小川フミオのモーターカー

コロナ禍が「省力化、時短」を後押し デジタル技術で進化した自動車デザイン現場

自動車のデザインは進化している。その背景には、コロナ禍も影響しているというのだから驚く。それを教えてくれたのは、ドイツのフォルクスワーゲンだ。

【TOP写真:2D(平面)のデザインを3Dモデラーが3D(立体図)にする】

さる2020年5月初旬、フォルクスワーゲングループでヘッドオブデザイン(全てのブランドのデザインを統括する責任者)を務めるクラウス・ビショフ氏が、スカイプを使ったジャーナリスト向けのプレゼンテーションを行った。

デザインの完成に要する期間はわずか1年半ほど

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主題は、フォルクスワーゲングループが開発している、デジタル技術を活用した新しいデザインツールについてだ。クルマをデザインするためのアプリケーションである。

新型ゴルフ(ゴルフ8)やBEV(バッテリー駆動の電気自動車)の「ID.」ファミリーでは、デザイナーやエンジニアが、このアプリケーションを大いに活用したそうだ。面白いのは、「効率、時短、節約」といったことが開発の目的にあげられている点。

デジタルでデザインされた新型ゴルフGTI

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自動車はどうやってデザインされているのか。簡単に説明すると、まず骨格(エンジンやサスペンションや空調システムを組み込んだ骨組み)があり、そこに“皮膚”をかぶせる作業である。

スケッチを描いて、模型を作る。さらにフルスケール(実物大)の線画か模型を作って、経営陣から承認をもらったら生産の検討に入る。この流れにコンピューターが大きく導入されたのは1980年代。

塗装とグリルをはめこんでみたゴルフGTI

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今回のフォルクスワーゲンによる“新しい”デザインツールは、よりデジタル化を進めたものだ。

「デザイナーによる2Dのスケッチを、短時間で3D化。さらにヘッドランプやグリルやインテリアなど、細かい作業ゆえ時間がかかっていた部分も、スピーディーに進められるのがメリット」と先のビショフ氏は例をあげてくれた。

細部までデザインされたゴルフGTI

細部までデザインされたゴルフGTI【もっと写真を見る】

モニターにでてくる画像は、光の反射などが緻密(ちみつ)に計算されている印象で、写真のようなリアルさがある。これに寄与しているのが、細部のパーツの作り込みなのだ。たとえば新型ゴルフGTIのアンダーグリルのハニカムパターン。

アンダーグリルのハニカムパターンもほぼ瞬時にできる

アンダーグリルのハニカムパターンもほぼ瞬時にできる【もっと写真を見る】

「湾曲している面にかぶせているので比率が異なるハニカムを組み合わせなくてはいけない。コンピューターを使っても時間がかかっていた作業です。新しいデザインツールを使うと、数分、あるいは数秒で完了する」とビショフ氏は教えてくれた。しかも「精密でリアル」という。

最新のデザインツールを使うと実車に近いイメージが作り込める

最新のデザインツールを使うと実車に近いイメージが作り込める【もっと写真を見る】

もう一つの特徴は、エンジニアリング面。いまデザイナーを含めたエンジニアリングに携わる人を悩ましているのが、運転支援システムや安全基準だ。

「構造は複雑だし、販売する地域(の法的基準)によって内容を変えないといけない。それもこのデザインツールなら事前にデータを作っておけるので、デザイナーの作業はうんと楽になります」

アンダーグリルのパターンを検証

アンダーグリルのパターンを検証する画面【もっと写真を見る】

さらに、作業における距離的な制約を克服したのも大きなメリットにあげられている。

「現在、フォルクスワーゲングループは、ドイツをはじめ、米国や中国など各地にデザインを含めた開発拠点を持つ。デザイナーは400人超、エンジニアは1万人超が働いている。今回のアプリケーションを使うことで、スタッフはどこにいてもデータにアクセスできます」

デザインツールで2Dから3Dのイメージを作る

デザインツールで2Dから3Dのイメージを作る【もっと写真を見る】

フォルクスワーゲンをはじめ、アウディ、ポルシェ、ランボルギーニ、ブガッティ、ベントレーと日本でもおなじみのブランドや、セアト、シュコダなど、日本には来ていないが欧州で強い販売力を持つブランドなど、グループ内企業はみな、このデザインツールを使うことになるとビショフ氏。

実はこれによって、省力化ができる。ビショフ氏は「人の移動が少なくてすむようになるという点で、コロナ禍がこのアプリケーションの広範囲の実用化を後押ししてくれました」と言う。

3Dの精度があがりスケールモデル(模型)がなくてもイメージがつかみやすくなった

3Dの精度があがりスケールモデル(模型)がなくてもイメージがつかみやすくなった【もっと写真を見る】

同時に、同グループの出口戦略もかかわってくる。ポストコロナの時代がくれば、自動車産業といえども、これまでのように重厚長大なあり方から抜け出さなくてはいけない。将来の生き残り戦略にとって、省力、高効率、時短などは大変重要なテーマなのだ。

デザインは企業戦略にとって最も重要だとしたのは、1930年代から50年代にかけてゼネラルモーターズで数々の名デザインを残したハーリー・アール。装飾性を含めたデザインという概念を自動車界に持ち込んだ功績で知られる。その“デザイン”がいま変わりつつある。

「ID.」のコンセプトモデルをお披露目するビショフ氏

「ID.」のコンセプトモデルをお披露目するビショフ氏【もっと写真を見る】

(写真=Volkswagen AG提供)

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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