モダンな室内に調和する畳 KORI-SHOW PROJECTが切り開く「日本の美意識に触れる暮らし」

自宅で過ごす時間が増えるコロナ時代。住環境をいかに快適にするかは、多くの人にとっての関心事だろう。

閉塞(へいそく)的な状況でストレスがたまりがちなだけに、気が安らぐものを部屋に置きたくなる。もちろんデザインも気に入ったもので――。そんなことを考えていたとき、一目で「使ってみたい」と思わせるアイテムに出合った。

ファッションディレクター・山口壮大が主導するモノ作りプロジェクト「KORI-SHOW PROJECT」(以下、KORI-SHOW)が、17日からクラウドファンディング「CAMPFIRE」で販売を始めたインテリアシリーズ「TATAMI」だ。

山口が経営する東京・表参道のセレクトショップ「ハウス@ミキリハッシン」。一面真っ白の無機的な空間に“和モダン”を感じさせるテーブルや椅子が置かれている。近くで見ると、和の正体がわかる。畳だ。

椅子に座り、机に手を置き、床のクッションに足を乗せてみる。触れるとわずかに沈む感触が心地よく、実家や田舎の記憶を呼び起こす。一方、その懐かしさがミスマッチに感じるほどプロダクトの佇(たたず)まいは洗練されている。和をモチーフにしながら、フローリングの室内とも調和しそうなアイアンフレームと畳の組み合わせ。日本の礼法の一つである“折形”をイメージしたという、畳の縁(ふち)のあしらいも洒落(しゃれ)ている。

「KORI-SHOW PROJECT」の「TATAMIシリーズ」。TATAMIベンチ(左)、TATAMIデスク(中央)、TATAMIチェア(右)、TATAMIクッション(下)

「KORI-SHOW PROJECT」の「TATAMIシリーズ」。TATAMIベンチ(左)、TATAMIデスク(中央)、TATAMIチェア(右)、TATAMIクッション(下)

風情を感じるTATAMIコースター。“折形”をイメージしたという、TATAMIクッションの縁のデザインも目を引く

風情を感じるTATAMIコースター。“折形”をイメージしたという、TATAMIクッションの縁のデザインも目を引く

「これ、外せるんですよ」。そう言って、山口はテーブルから畳のクッションを一つ取って見せた。和室の畳を張り替えるように、このプロダクトも畳部分が交換可能な仕組みになっている。

「民芸の世界には、“用の美”という言葉がありますよね。生活道具が持ち前の機能を発揮している様に美しさを見いだす概念ですが、僕はこれをひっくり返した“美の用”という言葉を大事にしています。美しいものこそ積極的に使い込もう、という考え方です。一張羅を大事にしすぎて外に全然着ていかないという話はよくありますが、それは非常にもったいない。すり切れるほど着た服には、すり切れた佇まいの美しさがあります。それは家具も同じで、TATAMIもガンガン使い込むほどにその良さが滲(にじ)み出る。使い込んで壊れたら、直すか交換すればいい」

畳が腹の高さにあるのが新鮮な「TATAMIデスク」はクッションが取り外し可能。裏地にはフローリングなどを傷つけない不織布を採用している

畳が腹の高さにあるのが新鮮な「TATAMIデスク」はクッションが取り外し可能。裏地にはフローリングなどを傷つけない不織布を採用している

常連客から“クレーム”をもらって製品のアップデートを続ける

パリコレの常連でもある「アンリアレイジ」のスタイリングを10シーズン手掛けるなどファッション業界の最前線に立つ山口は、自身のライフワークとして2013年にKORI-SHOWを立ち上げた。コンセプトは「日本の伝統文化と現代の合理的な暮らしとの融合」。ファッションの世界で磨いた感性を生かして、日本の伝統文化を支える工場や職人と新たな地平を開いてきた。

TATAMIシリーズでは、創業100年を超える畳製作の老舗「国枝」と協業する。CADにデザインデータを読ませて裁断する技術を取り入れ、手作業では到底できない複雑な造形の畳の製造を可能にした業界の雄だ。

山口と国枝は6年以上にわたってTATAMIシリーズの開発に取り組んでいる。その間、細かなアップデートを何度も繰り返してきた。改善のヒントを与えてくれるのは山口の店の常連客だ。

「KORI-SHOWでは、まずは少量のプロダクトを造って店に置き、それを購入してくださった常連のお客様から使い心地をヒアリングして改善につなげる、というサイクルでプロダクトの強度をどんどん高めています。デザインが部屋に合わない、サイズ感がいま一つ、素材の強度が低い……お客様はいろいろな観点で意見をくれます。僕らはそれを“フィードバック”と呼んでいるけど……まあ正直クレームに近いものもあります(笑)。自腹を切って購入してくださっているのだから、物足りなければ文句をつけたくなりますよね。不具合があれば当然無償で直しますし、お客様からの指摘は次のプロダクトづくりに生かします」

ファッションディレクターの山口壮大

ファッションディレクターの山口壮大

山口とともに店頭で常連客からヒアリングを重ねてきた「ハウス@ミキリハッシン」のショップマネージャー山本亮

山口とともに店頭で常連客からヒアリングを重ねてきた「ハウス@ミキリハッシン」のショップマネージャー山本亮

TATAMIシリーズも5年前から山口の店でプロトタイプを販売している。常連客から様々な声が寄せられたが、中でも山口が気にしたのがカラーに対する意見。現代的な室内空間になじむか否かを左右する重要な要素だからだ。購入者はもちろん、購入してない客にもプロダクトを見せて、自分の部屋に合いそうかヒアリングを重ねた。

ユーザーの意見を踏まえて、当初10色以上を展開していたカラーバリエーションは、ブラック、ホワイト、ブルー、ベージュ、グリーンの5色に絞った。それと同時に畳の素材も、イグサから和紙に変更した。「国枝」代表・國枝幹生は試行錯誤の過程をこう振り返る。

「イグサは色移りしやすいことに加え、乾燥する過程で素材が弱ってしまって使用頻度が低くても毛羽立ちやすいことがわかりました。イグサの香りも魅力的ですが、TATAMIシリーズは色の重要性が高いプロダクト。より色素を吸着させやすい素材を採用すべく、畳の素材は和紙に変えました」

國枝によると、和紙の繊維はカビの発生率が低く耐久性にも優れ、日焼けによる変色が発生しないなどの利点もあるという。山口も「(和紙に変更して)プロダクトとしての強度が高まった」と胸を張る。

足元のクッションは中材として低反発のポリウレタンをを使用。ソフトな感覚が気持ちいい

足元のクッションは中材として低反発のポリウレタンを使用。ソフトな感覚が気持ちいい

KORI-SHOWのプロダクトはこれまで「ハウス@ミキリハッシン」のみで販売しており、告知もほとんどしてこなかった。「分かる人だけに分かればいい」というどこか突き放した思いが山口にはあったそうだが、17日からは「CAMPFIRE」を利用し、KORI-SHOWとして初めて広く外に向けた販売を始める(7月31日まで。販売対象は「TATAMI」シリーズのみ)。

その裏には、厳しい状況下にある伝統文化の産業を盛り上げたいという思いに加え、KORI-SHOWが掲げる暮らしに対する哲学や主張がいま広く求められているのではないか、という山口なりの読みもある。

「そもそも“主張”ってめちゃくちゃ大事だと思うんです。僕はデザイナーズの家具も好きですが、無印やIKEAも好きです。たとえばIKEAでいえば、“簡単な暮らし”という彼らの主張があって、その意図に沿ったデザインを多くの製品で打ち出している。それが多くのユーザーの暮らし方に影響を与えていると思うんです。僕は自分の生活を考える上で、簡単で合理的に暮らしたいという思いもあるし、じっくり住まいに向き合いたいという思いもある。暮らしのシーンによって求めるものがころころ変わるのです。ひとりのユーザーとして、わがままに暮らしていきたいので、どうせなら自分の思いと近い主張を持った製品に囲まれたい。コロナ禍で多くの人が自分の暮らしに意識的になっていますが、僕と同じような感覚を持っている人は少なくない気がします」

山口壮大

山口壮大

「ではKORI-SHOWの主張は何かというと、日本の伝統文化に息づく美意識をもっとダイレクトに感じられる暮らしを実現したい、ということです。便利への最短距離を求めるだけの暮らしは疲れちゃいますし、その一方でいくら美しくても使いづらいものにはストレスを感じます。僕は、格好良いものや美しいものに触れたいという欲求は三大欲求に近い感覚だと思うし、日本ならではの美意識に興味がない人なんていないと思っています。日本の文化や美意識を快適に取り入れた暮らしが広がれば、多くの人の心が満たされるのではないでしょうか」

山口はKORI-SHOWの活動を「新しいベーシックの提示」と表現する。「新しいスタンダード」「新しい定番」――似たような言葉は様々な業界から聞かれるが、山口は畳や着物など日本ならではの文化を「ベーシック」と位置づけその更新に挑んでいる。活動を始めて7年。ベーシックな文化と現代の暮らしとの距離はどのくらい近づいただろうか。山口の挑戦は続く。(敬称略)

(取材・&編集部 下元陽 撮影・上西由華)

販売情報

CAMPFIREでの販売ページはこちら
販売期間:7月31日まで

8月以降は「ハウス@ミキリハッシン」にて販売
 東京都渋谷区神宮前5-42-1 
03-3486-7673
平日 15時00分〜20時00分
土・日 12時00分~20時00分
水曜定休

■KORI-SHOW PROJECT
公式サイト: www.korishow.com
Instagram: www.instagram.com/korishow_project

 

PROFILE

山口壮大(やまぐち・そうた)
1982年生まれ。文化服装学院卒業(第22期学院長賞受賞)。2006年よりスタイリスト、ファッションディレクターとして活動開始。様々なファッション媒体でのスタイリングを経て、大手百貨店などのショップディレクション及び、商品企画を務める。既存の概念に捉われない、新感覚のファッションを提案している。
http://souta-yamaguchi.com/

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