いしわたり淳治のWORD HUNT

フリとオチの破壊力に驚く 50TA(狩野英孝)の二面性を持った歌詞

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の3本。

 1 “何コレ?すっごーい!”(50TA『ラブアース』歌詞)
 2 “ちょっと変な思い出として残したい”(レンタルなんもしない人への依頼人)
 3 “今日何してなごむ?”(「egg」編集長・赤荻瞳)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる三つのフレーズ

 

フリとオチの破壊力に驚く 50TA(狩野英孝)の二面性を持った歌詞

狩野英孝さんが音楽をやる時のアーティスト名である50TA。かねて50TAのファンだったのだけれど、5月26日放送のテレビ朝日「ロンドンハーツ」で披露された新曲『ラブアース』が素晴らしかった。あまりの衝撃で、何回もリピートして聞いてしまった。何が素晴らしいかの説明のために、あえて歌詞をワンコーラス載せてみたいと思う。

『ラブアース』

誰かが言ってた雨雲の 先は青空が広がるって
そんなあたり前な話 って思うくらいなら信じてみよ
子供の頃に夢見ていた 地球を救う正義のヒーロー
それが実は今ボクらで 見えないテキと戦っている
もしも雨や風の中で 進むべき道見失っても
自分を見失わない きっと笑えるその日まで

ガンバって くいしばって 新しい道切り開く
ふんばって 胸はって 感じた事ない力が
体中から あふれてくる 何コレ?すっごーい!

読んでお気づきの通り、最後の一行以外は特に珍しい言葉が出てくるわけでもなく、とてもクリーンな言葉選びがなされている。でも、これは「世界を勇気付ける歌」というお題のもとで書かれた歌であるという性質上、ある意味で自然なことだと思う。たくさんの人に当てはまるように書くということは、どうしても大きくて広い意味の言葉を使わざるを得ないから。

やはり特筆すべきは最後の「何コレ?すっごーい!」である。まるで、それまでのお行儀の良い言葉たちが、長い前フリに聞こえてしまうような破壊力である。こんなにもフリとオチが効いた歌は聞いたことがない。聞いているこっちが、もう「何コレ?すっごーい!」である。

これまでにも自分を奮い立たせる歌は世界中にたくさんあって、「体の奥から力があふれてくる」みたいな内容の歌も、たくさんあったと思う。でもそれらの歌はどちらかというと、これまでの自分の努力や挫折の日々を回想して、「こんな失敗もあった、こんな挫折もあった、流した涙は数えきれない、でも今、そのすべてが私の力になっている」という具合に、どのようにして今この力がみなぎったか、のプロセスの方にフォーカスするような内容が多かった気がする。

でもどうだろう。料理番組でも、料理の作り方、プロセスだけを伝えて終わっているだろうか。最後に出来上がった料理を皆で食べて、感想を言うところまでがひとつのパッケージではないだろうか。視聴者としては、その料理の作り方もさることながら、最後の食レポ、感想を聞いて初めて「自分も作ってみようかな」と思うものではないだろうか。

その意味で、あふれてきた力の「プロセス」の部分だけを歌うのは、もしかしたら表現としては不完全だったのかもしれないと思った。自分の体の奥からあふれてきた得体(えたい)の知れない力に対して、「何コレ? すっごーい!」と、食レポさながらに感想を述べるところまで、歌詞だって本来は書くべきだったのではないだろうかと、ふと思ったのである。

彼の本業であるお笑いというのはたぶん、自分がやりたいことをやりきることがゴールというよりも、誰かに笑ってもらうことがゴール、みたいな部分があると思う。ドッキリにかけられて情けないほどジタバタしても、トークがうまく喋(しゃべ)れなくても、ネタがすべっても、どうあれ最終的に相手が笑ってくれたら、それはそれで正解、みたいなところがあると思う。

50TAの歌は一見するとふざけたものが多いのに、そこまで本人がふざけているようには思えず、むしろ不思議なくらい真剣さの方が伝わってくる。笑われるなら笑われてもいいし、真っすぐにこの歌が届くなら、それもいい。そんな気概を感じる、彼にしか作れない、素晴らしい二面性を持った歌だなと思った。

 

フリとオチの破壊力に驚く 50TA(狩野英孝)の二面性を持った歌詞

“レンタルなんもしない人”という、自分を何もしない人として貸し出す仕事をしている青年がいるらしいことは知っていたけれど、個人的には「広い世界のどこかにはそんな仕事もあるのか」と思うくらいで、あまり深く考えたことはなかった。

先日、「JAF Mate」という機関誌でその彼が書いているエッセーを目にした。「幸せとは何か」というテーマで毎回違う人が書いているコーナーのようで、彼はその文章の中で、人生の節目に立ち会うことは多いし、人間心理の深い部分に触れることもあるけれど、期待されているほど人の幸せについて何か言えるようになっていないと言い、「幸せ」「不幸せ」ではなく、「ポジティブ」「ネガティブ」という表現なら、もう少し何か言えそうだ、と続けていくつか実際にあった依頼を例に挙げていた。

例えば、「一人だとただの暗い記憶にしかならなくて悔しい。人をレンタルすることで、あのとき変な人と行ったなぁと、ちょっと変な思い出として残したい」という理由で、離婚届提出の同行の依頼があったのだそう。

これを読んで、なるほどと思った。離婚届提出の同行を頼めるのはよほど仲の良いやさしい友人くらいのものだと思うけれど、仮に同行してもらっても、その友人との付き合いはこの先も続くだろうから、となるとそれはむしろ自分の“嫌な記憶”を、友人の脳という外付けのハードディスクにまでもコピーして保存しているような状態なわけで、それでは嫌な記憶が薄まるどころか、逆に自分から増幅してしまっているような感覚さえするだろうと思う。

彼はエッセーの最後を「100パーセントのネガティブさを感じる状況であっても、一人の他者の存在を置くことで客観視できて、そこに数パーセントの面白みを見出すことができるのではないか」といった内容で、結んでいた。

たしかに、完全にプライベートな出来事の中に、赤の他人がいるという奇妙な状況は、自分で客観的に面白がったら、相当面白い。人間の心理の深淵(しんえん)を覗(のぞ)き込むような彼の仕事の存在意義を初めて少し分かったような気がした。

 

フリとオチの破壊力に驚く 50TA(狩野英孝)の二面性を持った歌詞

6月13日放送のテレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』に「惜しまれながら休刊した伝説の雑誌『egg』を復活させた奇跡のギャル」として出演していた赤荻瞳さん。高校時代に入ったギャルサークルの活動内容について話す中で、ギャルイベントの企画会議「ミーツ」の他に、「なごみ」という活動について話していた。彼女いわく「なごみ」というのは、ギャル友達と、カラオケや“プリクラ”やパラパラをしたりして、ギャル友達とただ遊ぶことなのだそう。当時の彼女は365日なごんでいて、「今日何してなごむ?」みたいな感じだったそう。

この「なごむ」という表現がとてもいいなと思った。大人になると「遊ぶ」という言葉に少し抵抗が出てくる。例えば、誰かに「海に行って遊ぼうよ」と言われて出かけても、無邪気にビーチボールを追いかけるでもなく、誰かを砂に埋めてみるでもなく、なんとなく潮風に吹かれて無為に時間だけが過ぎて、気がつけば海の家でビールを飲んでいるだけだったりする。これは「遊び」なのだろうかと思いながら。

そんな感じで、誰かを「今度、遊ぼうよ」なんて誘うのは、自分がもはや「遊び」とは何かがよく分からなくなってきている手前、少々気が引ける。その代わりに口から出るのは、「飲みに行こう」だの「ご飯行こう」だのといった言葉になるのだけれど、それだって、厳密に言えば、酒が飲みたいわけでも、ご飯が食べたいわけでもない。何がしたいかというと、つまりは「なごみ」たいだけなのである。どこで何をしてなごむか。大人の遊びとはすなわちそういうものなのではないかしら、とふと思った。

<<mini column>>
じゃあ、けっこんできる?

新型コロナウイルスの影響で「仮面ライダーゼロワン」も「魔進戦隊キラメイジャー」も撮影が進まないようで、総集編のような内容ばかりが放送されるようになってしまい、このステイホーム期間中に我が家の息子たちのヒーロー熱は急速に冷めてしまった。今はすっかりポケモンに夢中で、これはでんきタイプだ、みずタイプだ、しんかするだのしないだのと騒いでいる。一日中ライダーベルトの電子音が鳴り響いていたあの頃が懐かしい。

ある日、仮面ライダードライブを演じていた竹内涼真さんがテレビに映っているのを見ていた5歳の息子がぼそっと、「ねえ、かめんライダーってホントにいるの?」と聞いてきた。

これは難しい質問だなと思って「本当にいると思う?」と聞き返すと、「んー、いるとはおもうけど、どっかとおいくににいるのかなあ、ってかんじ。あんなかいじゅうも、じっさいにでてきたのをみたことないし」と言う。「でも、ライダーショーに行くとライダーも怪獣も実際にいるじゃん?」と聞くと、「あれはぜったいなかにひとがはいってるでしょ。あくしゅしても、てぶくろっぽいし」と言う。

なるほど。もうすっかりヒーロー熱も冷めているようだし、これ以上噓(うそ)をつくのも何だなと思って、「仮面ライダーはいないんだよ。映画みたいに、俳優さんがお芝居してるの。だから、この俳優さんもほかのドラマとか映画に出てるでしょう?」と言うと、息子は目を丸くして固まってしまった。鳩(はと)が豆鉄砲をくらった顔というのは、こういう顔のことを言うんだろうなと思った。

「びっくりした?」と聞くと、「うん、びっくりした。やっぱりなあ……なんかへんだとおもってたんだよなあ……」とつぶやいた。どうやら前々から過去のライダー俳優たちが普通にテレビに出ていて、一向に変身しないのを奇妙に感じていたのだそうだ。

しばらく暗い顔で沈黙したあと、息子はそれまでの表情とは一転、きらきらした顔で「じゃあ、せなもふつうのひとってこと?」と聞いてきた。「せな」というのは、彼のお気に入りのキラメイグリーン(魔進戦隊キラメイジャー)の女の子の役名、速見瀬奈のことである。「うん、瀬奈もただの女優さんだよ。たぶん、この東京のどこかに普通に住んでるんじゃない?」と言うと、「えっ、じゃあ、けっこんできる?」と聞いてくる。いや、それとこれとは話が別なんだけどな、と思いつつも「できるかもよ〜」と言うと、一人でデレデレしている。ショックからの急激なポジティブへの発想の転換。不思議な思考回路をしているなと思った。

よほど「結婚ってどういうことか分かってんの?」と聞こうかと思ったけれど、それは大人でも答えられない難問だからやめて、目の前のデレデレが止まらない生き物の肩を小突いては、しばらくこちらもニヤニヤした。えへへ、いひひ、と。

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PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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