小川フミオのモーターカー

華美を廃したことで強烈な存在感を生み出した 4代目リンカーン・コンチネンタル

1920年代から70年代の石油ショックまで、米国車は世界中の自動車に影響を与えてきた。石油ショック、としたのは、大きくてぜいたく、という他国のメーカーが追随できない価値を持っていたのがこの頃までだからだ。

デザインに関していうと、米国メーカーが得意としたのは、大きさを生かしたスタイルである。資源や土地の広さからしても、ほかの国にはない独自性だ。傑作のひとつが、61年の「リンカーン・コンチネンタル」だ。

(TOP写真:女性は大きなターゲットだったようで、広告によく登場した)

全長5.4メートルのボディーに対して小ぶりなキャビンはコンバーティブルのハードトップのように見える

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特徴は、シンプルな面作りと、スポーティーなプロポーションにある。60年代の米国車というと、クリームパフ(米国式シュークリーム)とも揶揄(やゆ)された、コテコテに飾りたてたスタイルを特徴としていた感がある。

フォードのなかでも高級パーソナルカーを担当していたリンカーンも、50年代まではかなりキラキラなクルマを作っていた。しかし4代目のコンチネンタルでがらりと路線を変更。

61年モデルの広告では6人乗りのこの車体を「合理的なサイズ」と謳(うた)っている

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このコンチネンタルのよさは、全長5.4メートルもある車体の大きさを持ちながら、すべてがシンプルに仕上げてあるところだ。とくに側面は、凹凸が少ないフラッシュサーフェス化が印象的だ。壁のよう。でも微妙にカーブがついている。そこで面にいわゆる緊張感がある。上手なデザインだ。

さらに、太いリアクオーターピラーと、後輪まわりのリアフェンダーのボリューム感も圧倒的だ。それでいてキャビンはやや小ぶりに見える。

64年モデルからホイールベースが80ミリ延びた

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リアクオーターピラーを後輪の上に持ってくると、安定感が生まれるというのがデザインの法則だが、コンチネンタルではキャビンはあえて前に出して、ドライバーズカーという印象を強めている。パーソナルカーを専門とするリンカーンゆえだ。

ドアを観音開きにしたのも、前後ドアのドアハンドルをひとつにまとめることで、後席用ドアの存在感を薄めるねらいもあったのではないかと私は思っている。

クロームの飾りや、ロケットのようなテールフィンや、ぎょっとするような造形のキャビンが主流だった、米国の自動車デザインへのアンチテーゼともいえる。なにしろ、華美な要素を極力廃したことで、強烈な存在感を生み出しているからだ。

64年モデルではリアウィンドーの面積が拡大された

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米国の自動車史家の本によると、工業デザインの専門家たちからの評価はかなりのものだったそうだ。「シンプルでエレガントなフォルムの実現にかけて貢献度は驚くほど高い」などと評価されたという。

評論家ウケするものは売れない。というのは世の常といわれる。このクルマの販売を決定するにはそうとう勇気が必要だったのではないか。当時のアメリカ車のコテコテなデザインを建築に例えるならタイの寺院みたいな建物が並んだ街並みに、いきなりガラスとコンクリートの近代建築を建てて売るディベロッパーの心境?

観音開きのドアの使用例として61年に公開された広報用写真

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でもリンカーンの経営陣は自信を持っていたようだ。快適な乗り心地を実現するサスペンションシステムから、徹底した品質検査による耐久性の証明にいたるまで、セリングポイントがいろいろあったためである。

デザインとは別に、消費者としっかり向き合ったプロダクトだったのだ。それこそ本当の意味でグッドデザインである。はたして、さきのセオリーを覆し、コンチネンタルは大きなヒットとなった。

もちろん、パワーウィンドーだし、エアコンだし、ドアのロックも自動で行われた。ぜいたくさで競合にひけをとるようなこともなかったのだ。

65年にマイナーチェンジがあってホイールベースが延ばされるとともに、細かなデザイン変更があった。Bピラーを持たないハードトップ形式を生かし、ルーフだけ車体と別色にすると、かなり優雅な雰囲気に。69年までの長寿を誇った理由はちゃんとあるのだ。

飾りたてられていないが迫力あるデザイン(62年モデル)

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(写真=Ford提供)

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【スペックス】
車名 リンカーン・コンチネンタル(61年型)
全長×全幅×全高 5390×2000×1360mm
7045ccV型8気筒 後輪駆動
最高出力 304馬力@4100rpm
最大トルク 64.3kgm@2000rpm

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PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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