シネマコンシェルの部屋

#04 軸のない人生 何者でもない自分に感じる不安(コンシェルジュ:Base Ball Bear 小出祐介)

読者の皆さまから寄せられた相談やお悩みに、映画を愛する様々な分野の方々が寄り添い、最適の作品を紹介する隔週連載。

コンシェルジュは映画コメンテーター/タレントのLiLiCoさん、CGクリエーター/映画監督のFROGMANさん、カラテカ・矢部太郎さん、Base Ball Bear・小出祐介さんの4人です。今回のコンシェルジュはBase Ball Bear・小出祐介さんです。

<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには

#04 軸のない人生 何者でもない自分に感じる不安(コンシェルジュ:Base Ball Bear 小出祐介)

小出祐介

2001年に結成されたロックバンドBase Ball Bearのボーカル・ギターを担当。これまで2度にわたり、日本武道館でのワンマン公演を成功させる。また、音楽プロジェクト・マテリアルクラブの主宰も務める。
 

◇◆◇

<相談者プロフィール>

片桐涼奈(仮名) 女性 26歳
東京都、会社員

転職を機に上京してから半年が経ちます。前職とは全く違う事務職、経理の仕事に就きました。仕事にも生活にも慣れ、忙殺されることもなく精神的にも落ち着いています。そこが前職にはなかった部分でした。 しかし、仕事がゆるすぎてこのままでいいのかという気持ちになっています。

与えられる仕事が、“出来ること”なので頭をひねったり必死になったりすることがありません。 

元々広い意味でモノをつくっていくことが好きですが、色んなことがあり、今の仕事に就いています。納得して選んだつもりの道ですが、何者でもない自分に不安になってしまいます。このまま何十年もこの仕事をしていくには、なにか物足りなさを感じてしまいます。

かといって、何がしたいと聞かれてもはっきり言えないんです。

結婚もしたいし、仕事も頑張りたいし、してみたいこと、興味のあることはあっても、はっきりとした軸みたいなものが見つかりません。グルグルしています。

 一言でいえば人生に迷っているということかもしれないです。

Base Ball Bearが大好きで、皆さんにいろんなことを教わって、あんな大人になりたいと思っていたのに、気付いたらその理想とは違う自分になっていました。 

悩むのは悪いことではないと思いますが、いつかこの霧を少しでも晴らしたいと思っています。どうすればいいでしょうか。

「やりごたえ」を通して見えてくる自分

仕事ができるのはとてもいいことだと思います。精神的にも落ち着いているのならなおさら。ただ、あまりにこなせてしまうと、だんだんと仕事が「作業」に感じてきてしまうかもしれない、というのも想像できます。

こんなとき、お給料をもらっているという点でバランスを取れたらいいですが、元々モノ作りをしていた片桐さんはきっと「やりごたえ」の味を知っているのではないでしょうか(「やりがい」「手応え」よりも「した」ことによる「応え」というニュアンスを強調したくて、「やりごたえ」という造語を作りました)。

モノ作りは仕上がりのクオリティーは当然として、ひたすらに「やりごたえ」を追いかけていくものだったりもしますよね。ゴールは決まっておらず、自分で納得したところが到着点になるのですから。

ありがたいことにモノ作りでご飯を食べてさせてもらっている僕は、そういう意味では「やりごたえ」中毒かもしれません。「やりごたえ」を求めすぎて、ビジネスとしては採算度外視になっていたり、どれだけ時間がかかろうとやってしまったり……ということもままあります。

「誰もやってないな」と思って始めたことが、「やりごたえ度」が高すぎて誰もやってないだけだったりもして。

困ったことに、年々その傾向は進行しています。しんどくても、この先に素晴らしいものが待っているんじゃないかという探究心は尽きません。「やりごたえ」ってすごいエネルギーなんですよね。テンションがあがってしまうんです。

そこで片桐さんにおすすめしたいのは、ありきたりで申し訳ないですが、趣味をひとつ作ってみることです。

いや、あまりにもありきたりでごめんなさい。自分で言ってびっくりしています。

つまり、どうしてほしいのかというと、プライベートで「やりごたえ」を上手につまんでいってみてほしいんです。

片桐さんが納得して選ばれた現在のお仕事ですから、その仕事を「やりがいがない」とは言いたくなくて。

でも、仕事を「作業」に感じてしまっているのなら、せめて楽しくできるように、別腹を用意するのは悪いことではないはずです。

色んなやり方があると思うのでこれはあくまでも例ですが、片桐さんが音楽を聴くことが好きで、やっていたモノ作りが文章だったとしたら、チェックした新譜のレビューをひたすらノートに書きためていく、とか。

絵を描くのが好きだったなら、1週間に1枚くらいのペースでコツコツと描いていってみる、とかとか。

SNSなどを通じて、それを世に出す出さないはひとまず置いておいて、とにかく「やりごたえ」を回していってみましょう。

仕事は仕事、趣味は趣味、という切り替えがうまくできるようになると、現在の仕事に対する物足りなさも、これはこれでと思えたりするかもしれません。

仕事への向き合い方については以上のような提案をさせてもらいつつ、「自分が何者でもない」という不安感もすごくよくわかります。

僕もそれでかなり悩んできました。

でも、年齢を重ねてきて、ある時急に気がついたのですが、自分が誰かにはなれないように、誰かも自分にはなれないんですよね。

そして、誰しもがスペシャルな存在なんです。

だから本当は、「自分を好きになれるかどうか」という問題なんだろうと思っています。

そして、ここでも「やりごたえ」は一定の効果をもたらしてくれるはずです。特にモノ作りには、自分研究のような側面もあります。

もしかすると、それを通じて、自分が仕事と趣味を切り替えることができるタイプの人なのか、「やりごたえ」を追い求めていきたい人なのかを見極められるかもしれません。

現在のお仕事を続けていくにしても、もし別のルートが見えてきたとしても、片桐さんが自分を「自分だなぁ」と思える環境に身を置けるようになるといいですね。

人生の軸をどこに設定するのかという問題も、最終的にはここに繋(つな)がっていく気がします。

自分を好きでいられるということを大切にしてほしいなと思います。

 

さてさて、そんな片桐さんにおすすめしたい映画は『七人のおたく』(1992年 主演 ウッチャンナンチャン)です。

ミリタリーおたくの星(南原清隆)は、同じアパートに住むシングルマザーの女性が、元夫の高松(中尾彬)に息子を強引に連れ去られた現場に遭遇。様々な分野のエキスパート=おたくたちを集め、子供の奪還作戦を計画します。

登場人物は皆、趣味や「やりごたえ」を追い求めすぎて実生活がままならない人たちばかりです。特に格闘技おたくの近藤(内村光良)は、肉体を鍛え、技を磨き続けてきましたが、コミケでオリジナルビデオを発売したり、ヒーローショーの活動をしてきたりしただけで、実戦経験は一度もありませんでした。

物語の中盤でその力を振るおうとした時、信条である『力なき正義は無能なり。正義なき力は暴力なり』という(哲学者のパスカルや、武道家の大山倍達のような)言葉がよぎり、相手に手が出せず一発でのされてしまいます。自分のやろうとしていることは、正義なのか……。

しかし、島で漁業を営む高松が、権力をふるい違法行為を行っている人物だとわかり、自らの力を正義のために使おうと決心します。

作戦が決行されると、近藤は肉体派の高松の部下たちを次々となぎ倒していきます。追われながらも自然と笑みがこぼれる近藤。「身体が笑うんだ。18年間鍛え続けても使われることのなかった筋肉たちが輪になって喜んでいる……俺は正義だ!」

正直、誘拐を誘拐で返しているような作戦なので、これが本当に正義かどうかはわからないんですけどね(笑)。

ただ、誰かに評価されたわけでもなく、好きで追い求めてきたことが本物だったとわかったとき、近藤はきっと自分が自分でよかったと思ったんじゃないかと思うんです。

「自分にはこれなんだ」という実感は、何にも代えがたかったはず。その姿が、片桐さんの霧を晴らす参考になればいいなと思います。

小出祐介さん推薦作品

七人のおたく

監督:山田大樹

PROFILE

「シネマコンシェルの部屋」ライター陣

LiLiCo、FROGMAN、矢部太郎、小出祐介

#03 ペットの病気 思い出す父との時間(コンシェルジュ:カラテカ 矢部太郎)

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