大御所シェフのいつものごはん

全て飲み干せるお茶のスープ 大御所シェフも大絶賛の超ヘルシーラーメン

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす連載「大御所シェフのいつものごはん」。前回に引き続き、高級フレンチレストラン「ラ・ロシェル」の工藤敏之シェフが通うお店を紹介します。今回は、たまプラーザの中国料理店「黒龍」です。

今月の大御所シェフ

全て飲み干せるお茶のスープ 大御所シェフも大絶賛の超ヘルシーラーメン

工藤敏之さん(くどう・としゆき)
1957年、北海道今金町の農家に生まれる。小さい頃から忙しい両親のかわりに食事の支度をするのが苦にならず、自然とコックをめざす。函館の調理師学校を卒業後、上京。7年間働いて古典フランス料理を身につけた「東京エアポートレストラン」を辞める間際、生涯の師となる坂井宏行さんと出会い、85年青山「ラ・ロシェル」へ。89年の渋谷移転と同時にシェフに就任。現在、3店舗のエグゼクティブシェフとして多忙な日々を過ごす。

【大御所シェフが通う店】黒龍(たまプラーザ)

たまプラーザ駅北口から徒歩3分、商店街に立つビルの2階

たまプラーザ駅北口から徒歩3分、商店街に立つビルの2階

前回に続き、工藤敏之さんの地元たまプラーザで行きつけのお店は、駅から徒歩3分の中国料理店「黒龍」。創業は1974年、おそらく数ある駅周辺の飲食店でいちばんの老舗である。「地域の役に立つ庶民派中華」と「健康によい料理」をモットーに、46年間かわらぬ人気で親しまれてきた。3世代にわたって訪れる客も多いそうだ。

外食の条件は、「しっかりおなかにたまって、リーズナブルなこと」という工藤さんが、もっとも足しげく訪れるふだん使いのレストランだ。

毎回食べる工藤さんの絶対的な定番は、焼きギョーザ。引っ越してきた13年前から通っているが、シェフが現在の深田孝さんにかわってから、皮と具ともにより好みのタイプになって、店に来る回数も増えたそうだ。

そのギョーザは、工藤さんいわく「見るだけでおいしいことがわかります。底面のカリッとした焼き色と、ひだを寄せている側のふわっとした感じのコントラストは、ていねいに焼いている証拠」。最初は、ふわふわもちもちとして柔らかい皮と肉汁が口中を満たし、次第にかたい焼き面の存在感が強くなってきて最後まで残り、余韻を楽しめるそうだ。さすが、プロの見方、味わい方は違う。

美しい盛りつけからも、ていねいな仕事がわかる。工藤さんは、しょうゆだけで食べる派

美しい盛りつけからも、ていねいな仕事がわかる。工藤さんは、しょうゆだけで食べる派

幅4センチ、長さ1メートル! 驚きの麺

黒龍は、店名に「麺百花」(正式名称は「中国料理 黒龍 麺百花」)とつけているように、麺料理が充実している。「ラーメン屋のラーメンより、中華屋さんのラーメンのほうが好き」という工藤さんは、迷いながらも、いつもオーソドックスなしょうゆ味を頼んでしまうそうだが、今回は社長の浅尾宏明さんと深田シェフに勧められ、創作麺3種にチャレンジした。

ひとつめは、「ビャンビャン麺」。古代中国の都・長安として栄えた西安市名物の幅広麺で、生地を叩きつけて伸ばすときの音から名づけられたといわれる。ビャンは、中国でいちばん画数が多い(56画から58画まで諸説ある)漢字だそうだ。

これが漢字のビャン。現地ではスパイスやハーブ、オイルをかけ、あえ麺で食べることが多い

これが漢字のビャン。現地ではスパイスやハーブ、オイルをかけ、あえ麺で食べることが多い

ピリ辛のエビチリソースにチーズを溶かし混ぜて、麺をあえ「チリビャン」980円

ピリ辛のエビチリソースにチーズを溶かし混ぜて、麺をあえた「チリビャン」980円

オイスターソースと黒しょうゆで炒めた「黒ビャン」も魅力的だが、工藤さんが選んだのは、エビチリソースとチーズでからめた「チリビャン」。見たところは、トマトソースであえたパスタといった風情。

麺を持ち上げた工藤さんは、その太さと長さに驚きの声を上げた。幅は4センチ、長さはなんと1メートルもある。国産の小麦粉で生地を作り、一晩寝かせてから打った麺は、もちもち感が強力だ。

「かみごたえが独特で、麺を食べているという実感がすごい」と工藤さん。食感に特徴があるので飽きが来なく、「なんぼでも食べられそう」。エビチリソースとチーズとの思いがけない相性も抜群である。

中国ではそのまま切らずに食べるそうだが、取り分け用にトングとハサミを出してくれる

中国ではそのまま切らずに食べるそうだが、取り分け用にトングとハサミを出してくれる

「イタリアの手打ちパスタともまた違う食感。かむのが楽しい」と工藤さん

「イタリアの手打ちパスタともまた違う食感。かむのが楽しい」と工藤さん

弾力のすごさに「普通の麺とぜんぜん違う!」

次は、麺メニューでもっともリピーター率が高いという「サンラー湯麺」。サンは酸っぱい、ラーは辛いの意味で、酸っぱくて辛いスープ麺である。辛みにはラー油を使う店が多いが、黒龍ではコショウで辛さを出すので、油っこさがない。北京風のやり方だ。

卵をふわふわにとじるのがこだわりの「サンラー湯麺」1030円。生おから麺はプラス180円

卵をふわふわにとじるのがこだわりの「サンラー湯麺」1030円。生おから麺はプラス180円

実は、黒龍にはビャンビャン麺ともうひとつ、名物の麺がある。生のおからを30パーセント配合した麺である。通常の麺より低カロリーで、たんぱく質と食物繊維を多く含み、最後まで伸びないのが特徴。すべてのスープ麺はプラス180円で生おから麺に変更ができ、サンラースープとはとくによく合うそうなので、工藤さんはさっそく試してみることにした。

一見すると、かき玉スープ。工藤さんは、ふわふわとろとろの卵の下から麺を引き上げながら、「とろみの具合がいい。麺とスープが分離せず、見事にからんでいます」。

スープのとろみ具合が絶妙で、ソースのように麺によくからむ

スープのとろみ具合が絶妙で、ソースのように麺によくからむ

続けてひと口食べると「普通の麺とぜんぜん違う! かむと、ぐっと押し返すような弾力」。身が詰まった太麺なのに、食べた感じがとても軽いそうだ。

途中で、ミックスペッパー(白・黒・緑・ピンク)の粗挽(び)き、中国の黒酢を加えるとまた味が変化し、食が進む。「粗挽きならではの高い香りと、黒酢の濃厚な風味で、全体の調和がいっそう強まりました」と工藤さん。素晴らしい食レポだ。

二日酔いにならない!? お茶のラーメンスープ

三つめの「大人の飲みほし拉麺」は、最後までスープが飲み干せるだけでなく、食べる人すべてが健康になれるラーメンをめざして開発した。深田シェフ渾身(こんしん)の自信作である。

「大人ののみほし拉麺」930円。ハーフサイズの550円もある

「大人ののみほし拉麺」930円。ハーフサイズの550円もある

なによりの特徴は、スープがお茶であること。ただのお茶ではなく、無農薬栽培の大麦をはじめ、クマザサなど18種の材料を使ったノンカフェインの薬草茶である。また、かえし(ベースになるしょうゆタレ)にも、20種以上の漢方材料をしょうゆに配合している。塩分は、通常のラーメンの半分以下だ。実際に、飲んだ後に食べると、二日酔いにならないと、もっぱらの評判だそうだ。

こう聞くと、漢方薬くさそうに感じるが、「薬っぽさは皆無。あっさり、さっぱりしているけど深い。麺の細さも、洗練されたこのスープにぴったり」と工藤さんが評した麺は、スープとの相性を追求し、深田シェフが何十回となく試作を重ねて完成させた、極細のストレート麺。

のどごしがとてもよい極細麺。レモンの酸味がアクセントになる

のどごしがとてもよい極細麺。レモンの酸味がアクセントになる

具はスモークしたカモ肉ととろろ昆布。薬味はネギとレモン。和洋中すべての要素が入っている。スープを飲んだ工藤さんは、「コンソメも負けそう」。コンソメは、フレンチ最高峰の澄んだスープ、最高の賛辞である。

「体調のすぐれない方にはコンソメを勧めますが、もっと体によさそう」と工藤さん

「体調のすぐれない方にはコンソメを勧めていますが、このスープの方がもっと体によさそう」と工藤さん

肉汁あふれ出る小籠包

小籠包(しょうろんぽう)には、地域密着型の黒龍らしいエピソードがある。地元の横浜市立美しが丘東小学校の5年生と一緒に開発した。

春に桜が美しい土地柄なことから皮は桜色、5年2組の生徒たちだったので、5252(ゴツゴツ)した具材にしようと、歯ごたえのよい野菜をたっぷり入れることにした。いろいろな世代が楽しめて、食べると笑顔になれることが、子どたちの基本コンセプトだった。

コンセプトに沿って、深田シェフがレシピを考え、現在、近所に住む主婦5人が店に来て、毎日手作りしている。通常の小籠包より大きく皮は厚めなのは、皮自体のおいしさを味わうためだが、小麦粉だけだとかたくなりすぎるので、タピオカ粉を混ぜる。

小篭包は1個が160円で、注文は2個から

小篭包は1個が160円で、注文は2個から

「バクダンのように肉汁が口のなかで弾ける」という子どもたちの希望をかなえるには、肉汁だけでは足りないため、ゼラチンでかためたスープをあんに加えている。蒸すとゼラチンが溶けて肉汁とスープが一体化し、あふれ出る。

細部まで凝ったレシピを聞いて、しきりに感心する工藤さんに、「今度、フレンチと中華コラボの小籠包を作りませんか?」と、うれしそうな深田シェフ。このふたりなら、だれも考えつかないような小籠包が生まれるに違いない。ぜひ実現してほしい。

深田孝シェフ(左)と浅尾宏明社長。「おいしくて体によい庶民派中華で地域貢献」がモットーだ

深田孝シェフ(左)と浅尾宏明社長。「おいしくて体によい庶民派中華で地域貢献」がモットーだ

(撮影/小島マサヒロ 価格は全て税抜き)

店舗情報

中国料理 黒龍 麺百花
横浜市青葉区美しが丘2-16-1 グロープラザビル2F
東急田園都市線「たまプラーザ」駅より徒歩3分
045-901-0078
営業時間:月~土、祝日、祝前日 11:00~15:00 (L.O. 14:30)/17:00~22:30 (L.O. 22:00)
日 11:00~15:00 (L.O. 14:30)/17:00~22:00 (L.O. 21:30)
定休日:不定休
公式サイトはこちら

■お知らせ
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、同店は4月20日から無期限で営業時間を下記の通りに変更しています(定休日は変更なし)。この先、感染状況に応じて営業時間や休業日が変更される場合がありますので、来店の際はお電話でご確認ください。
11:00~20:30 (L.O. 20:00) 

また、同店では新型コロナウイルスの感染防止に向けて下記の対策を実施しています。
 ・全スタッフのマスク着用
 ・殺菌効果のある酸性水を使用した店内清掃
 ・店の入り口に利用者向けの酸性水を設置
 ・トイレにうがい薬を設置

大御所シェフの店

ラ・ロシェル 南青山
東京都港区南青山3-14-23
地下鉄「表参道」駅より徒歩3分
03-3478-5645
営業時間 :12:00~14:00(L.O.)/18:00~20:30(L.O.)
定休日:火曜日、水曜日(祝日を除く) 
*新型コロナウイルス拡大防止に伴い5月6日(水)まで休業
公式サイトはこちら

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PROFILE

畑中三応子

編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」では「ジャーナリズム」部門の大賞を受賞。著書に『ファッションフード、あります。——はやりの食べ物クロニクル』(紀伊國屋書店、ちくま文庫)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。

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