日本はウマい

<04> うどんと言ったら香川だろう そんなあなたに読んでほしい

全国の飲食店巡りをライフワークとするグルメジャーナリスト・マッキー牧元さんが、2019年に訪れた300軒近くの中から、心に響いた地方の飲食店を紹介します。今回は知る人ぞ知る、愛媛のうどんのお話です。

     ◇◆◇

四国でうどんと言えば香川だろう。

いや日本で、うどんと言えば香川になる。

それほど絶対的であるが、隣接する2県は、それほどうどんのイメージがない。

ちなみに香川県は、人口1万人あたりのそば・うどん店の事業所数が約5.60で1位、2位である山梨県の4.47を大きくひき離し、愛媛県は2.03で20位、徳島県は3.2で9位(香川県HP「うどん県統計情報コーナー」より)である。

ところが去年久々に松山に出かける用事があり、出身者数人にいい店を聞いたところ、うどんを食べろという。

しかも鍋焼きうどんを食べなくてはいけないという。

なんでも、松山市に住む人が70年以上愛してきた、ソウルフードだとか。

松山、愛媛といえば、まず食べなくてはいけないのは、「鯛(たい)めし」ではないのか。

あるいは、じゃこ天やたこめし、一六タルトではないのか。

これは早速食べなくてはいけないとおもい、老舗で発祥の店と言われる、市内のうどん店「アサヒ」に向かった。

その甘さは食す者の微笑みを誘う

店は昼過ぎだというのに満席だった。

どの客も、鍋焼きうどんを食べている。

それ以外のうどんを、食べている客はいない。

それもそのはず「アサヒ」の品書きは、「鍋焼きうどん」、「鍋焼きうどん玉子つき」、「いなり寿司(ずし)」の三つだけである。

老若男女の全員が、いなり寿司をまず頼み、それを食べながら、鍋焼きうどんが運ばれるのを待っている。

隣に座ったおじさんが、いきなり話しかけてきた。

「にいちゃん、あんたもアサヒかい? わしもずっとアサヒでな。今朝も息子に、たまには『ことり』に行くかと聞いたら、ここがええと言ったけん」

どうやら、「アサヒ」「ことり」という二大人気店があり、市民それぞれに派閥があるらしい。
僕も倣って、稲荷を頼んで待つ。

<04> うどんと言ったら香川だろう そんなあなたに読んでほしい

なんとも大きく、油揚げの味付けが、かなり甘い。

その甘みに微笑(ほほえ)んでいると、鍋焼きうどんが運ばれた。

アルミの鍋蓋(ぶた)つきである。蓋を取ると甘い湯気に顔が包まれる。

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湯気だけでない。つゆも甘い。
それは、甘く作った肉じゃがの煮汁を、うどんの汁に仕立てましたといった風な、遠回しの甘さなのだが、これはかなり糖度が高い。
おそらくイリコダシをベースにしながら、思い切った量のミリンが投入されているのだろう。

そんな甘いつゆと、軟らかいうどんが馴染(なじ)んでいる。

ぬるま湯に浸かってリラックスしまくりましたといった風で、柔らかい身を甘いつゆに浸している。

具は、落とし卵、ネギ、刻み油揚げ、ちくわ、かまぼこに、大和煮風牛肉の甘辛煮である。

七味をかけて、甘さの中和を試みたが、つゆの甘みが辛みを受け付けない。

<04> うどんと言ったら香川だろう そんなあなたに読んでほしい
途中で卵の黄身を溶いてみると、甘みが柔らかくなった。
甘みが貴重であった時代の名残であろうが、これを幼い時から食べていれば、もう鍋焼きうどんの魔力から抜け出せないのであろう。

今度は真夏に来て、汗をかきつつ食べてみたい。

南予の酒豪たちを優しく迎える朝のうどん

次の日は宇和島にいた。すると宿の主人が、言うではないか。

「明日朝早くに起きることができるようでしたら、ぜひ『やまこうどん』に行ってください」

なんでも朝だけやっているうどん屋だという。

ここでもまたうどんである。

名物じゃこ天が乗ったうどんなのだろうか。

翌朝6時30分、二日酔いの頭を叩(たた)き起こして、うどん屋に向かう。

なんと普通の民家である。

<04> うどんと言ったら香川だろう そんなあなたに読んでほしい

うどんの「う」の字も、店名も、暖簾(のれん)もない、どこにでもある民家へ、次々と人が入っていく。
勇気を振り絞り、扉を開ければ、
「いらっしゃい」と、おばちゃんの快活な声が響いた。
メニューはない。
「一人?」と、おばちゃんは聞くと、羽釜の蓋を開けて、うどんを投入する。

<04> うどんと言ったら香川だろう そんなあなたに読んでほしい
丼に湯を入れて、温める。
茹(ゆ)で上がったうどんを、丼に入れ、つゆを張る。
ネギをどっさり入れ、じゃこ天、カマボコ、エビのかき揚げを入れて完成である。

<04> うどんと言ったら香川だろう そんなあなたに読んでほしい
つゆを飲めば、昆布といりこのまあるい甘みが、舌を包み込む。

そしてその優しいうまみが、二日酔いの頭をいたわりながら、「おはよう」と、声をかける。
うどんは、大阪のうどんより少しやわい感じで、目覚めの胃袋と歯に優しい。
途中で、揚げ玉を追加すれば、つゆを吸って、これまたうまい。

食べ進むうちに、昨夜の酒は後退し、気分が晴れやかになってきた。

楽天的で豪快と言われる南予の人たちは、酒をしたたかに飲むと言われる。

南予の人たちにとっても、このうどんで迎える朝は、欠かせないものなのだろう。

店情報

アサヒ

愛媛県松山市湊町3丁目10-11
089-921-6470
10:00~16:00(売り切れまで)
定休日:火曜、水曜
*新型コロナウイルス対策として入り口にアルコール消毒液を設置

やまこうどん

愛媛県宇和島市錦町1-7
0895-22-2315
5:00~9:00
定休日:日曜、祝日
*新型コロナウイルス対策として店内の手洗い場に洗剤を準備

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PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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