日本はウマい

<03>薬味をいろいろ試したくなる 出雲そばの名店3軒

全国の飲食店巡りをライフワークとするグルメジャーナリスト・マッキー牧元さんが、2019年に訪れた300軒近くの中から、心に響いた地方の飲食店を紹介します。今回は美味なるそばを求めて訪れた出雲のそば店のお話です。

     ◇◆◇

全国にそばどころと言われるところは多くある。岩手、新潟、長野、山形、茨城、福井などなど。そういう土地を旅した時には、必ず数軒立ち寄るようにしている。

私はそば好きだが、そば通ではない。だから石臼挽(び)きだの、十割だの、産地違い食べ比べなども楽しむが、そばであれば街場のそば屋から立ち食いまで好んで食べる。

地方のそばは楽しい。地元の人に長く愛されてきたスタイルがあって、それがなんともいとおしい。

去年出雲に行った。ここもまたそばどころであるから、そばをなんとしてでも食べなくてはいけないと、数軒回った。

誰もが食べている郷土料理「割子そば」

まずは有名な「割子(わりご)」そばである。挽きぐるみ(そばの実を外殻がついたまま石臼で挽く製粉方法)の黒いそばを「割子」と呼び、それを丸い小さな漆器に入れて、つゆや薬味は別に添えた、出雲の郷土料理である。松江の趣味人たちが、屋外で弁当としてそばを食べたのが始まりらしい。

出雲そばで有名な店の一軒で、創業が江戸末期という「羽根屋本店」に向かった。

店内に入ると、当たり前だが、誰もが割子そばをすすっている。挽きぐるみ特有の、外皮が星状になって黒茶の麺に点在するそばである。薬味は、ネギにわさび、もみじおろしに大根おろし、のりが添えられる。やや甘口のそばつゆを、もみじおろしと大根おろしで引き締め、そばを手繰った。

<03>薬味をいろいろ試したくなる 出雲そばの名店3軒

割子そば

ややゴツッとしたコシのあるそばで、そばの草のような香りがかすかに香る。瞬く間に1枚食べ終え、残りの2枚もすぐになくなった。

同じ量のそばを一つのザルに盛るより、こうして小分けされた方が楽しい。そば猪口(ちょこ)にそばつゆを入れてつけて食べるのもいいが、これは漆器につゆをかけ、1枚目はねぎとわさび、2枚目はもみじおろし、3枚目は大根おろしにわさびにのりといった風に、それぞれ薬味を変えても面白いだろう。

さて2軒目は街から外れた場所で営まれる「そば処 神門(ごうど)」である。

こちらのそばは、白い。石臼で挽いたそばの中の実だけを使った、更科のそばである。だからほの甘い。優しい風味が特徴で、すっきりと自然においしいそばつゆとなじんで、心が穏やかになる。

こちらでは、割子そばと鴨(かも)汁そばをいただいた。

<03>薬味をいろいろ試したくなる 出雲そばの名店3軒

鴨汁そば

<03>薬味をいろいろ試したくなる 出雲そばの名店3軒

割子そば

“そば屋が食べに来るそば屋”の本領

さあ3軒目は、街中に戻って「そば処 あごう」を目指す。店の外観は、「えっ?」と思うほど素っ気ない。

スーパーの駐車場脇に申し訳なさそうに立っていて、「どうだ、そば屋でござい」というオーラがない。しかしこの店は、そば屋が食べに来るそば屋だという。何しろその素朴な店前には、「自家製石臼挽きそば」なる文字が、燦然(さんぜん)と輝いているではないか。

<03>薬味をいろいろ試したくなる 出雲そばの名店3軒

あごうの外観

注文に悩んだが、割子(わりご)そば1枚と釜揚げそばを頼んだ。この釜揚げがいい。ゆで上げたそばを、氷水で締めずに、そのまま温めたどんぶりに入れ、そば湯をなみなみと注いで、そばつゆで薄めに味をつけ、もみのりとネギと大根おろしをのせた、実にシンプルなものである。

<03>薬味をいろいろ試したくなる 出雲そばの名店3軒

釜揚げそば

食べれば、ねちっと、そばがかわいく粘った。ゴツッとした、あるいはシコッとしたコシではない。しかしそのねちっとしたそばをかめば、ほんのりと甘みがあり、草のような香りが漂って、そう、そばがきの味わいにして食感がそばになったような、そんな趣があるのである。

薄い味付けのつゆも、そばを生かしている。酒を飲んだ後に、こいつで締めるのもいいな。風邪を引いたら、これを食べにきたい。いや、朝食にたらふく手繰るのもいい。そんな夢想が、次々と湧いてくるのであった。

店舗情報

羽根屋本店
島根県出雲市今市町本町549
0853-21-0058
11:00~15:00/17:00~20:00(L.O.19:30)
定休日:第1、第3水曜、元日
*コロナ感染防止のため5月10日まで営業休止

そば処 神門
島根県出雲市常松町378
0853-24-6200
11:30~15:00/17:00~なくなり次第終了(最長20:00まで)
定休日:月曜
*当面は日曜・祝日も休業。また、新型コロナウイルス対策として入り口にアルコール消毒液を設置しているほか、店内に殺菌効果のある次亜塩素酸水を噴霧

あごう
島根県出雲市今市町87
0853-23-6088
11:00~15:00
定休日:水曜、第3木曜
*新型コロナウイルス感染防止のため5月11日まで営業休止

緊急事態宣言が5月末まで延長されたことに伴い、営業休止の期間が延長される可能性もあります。お出かけの際はご注意ください。(&M編集部)

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PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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