LONG LIFE DESIGN

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクターのナガオカケンメイさんが、ロングライフデザインについて執筆します。時には生活道具のことや、形のない考え方のようなお話も。

     ◇◆◇

コロナの影響で自粛が続きますが、この機会に普段気にしなかったことが見えたりして、たとえば今は家にいる時間について考えています。きっと僕だけではないですよね。普段は会社勤めの身なので、家の時間って、こんなに色々とあるんだなぁと、今の状況から学んでいます。

さて、今回も3話におつきあいください。まずは「買う」は「手入れ」の始まりという、僕が4月29日にTwitterで呟(つぶや)いたことについての解説です。何かを手に入れるということには、喜びと責任が必ずあるという体験も交えた話。

次は自分の仕事のことを少し書きました。僕はこんな感じですが、本業はグラフィックデザイナーなんです(笑)。その仕事への姿勢について書きました。

最後は先日出張でお世話になった富士吉田という町にあるゲストハウスのお話。オーナーの八木毅さんから聞けたのは、(ゲストハウスという場を)長い時間をかけて作りながら続けていくための考え方の、興味深いお話です。ではでは、しばしお付き合い願います。

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

2020年5月にオープンを予定している僕の店「D&DEPARTMENT」の韓国チェジュ島店。「今はこの準備で忙しい!!」と言いたいのですが、新型コロナウイルスの影響で、現場に行けなくなり、完全にネットを使ってコミュニケーションを取りながらも開業を目指しています。店もひとたび始まってしまったら、日々手間がかかるもの。1話目は、そんなお話から……

「買う」は「手入れ」の始まり

ロングライフデザインな話です。この自粛でテレビを見る時間が少し増え、ACジャパン(公共広告機構)の「犬を飼うこと」への意識を問う30秒CMを見ました。簡単に言うと、犬の寿命は12~20年。それにずっと付き合えないと、動物は飼ってはいけませんよ、という内容です。

昨年、僕の愛猫が大往生して、18歳で天国へ。ちなみに猫の平均寿命は家猫で15.3歳(平成30年全国犬猫飼育実態調査/ペットフード協会)。なので長生きしてくれました。18歳は人間の年に当てはめると約88歳。逝く間際は人間と同じで、いろんなことが起こります。いろんなところを汚したり、食べたり飲んだりできなくなったり……。その大変な経験があるので、このCMのメッセージはよく分かる半面、これを見ても全く分からない人も多いのでは、とも思うのです。

なんと言っても、我が家に可愛いペットがやってくるのですから、「ちゃんと飼えるの?」とか「お散歩に行けるの?」という言葉には、とにかく「絶対行ける、大丈夫」を繰り返す。みんな後から確実にやってくる現実のことをそのときは分からずに、手に入れたいとなる。それはそうですよね。欲しいものが手に入ることは、本当にうれしいこと。

静岡で老夫婦の両親と暮らす僕は、何かと心配ごとが付きまといます。足腰の力がなくなってきて「運動しなよ」とは言えない年齢なので、「体をなるべく動かそう」と言いながら、できることを探す。その一つに、補助的なものを買って与えるという、道具を買って解決するということがあります。

先日はエンジン付きの台車のようなものを買いました。それが最初は良かったのですが、1年も使ううちにエンジンがかかりにくくなったり、何かがどこかに詰まって鈍い音とともに動きも鈍くなったり……。

僕も親も、この手の手入れには弱く、先日親が近くの自動車整備工場に相談したら、ものすごい金額を請求されたようで、そんな面倒なことは、ホームセンターでこの最新型の夢の運搬機を買う瞬間は全く分からないし、想像もできないし、していない。「これが我が家に来たら、あの力仕事がうんと楽になるね」と、それだけが頭にあり、早く欲しい。早く家に運んでもらおう、となったことを思い出します。

動物もこの運搬機も、生活が豊かになるならば買えばいいんだとは思います。しかし、自分の家に来た時から「手入れ」「手間のかかること」は近い未来に必ずやってくる。僕はこの今は全く動かず使わなくなった運搬機のことをたまに思い出していたので、ACジャパンの犬のCMにとても敏感に反応できました。ありがたい気づきです。そこで忘れないように、俳句を読むようにスマホでTwitterにメモをしたわけです。「買う」は「手入れ」のはじまり。愛犬の散歩のように、いつか必ずやってくる「手入れ」を「ちゃんとできるの?」と自問自答する。大切なことですね。

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

これを買いたい!! いますぐ欲しい!! そういう思いで買い物をしたことは誰しもあると思います。しかし、いつの間にか壊れたりして、使わなくなる。新品じゃなくなる。自分の気持ちも、新鮮さがなくなっていく。その買ったものに対して……。やがて壊れて放置する。頑張って手入れをしよう。そうしていくうちに、買ったあの日のことを思い出す

hara harmony coffee

地味にですが、デザインのお仕事もしています。僕の会社「d&department」には3人のグラフィックデザイナーがいて「d&design」というチームで主に企業のグラフィック、内装などをデザインしています。

依頼を引き受ける条件は「ずっと関係がつづく仲間であるかどうか」で、となると、大抵は自分の店の取引先メーカーのことになります。逆に、デザインの依頼がきっかけで、その際に「これは、『d』で取り扱わせてもらいたい」という思いが出てきて、結果、ずっと自分たちがデザインに関わった商品を「売り続ける」ということになります。要するに「自分のこと」にしないと、熱が入らない。その方が健全だと思うのです。こればかりは、いくらお金を積まれてもできないものです(そんな格好のいい経験はありませんが……笑)。

僕らは「d日本フィルの会」というものを結成し、日本フィルハーモニー交響楽団が毎年行っている「日本フィル九州公演」を応援し続けています。その開催場所の一つ「大牟田」。ここのキーマンと言うべき「コーヒーサロン はら」(2019年に閉店)さんとの付き合いを通じて、冨山博史さんという若者と出会いました。

彼は「コーヒーサロン はら」の閉店に伴い、この店で使用されていたコーヒー豆を引き継ぎ『hara harmony coffee』として販売を始めた人です。このたび、そのコーヒー豆のパッケージデザインの依頼を受けました。ずっと長く応援してきた原さん、大牟田、そして、頑張っている冨山さんの依頼ということで、とてもうれしく思ってお仕事させて頂きました。

ここ数年、「民藝(みんげい)運動」と出会い、僕らがずっと取り組んできた「ロングライフデザイン」ととても共通点が多いことから、d47museumでも「民藝的グラフィックデザイン」と題して、47都道府県から民藝的なパッケージデザインを集め、検証する展覧会を2020年の年末に開く準備をしているのですが、その取り組みは自分たちの作り出すデザインにも大きく影響します。要するに、自分たちが生み出すデザインも、民藝的ではないとおかしい、というわけですが、いざそれを意識してやってみると、これが大変難しい。

ロングセラーな商品やそのパッケージデザインには、「流行を取り入れない」などの共通点があります。これを民藝的に言うと「プロが作っていない、作為的な意思がないデザイン」となり、じゃ、それをやってみようとしたところで、どうしても作為的になってしまう。結果、それを十分意識しながらも、やはり、いわゆる「デザイン」をしてしまうわけで、本当に難しいところです。

「昔からあったような」「これまでの何かを応用して、なるべく作り出さない」「手書き」など、色々なことを試しました。なので、とても時間がかかりました。そして、ますます、この「民藝的」「ロングライフデザイン的」なデザインに、興味と奥深さを感じた次第です。

今年の展覧会の準備を通じて、また一歩、何か答えが見えるような気がしています。

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

依頼を受けたコーヒー豆のパッケージデザインで最終案として選んで頂いたマーク

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

採用されたマークを使ったパッケージ

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

旗を持つおばあさまが、40年以上にわたり福岡・大牟田に日本フィルを呼び続け、事務局として活動したコーヒーサロンはらの上野由幾恵さん。僕の左がその歴史を継いだ冨山博史さん

未完成の完成

古くから富士山の登山口として、また、機屋の町として栄えた富士吉田に、その物語を伝えるゲストハウス「ホステルアンドサロンサルヤ」があり、先日行ってきました。主宰する八木さんに館内を案内してもらっている最中にとても興味深いキーワードに出会いました。「未完成の完成」です。

僕は今、自分の故郷である愛知の阿久比町で小さな店をやろうと思っていて、一つの物件に出会いました。その物件がまあまあボロボロなので、どうやって、そして、どこまでリノベーションするかをボヤッと考えていました。

借りられたわけではありませんし、まだまだ何も話は進んではいませんが、いずれ「リノベーション」しなくてはならない物件。その「程度」について覚悟を決めなくてはなりません。

要するに、予算100万円で自分でDIYをするのか、1000万円かけて、専門の人の力を借りてリノベーションするのか、はたまた3000万円かけてしっかりと作りこむのか、といったことです。

八木さんの話はこうでした。「作り込まないことで『完成していない』状態を作る。そこに少しずつ手を入れ続ける。完成したとなったら、そこで何かが止まってしまう」。確かにそうだなぁと思いました。

完成度を追求していくと、あらゆること、例えば接客やサービスなどにも「突き詰めた完成度」が求められる。これは「身の丈」の話でもあります。

出来ること(したいサービスの度合い)と、例えば空間の作り込みの完成度がちぐはぐだと、「こんなちゃんとした場所なのに、どうしてあんなサービスしかできないんだ」となる。もちろん、接客は完璧な方がいいのでしょうが、全体が同じレベルであった方が、しっくりくる。そんなことを考え始めました。

サルヤさんはオーナーの八木さんによるDIYで、プロが仕上げたものとは違い、独特な味と愛が感じられます。プロがきっちり仕上げた感じの薄さが醸し出す、なんと言うのでしょうね、家族的な居心地のよさも感じます。それが安心感を生み、そして、その空気が八木さんそのものに思えてくる。また、かしこまったサービスなどもなく、客もそれに期待しないというバランスが生まれていて、それもとても居心地がいいわけです。

これはいろんなことに当てはまるなぁと思いました。持ち物のグレードや住んでいるマンション。着ている服などと、中身の自分のバランス。愛知でやる自分の店はやはり、作り込みながら、ぼちぼち完成を目指す。そんな感じかなぁと思いました。八木さんを見習って「未完成の完成」を目指そう、それを意識しようと思ったわけです。

世の中のチェーン店はある完成の状態のもと、開店、展開していくわけですが、それとは全く違うやり方となります。完成させない。開業の時までに完成を目指さないということ。なかなか度胸のいる考えですが、それが自分を出せる、自分らしく表現できる、ということなのだと思いました。

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

「ちゃんと手入れはできるの……?」 欲しいものを前にして消えてしまう未来への想像力 

サルヤの共用スペース。上の写真の男性が八木さん。どこもちゃんと収まっている。ここに来た人はきっと、八木さんが言う「未完成の完成」を感じ、一気にとりこになる。僕もそうでした

あわせて読みたい

ちゃんと商売をしようと考えたら、一番大切なのは「定期的」であることではないだろうか

民藝もサステイナブルもロングライフデザインも、ひとことで言えば「ふつう」である

注目すべきは技法やデザインより「エネルギー」の質? これからのモノ選びで大切な視点

LONG LIFE DESIGN:連載一覧はこちら

[ &M公式SNSアカウント ]

TwitterInstagramFacebook

「&M(アンド・エム)」はオトナの好奇心を満たすwebマガジン。編集部がカッコいいと思う人のインタビューやモノにまつわるストーリーをお届けしています。

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2カ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

ちゃんと商売をしようと考えたら、一番大切なのは「定期的」であることではないだろうか

一覧へ戻る

いま私たちは「ゆっくり」を手に入れている 忙しい日々から零れ落ちていたもの

RECOMMENDおすすめの記事