THE ONE I LOVE

「唯一の正解は、どんな手を使ってでもいい曲を作ること」 岡田拓郎&duennが選ぶ愛の5曲

こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、Okada Takuro + duenn名義でアルバム『都市計画(Urban Planning)』をリリースしたばかりの岡田拓郎(元・森は生きている)とduenn(ダエン)がセレクトした5曲を紹介する。

豊富な音楽体験と知識を誇る両名が「微塵(みじん)もひねらず、直球で愛の歌を選んだ」というその選曲は、戦前のジャズ・スタンダードからUKロック、グループ・サウンズ(GS)に至るまで、非常にバラエティーに富むものとなった。また、記事後半では岡田が6月10日にリリースしたソロ作『Morning Sun』についても語る。

<セレクト曲>
1 The Stone Roses「One Love」
2 Annette Hanshaw「The Song Is Ended」
3 PYG「花・太陽・雨」
4 Leonard Cohen「True Love Leaves No Traces」
5 Okada Takuro + duenn「Nijuuisseiki No Mori (UP-05)」

 

■The Stone Roses「One Love」

duenn 「愛」と聞いて最初に思い浮かべる曲というと、いつもだいたいこの曲なんです。ド直球もいいとこですよね。中学生くらいのときに初めて聴いて、その頃一番衝撃を受けた曲です。自分が今やっている音楽性とは異なるんですけど、マッドチェスター・ムーブメント(*)と呼ばれるこのへんの音楽からはけっこう影響を受けています。幸福感のある時代というか、毎週のように面白い音楽が生まれていた印象です。

このダラーっとした雰囲気って、コピーできないと思うんです。ストーン・ローゼズの4人が集まって初めて出せる空気感と、時代の空気もミックスされていて、たぶん再現できないんですよね。自分が作る音楽も、その時期の記録みたいな意味合いでリリースしている部分があります。空気をパッケージングするっていうのは、けっこう意識している部分ですね。

*サッカーと、後にオアシスを輩出することでも有名になるイギリスの工業都市・マンチェスターで、1980年代後半から1990年代初頭にかけて起こったムーブメント。mad(狂った)と都市の名称を掛け合わせた造語で、ロックのスタイルとドラッグカルチャーと呼応したサイケデリックなサウンド、ダンスビートが融合した斬新な音楽性は若者を中心に人気となり、多くのフォロワーを生んだ。
代表的なバンドはストーン・ローゼズ、ハッピーマンデーズ、シャーラタンズ、808ステイトなど。

 

■Annette Hanshaw「The Song Is Ended」

岡田 1920年代くらいの古い曲ですけど、ラブソングの美しさ、大衆音楽の美しさが詰まっているなあと。歌詞の内容としては「歌が終わって、あなたもいなくなって、残るのはただ甘いメロディー」みたいなことで、こう説明してしまうと大したことないって思われるかもしれないですけど、音楽が人の心に与える儚(はかな)さのようなものを感じます。60年代にビートルズが出てきて以降、大衆音楽が複雑化していって、こういうシンプルな歌ってどんどんなくなっていったと思うんですよね。

もちろん大衆音楽に“正しいあり方”なんてものはないと思うんですけど、唯一正解があるとすれば、「どんな手段を使ってでもいい曲を作ること」ではないかなと。そういう意味で、時代がわりとトラックメイクの方向に寄っていて飽和しつつある今だからこそ、いい“ソング”を書きたいっていう意識はすごくありますね。

この曲を作ったアービング・バーリンにしても、それこそガーシュウィンとかバート・バカラックとかもですけど、ある意味工芸品みたいなところがあるじゃないですか。記名性よりも作品性っていうか。「ガーシュウィンめちゃくちゃ好き」っていう人、あんまり聞いたことないし(笑)。今回自分たちが作った音楽も「工芸品みたいな」っていう言い方をしていて、ただ音楽として生活の中でいい感じに機能するようなものを目指したんです。

 

■PYG「花・太陽・雨」

duenn 直接的に愛を歌ってはいないんですけど、二度と戻ってこない青春だったり過去の出来事だったりに儚さを見出すような詞になっていて、そこに僕はすごく愛を感じたんです。作詞は岸部一徳さんなんですけど、彼が20代の時の記事で「この世で一番怖いものは?」というアンケートに「人の心」って答えていたのを見たことがあって。そういう、若いうちから本質を見抜くような物の見方をする人ならではの詞だなという気がします。

GSはもちろん世代じゃないんですけど、10~20代の頃にけっこう好きでよく聴いてたんです。たぶんラジオでたまたま聴いて掘り始めたのかな。それでザ・タイガースの『ヒューマン・ルネッサンス』っていうコンセプトアルバム的な作品とか、そういうものを好んで聴いていました。ビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』の模倣というか、職業作家が曲を書くのが当然みたいな時代にメンバーが詞を書いたりしていて。

PYGも本格的なロックバンドをやろうとしていたと思うんですけど、ロックファンからは「商業主義だ」と疎まれ、GSファンからは「なんかちょっと汚い」みたいに扱われ(笑)、そういう中途半端なポジションにいたグループなんですよね。まさに自分もそういうタイプで(笑)、どっちにも行ききれない人には共感できる。

 

■Leonard Cohen「True Love Leaves No Traces」

岡田 レナード・コーエンの音楽ってすごく地味というか、好きなんですけど聴くタイミングを選ぶものが多いんです。でもこの曲が入ったアルバム『Death of a Ladies’ Man』はオールタイムで聴けるというか、レナードの中で一番好きなアルバムですね。フィル・スペクターがプロデュースを手がけた異色作で、サウンドプロダクションがすごくいいんです。

ポップスの歴史って、行くところまで行っては原点に戻っての繰り返しなのかなと感じます。ビートルズ以前と以後でだいぶ音楽は変わっていきましたけど、ビートルズ以前の大衆音楽を再発見する動きの最初がジョン・レノンの『Rock ‘N’ Roll』だったのではないでしょうか。それにつながるこのアルバムは、そういうポップスのストーリーを象徴する1曲でもあるのかなと思いますね。

 

■Okada Takuro + duenn「Nijuuisseiki No Mori (UP-05)」

岡田 今回のアルバムでは一番間口の広い、取っつきやすい曲だと思います。聴く人によっては(アルバム内の)どの曲も同じに聴こえるかもしれませんけど(笑)。いわゆるポップミュージックではありませんが、実験的な音楽をいかにポップス的に聴かせるかという試みのひとつとして曲サイズを2分とかのポップス尺に収めたりしています。アルバム全体としては、「めちゃくちゃいい曲のめちゃくちゃいい部分だけをひたすら繰り返す」ようなイメージで作りました。ものすごくいい1小節だったり2拍だったりを抜き出して、それだけを聴かせるみたいな。

duenn 作業としては、まず僕がiPhoneのGarageBandでメロディーを作って、それを岡田くんに渡して。メロディーを作ること自体ほとんど初めての経験だったんですけど、信号待ちのタイミングとか電車の中とか、いつでもどこでも気軽に作れるから、けっこう苦しまずに作れましたね。できたものに、岡田くんに赤ペンを入れてもらう感じで進めました。それこそ工芸品を作るみたいに、僕がろくろを回すんだとしたら、焼くのが岡田くん。

岡田 そのメロディーを魅力的に響かせるために、外側を覆うテクスチャー的なものを作り込むんじゃなくて、むしろ余分なものを排除して。映画で言えば、ストーリーとか前後の文脈を度外視して感動できるシーンってあったりするじゃないですか。「そのカットだけをつなげて見たい」っていう欲求に近いですね。始まりも終わりもないっていう感じは今作のテーマのひとつです。それと、「Aメロ→Bメロ→サビ」みたいなフォーマットありきの曲作りに子どもの頃から違和感を抱いていましたし、その枠組みを外すのはこれまでけっこう意識的にやってきていることでもあるんです。

 

■岡田拓郎ソロ新作『Morning Sun』について

岡田 前作のアルバムを作った後に、ギターを弾く仕事とかエンジニア仕事とかがポンポン入ってきて、生まれて初めて音楽だけで食べられるようになったんです。最初はそのことにウキウキしていたんですけど、気づいたら自分の作品を全然作っていない状態が続いていて、無意識のストレスで体がおかしくなってしまった。それで療養的な意味で作り始めたのがこの作品です。アルバム制作の動機としては全然カッコよくないけど(笑)、作り始めたらいつの間にか治ってましたね。

ここ数年、ロックというかギターを使った音楽に閉塞(へいそく)感みたいなものを感じていたんですけど、フリート・フォクシーズのメンバーと会ったときにそういう話をしたら「俺が作っているのはソングだから。コンピューターを使おうがギターを使おうが、ソングはソングだ」って言われて。頭ではわかっていたつもりのことですけど、目からウロコだった。そういうこともあって、改めて「いい曲を作る」ということにフォーカスした作品になったと思います。……さっき「The Song Is Ended」のところでお話しした内容と、図らずもつながりましたね(笑)。

(企画制作/たしざん、取材・文/ナカニシキュウ)

 

■Okada Takuro + duennセレクト「THE ONE I LOVE」プレイリスト

 

■Okada Takuro + duenn『都市計画(Urban Planning)』

 

■Profile
Okada Takuro
1991年生まれのシンガー・ソングライター、マルチプレーヤー。2012年にバンド「森は生きている」を結成し、13年にアルバム『森は生きている』を発表。その芳醇(ほうじゅん)かつ完成度の高い音楽世界で高評価を得るも、15年に解散。17年に初のソロアルバム『ノスタルジア』を、20年には2ndアルバム『Morning Sun』をリリース。自身の表現活動のみならず、サポートギタリストなどとしても活躍している。

duenn
サウンドアーティスト。ベルギーのEntr’acteやアメリカのPast Inside The Presentといった国内外のレーベルより作品を発表しているほか、美術家や写真家とのコラボレーションなどアート界との関わりも深い。

 

【関連リンク】
OKADA TAKURO | okada-takuro
https://www.outlandfolk.com/

Okada Takuro inf (@outland_records) · Twitter
https://twitter.com/outland_records

duenn (@duennjp) · Twitter
https://twitter.com/duennjp

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