口福のカレー

いつまでも変わらない深い味わいのハイカラビーフカレー「日比谷松本楼」(東京・日比谷)

ずっと気になっていた「日比谷松本楼」のカレーをやっと食べに行ってきた。雨にも関わらず、席はほぼ満席。検温と手の消毒を済ませた後、テラス席に通された。日比谷公園のシンボルの巨大なイチョウの木をはじめとする、木立に囲まれて都心とは思えない贅沢(ぜいたく)な環境だ。

カニクリームコロッケやハンバーグなど目移りしそうな洋食メニューもたくさん揃(そろ)っているが、やはり人気はカレーのようで、半数以上の客が食べていた。カレーソースは、名物の「ハイカラビーフカレー」(1100円・税込み)、野菜たっぶりの「彩り野菜カレー」(1500円・税込み)の2種類。もう1種類の「カツカレー」は、現在はお休み中だ。他にハイカラビーフカレーをハヤシと合わせた2種盛りや、ライスをオムライスに変えたバリエーションもある。

丁寧に取ったブイヨンで味に深みが出る「ハイカラビーフカレー」

丁寧に取ったブイヨンで味に深みが出る「ハイカラビーフカレー」

 

看板メニューの「ハイカラビーフカレー」は、1903年に考案されてから、ほとんど味を変えていないそう。確かにイマドキの進化形のカレーとは違い、どこかで食べたことがあるような、懐かしい家庭的な味わいだ。広報担当の寺内晋さんによると、「家庭的だが、他とは一線を画す深みがある」。それが松本楼のカレーだそうだ。

 

カレー作りには丸4日間かける。1日目に炒めた小麦粉などでベースを作って寝かせる。2日目には肉を煮込み、3日目に肉汁のブイヨンとベースを合わせてルーを作る。4日目に味付けし、具材を合わせて完成させる。具材は厳選された牛肉と玉ねぎのみと、いたってシンプルだ。口当たりはソフトで、昔ながらの日本のカレーを思わせるが、食べ進めるとコクと旨(うま)みの存在感が増してくる。この違いは上質な肉で丁寧に取ったブイヨンによるものだろうか。

とろとろ卵とハヤシ、ビーフカレーが一度に味わえる「オムレツライス 2色のソース」

とろとろ卵とハヤシ、ビーフカレーが一度に味わえる「オムレツライス 2色のソース」

 

「彩り野菜カレー」のルーは、今っぽくとろみはほどほどにして、少しスパイスを利かせている。トマトの酸味もイイ感じだ。何よりひとつひとつ手を加えた野菜がこんもりと盛られて、食べ応えも十分だ。

松本楼といえば、明治36(1903)年、日比谷公園の開園ともにオープン。夏目漱石などの文人や各界の要人など多くの人々に愛されてきた。明治から現代に至るまでに2度の焼失を経験。再建は不可能かと思われた2度目の焼失の時に、国内外からの多大な寄付や励ましの手紙、電話などが寄せられ、その感謝の気持ちを込めて、今でも毎年9月25日に10円以上の寄付でカレーが食べられるチャリティーイベントを行っている。

ひとつひとつの野菜が丁寧に調理され、美しく盛られた「彩り野菜カレー」

ひとつひとつの野菜が丁寧に調理され、美しく盛られた「彩り野菜カレー」

次々と登場する新しいスタイルのカレーの世界とは違う、いつまでも変わらないという老舗の安定感。席は開放感あふれるテラスがおすすめだ。木漏れ日と木々のささやきに包まれながらカレーを食べるという、こんな贅沢なランチタイムもたまにはいいのでは。

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日比谷松本楼
東京都千代田区日比谷公園1-2
03-3503-1451
http://www.matsumotoro.co.jp

人々に愛され、2度の焼失を乗り越えた歴史あるレストラン

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PROFILE

熊野由佳

ライター&エディター。徳島県出身。外資系ジュエリーブランドのPRを10年以上経験した後にフリーエディターに。雑誌やWebを中心に、旅、食、ファッションなどをテーマに執筆中。無類の食べもの好きでもあり、おいしい店を探し当てる超(?)能力に恵まれている。自分の納得した店だけを紹介すべく、「実食主義」を貫く。酒好きが高じて「唎酒師(ききさけし)」を取得したが、おいしいワインの探索にも余念がない。

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