俳優・美村里江「渓流釣りの魅力は孤独との付き合い」大自然と向き合い続けてたどり着いた“無我の境地”

読書好きとして知られる俳優の美村里江さんは、実は渓流釣りを始めて今年で9年目。その原点は、日常的に自然と触れ合っていた幼少期の経験にあるとのこと。なぜ「渓流釣り」に夢中になったのか。その理由を紐(ひも)解きます。

注:「新型コロナウイルスの自粛要請のため、今年はまだ一度も釣りに行っていません。県をまたいでの移動が解禁になるまで、もうしばらくの我慢です」(美村里江)

(文・岡本尚之 写真・長田果純) 

5年間は取り組まないと、公の場で「趣味」とは言えないと思っていた

俳優・美村里江「渓流釣りの魅力は孤独との付き合い」大自然と向き合い続けてたどり着いた“無我の境地”

――美村さんにはインドアのイメージがありますが、なんと今年で渓流釣り歴9年目なんですよね。

はい。「渓流釣り」というテーマの取材を受けられて、今日はとてもうれしいです! 打ち合わせの席でこの趣味の話題を出しても、まず渓流釣りの存在すら知らない方も多くて(笑)。同世代の女性の興味をストレートにそそる話題ではないですしね。

海釣りなどと比較すると、渓流釣りの人口は少ないので、「あんなに楽しいのにもったいない!」と思っていました。この楽しさが少しでも、みなさんに伝わればうれしいです。

どうしても私自身、「読書好き=インドア」のイメージが先行しているので、そこに「釣り」という「アウトドア」が入ってきて、さらに「趣味=渓流釣り」となったとき、疑問に思う人もいると思うのですが、実は、原点は幼少期にあるんです。

――といいますと?

幼い頃から本が好きでしたが、本と虫かごを持って木に登り、誰もいない木の上で本を読んだり、虫を捕まえたりする子どもだったんですね。

ですから、アウトドア兼読書が常、というか、それがあたり前の状態でした。もちろん、川に本を持って行って川べりで読むこともありました。おじいちゃん子だったので、祖父の家の近くの川で一緒にフナを釣ったりもしていたんですよ。

そうやって過ごしていたので、インドア、アウトドアの垣根を意識したことはありませんでした。そう考えていただければ、渓流釣りに夢中になっていることについて、違和感はないのかなと思います。

ただ、意図的にしばらくの間は内緒にしていました。渓流釣りを始めてから5年は黙っていようと決めていたんです。

――なぜでしょう。ある程度の年月を経ないと「趣味」とは言えないからですか?

その考えに近いです。私は何かひとつをやり始めたら、ずっと続けたい人間なんですね。趣味にしてもそうです。なるべくしっかり取り組んで、ある程度、ひとさまに語れるようになってからじゃないと、言ってはいけないと思っているんです。

まだ始めたばかりの頃合いでも「好きです」とは言えますが、メディアを通してその言葉を聞いた人、読んだ人が、それを元に渓流釣りを始めようとしたとき、経験が浅く、情報として過不足がある語りでは、あまりに不親切ですよね。

5年間という数字で区切ったのは、渓流釣りは自然の気候と向き合う趣味なので、さまざまな状況を経験して、傾向や全体像を把握できるようになるまでに、それくらいの時間が必要だと考えたからです。

たとえば、たくさん釣れる年もあれば、まったく釣れない年もありますし、川に工事が入れば状況が変わってしまうでしょう。環境や外的要因に影響を受けるので、短期間だと、この趣味を語るうえで平均値が取りにくいわけです。

「石の上にも三年」という言葉がありますが、長く続けていれば、見えてこなかったものが見えてくるだろうと思っての、5年間でした。

渓流釣りの面白さは、自分自身と向き合うこと

――渓流釣りを始められたきっかけについて教えてください。

きっかけは夫ですね。彼と知り合って、教えてもらったのがスタートです。私は、そのときにお付き合いしている人や、仲の良い友人の趣味を知ると、一緒にやってみたい人間なんですよ(笑)。

俳優・美村里江「渓流釣りの魅力は孤独との付き合い」大自然と向き合い続けてたどり着いた“無我の境地”

やってみて、その人はどこに夢中になっているのかなと考えたり、実際に体験して感じたりすることが好きなんです。自分の趣味は自分の趣味としてしっかりあるんですけど、誰かと一緒にエンジョイしたい気持ちもすごくあって。それで夫が夢中になっていた釣りを始めたんです。

彼は親しい友人たちと一緒に渓流釣りに行ったことはあるけれど、みんな1回だけで十分と言うらしくて(笑)。私は、もともと山や川に行くのが好きなので、一度目から楽しく、また連れて行ってほしいとお願いしました。

それで、いざ渓流釣りを本格的にやってみて、最初はもちろんうまくいかなかったのですが、比較的早く上達したようです。

夫は夫で、私が釣りを楽しめるように工夫してくれていたので、おおいに助かりましたね。彼はキャリアも長く、漁協や養殖場から魚の生態解析について協力を頼まれることがある立場なので、そういった一流の人に学ぶと、やはり上達は早くなります。

――渓流釣りでの釣法はどのスタイルですか?

エサ釣りの脈釣り(編注:浮きを使用せず、糸の動きや手に伝わる感触でアタリをつけて釣る方法)です。針にミミズやイクラをつけて上流から流し、「ツン」と反応が来たタイミングで釣り上げる、という昔ながらの釣りですね。

少し特徴的なこととして、0.4ミリの細い糸を使っています。水流から受ける影響を少なくし、いいポイントへゆっくり流すためなんです。大物狙いのときは0.6ミリに替えることもありますが、昨年は0.4ミリで35センチのサツキマスを釣り上げました(釣り上げた魚の写真は後編に掲載)

関東の釣り師さんからすると、「そんな細い糸で?」と思われるらしいのですが、実はこれは中部地方のやり方。夫の出身が中部なので、彼に教わった私は完全に中部地方の釣り方なんです。地域によって特色が違うのは面白いですよ。

――海釣りなどと比較して、渓流釣りならではの面白さはどんなところでしょう。

俳優・美村里江「渓流釣りの魅力は孤独との付き合い」大自然と向き合い続けてたどり着いた“無我の境地”

海釣りの経験がそこまで多くはないので、純粋に比較することは難しいのですが、たとえば船に乗って沖に出たり、堤防でやったりする海釣りは、どちらかというと「レジャー」のイメージがあります。家族連れで、あるいは友人と、みんなで楽しむ。

一方で、渓流釣りは基本的に一人で行きます。夫婦で行くと珍しがられたりもするんですよ。実際には、二人で行っても上流と下流に分かれて、別々にやるのですが。長い竿(さお)を扱うのも特徴的で、6~10メートルのものを使用します。お互いの糸が絡まないためには、それぞれの竿と糸の長さ分、40メートルくらい離れる必要があるわけです。

何年も経験してみて改めて思うのは、孤独と付き合うといいますか、一人で川と向き合うのが渓流釣りの魅力なのではないかと。「個人の趣味」でもあり、自分を見つめる機会でもあります。

なので、夫と行ってもそんなにしゃべることもなく(笑)。疲れたら岩場に自分の竿を置いて、夫のいるところに向かい、少し会話をして、また自分の場所に戻るという感じです。

――「魚を釣ることだけが釣りではない」というのが興味深いですね。ある意味で哲学的。

文学にも、川の流れをたとえたものはたくさんありますよね。『方丈記』の冒頭「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」など、人の世と重ねています。昔の人も川を見ながらさまざまなことに思考を巡らせていたんだなと、渓流釣りをしてみて、よく分かるようになりました。

私の場合は、川の流れを見て、指先に感覚を集中して釣り糸を流していると、頭の中の雑念がだんだん晴れていくんですよ。

「自分は何に悩んでいるんだろう」「不安感があるけれど、これはどこから来るものなのか」など、モヤモヤした気持ちで釣りをしていると、時間が経つにつれて頭がすっきりしてきます。

そこで「この悩みの原因はあのことだったんだ!」と気付くんです。少しだけマインドフルネスに近いのかもしれませんが、餌を水面に投げ入れた際の、ポトンという一点の音と、渓流の音で心が穏やかになって、そうした心持ちになるのでしょう。

あまり修行めいたことを言ってかっこうつけたくないのですが、雑念が混じっているとそれが竿に伝わるのか、魚が全然食いつかないんですね。無心でぼーっとした状態、無我の境地と言いますか、そこにたどり着いたときのほうが、不思議と大物の魚が釣れるんです。

このことに3回目の渓流釣りで気付いて、さらにハマっていったんだと思います。もともと好きだったけれど、釣りというもの自体にそれほどの奥深さと爽快感があると理解した瞬間に、興味本位だった渓流釣りが、完全に自分の趣味になりました。本当に好きだなあって。

渓流釣りで大切なのは「お邪魔します」の気持ち

俳優・美村里江「渓流釣りの魅力は孤独との付き合い」大自然と向き合い続けてたどり着いた“無我の境地”

――普段は、何時間くらいされているのでしょうか?

ベストシーズンの初夏などは、深夜2時半に起きて宿を出て、3時半には川辺に行きます。真っ暗な中で準備をするのですが、明るくなり始めた頃には糸を垂らしていないと、一番いい時間を逃してしまうので、4時には始めていますね。

早く行かないと、人気の釣り場を取られてしまう、という理由もあります。熾烈(しれつ)な争いがある(笑)。朝マズメ狙い(編注:日の出前後の時間帯に釣りを始めること)で行くと、結構、ほかの釣り師さんと狙っている場所が被(かぶ)ってしまうんですよね……。

そういった、釣り場確保の駆け引きをしたのち、早朝4時から5時間ほど続けます。それで、9時くらいになると疲れのピークが来るため、一度休憩を挟みます。

朝ごはん兼お昼ごはんを食べて、どうしても暑いときはちょっとだけお昼寝をします。それから午後3時半頃にまた動き始めて、日が暮れるまで。合計で8〜9時間はやっていると思いますね。

――渓流釣りの、暗黙の了解や、ルールみたいなものはありますか?

まず、先に川へ入っている人が優先です。渓流釣りでは、下流から上流へと徐々に釣り場をずらしていく「釣り上がり」が基本なので、先に入っている釣り師の上流に入ってしまうのはマナーとしてよろしくありません。

渓流は見通しがよくない場所もあり、岩場の陰やカーブで見えておらず、川に入ってから先客に気付くこともあります。そうしたときでも気付いたら必ず一声かけに行き、たとえば「エサ釣りで50メートル先のあの岩のところにいますが、大丈夫ですか?」などと交渉します。

こういったマナーは釣りのスタイルにもよるので、もう少し解説しますね。

●「脈釣り」
私のやっている脈釣りは、静かに糸を流して、仕掛けを上げるときもそっと流れから抜くだけなので、比較的魚に警戒されにくいです。そのぶん、同じ場所でじっくり長時間釣ることが可能になります。

●「ルアー」「フライ」
何度も疑似餌を飛ばし、引き上げるので、一定時間で周囲の魚が散ってしまう。そのため場所の移動も多めになります。

●「友鮎(あゆ)釣り」
生きた「友鮎」に針を付けて泳がせ、縄張り意識を刺激して鮎を釣る方法なので、鮎以外の群れの位置も大きく変わったりします。

●「引っ掛け釣り」
漁に似たやり方で、この方法は川によって期間や方法を規制されています。重い仕掛けをドボンと投げてぐいぐい動かして引っ掛けるわけですが、まあ魚が逃げてしまうわけです(笑)。規制前はちょっと困りましたね……。

俳優・美村里江「渓流釣りの魅力は孤独との付き合い」大自然と向き合い続けてたどり着いた“無我の境地”

ざっくりですが、静かな順で並べると、「脈釣りや浮き釣り」>「ルアーやフライ」>「鮎釣りや引っ掛け釣り」という感じです。それぞれメリットがありますが、自分の釣りが周囲の釣り人や川へどんな影響を与えるか、考えながらやるのがオススメです。夢中になると忘れがちですが、ベテラン釣り師ほど紳士的でかっこういい振る舞いの方が多いですよ。

あとは渓流魚たちのために、手袋を装着しましょう。夏でも20度くらいの冷たい水に棲(す)んでいる彼らにとって、人間の手はとても熱いんです。針を外してリリースするにしてもダメージが違ってくるので、手袋でケアしてあげてください。

また、在来種の保存のため、もし外来種が釣れた場合は、漁協の回収ボックスへ。どれも厳格なルールではありませんが、できる範囲で気にかけてみてください。

体調管理としても注意すべき点があります。解禁直後の3月はまだ寒く、下手をすれば気温がマイナスになることもあれば、6月に入ると30度まで上がることもざら。低体温症から熱中症まであり得るわけです。

――服装はどんなものがいいのでしょうか?

暑さや寒さをいろいろな装備でしのがなければいけないので、私はワークマンで売っている「イージスオーシャン」という防寒具を着て、中にもニットを着込みます。なるべくたくさん脱ぎ着できるかっこうで行って、そのときの温度に合わせた服装の準備をしておきます。

どんなに薄着にしても、渓流釣りの舞台は山ですから、長袖を着て、虫避けスプレーをするなど、虫や山蛭(ヤマビル)への注意も忘れずに。釣りを始める前に、細心の注意をする姿勢は大切なことです。

そして、やはり熊ですね。どこもかしこも渓流は熊の目撃情報が出ていて、道の駅に行くとほとんど必ず「熊出没注意」の看板があります。

東京から1時間半くらいで行ける身近な関東の川、秋川渓谷や上野原(山梨県)でも出ているという話なので。幸い、まだ遭遇したことはありませんが、岐阜県の山奥で真新しい爪痕を見たことがあります。熊スプレーなどで自衛をしないと危険ですよ。

向こうのテリトリーに入るという意識が大事で「お邪魔します」という感覚を常に持っていないといけません。これも渓流釣りの大切なマナーのひとつです。

俳優・美村里江「渓流釣りの魅力は孤独との付き合い」大自然と向き合い続けてたどり着いた“無我の境地”
(ヘアメイク・渡辺真由美<GON.> スタイリング・高橋さやか)

美村里江(みむら・りえ)
俳優、エッセイスト。1984年、埼玉県深谷市出身。2003年「ビギナー」で俳優デビュー。ドラマ・映画・舞台・CMで活躍。またエッセイや、書評などの執筆活動も行い、複数のコラムを連載中。最近では6月8日にテレビ東京にて放送される「新・信濃のコロンボ 追分殺人事件」に出演予定。先日、初の歌集『たん・たんか・たん』(青土社)を出版。

俳優・美村里江「渓流釣りの魅力は孤独との付き合い」大自然と向き合い続けてたどり着いた“無我の境地”

『たん・たんか・たん――美村里江歌集』
著者:美村里江
発売日:2020年4月22日
価格:1,800円(税別)
仕様:四六判並製/192ページ
出版:青土社

同書は、エッセイストとしても活躍する美村里江さんの、初の歌集。住み慣れた街の風景、お気に入りの小物、目にもおいしいたべもの、なつかしい物語の世界、役者という仕事、そしてかけがえない人々の姿など、すべてのいとしきものたちへの想いを、美村さんが三十一文字のこころおどるリズムで綴(つづ)る、ト書きのない日々の歌が収録されています。

衣装協力(価格はいずれも税別)
・ブラウス 16,000円
・パンツ 15,000円
(Johnbull Private labo Harajuku)

・ネックレス 15,000円
・リング 9,000円
(petite robe noire)

・ベルト (スタイリスト私物)

《お問い合わせ先》
・Johnbull Private labo Harajuku 03-3797-3287
・petite robe noire 03-6662-5436

あわせて読みたい

[ &M公式SNSアカウント ]

TwitterInstagramFacebook

「&M(アンド・エム)」はオトナの好奇心を満たすwebマガジン。編集部がカッコいいと思う人のインタビューやモノにまつわるストーリーをお届けしています。

コロナ・パンデミックについての八つの断章 比較文学者・四方田犬彦

TOPへ戻る

人気店のレトルトカレー3種を自宅で食べ比べ

RECOMMENDおすすめの記事