内容だったのだけれど、ほとんどが見たことのある映像で自分でも驚いた。どうやら私はこの番組をかなり見ていたようである。

私が初めてこの番組を見たのは、あき竹城さんが「山形県民は生け垣を食べる」とカミングアウトした回だったと思う。山形県民は自宅の生け垣として植えているウコギという植物を食べるのだそう。翌日、山形県出身の人と仕事で会ったので、そのことについて話をしたのを覚えている。

よく「人生の主役は自分自身だ」みたいな言葉を耳にする。とはいえ、いくら自分が主役だなんて言われても、こんな平凡な毎日じゃあ仮にドラマ化したって面白くもなんともないよ、と思っている人も多いと思う。でも、誰もが他の誰とも違う人生を生きていることは、紛れもない事実である。それをこの『秘密のケンミンSHOW』でインタビューを受けている皆さんが証明してくれている気がする。

突然、カメラを向けられて、「生け垣を食べるんですか?」と聞かれ、「えっ、なんでそんな当たり前のことを聞くの?」と驚いた顔をする、それこそがスペシャルな人生を生きている証拠である。自分では普通だと思っている習慣が、全国的には非常に珍しい行為で、カメラを向けられた瞬間、紛れもなくその人は番組の中で“主役”になって、全国ネットのゴールデンタイムに出演している。私はその時の表情を見るのが、大好きなのである。

この番組のおかげでその地方の名物や風習に詳しくなり、初対面の人でも話題が広がるようになった。相手の「なんでそんなこと知ってるんですか」みたいな顔を見るのは楽しいし、誰もが自分の故郷の話になると愛と憎悪が入り交じった毒っ気を吐き出してくれるから面白い。

 

もう一度聞きたかった…… 志村けんさん「だいじょうぶだぁ」に宿る不思議な魔法

いま、アフリカや東南アジアで一番有名な日本語は「ETCカードが挿入されていません」である、という話を耳にした。

日本の中古車の人気が高いそれらの地域にETC車載器が搭載されたまま輸出される車もあり、エンジンをかけた時にこの文言を発することがあるという。

すると輸入先の国では、日本はおもてなしの国だから、この言葉は車があいさつをしてくれているのだと思い込み、「ETCカードが挿入されていません」を「こんにちは」の意味の日本語と勘違いしてしまう人が出てくる。そのため、日本からの旅行客が、現地の人に突然、「ETCカードが挿入されていません」と声を掛けられることもあるらしい。

面白い話だと思った。と同時に、この場合私たちは何と返事をするのが正解なのだろうと、ふと思った。

仮に相手が「Hello」と英語で話しかけてきたら、こちらも「Hello」と返すのがあいさつの基本というものである。「Hello」と声を掛けられたのに「こんにちは」だの「ごきげんよろしゅう」だのとは言わない。そんなことをして、初対面でいきなりお互いの心に距離感ができてしまっては、そもそもあいさつの意味がない。相手の選んだ言語で返してあげるのがあいさつの基本というものだろう。

となると、「ETCカードが挿入されていません」は日本語なので、日本語で返すのが礼儀である。しかも、それを相手が「こんにちは」の意味で言っている以上、こちらも「ETCカードが挿入されていません」と返すのが正解ではないかと思うのだ。こちらが気を利かせて、正しく「こんにちは」なんて返しても、相手は怪訝(けげん)な顔をするに決まっている。

でも、この文言は実際口に出してみると、かなりセンテンスが長く、嚙(か)みそうなフレーズである。アフリカや東南アジアに旅行する時は、この言葉を練習してから行った方がいいかもしれない。

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音楽が生まれる日々

外出しない日々になって、ネットで買い物することも増えて、おかげで家に段ボールも増える。子供たちは常に時間と体力をもてあましているので、子供の考えたオリジナルのレンジャーの変身アイテムや武器を段ボールで精巧に作ってあげるのが日課になってきた。いくつも考えているうちに、結構よくできた設定が固まってきたので、レンジャーや合体ロボットやその敵などを絵に描いて色を塗り、ホチキスで製本して図鑑のようなものを作って、盛り上がっている。

しまいには主題歌も考えるようになってきて、最近はそれを録音するのが楽しい。子供は突然アドリブで歌い始めるのだけれど、だいたい最初のテイクが秀逸であることが多いから、メロディーや歌詞が変わってしまう前にこっそり隠し録(ど)りする。あとで耳コピしてギターで弾いてあげたりすると、今度はうれしそうにその振り付けまで考え出す。私は普段、音楽の仕事をしているけれど、こんなにもきゃっきゃ言って楽しそうに音楽を作っている子供たちを見ていると、もっと私も笑って仕事をしなければなと思う。

「君はいけるのか! どっちなんだ! いくぞ〜!」という、人にたずねておきながら有無を言わさず戦いへ連れていくドSな歌を、家族みんなでたまに口ずさんでいる。ちなみにサビは「ビクビク ビクビク ビクトリー」という歌詞で、恐怖心と勇敢な気持ちが入り交じった名フレーズである。

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PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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