20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”

「絶望と戦い続けた経験と向き合うことで人生が浄化された」 世界が注目するRina Sawayamaのポップスの奥にあるもの

アメリカ・ミネアポリスで起きたジョージ・フロイド事件をきっかけに、人権運動「Black Lives Matter」が世界中で大きなうねりを作っている。日本は他国に比べて人種構成がそれほど複雑ではないと信じられているため、自分を含めて人種差別に対する意識は極めて低い人が多いのではないだろうか。 

そのことに気づかされたのは、Rina Sawayama(リナ・サワヤマ)の「STFU!」のMVを観た時だ。

MVのテーマはアジア人に向けられた差別。リナは白人男性と食事をしている。おそらく彼自身は日本やアジアをリスペクトしているのだろうが、無知ゆえ自分が非常に失礼な態度を取っていることに気づかない。そんなやりとりをアイロニーとユーモアを用いて描いている。

だが私は自分もこの男性のように、無意識に差別をしてしまっているのではないかと怖くなった。肌の色、国籍、性差など、あらゆる面において差別は根絶されるべきだと思っているにもかかわらず。

「ネクスト・レディー・ガガ」のルーツ

リナ・サワヤマはロンドン在住のシンガーソングライター。世界中の音楽メディアはもちろん、SNSでも強く支持されている。2019年には日本の人気番組『情熱大陸』(TBS系)でも取り上げられた。マイノリティの抱える不安や恐怖をクリエイティブなポップソングで歌うスタイルから、「ネクスト・レディー・ガガ」と言われることも多い。そんな彼女の最新作「SAWAYAMA」は自身の半生を表現した作品だ。

「先日、『“SAWAYAMA”は(リナ・サワヤマの)青春時代に帰る作品だ』と書かれていた記事を読みました。確かに今回の作品には私の思い出が詰まっています。家族の繋(つな)がり、友達ができなかった経験……。中にはとても辛い記憶もあります。でもそれをポップなメロディにのせて表現してみました(笑)。完成したアルバムを誇りに思っているし、人々がその作品を楽しんでくれているのを見るのは喜ばしい限り。特に母親が気に入ってくれたことがすごく嬉しかった」

リナは父親の仕事の都合で4歳でイギリスに移住した。異なる言葉、文化の中に放り込まれて信じられないような苦労をした。思春期には両親が離婚し、母とロンドンで暮らすことを選択した。当時のリナにとって両親の離婚は理解の範疇を超える出来事だった。その不可解さを解消するために勉学に勤(いそ)しみ、ケンブリッジ大学に進学。心理学、政治学、社会学を専攻した。人間の行動を学術的に説明した本を読んだことで気持ちが楽になった反面、人種差別に基づく陰湿ないじめも経験し、うつ病を患ってしまう。リナは「SAWAYAMA」で順風満帆とは言えないライフストーリーをユーモアを交えて表現している。

「曲、歌詞、ヴィジュアルにユーモアを含ませることはすごく重要なことだと考えています。それがソングライターとしての可能性を広げるんです。例えば『XS』は政治的な曲ですけど、果たしてあの曲が皮肉なのか、それとも批判なのか、聴く人に思いを巡らせて欲しかった。シリアスなメッセージに面白おかしいポイントを加えると、それがより人々を惹きつけるものになることはよくあるんですよ」

辛いプロセスを乗り越えた結果、自分が誇りに思えるレコードが出来上がった。

「STFU!」のMVを観た私が「差別される側の黄色人種でありながら、差別する側のステレオタイプな思考も持ち合わせているのではないか」と感じられたのも、彼女のユーモアがフックになったからだ。そして同時に「私は男性として無意識に女性を差別しているのではないか」という恐怖感も感じた。多くの人と同じように、私は(たとえそれが理想にすぎないとしても)できるだけ他人を傷つけたくない。だが無知ゆえの想像力の欠如と鈍感さがあった。マイクロアグレッション(日常の無意識なレイシズム)の典型だ。優れた芸術作品はそうした己の無知に気づかせてくれる。ちなみに「STFU!」は、レディー・ガガが国際女性デーにApple Musicで公開したプレイリスト「Women of Choice」に収録された。

大学在学中にうつ病で苦しんだリナはセラピーやカウンセリングも受けたが、途方もなく孤独だった彼女を受け入れてくれたのはLGBTコミュニティだった。その出会いについて「私の人生において最も力を与え、自信をもたせてくれた節目の一つ」と語る。LGBT等、性的少数者は常に偏見にさらされている。それこそマイクロアグレッションなど日常茶飯事だろうし、血の繋がった家族にすら理解されないこともあるだろう。自分の悩みが、世界中の誰とも共有できないような感覚。そんな悲しみや孤独を知っているからこそ、彼ら、彼女らは表面的には強く明るく振る舞っているように私は思える。

「私は子供の頃、いじめで大変苦しい思いをし、絶望と戦い続けていました。そんな自分の経験を思い起こし、曲にするのは確かに辛いプロセスでした。だけど同時に私にとって素晴らしい浄化作用になったんです。困難を乗り越え、突破した結果、自分が誇りに思えるレコードが出来上がった。『SAWAYAMA』を聴いて反響をくれる皆さんにもすごく感謝しています」

今の私は何も恐れていない

「SAWAYAMA」 のジャケットはリナが真っ直ぐこちらを見据えた写真が選ばれている。彼女は17年に発表した前作のEP「RINA」を引き合いに出して「前回のアートワークでは、私の顔は戸惑い、迷っているように見えます。その理由は、「当時の私がインターネット、そして特に自分のキャリアの方向性に幻滅していたから。それに対して、今回の私は何も恐れていない。その写真の人物が成長したことがわかるんです」と話す。

「絶望と戦い続けた経験と向き合うことで人生が浄化された」 世界が注目するRina Sawayamaのポップスの奥にあるもの

『RINA』

過去の自分と向き合い、本来であれば隠しておきたい、誰にも言いたくないことも音楽にした。同じ感情を持っていた人にはとても励みになっただろうし、また私のように自覚を促された人もいるはずだ。

「この曲はカッコいい!」「MVが面白い」と思ったのなら、自分がなぜそう感じたのか考えてみる。すると自分が普段そこまで意識してなかった感覚や問題意識が顕在化してくることがある。ある種の問題に対して無知であるのは仕方がないことだ。いくらインターネットがあるとは言え、すべてを知ることはできない。だが無知に基づいた鈍感さが、自分の意図を超えたところで誰かを傷つけてしまうことがあることは知っておくべきだろう。もちろんそれは性差に限った話ではない。「誰か」がいて自分がいる。すべての人はそれぞれ独自に思考している。

想像してみてもらいたい。もしも自分が心から傷つけられた時、相手になんの悪気もなかったら?

使ってる言語は同じなのに、まったく話が通じない。孤独とはそういう感覚だ。

しかもそれが恒常的に続いたら?

最初は受け流せても、下水の澱(よど)みのように心に傷がたまっていく。自分は関係ない、そうならないと考える人もいるだろう。だが自分本位の生き方や考え方が蔓延(まんえん)すれば、この状況は誰にでも起こりうる。知識は想像力も豊かにしてくれる。

「SAWAYAMA」というアルバムを聴き、彼女の生み出した数多くのMVを見ることは私にとってそんな気づきを与えてくれる経験になった。

(文・宮崎敬太)

プロフィール

「絶望と戦い続けた経験と向き合うことで人生が浄化された」 世界が注目するRina Sawayamaのポップスの奥にあるもの

Rina Sawayama <りな・さわやま>

1990年新潟生まれ、ロンドン在住のシンガーソングライター。13歳から音楽活動を開始し、ケンブリッジ大学に在学していた2013年に初のシングル「Sleeping in Waking」を発表する。大学卒業後に音楽活動を本格化。16年にはThe 1975らが所属するイギリスのレーベル・Dirty Hitに加入。「Cherry」をはじめとする数々の人気曲を発表する。最新作は20年4月にリリースしたアルバム「SAWAYAMA」。

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PROFILE

  • 「20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”」ライター陣

    宮崎敬太、阿部裕華、張江浩司

  • 宮崎敬太

    1977年神奈川県生まれ。音楽ライター。ウェブサイト「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」で編集と執筆を担当。2013年に巻紗葉名義でインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』を発表した。2015年12月よりフリーランスに。柴犬を愛している。

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