シネマコンシェルの部屋

#02 中年になっても終わらぬ自分探しの「旅」(コンシェルジュ:FROGMAN)

読者の皆さまから寄せられた相談やお悩みに、映画を愛する様々な分野の方々が寄り添い、最適の作品を紹介する隔週連載。

コンシェルジュは映画コメンテーター/タレントのLiLiCoさん、CGクリエイター/映画監督のFROGMANさん、カラテカ・矢部太郎さん、Base Ball Bear・小出祐介さんの4名です。今回のコンシェルジュはFROGMANさんです。

<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには

#02 中年になっても終わらぬ自分探しの「旅」(コンシェルジュ:FROGMAN)

FROGMAN

映像クリエイター、声優、監督。長年、実写映画・ドラマの世界に籍を置く。2006年DLE入社。07年9月より取締役就任(現任)。06年に「秘密結社 鷹の爪」を地上波で発表した後、07年には劇場公開。その後、テレビ・映画シリーズを次々と公開。その他「古墳ギャルのコフィー」や「土管くん」などオリジナルIPを多数輩出。独自の世界観とプロデュース手法が人気を呼び、「島耕作」シリーズ、「天才バカボン」等の有名原作のパロディー化によるリプロデュースにも従事。08年度ニューヨーク国際インディペンデント映画祭にて、「アニメーション部門 最優秀作品賞」「国際アニメーション最優秀監督賞」のダブル受賞。12年4月、しまねコンテンツ産業振興アドバイザー(しまねだんだん★メディアアドバイザー)就任。13年11月、松江市観光大使就任。

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<相談者プロフィール>
上本明さん(仮名) 39歳 男性
東京都在住
編集者

まもなく40歳になりますが、“自分探し”が終わらず困っています。思春期のように心が酩酊(めいてい)しているわけではありません。とっくに酔いは醒(さ)めています。家庭があり、子供もいる。その現実を直視しているつもりです。それなのに、心のどこかに燻(くすぶ)ったものがあって気持ち悪いのです。

もちろん今から海外に一人旅に出てみようなどとは全く思いません。家族や仕事があるので当然ですが、たとえ何のしがらみがなかったとしても行かないでしょう。もともとそういったタイプではないのです。若い時から野心がありませんでした。競争の少ない環境で生きてきたためだと思います。

10~20代のころから、ファッション、音楽、お笑い、恋愛など、目の前の関心事を充実させることで自分という器を満たすだけの日々を送っていました。「何者かになりたい」などと社会的な成功を夢見ることはなく、刹那(せつな)的な時間に溺れ、いつか訪れるモラトリアムの終わりにひたすらおびえていました。典型的なぬるま湯育ちです。

そんな享楽に耽(ふけ)る日々に終止符を打ち、社会に出ました。20代後半ですから、人よりかなり遅めです。就職先は雑誌や広告などの制作会社。そこでライターになりました。人を楽しませる情報を届ける仕事なので、気持ちの若さが求められました。それは思春期に私が持っていたマインドと非常に親和性の高いものでした。そういう仕事を今も続けているからなのでしょう。社会人になって10年以上経つものの、心の根っこの部分は若いころと変わらず、ただただ年だけ取ってしまった感じがします。

39歳になり、仕事も家庭もあり子供もいる。この現実と今の未成熟な自分は全くマッチしていません。もっと現実にあった人間にならなければいけない、と常日頃感じています。けれども一方で、“大人になれなさ”が記事の企画につながるなど多少なりとも仕事に役立っている面があり、そこにアイデンティティーのようなものを感じている嫌な自分もいます。そんな思いがない交ぜになり、これからどういう人間になるべきか、その道しるべを見失いながら探している。それが私の“自分探し”です。

おそらく、“大人になれなさ”にしがみついている自分が悪いのでしょう。気持ちや感性を若く保つことに人間的価値を見いだそうとするなんて、情けないことです。自分でもそうわかっていながら、その感覚を捨てきれないでいる。そんな情けない自分に引導を渡す映画を教えてください。

みんな自分なんか見つけちゃいないし、大人になんかなっちゃいない

大人になり切れない自分にお悩みですか。

大人になり切れないと悩むこと自体が、かなり大人な気がしますけどもね。

大抵の大人になり切れない大人は、自分がとてつもなく幼稚でダッサイことをしていると気づかぬままに、コンビニの店員を些細(ささい)なことで怒鳴りつけたり、車の運転で割り込まれただけで腹を立ててみたりするもんです。

だから問題ありません。そのまま暮らしてくださいじゃ、この企画自体成立しませんね。

ではわたしからお薦めしましょう。ウディ・アレン監督の『スターダスト・メモリー』です。

#02 中年になっても終わらぬ自分探しの「旅」(コンシェルジュ:FROGMAN)

ウディ・アレン、わたし大好きでしてねぇ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』こそ一番偉大な映画だと信じて疑わなかった10代のころ、偶然出会った瞬間から今日まで30年以上、アレン作品はわたしのバイブルになっています。

この『スターダスト・メモリー』は1980年に製作された作品で、ウディ・アレン自身が悩み多き映画監督サンディ・ベイツとして登場します。

冒頭、彼の新作映画の試写から始まります。

サンディは停車中の不幸の列車に乗っています。乗客は誰もうつろな目で宙を見つめ、中にはむせび泣く者も。

窓から見える隣の列車は幸福の列車。みんな楽しく歌い踊り、ワインを傾けて笑っています。

サンディはなんとかして幸福の列車に移ろうとあがくのですが、結局乗れぬまま二つの列車は発車してしまいます。

激しく揺れる列車。無表情な乗客。

まるでホラー映画のような展開の果てに、どこに着くというのか……。

するとどうでしょう、幸福の列車も不幸の列車も、ゴミが山積みにされた埋め立て地に到着するのでした。

試写が終わるとスタジオの関係者は口を極めて作品を酷評します。

しかしサンディはすでに、映画監督としても地位を築いた人物。それなりにプライドもあるし新しいことにチャレンジしなくちゃいけない。

それこそギリギリまで自分の頭を絞って出してきた世界を真っ向から否定されるとあっては我慢なりません。

さらには無神経にサインや握手を求めるファン。

実際彼らがいてくれるお陰で暮らしていけるのですから、ぞんざいな扱いは出来ません。

しかし自分の妻をサンディの寝室に送り込んでSEXさせようとする男までいるくらい、彼のファンは常軌を逸しています。

常に気難しく、やり場のない怒りや苦しみを抱えるサンディ。

そんな彼の癒(いや)しは、女性たちとのアバンチュール。

本編はそんな世知辛い映画業界の日々と三人の女性との関係、そして彼の子供じみた妄想の世界が行ったり来たりして、まるで夢の中のような構成。

#02 中年になっても終わらぬ自分探しの「旅」(コンシェルジュ:FROGMAN)

ストーリーなんかあってないようなものなんですが、だからこそ説教臭くならずに、今のあなたの心に寄り添ってくれる気がします。

ご覧になったら『そうそう、これ!俺もこんな感じ!』とご納得いただける部分もあるかもしれません。そう!あなたに伝えたいのは、みんな自分なんか見つけちゃいないし、大人になんかなっちゃいないってこと。

サンディは自身の作品を理解しないスタジオのプロデューサーや評論家に子供のように悪態をつき、目の前の美女にはだらしなくも、その時の精いっぱいな誠意で接する。

ふと気づけば、子供じみた妄想に耽り、ひょっとすると自分には自分でも気づかない力や宿命が待っているんじゃないかと、密(ひそ)かに夢見ている。みんなそうなんです(断定)。

みんな年相応になんか、なれてないんですね。

女性は自分が一番美しかったと思っていたころの化粧を一生続け、男性は自分が一番カッコいいと思っていたころのファッションを一生続けると、その昔わたしの女友達が飲んでいる時に言っていたので多分そうです。

ですからおじさんは休日に、どうやったら今時手に入れられるのか謎な、古臭いポロシャツにジーンズをはいてしまうんです。

そう考えると、わたしはいい時代を過ごせました。今着ても問題ないファッションが流行(はや)っていた時代を過ごせたので。

パンツがはみ出た腰パンが流行った時期に全盛期を迎えてたら、60過ぎても腰パンです。目も当てられませんが、実際わたしの作品のプロデューサーが30半ばで腰パンです。

あぶねぇ、あぶねぇ。

と、ここまで書いて最後にちゃぶ台をひっくり返すようなことを言いますが、映画なんか見ずともお子さんのお世話を真剣に取り組んでりゃ大人になれますよ。

人間、自分より弱く幼いものに向き合うと、おのずと強く大人になれるんです。

 

「&M」では、読者のみなさまから様々な相談やお悩みを募集しています。

LiLiCoさん、FROGMANさん、矢部太郎さん、小出祐介さん、4人の映画コンシェルジュが輪番で、相談に寄り添った映画を一つご紹介します。詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

 

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