ニューノーマル白書

「ローカルからユニバーサルへ」withコロナ時代の「地方創生」を見据える コミュニティーデザイナー山崎亮

人とモノの集約を不可能にし経済の効率と成長を奪う新型コロナウイルスは、世界のあり様を一変させました。「ポスト・コロナ」ならぬ「withコロナ」時代には、経済も社会生活も、新しい価値を見いだすことが求められています。私たちがこれから迎える「新たなる日常」を生きるヒントを各界のパイオニアたちに聞く「ニューノーマル白書」。初回は、コミュニティーデザイナーの山崎亮さんに、これからの地域づくりの道筋を示してもらいます。

地域づくりの方法論を新たにつくり直す

コロナ禍が広がるまでの日本の最大の課題は、「人口減少」「少子高齢化」「地域の疲弊」だった。人類が初めて経験する急激な人口減少が続く中で、疲弊した地方をいかに活性化するか。「地方創生」の旗印の下、全国各地で市民が主体となる総合計画づくり、地域ブランディング、市民と地元企業と行政が三位一体で地域に新しい価値を共創するプロジェクトなど、様々な取り組みが行われている。withコロナにおいても、全国の地域の課題解決なくしてこの国の未来は語れない。

そうした取り組みの担い手の中でも、「ものを創らないデザイナー」というキャッチフレーズを掲げ地域をデザインする活動を展開するコミュニティーデザイナー山崎亮と彼が率いる「studio-L」の存在は、トップランナーとして異彩を放っている。

たとえば、いまでは島の高校が全国から入学希望者が集まり倍率2倍を越える人気校になった、島根県隠岐諸島の海士(あま)町。人口2300人、信号は子どもの教育用に一つしかない町だ。山崎たちはいまから10数年前、島民たちと共に2年間かけて「町の総合計画づくり」を行った。

島の歴史を掘り起こし、地場産品の魅力を外からの視点で探り、島の魅力を客観視する。その結果島民たちはそれまで当たり前と思っていた島の価値に気づき、「ないものはない」というコピーを港に貼りだし、漁業のブランド化や高校魅力化などのプロジェクトを生み出した。現在海士町は全国の地域おこし活動のモデルとして、視察団が引きも切らない状況だ。全国各地に広がる住民主体の地域づくりの嚆矢(こうし)となったのだ。

だが全国の地域もコロナ禍で疲弊している。住民参加活動の意思決定に欠かせないワークショップを開こうにも人が集まることは難しい。その一方で、人や仕事場や商業施設が集積する都会が嫌悪され、地方や地域が見直される可能性もある。

地方創生活動は今後どう変化するのか? 山崎たちは、地域に身をおきながらどんな活動を展開していこうと考えているのか?

「ローカルからユニバーサルへ」withコロナ時代の「地方創生」を見据える コミュニティーデザイナー山崎亮

コロナ禍は働き方や一極集中を変えるチャンス

山崎は「withコロナ」の状況を、開口一番こう語る。

コロナ以前には、コミュニティデザインの話をすると必ずこんな議論になりました。「過疎と過密という問題、そろそろなんとかならないの?」「地方移住で豊かな生活を、とか言ってる人もいるけど、そんな夢を語るのは都市生活者の一部にすぎないよね」「通勤って苦痛だけどやっぱりなくならないのかな」「会議なんてオンラインでいいのにね」「ハンコ文化って面倒だよね」

これらはほとんどの場合「でも変えられないよね」という結論で終わっていました。それがコロナ状況下で、続々と変えられる兆しとなって現れている。これにはとてもワクワクさせられています。

コミュニティーデザイナー山崎亮とstudio-Lの活動はすでに15年以上になる。彼らの登場とともに、日本は人口減少のフェーズに入った。山崎はまさに「人口減少時代の寵児(ちょうじ)」だ。「このままでは地域が消滅してしまう!」という危機感を持つ人口数十人の集落から時には何十万人もが住む地域に出かけ、地元民の生活の中に入っていく。

かつて町づくりは行政の専決事項だった。都会のコンサルタントを起用し、地元住民の意向や地域性には触れるだけで、経済優先の町づくり計画をつくるのが常だった。その結果生まれた工業団地やニュータウンは、いま多くが疲弊し廃墟(はいきょ)となったところもある。

それに対して山崎たちは、「地元住民同士が額をつきあわせ」、「地域の歴史や宝物を掘り起こす」ことを町づくりの柱に据える方法を打ち立てた。そのために時にスタッフはその土地に住み込み、何カ月も何年もかけて「ワークショップ」を繰り返し、住民が自発的に「オリジナルの価値」を生み出すことを基本とする。その多くは経済よりも、文化を起点とした計画となった。

オンラインのワークショップでハンデが消える

では、いま「withコロナ」のこのフェーズで、山崎はどんなアクションを起こしているのか?

従来のコミュニティーデザインのプロジェクトは、大半が実際に人と人とが出会うことを前提としていました。ワークショップが典型で、50~100人くらいの人が1カ所に集ってスタートします。

ところがいまはそれができない。だから遠隔でできるワークショップの方法を開発することが必要です。4~6人ずつのグループをいくつもつくり、オンラインで話し合いをする。必要に応じてある班がオンラインで他の班に向けて発表する。

こうしたツールにアクセスできる人はまだ限られていると思いますが、今後オンラインワークショップに参加できる人は増える一方で、減ることはないだろうと思います。

ノートパソコンやガジェットさえあれば、どこにいても仕事はできる

ノートパソコンやガジェットさえあれば、どこにいても仕事はできる

方法論が変わることで、その成果はどう変わるのか?  山崎はこの新しい方法を前向きに捉えている。

オンラインワークショップがこれまでのワークショップと違うのは、どこに住んでいても興味のある人が参加できるという点です。四国のとある町の総合計画について話し合うワークショップを開催する場合、その町の住民に参加してもらうのはもちろん、その町出身で現在は東京在住という人にも参加してもらうことができる。あるいは単純にその町のファンだという人から意見をもらうこともできる。

これまでは遠隔地の人の参加は交通費を負担してもらわねばなりませんでした。あるいは僕らがワークショップの状況をオンラインで配信してリモート参加してもらったとしても、やはり現場で話し合っている人たちの雰囲気がうまく伝わらず、その会話に入り込むのが難しかった。

ところが全員がオンライン参加ということになると、距離的なハンデがなくなるので、町の外から出してもらうアイデアや意見も同等に扱うことができるようになる。このことはワークショップの雰囲気を刷新してくれるし、そこから生まれる価値も全く新しいものになるのではないかと期待しています。

ローカルの課題をユニバーサルな人材とアイデアで解決する

ここ数年、「関係人口」という言葉が使われる。その町に住まなくても愛着を持って年に何回か訪ねたり、都会と二拠点生活をしたり、ふるさと納税で町の経済活動に参加する人を指す。さらに山崎が語るようにオンラインで遠隔地からワークショップなどの地域活動に参加できる人が増えれば、極端に言えば、全世界から参加者を募ることができる。その町と同じような課題をもっている世界の町から、参加者を募ることも可能だ。

となると「ローカルの課題がユニバーサルな人材やアイデアで解決される」ようになり、「地方」や「地域」は新しいフェーズに入る。都会に対する地方という概念があるが、それに替わって全国に「地域」が並立するという見方もできる。

そうなった時に活動の成否を分けるポイントは「情報発信力」だと山崎は言う。

コロナ状況においては、町の人たちだけでなく全国の人たちに向けて「ここの町がワークショップやりますよー!」と呼びかける、日々の情報発信力が問われるようになるでしょう。

これまでSNSなどを通じてどれだけ情報発信してきたのか、ということがコミュニティーデザイナーには求められる。「studio-Lが呼びかけるなら参加してみたい」「あの大好きな町が課題にあふれているなら、一緒に考えて解決したい」と思ってくれる人をいかに増やすかが重要です。

テレビ、書籍、オンラインなど様々な媒体を介して、コミュニティーデザインとは何なのか、僕らはどんなことにチャレンジしているのかということを、日々発信していかねばならないと思っています。

本来のコミュニティーデザインの仕事は、人に会いに行くことが基本だ

本来のコミュニティーデザインの仕事は、人に会いに行くことが基本だ

オンライン・リテラシー教育を「公共事業」に

そうなると、通信インフラの整備充実も大切だ。地域に住む高齢者もデジタルデバイスを使えるようにならないと、高齢化が進む地域での活動は難しい。

コロナの時代には、タブレットやパソコンを使ってオンライン会議をすることに対するハードルを低くするような社会教育、学校教育なども充実させてほしいと思います。特にシルバー大学や社会人の生涯学習においては、自宅からストレスなく誰とでもつながることができるノウハウを教えてもらいたいですね。

端末やプロバイダー、Wi-Fi、ウェブカメラの使い方といった基本的な技術を市民に伝える努力を、各自治体は「公共事業」としてほしい。なぜならオンラインで人とつながれる仕組みこそが「コロナ時代の公共インフラ」だと思うからです。まだネットに接続していない人を見つけて、情報を届ける取り組みを丁寧に進める必要があると思います。

自分に合った「適疎」を見つける時代に

冒頭で山崎が述べた、これまでなかなか変えられなかった市民の感覚(地方移住、通勤苦、過疎と過密……等々)は、どう変わるのだろうか? 人・モノ・カネ・情報などあらゆるものを集約した「効率」一辺倒の都市生活は変化するのだろうか?

これからの議論は、「過疎」や「過密」ではなく、「適疎」がテーマになると思います。「適切に疎であるという状態が生きやすいのではないか。お昼になるといちいち行列をつくって高いランチを食べるような過密状態は避けたい。自分の給料の大半を高い家賃と飲食費に流すだけの生活というのも見直したい。だから「適切に疎」な地域で暮らすのがよいという価値観が生まれると思います。

そもそも人々を集めた都市って誰のためのものだったのか、という問いかけも起きると思います。人も金もモノも、集積するのは確かに効率がいい。でもそれは人間の生活の豊かさにつながっていたのだろうか?

店が集積していて交通の便がよかったのは生活者にとってのメリットではなく、実は資本の側、物流や鉄道事業者の側の効率だったのかもしれない。電鉄会社が商業施設を駅上につくり、人を効率よく流し、効率よくお金を落としてもらうための仕組みが都市空間だったのかもしれない。

そこに新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)してパンデミックの恐怖が生まれた。すると「どうやら生活者を中心に考えられた都市づくりではなかったのかもしれない」ということが見えてくる。そして、地方で暮らすということの現実感が増してくる。そんな風に価値観が少し変わってくるのではないかという気がしています。

この状況が「自分にとって適疎な場所ってどこだろう?」と考え始めるきっかけになるといいですね。

「ローカルからユニバーサルへ」withコロナ時代の「地方創生」を見据える コミュニティーデザイナー山崎亮

「近産近消」「友産友消」が価値になる

総じて言えば、山崎は「withコロナ」の生活に希望を持っている。地域創生を担うコミュニティーデザインの仕事も、新しい方法論を掲げてポジティブに取り組んでいる。

コロナ以前だと、地産地消とか近産近消とか友産友消(友達が作った野菜などを友達が消費する)などという話をしても、「東京だと農地が近くにないし」「ちょっと現実的じゃないよねぇ」「地方に引っ越せばいいと言われても、仕事はどうするの?」という反応が返ってきたものです。

でもコロナ禍の下で世界各国が自国の食料はなるべく自国優先で確保しようとし始めると、輸入できなくなる品目も出てくることでしょう。信頼できる友人がつくる野菜や米などを手に入れる関係性を持っているかということが、相対的に重要な社会が到来するかもしれない。そういうことが現実味を増してきたなぁという気がしています。

こう言うと色々と批判されるかもしれませんが、僕はコロナによって「そろそろ変わらなきゃなぁ」と思っていた方向に時代が変化しつつあるような気がしていて、その点についてはおおむね喜んでいます。

さらにこの状況が前に進んでくれることを望むし、できればコロナ騒動が落ち着いた後も、一極集中や経済効率優先の仕組みを見直す議論や、地域に根ざした暮らし方や働き方を選ぼうとする動きが元に戻らないようにして欲しいと願っています。

(敬称略、写真はすべてstudio-L提供)

プロフィール

〈やまざき・りょう〉1973年、愛知県生まれ。大阪府立大農学部卒、東京大大学院博士課程修了。東北芸術工科大客員教授。社会福祉士。2005年、studio-L設立、兵庫県家島町のまちづくり、鹿児島市マルヤガーデンズ・コミュニティデザイン、大分県豊後高田市中心市街地活性化、大阪市近鉄百貨店コミュニティ支援「縁活」、介護と福祉を考えるデザインスクール(厚労省補助事業)など、全国各地で人と人の繋がりをデザインする「まちづくり活動」を展開。著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社)、『縮充する日本』(PHP新書)など。

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PROFILE

神山典士(こうやま・のりお)

1960年埼玉県生まれ。信州大学人文学部卒業。96年『ライオンの夢 コンデ・コマ=前田光世伝』(現在は『不敗の格闘王 前田光世伝』祥伝社黄金文庫)にて小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞。2011年『ピアノはともだち 奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密』(講談社青い鳥文庫)が全国読書感想文コンクール課題図書選定。14年「佐村河内事件報道」により第45回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)、雑誌ジャーナリズム賞大賞。「異文化」「表現者」「アウトロー」をテーマに様々なジャンルの主人公を追い続ける。近著に『知られざる北斎』(幻冬舎)。主な著書に『もう恥をかかない文章術』(ポプラ社)『成功する里山ビジネス~ダウンシフトという選択』(角川新書)『ペテン師と天才~佐村河内事件の全貌』(文藝春秋)等。

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子どもたちの「居場所」をつくり、学校教育と社会教育の統合を目指す 認定NPO法人カタリバ代表理事 今村久美

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