Creators Book

ヒラタリョウの『かくしごと』とは――作品の世界観を創造するプロップデザインの在り方

アニメやゲームなどの映像作品に影響を与える「プロップデザイン」をご存じだろうか。映像作品に登場する小道具(キャラクターが身につけている装飾品、背景に飾られている家具や家電など)を別名「プロップ」と呼び、それらのデザインや設定画を描く仕事を「プロップデザイン」と呼ぶ。作品の雰囲気や世界観を創(つく)る上でなくてはならないクリエーティブなのだ。

2020年4月から放映されているアニメ『かくしごと』では、原作者・久米田康治さんの描く独特な世界観が緻密(ちみつ)に表現されている。主人公・後藤可久士が過ごす仕事場、自宅、街などに登場するプロップたちもまた、世界の根幹を成している。

原作のある作品をアニメ化するにあたり、例えばキャラクターデザインの場合は、原作の絵柄に沿わせつつ、監督の意向をもとにアニメに適したデザインを起こしていく。プロップも同様に、原作に登場する小道具をキャラクターとのバランスを考えながらアニメに適した形にデザインしていく。精密さが重要なデザインだ。

本作のプロップデザインを務めるのは、アニメ『ワールドトリガー』や『文豪ストレイドッグス』などさまざまなアニメの小物をデザインしてきた、ヒラタリョウさんだ。なぜ、プロップデザインという仕事に就いたのか、どのような作業をしているのか、ヒラタさんの“描く仕事”に迫った。

プロップデザインへ導いた、ゲーム会社での経験

ヒラタさんが初めてプロップデザインを手掛けたのは大学時代。幼少期から絵を描くことが好きだったヒラタさんは、絵やデザインの仕事に就くことを目指していた。美術系の大学へ進学し、1年生の秋にはゲーム会社でアルバイトを始めた。

「当時は、キャラクターやメカ、背景、アイコンなど、ドットでさまざまな絵を描いていました。その中にプロップと呼ばれるものも含まれていたと思います」

在学中から勤めていたゲーム会社に就職し、2006年に退社。フリーランスとして活動を開始した。当初は、ゲームのデザインをメインの活動としていたが、2009年公開のアニメ映画『ホッタラケの島 〜遥と魔法の鏡〜』のキャラクターデザインを務めたことで、アニメーションの仕事が増えていった。

「ゲーム会社時代は、組織に属していたので同じシリーズの作品に関わり続けることが多く、新鮮な気持ちを保つことが難しい部分もありました。独立してから、毎回違った作品に呼んでいただけるため、新鮮な気持ちで仕事ができていると感じています」

ゲーム会社で培った知識と技術を生かし、多くのアニメ・ゲーム作品でさまざまなデザインを手掛けている。中でもヒラタさんが数多くの作品で手掛けているのが、プロップデザインだ。アニメーション作品では、プロップの定義が広く、キャラクターの服や乗り物、建物、クリーチャー(モンスターや怪物)をデザインする場合もあるという。

アニメ『かくしごと』OPから © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

アニメ『かくしごと』OPから © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

プロップデザインは、作品の世界観を手助けする役割を持つ

ヒラタさんは、プロップデザインを手掛ける際に意識していることが大きく二つある。「① 監督の意向を汲(く)み取り、形にすること」「② アニメーターたちがストレスなく作画できるような設定画を用意すること」だ。

① 監督の意向を汲み取り、形にすること

「作品の世界を意図通りに実現するための手助けをプロップデザインが担っている」とヒラタさんは考えている。そのため、アニメやゲームなど、作品の全体を把握している監督から、プロップデザインを作り込む前に、どんな方向性の作品にするか、それぞれの場面にどんな狙いがあるのか、を必ず聞くという。

② アニメーターたちがストレスなく作画できるような設定画を用意すること

ヒラタさんのプロップデザインの仕事は、設定画を用意するまで。画面上で動くプロップを作り込むのはアニメーターの仕事だ。アニメーターが作画しやすいように、プロップのさまざまなアングルを用意し、物体の形状を理解しやすくする。そして、複雑なプロップではなく、なるべく少ない線で成立する設定画を心掛けている。

アニメ制作の現場には、多くの人が関わり、一つの作品をつくり出している。さまざまな作品を手掛けていくにつれて、これら二つを大事にするようになったそうだ。

原作の世界観に馴染ませた、アニメ『かくしごと』のプロップ

ヒラタさんは今期のアニメ『かくしごと』でも同じ意識で仕事に臨んでいる。

監督と打ち合わせをする際には、事前にデザインを手掛ける話数のシナリオを読み込み、打ち合わせで劇中のプロップの具体的な使われ方や監督の意図を確認。その後、打ち合わせで確認した事項を取り入れながら、ラフ画を描いていく。それらを監督にチェックしてもらい、問題がなければ清書し、ハイライトと影をつける。

アニメ『かくしごと』第4話から © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

アニメ『かくしごと』第4話から © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

ヒラタさんはもともと久米田先生の作品が好きだった。高校時代に『行け!!南国アイスホッケー部』を読んでから、『かってに改蔵』『さよなら絶望先生』の原作漫画、アニメ作品に触れてきた。

「『かくしごと』はお声がけいただくまで読んでいませんでした。ですが、久米田先生の作品はずっと好きだったため、声をかけていただいたときはとてもうれしく思ったことを覚えています」

ヒラタさんは『かくしごと』の原作の印象について「線の数は少なめで、シルエットが印象的でした」と話す。プロップの設定画を手掛けるにあたり、「原作の世界観に馴染(なじ)むようにしたい」と思ったそう。

アニメ『かくしごと』OPから © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

アニメ『かくしごと』OPから © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

「今回はプロップデザインとしては少し特殊な仕事ですが、劇中に出てくる少年誌などの表紙も描いています。原作を読んでいる方にも違和感のないような仕上がりを目指しました」

アニメ10話で出てくる『風のタイツ(主人公が描いている漫画作品)』の見開きページと、8話に登場する架空の少年誌の巻頭カラー見開き絵は、印象に残っているプロップの一つだと語ってくれた。原作に出てくる絵を参考に、いかにも久米田さん(もしくは主人公)が描いているように見せるプロップを意識した。小ネタやパロディー的な要素が入っているため、そのあたりを楽しんでみてほしいという。

アニメ『かくしごと』第6話から © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

アニメ『かくしごと』第6話から © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

同時に「プロップのことは特に意識せずに作品を楽しんでもらいたい」と話す。純粋に『かくしごと』の物語に注目してほしいそうだ。

説得力のある設定画を目指して

作品ごとの世界観に合わせたプロップデザインにこだわるヒラタさん。クリエーティブの参考に、漫画やアニメ、ゲーム、映画から、プラモデルやフィギュアなどの立体物まで、さまざまな作品に触れている。ビジュアルの印象的な作品を好み、映画では『未来世紀ブラジル』『マッドマックス』シリーズ、『ブレードランナー』『ロスト・チルドレン』『ヘルボーイ』『ロード・オブ・ザ・リング』、漫画やアニメでは『ドラゴンボール』『風の谷のナウシカ』『AKIRA』『王立宇宙軍』などを挙げてくれた。また、模型雑誌がきっかけで、イラストレーターの寺田克也さんが手掛けるクリーチャーの立体作品に感銘を受けたという。

プロップデザインの仕事に就いてからは、電化製品や車、バイクなど実在する工業製品のディテールを意識的に見ているとも話してくれた。

「部品の分割の仕方や取り付け方、素材の使い分けなど、何かしらの理由があって、それらの形になっているはずです。説得力のある設定画を描くための参考にしています」

最後に、プロップデザインがもたらす作品への影響を、ヒラタさんは次のように語る。

「架空の世界を舞台にした作品では、誰も見たことのない新しいデザインが必要とされる場合があるため、プロップデザインが作品の世界観づくりへ大きな影響を与えます。歴史ものの作品に出てくるプロップをデザインする場合は、時代考証の役割が必要とされます」

「現実世界を舞台にした作品では、個性的なデザインは必要とされないことが多いです。その分、キャラクターの絵柄と馴染(なじ)むように、線や影の付け方を調整したプロップが要求されます。派手さはないですが、縁の下の力持ち的な役割を担います」

今後も、ジャンルを問わずさまざまな作品に携わっていきたいと話すヒラタさん。目に留まるキャラクターだけでなく、作品の世界観を形成するプロップにも注目してみてほしい。

プロフィール

ヒラタ リョウ
グラフィックデザイナー、キャラクターデザイナー、イラストレーター。1996年、大学在学中にゲーム会社へ入社。2006年に独立後、アニメやゲームのキャラクターデザインやプロップデザインを手掛ける。代表作にアニメ映画『ホッタラケの島〜遥と魔法の鏡〜』『たんすわらし。』、アニメ『バトルスピリッツ』『カンピオーネ!〜まつろわぬ神々と神殺しの魔王〜』『棺姫のチャイカ』『ワールドトリガー』『SHOW BY ROCK!!』『終わりのセラフ』など。2020年4月放映アニメ『かくしごと』でプロップデザインを担当。

『かくしごと』作品情報

アニメ『かくしごと』OPから © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

アニメ『かくしごと』OPから © 久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

<キャスト>
後藤可久士:神谷浩史
後藤 姫:高橋李依
十丸院五月:花江夏樹
志治 仰:八代拓
墨田羅砂:安野希世乃
筧 亜美:佐倉綾音
芥子 駆:村瀬歩
六條一子:内田真礼
ナディラ:加藤英美里
マリオ:浪川大輔
古武シルビア:小澤亜李
東御ひな:本渡楓
橘地莉子:和氣あず未
千田奈留:逢田梨香子
汐越 羊:古城門志帆
城路久美:原由実
大和力郎:小山力也
内木理佐:沼倉愛美

<スタッフ>
原作:久米田康治(講談社「月刊少年マガジン」連載)
監督:村野佑太
シリーズ構成・脚本:あおしまたかし
キャラクターデザイン:山本周平
総作画監督:西岡夕樹/遠藤江美子/山本周平
プロップデザイン:ヒラタリョウ
美術監督:本田光平
美術設定:岩澤美翠
美術:草薙
色彩設計:のぼりはるこ
撮影監督:佐藤哲平
撮影:旭プロダクション白石スタジオ
編集:白石あかね
音楽:橋本由香利
音響監督:納谷僚介
音響制作:スタジオマウス
音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ
アニメーション制作:亜細亜堂
製作:かくしごと製作委員会

(C)久米田康治・講談社/かくしごと製作委員会

TVアニメ『かくしごと』公式サイト

あわせて読みたい

『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインに込めた愛とこだわり―— イリヤ・クブシノブ

デジモンが愛され続ける理由は、制作者のこだわりにある――。デジモンキャラクターデザイナー渡辺けんじ

人はめぐりあい、過ちを繰り返す 『ガンダム』で描いた正義なき世界 安彦良和のTHE ORIGIN

Creators Book:連載一覧はこちら

[ &M公式SNSアカウント ]

TwitterInstagramFacebook

「&M(アンド・エム)」はオトナの好奇心を満たすwebマガジン。編集部がカッコいいと思う人のインタビューやモノにまつわるストーリーをお届けしています。

PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエーターにお熱。

声優・田中敦子「やっと素子へ寄りかかれるようになった」攻殻機動隊最新作『SAC_2045』へ込めた思い

一覧へ戻る

脚本家・古沢良太が描く、世界を舞台にした“コン・ゲーム”アニメ『GREAT PRETENDER』制作の裏側と志向に迫る

RECOMMENDおすすめの記事