大御所シェフのいつものごはん

「焼き鳥の概念が変わった……」大御所シェフが感動した鶏料理の名店

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす連載「大御所シェフのいつものごはん」。

洋菓子界の重鎮・大山栄藏シェフが通うお店を三つ紹介します。第3弾は焼き鳥店「焼鳥 鳥よし」の中目黒分店です。

今回の大御所シェフ

「焼き鳥の概念が変わった……」大御所シェフが感動した鶏料理の名店

大山栄蔵さん(おおやま・えいぞう)
1949年、埼玉県出身。香川栄養専門学校で製菓を学び、同校助手を経て六本木「ルコント」で2年間修業後、72年渡仏。パリの「モデュイ」「シャトン」「ホテル・プラザ・アテネ」、スイスの製菓学校「コバ」で5年間研鑽(けんさん)を積む。77年東京・成城に「マルメゾン」を開店、フランス仕込みの本格的ケーキが脚光を浴びる。2016年、「現代の名工」に選ばれる。日本洋菓子協会連合会副会長、東京都洋菓子協会会長を歴任してきた洋菓子界の重鎮である。

【大御所シェフが通う店】焼鳥 鳥よし 中目黒分店

「焼き鳥の概念が変わった……」大御所シェフが感動した鶏料理の名店

提供:鳥よし

大山栄蔵さんの3回シリーズ、最後に案内していただくのは、「鳥よし」の中目黒分店。中目黒、銀座、西麻布、赤坂で、計7店舗を展開する焼き鳥の名店である。

店主の猪股善人さんは、長崎市生まれ。18歳で上京、高級焼き鳥店の先駆けだった六本木「鳥長」で修業し、パリに渡って14年間、現地の焼き鳥レストランでシェフをつとめた。「フランスにYAKITORIを広めた男」であり、焼き鳥界では知らない者がいない名人である。大山さんがパリで修業中に知り合い、「貧乏をしながら将来の夢を語り合い、強い意志と情熱を共有しあった」という盟友だ。

フランスにYAKITORIを広めた功績で知られる猪股善人さん。いまも毎日炭の前に立つ

フランスにYAKITORIを広めた功績で知られる猪股善人さん。いまも毎日炭の前に立つ

どのようにパリで焼き鳥が受け入れられるようになったのか、猪股さんの話が実に興味深い。国鳥が雄鶏(コック)のフランスでは、鶏肉文化も発達している。なにしろ月齢や重量、飼育条件で、鶏を10通りの名称で呼び分けるくらいだ。最高峰と称される「ブレス鶏」をはじめ、ブランド地鶏も数多い。

猪股さんが最初に働いたのは和食の総合レストランで、そのお披露目のレセプションのとき、ほかの料理を差し置いて焼き鳥に人気が集中し、猪股さんたち店のスタッフは「これは大変なことになる」と興奮した。ところが、いざ店をはじめたら、思うように客が来ない。

「焼き鳥は、フランス人にしてみればオードブル。メインディッシュがないのが、致命的な欠陥だと気づいた」猪股さんは、次にシェフをつとめた焼き鳥専門店では、ご飯ものをメインディッシュにした。

タレを器に入れてカウンターに置いたら、これが大受けした。タレは、フランス料理におけるソース。みな、日本人が見たら仰天するほどの量をご飯にかけ、食べることを楽しんだ。

現在の「鳥よし」もご飯ものメニューが豊富。人気の塩そぼろ丼

現在の「鳥よし」もご飯ものメニューが豊富。人気の塩そぼろ丼

むねカツ丼。カツを卵でとじず、上にのせているので、衣のカリカリ感がそのまま残る

むねカツ丼。カツを卵でとじず、上にのせているので、衣のカリカリ感がそのまま残る

漬物とサラダの中間のような野菜料理や、鶏のスープを出すなど、コースとしての体裁を整えると次第に客が増えて、焼き鳥自体も浸透していった。いまではYAKITORIはフランスの辞書にも載るほど、だれもが知る料理になっている。

ここでしか食べられない 希少な焼き鳥

猪股さんも、フランスで鶏について大いに学んだ。とくに印象的だったのは、品種によって味がまったく違うこと。ブレス鶏は、繊細すぎてタレの濃さに負けると感じたことも、焼き鳥に適した鶏肉はどんなものかと、真摯(しんし)に突き詰めるきっかけになった。

帰国し、鳥よしを立ち上げるとき、日本中の銘柄鶏を味見した猪股さんが出会ったのが福島県産の「伊達鶏」だった。「しっかりと味に個性があり、品がよく、雑味がない。こんな鶏肉を探していた!と感動しました」

店でさばきたての新鮮な内臓類は、色つやのよさがおいしさの証明だ

店でさばきたての新鮮な内臓類は、色つやのよさがおいしさの証明だ

伊達鶏は、開発にあたってブレス鶏を研究して試行錯誤を繰り返し、福島の風土に合ったやり方で飼育される。ブレス鶏が白羽なのに対し、伊達鶏は全身が茶色い赤鶏だ。しかし、品種、飼料もさることながら、鶏肉の善しあしにいちばん影響するのは水で、きれいな湧き水が豊かな環境で育つ伊達鶏は、その水質を反映して澄んだうまみを持っている。

鳥よしの職人たちは食鳥処理の免許を取得し、1羽丸ごと生産地から直接仕入れ、店でさばいている。鶏を扱う技量が高いスタッフが揃(そろ)い、内臓類はもちろん、よそではめったに見かけない希少部位を使えるのが強みだ。

品書きにない部位も日によって用意され、全部で20種くらいのバリエーションがある

品書きにない部位も日によって用意され、全部で20種くらいのバリエーションがある

ももとむね肉の両方を1本で食べられる「かしわ」など、オーソドックスな焼き鳥以外に、「そり(尻の上の筋肉で、フランスではソリレスと呼んで珍重される)」や「せせり(首肉)」、「背肝(腎臓)」「げんこつ(ひざ軟骨)」など、珍しい部位がたくさん揃う 

ももとむね肉の両方を1本で食べられる「かしわ」など、オーソドックスな焼き鳥以外に、「そり(尻の上の筋肉で、フランスではソリレスと呼んで珍重される)」や「せせり(首肉)」、「背肝(腎臓)」「げんこつ(ひざ軟骨)」など、珍しい部位がたくさん揃う

背肝は「レバーとまったく違う食感」、かしわは「ももはみずみずしく、むねは歯ぎれよさが特徴」と、大山さん

背肝は「レバーとまったく違う食感」、かしわは「ももはみずみずしく、むねは歯ぎれよさが特徴」と、大山さん

もうひとつ、大山さんが鳥よしの魅力として挙げるのが、清潔感。

「白木のカウンターが、美しいでしょ。目の前の炭火で焼いてくれますが、換気が完璧で衣服に匂いがしみつかないから、安心して相手をエスコートできます」

白木は、店作りで猪股さんがもっともこだわった部分。手ざわりがよく、ふれてあたたかみを感じるのが、白木ならではの特性だという。

鶏だし8に対してかつおだし2のスープに、こしの強い稲庭そうめん、鶏肉だんご入りの「にゅう麺」

鶏だし8に対してかつおだし2のスープに、こしの強い稲庭そうめん、鶏肉だんご入りの「にゅう麺」

素材の良さ、職人の腕の良さを見抜く極意

いまでは焼き鳥でワインを楽しむのは当たり前になったが、「焼き鳥屋ではじめてワインを置いたのは、うちの店じゃないかな」と、猪股さん。

焼き鳥の味は、フランス人にとっては魚料理と肉料理の真ん中と感じるのか、パリでは客がみなロゼを合わせていたことと、日本では認知度が低いロゼのよさを知ってもらいたい気持ちから、ワイン、シャンパン、スパークリングすべてをロゼに統一している。こうしたファッション性や、おしゃれ感を焼き鳥に取り入れたのも、鳥よしの功績だ。

「焼き鳥の概念が変わった……」大御所シェフが感動した鶏料理の名店

だれもが「面倒見がいい」と口を揃える大山さん。猪股さんもずいぶん助けられたという

現在、各ジャンルの飲食店でにぎわう中目黒駅周辺だが、猪股さんが店を開けた1992年当時は閑散としていて、近所の人から「ここで店をやって成功した人はいないから、金捨横丁と呼ばれている」と忠告されたそうだ。帰国してすぐで、まだ人脈もなかった。

そんなとき、助けてくれたのが大山さん。「焼き鳥屋っぽくなくて、おもしろい店がある」と、週刊誌の記者やグルメ評論家などを連れてきて、口コミの輪を広げてくれたそうだ。

職人になって52年になる猪股さんに、「焼き」の極意を聞いてみた。

「焦がすイコール焼くと考えている人もいますが、温めるという感覚です。左手のうちわで炭火の高温をコントロールし、右手で串を回転する速度を上げながら、肉の水分を内側に保たせて、徐々に中心まで熱を入れる。水を沸騰させる感じですね。やがて沸騰すると、表面に焼き色がつきはじめ、きつね色に仕上げます」 

どういう状態に焼き上げたいか、イメージを抱けないと体が正確に動かない。頭と体が連結した猪股さんの作業は、まさにいぶし銀の名人技だ。

タレは創業時から継ぎ足して使い続けている

タレは創業時から継ぎ足して使い続けている

けっして焦がさず、素早く回転させながら徐々に熱を入れていく

けっして焦がさず、素早く回転させながら徐々に熱を入れていく

猪股さんによると、血肝(レバー)を塩で焼いてもらっておいしかったら、その店がよい素材を使っているか、職人の腕がよいかの指標になる。

「臭みがいっさいなく、ほこっとした食感です。レバーが苦手でも、この店だったらおいしく食べられるという人、多いですよ」と大山さん。

 

「大山さんの面倒見のよさは、パリで会ったころから変わらない。見かけはおっかないけど、気持ちがやさしいんですよね。それは、マルメゾンのお菓子の、上品でやさしい味にも現れています」

「お客さんと対面で仕事をする焼き鳥屋は舞台のようなもの。ただおいしいだけではなく、喜んでもらうにはどう演じたらよいか、いつも考えています」と猪股さん

「お客さんと対面で仕事をする焼き鳥屋は舞台のようなもの。ただおいしいだけではなく、喜んでもらうにはどう演じたらよいか、いつも考えています」と猪股さん

そう語る猪股さんに、「鳥よしは、スタッフがやめないのが猪股さんの人徳だよねえ。ここから育っていった職人にも、優秀な人が多いし。ずっと炭の前に立ち続けているのもすごいと感心します」と返す大山さん。

洋菓子と焼き鳥の大御所シェフは、お互いに強い尊敬の念で友情を結んできた。ふたりとも、後輩たちの目標として、これからもずっと現役でいてほしい。

 

店舗情報

焼鳥 鳥よし 中目黒分店 
東京都目黒区上目黒2-8-5
東急東横線、東京メトロ「中目黒」駅より徒歩4分
03-6412-8801
11:30~15:00/16:00~22:00(L.O. 21:00) 
*7月7日現在は時短営業中。昼の時間は弁当のみ販売
無休
公式サイトはこちら

大御所シェフのお店

マルメゾン 赤堤店
東京都世田谷区赤堤3-8-15
東急世田谷線「松原」駅より徒歩3分
03-3323-7737
営業時間 9:30~19:00
定休日:月曜

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PROFILE

畑中三応子

編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」では「ジャーナリズム」部門の大賞を受賞。著書に『ファッションフード、あります。——はやりの食べ物クロニクル』(紀伊國屋書店、ちくま文庫)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』『〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史』(ともに春秋社)など。

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