いしわたり淳治のWORD HUNT

痛快で伸びやかな言葉遊び 天才・岡崎体育の斬新な歌詞

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の4本。

 1 “二二二二二で精一杯”(岡崎体育『二二二二二』歌詞)
 2 “イチゴイチゴしてる”(ハーゲンダッツストロベリー テレビCM)
 3 “あした転機になあれ。”(マイナビ転職 テレビCM)
 4 “君にリーダーを任せよう”(ローランド)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる四つのフレーズ

 

痛快で伸びやかな言葉遊び 天才・岡崎体育の斬新な歌詞

岡崎体育という人は天才だなと思う。和歌をモチーフにした新曲『二二二二二』は、サビの歌詞が「好きー 好きー 好きー 好きー 好きー 五七五七七じゃ字足らず 二二二二二で精一杯」である。なんて柔らかな思考の、まっすぐ、痛快で、伸びやかな言葉遊びだろう。これには紫式部もびっくりだろうなと思う。

最近、個人的にちょうど俳句の本を読んでいたところだった。知るほどに俳句は昔の人にとって、とてもおしゃれで粋な、最先端の遊びの一つだったのだろうなと思った。十七文字という字数に、季語をひとつ選んで入れ、描いた映像に詠み手の感情を重ねる。いざやってみると難しくて、作詞とは違う脳の部分を使う感じがして新鮮だ。

ため息で舞う蒲公英の綿毛かな

一句詠んでみました。ともすれば気分がふさがりそうな自粛自粛の日々だけれど目の前の何気ない風景の中にも命の力強さはみなぎっている。

 

痛快で伸びやかな言葉遊び 天才・岡崎体育の斬新な歌詞

以前、肉を食べて「肉肉しい 」という感想はどうなのだろう、みたいなことをこの連載で書いた覚えがあるのだけれど、それ以上に違和感を感じたのがハーゲンダッツのCMの「イチゴイチゴしてる」というフレーズである。この違和感の正体は何なのだろうと考えた時、おおよそ、おいしいものを食べてとっさに出た言葉とは思えない、語呂の悪さではないかと思った。「うわっ、うまっ!」「やばっ!」みたいに思わず口からこぼれ出る感嘆の言葉とは明らかに毛色の違う、食べる前から「口に入れたら私はこのセリフを言うぞ」と決めていないと、簡単には口から出て来ないだろう、言いにくさ。

これはいかにも机の上で考えた言葉という感じがするなあ、とか、何とか、ああだこうだ書きながら、私はこんなにもハーゲンダッツストロベリーのことが気になっている。なので、CMとしては大正解。一周回ってすばらしいフレーズだなと思う。

 

痛快で伸びやかな言葉遊び 天才・岡崎体育の斬新な歌詞

こんなにミニマムな言葉遊びがあったなんて。とてもすてきなコピーだけれど、最初に見た瞬間は、ちょっと人任せな感じがしないでもないとも思った。でも、よく考えてみると“転機”というのは不思議なもので、「よっしゃ、明日こそがおれの転機だ! 絶対にこのチャンスをモノにしてみせるぜ!」なんて具合に、やたらと鼻息を荒げている人ほど、なんだか失敗しそうな気がしてしまうものである。

おそらく “転機”というのは、「いま思えばあの時のあの決断がおれの転機だったなあ」というように、振り返って初めて気づくものなのだと思う。だから、今日の決断や出会いについて本人が現時点で思う感情としては、「これが転機になるのかもしれないなあ」くらいが適当である。このコピーは、そういう微妙なニュアンスさえも上手(うま)く言い当てている感じがしていい。

ふと、私の最近の転機は何だったろうと考えた。もしかしたらテレビに出演するようになったことかもしれない。この連載を読んで下さっている人の中にも、『関ジャム 完全燃SHOW』という番組で私のことを知った人が多いと思う。私は人前に出ることが今でも苦手なのだけれど、テレビに出て作詞の少し違った楽しみ方や面白さを紹介することで、歌詞を入り口に音楽を好きになる人が増えたり、あるいはいま音楽を作っていて作詞で悩んでいる人にとっては少しの技術的なアドバイスになれば、という思いで出演している。

基本的には誰かの優れた歌詞を解説することがほとんどなので、必然的に画面に映る私は、いつも誰かの作品を褒めている姿ばかりになる。普段はどちらかというと口が悪い方だった私にとって、多くの人が私を「褒める人」として見ているのは、大きな転機になった。

何かを悪く言うことが上手い人よりも、何かをしっかりと褒めることができる人の方が何倍もすてきなのだとふと気がついて、それ以来、自分の言動も少しずつ変わり始めた。思えばこの連載もどこかで目や耳にした誰かの言葉を集めて褒めているだけである。数年前ならこのような連載をしている自分なんて想像もできなかった。やはり転機というものは通り過ぎてから気付くものなのだろう。

 

痛快で伸びやかな言葉遊び 天才・岡崎体育の斬新な歌詞

4月20日放送のフジテレビ『ローランド先生』。ローランドさんが一流ホテル「星野リゾート 界 箱根」のスタッフとなって、番組が用意した失礼な宿泊客を接客する様子をホテルスタッフが採点するという企画でのこと。

チェックインの際にロビーを騒いで走り回る男の子に、ローランドさんは年齢と名前をたずね、その後で「よし、タクミくん、来年から小学生になるから今日一日、このホテルのリーダーを任せようかな。もし、うるさい人がいたら、ちゃんと注意して。できる? うるさい人がいたらすぐにお兄さんに報告するんだよ。よし、じゃあ一回座ろうか。リーダーだからしっかりね」と言った。これにホテルスタッフも「お子様のプライドを傷つけずに注意した」と高く評価していた。

ローランドさんは自身の経営するホストクラブでも、言うことを聞かないスタッフにあえてリーダーを任せることがあるのだという。役割がその人間を作っていく。確かに、人間にはそういうところがあるのかもしれない。

私にもひとつ思い当たるエピソードがある。バンドを解散した時、所属していたレーベルの社長にチャットモンチーという新人バンドのプロデュースをしてみないかと頼まれ、引き受けたはいいものの、それまであまりプロデューサーという人と作業した経験がなかったため、何をどうしたらいいのか分からず苦悩していた。ある日、社長に「プロデューサーはできないかもしれない」と打ち明けると、「大丈夫。自分はここの現場のプロデューサーだっていう顔をしてスタジオにいることが、まず最初の仕事だ」と言われた。

正直、よく意味が分からなかったけれど、次の日から言われた通り、自分はプロデューサーなんだと強く意識してみたら、不思議と少しずつ現場が上手く回り始めた。もしも、あの時のアドバイスが、こういう時にはこうしろ、そもそもリーダーはこうじゃなくちゃいけない、こんな風に考えろ、といった事細かなものだったら、私は簡単に投げ出していたかもしれない。役職を与え、その人らしくその役職について考えてもらう。その結果、自発的に起こす行動が人をいちばん成長させるものなのかもしれない。

<<mini column>>
名付けのむずかしさ

先日、親しくしているミュージシャンに子供が生まれた。彼がつけた名前が、言葉の響きもよく、何気なく試した姓名判断でも完璧な画数だったので、「最高の名前じゃん!」と、リモート画面の中で乾杯した。

私に子供が生まれた時は、自分が作詞家という、いかにも言葉にこだわりが強そうな仕事をしているせいか、皆からよく子供の名前をたずねられた。とはいえ、それほど珍しい名前でもないから、相手もリアクションに困るだろうと思って、その都度ふざけたことを答えていたのを思い出す。

「やっぱり、長男だしさ、ちゃんと自分で決断できて、自分の力で稼いで生きていける、たくましい男になって欲しいじゃん。だから、まあ、ちょっと当て字にはなっちゃうんだけどさ、漢字で『仕事』って書いて、『じょぶず』って名前にしたんだ」だの、「ほら、おれ、若い頃にSUPERCARっていうバンドをやってたじゃん。それに、子供には将来大きく羽ばたいて欲しいからさ、ちょっと当て字になっちゃうんだけど、漢字で『翼』って書いて、『かうんたっく』って名前にしたんだ」だの、「湿っぽい男ってなんか嫌じゃん。いつも爽やかな男でいて欲しいじゃん。だから『爽人』って書いて、『ふぃーるそーぐっど』って名前にした」だの、「体が強い子になって欲しいから、『不死男』って書いて、『たーみねーたー』にした」だの、ひたすら適当なことを言っていた。中にはまだ本当の名前を知らないままの人もいるんじゃないかと思う。

しばらく会えていない皆様、いかがお過ごしですか。我が家の“じょぶず”と“かうんたっく”の兄弟は今日も元気に大騒ぎしています。

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PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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